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第ニ十五章✧冷淡な心

冷淡な心

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蒼史は『サイカの虹』という街に着いてから、
皆と別れるということに決まった。

蒼史が村に戻り、新羅にどのように迎えられるかは想像しようがないが、一刻も早く亜紀から引き離すべきだと判断したのだった。

「じゃあ...街に着くまでは、俺が蒼史を見張るよ」

アコスが蒼史の監視役をかって出た。
亜紀は腑に落ちないまま、黙っているしかなかった。

蒼史とアコスは、部屋を早くに出て行く。

「あき」

クラーザがしゃがみ込んでいる亜紀を立ち上がらせようと、亜紀の腕をとった。

「やっ...!」

亜紀はまたクラーザの腕を跳ね退ける。
さすがにクラーザは言葉を失い、出した手をそのままにじっと亜紀を見つめた。

今度はイルドナが亜紀の説得に入る。

「あき、気持ちはわからんでもないが、いい加減にしろ」

イルドナは腕を組み立ったまま、亜紀を見下ろす形で話した。

「.....いくら無敵のクラーザにでも、爆弾を抱えた蒼史など連れて行ける訳もないことくらい理解しろ。
あき、お前だけでも連れて歩くには大きな負担なんだぞ」

イルドナの言葉は耳が痛い。
亜紀はシクシクと啜り泣くしかなかった。

「....ぅっ....」

亜紀の淋しい姿にクラーザがまた直ぐに手を伸ばすが、亜紀はまたもや嫌がった。

「.....」

クラーザは拒否された手を握りしめた。

「クラーザ.....あきちゃんは私が見るよ」

ランレートが微笑み、
クラーザとイルドナに部屋を出ていくように促した。



キィィ......パタン

クラーザとイルドナが、
ランレートと亜紀を残し、黙って部屋を出た。





「...あきちゃん、むさ苦しい男達は消えたよ。
色々、言われて辛かったでしょ?
よく耐えたね。もう大丈夫だよ」

ランレートがニコリと微笑み、亜紀の髪を優しく撫でた。

「ふっ...ぅえぇ....」

なぜかランレートの言葉が、温かい母のようで、
亜紀の張り詰めていた緊張の糸が切れ、一気に泣き出した。

「...クラーザと喧嘩しちゃったね」

ランレートは核心をついてきて、
亜紀は思わず声を上げて泣いてしまった。

「…ラン…さ...うっ…ヒック…」





部屋を出ていき、甲板に上がったクラーザにイルドナが後ろから話かけた。

「クラーザ」

夜風にクラーザの髪が空を舞う。

「あきに甘過ぎだ。
今後、あきを連れて行くことを考えるなら、少しあきに身をわきまえることを理解させるべきじゃないか?
...こんなことで騒ぐようじゃ、先が思いやられる」

「......」

クラーザは手摺りに寄り掛かり、夜空を見上げた。

「ランレートも...ふたりして甘やかし過ぎだ」

「.....」

イルドナはクラーザと同じように手摺りにもたれ掛かる。

「はぁ…」

イルドナが大きなため息をついた。
クラーザはそれを横目で見る。

「甘やかしてはない」

イルドナは冷たい目でクラーザを見る。

「どこがだ?甘過ぎだろ?
何でもかんでも、いちいち、あきを気にし過ぎじゃないか?
それとも自覚がないのか?」

イルドナがムッとする。
それに対してクラーザは冷静なままイルドナを見据える。

「あきを気にしてなにが悪い。
あきは目も見えんし、言葉も上手く話せない。
なにより、この世界の人間じゃない。
今はああだが、いずれはわからせる」

クラーザの紅い眼が大きく見開く。

「....わかった」

イルドナは海に向かって、唾を吐いた。

「お前も少しは協力しろ」

クラーザが呆れたように言った。
イルドナはフンと鼻をならす。

「ランレートのように、私は甘くないぞ」

イルドナが立ち去ろうとすると、クラーザが声をかける。

「なぁ、イルドナ」

イルドナが振り返る。

「...?」

「あきに、何か言っただろ」

クラーザが目を細める。
『何か』とは?イルドナは前のことを色々と思い返す。

「何か...って?」

「お前の行動はなんとなくわかる。
あまり、あきに余計なことを言って俺の邪魔をするなよ」

こんなことを言うクラーザは初めてだ。
イルドナはニタリと笑みをこぼす。

「邪魔かぁ...そうだな。
前は何かとゴチャゴチャと、あきに言ったかもしれないな」

クラーザが苦笑いする。

「クラーザ、ならば聞くがあきをどうするつもりだ?」

クラーザの返答次第では、イルドナはクラーザに着いて行くか考えなければいけないと思った。

「あきをどうするかなど考えてない。
俺は欲しい物を手に入れるだけだ」

「あきなら、もう手に入ったじゃないか。クラーザの物だ」

クラーザは夜風に反発する髪をかきあげる。

「あきは金や財宝と違う。生きてる。
どうやっても、俺の物にはならん」

「それは難しい物に目をつけてしまったな」

イルドナはまたクラーザの隣に並び、手摺りにもたれ掛かる。

「..だが、あきを手に入れる。必ずだ」

「面白いじゃないか」

イルドナが口に出して笑った。
クラーザは、空を見上げた。





「クラーザ...どうして、あんなに冷たいの...」

亜紀は両手で顔を覆っていた。
ランレートが優しく亜紀の泣き言を聞いてくれる。

「蒼史さん、嫌いなの!?なんで「斬る」言うの?
どうして、一緒、いられないの!
クラーザ...ひどいっ!」

ランレートが赤子をあやすように亜紀の背中をポンポンと叩く。

「悪いは新羅さま...!
全部、全部、新羅さまがっ..!!」

亜紀はこれほどにないくらい、人を憎らしく感じた。

「新羅さま邪魔した..!
だから、ミールさん、死んだ...!!!
アタシの目、新羅さま奪った!許せない...!!!」

亜紀は溢れる涙を拭いながらまだ続ける。

「..なのに、クラーザ...!」

どんどん熱が増す亜紀の息は荒くなり、
ランレートは亜紀の背中をさすり始めた。

「悪いは新羅さま...でも、クラーザ何もしない!
クラーザ...新羅さまが...好きなのっ!?
だから、新羅さまに何もしない?我慢する!?」

亜紀の頭の中はありとあらゆる可能性で、整理がつかなくなりパニックになった。

「..あきちゃん、それは違うよ。
クラーザは新羅という奴のことを許してはいないよ。
もしかしたら、あきちゃん以上に憎らしく思っているハズだよ。
...だって大切なあきちゃんを傷付けたんだもの」

「うそっ...!!!!なら、どうして!?
アタシ、信じるできない!」

ランレートは亜紀の柔らかい髪に触れて、顔を上げさせる。

「あらあら...そんなこと言ってもいいの?
クラーザが聞いたら悲しむなぁ..」

「だってぇ...」

亜紀は顔を横に振る。

今はクラーザが許せない。
けれど嫌いな訳じゃない。胸が裂けそうに大好きだ。
信じない訳じゃない。
信じてる...。

けれど今は、冷たいクラーザを信じたくない。
亜紀は卑屈になる。

「クラーザ、新羅さまが好き...!!!
新羅さまに頭上がらない!
新羅さまの言いなり...!!!!」

ランレートは頑固になる亜紀を温かい目で見つめた。

「あきちゃん、辛かったね。
新羅に色んな目にあわされて、苦しかったんだね...」

亜紀は頷きながら号泣する。
自分がこれまでにされてきたことが次々に思い出される。
そして、どんどん苦しかった気持ち蘇ってくる。

「でもね、あきちゃん。これだけは聞いてくれる?
クラーザは蒼史君じゃなくて、新羅を『斬ろう』としたんだ。
新羅に怒りを感じているのは他でもない、クラーザだよ」

泣き止まない亜紀に、
ランレートはいつまでも側にいてくれた。




朝を迎え、
船が街に到着する.....

花の都『サイカの虹』

ガタガタと音を立てて、人々が船を降りてゆく。

『朝凪の浜』と比べて、
『サイカの虹』は、高貴な街だった。
馬車が走り、街の地面は、タイルが張り巡らされている。
高級な建物が立ち並び『洋風』な雰囲気だった。


「とりあえず、宿に入ろう」

アコスが近くの宿を見つけ、場所を移動した。
光輝な町並みだったが、宿は意外に普通で堅苦しさもなく、アコスのような田舎者でも気兼ねなく休めた。

宿に入るや否や、
クラーザとイルドナとランレートは『サイカの虹』の国王に会う前の、綿密な最終確認の話し合いを始めた。

「では、国王の面前にはクラーザと私が行く...で、いいね?」

ランレートがイルドナに確認を取る。

「その間、警護の者達は私が抑えておく。
厄介なのは、国王直属の護衛の戦士三人だ。
もって半日だろうな...」

イルドナの予想にクラーザは紅い眼を光らせる。

「半日も必要ない。すぐに片付けて戻る」

クラーザの力強い言葉に、イルドナは頷く。

「よし。じゃぁ、さっさと終わらせよう」





なんのことやら、さっぱり読めないアコスと蒼史は遠くで椅子にかけ、紅茶を飲んでいた。
亜紀も椅子に座っている。

「...なんの作戦なんだろ?俺は仲間外れかよ~...」

アコスが肩を落とす。
蒼史は冷たい紅茶を口にしながら黙っている。
そして、クラーザ達が次の仕事に出る少し前に、別れをしようと決めていた。

「おい、アコス」

意外に早くイルドナからアコスに声がかかった。

「ふぇっ?」

アコスは呼ばれると思ってなかったので、腑抜けた声で返事してしまった。
その声にイルドナが少し不機嫌になる。

「お前やる気あるのか?
しっかり全員の動きを把握していないと失敗するぞ」

アコスはハッとして飛び上がる。

「えっっ!?俺も参加していいのかぁ?!
やったー!!!!やるやる!俺、何したらいいんだ!?」

任務に抜擢されたようで、アコスは跳びはねて喜んだ。
イルドナは『また一から説明しなければいけないのか』と嫌気がさした。

「...簡単に説明するぞ」

イルドナは前置きをした。

狙いは、国宝。
国宝は『秘蔵の間』に眠る。
だが、その扉は国王しか知らない。
国王から聞き出すしかない。

国王は、盗賊や知らぬ輩達から国宝を守る為、
『秘蔵の間』に魔物を住み着かせた。

最初は番人として住み着かせたはずが、
今では国王自身も、国宝に寄せ付けない程に魔物が暴れだし、手の施しがきかなくなっている。

『秘蔵の間』は魔物が狂い暴れだしてから、
1度も扉を開けていないという。


「すっげぇ~っ!メチャメチャ楽しそうじゃんかぁ!」

アコスが興奮する。

クラーザとランレートが『秘蔵の間』に入る。
ランレートは呪詛や封印や、そういった目には見えない類いに優れていた。
実力が確かなクラーザとランレートが、国宝を狙う。
そして、国王を守る戦士とイルドナが戦う。

国宝を盗み出そうとすることを、
国王以外には知られないようにしなければならない。
が、国王を守る為に存在する直属の戦士には、知られてしまう可能性が高い。
イルドナは、その三人の戦士を食い止める。



「...で、俺は何を??」

アコスは自分の役割を知りたがった。

「ここで、あきと残れ」

イルドナが指示をする。
まぁそうなるとは思っていたが、
アコスは『戦闘』がしたかった。
格好よく盗賊ぶりを発揮して、目立ちたかった。

....だが、仕方がない。
アコスは頷いた。

「わっわかったよ!」

「国宝が手に入ったら、すぐにこの街を出る。いいな?」

イルドナがアコスに念を押す。

「おっおう!....で、そのタイミングは?」

アコスの問いに、イルドナは窓から見える日を見る。

「日没だ。日没までに、ここに戻る。
それまで、お前はしっかりあきを見ていろ。
誰にも見つかるなよ」

「任せろ!楽勝だぜ!」

アコスは上機嫌で、その後もクラーザとランレートの打ち合わせも事細かに聞いていた。



「....」

亜紀は目を閉じ、窓の隙間から入る風の音を聞いていた。



パシ...


椅子のひじ掛けに乗せていた亜紀の細い腕に、何かがあたる。

「....?」

亜紀はそれに触れた。

「蒼史...さん?」

亜紀の腕に、誰かが手をかけている。
皆が打ち合わせをしていることは耳で確認しているし、近くにいるとすれば、蒼史だけだった。

グッ...

腕を強く握ってくる。

「蒼史さん?」

見えない亜紀は、無言の蒼史が怖くなり、何度も蒼史なのか尋ねる。

ググッ...

「やだ...蒼史さん?やめて」

亜紀は蒼史の手を握り、小さな声で囁く。


『ししし...しね...』


蒼史の口からは、禍々しい声が!

「はあっ...!!!!」

ガシィッ...!!!!

亜紀は蒼史に首を掴まれた!
またもや、首を絞められる!

「蒼..史さっ..!やめ..っ!!!.....目ぇ..覚ま..してっ...」

亜紀は必死で蒼史に訴えかけた。
首を絞めているのは、新羅だ!
新羅になど、負けてたまるか!

ググッ....ググッ...!!!

「蒼...史さっん...!気づいてぇ....!!!!」

ガタンッ!

遠くで椅子が倒れる音がした。

クラーザが立ち上がって、椅子を倒したのだ。
高い跳躍で飛び上がり、すぐに亜紀に駆け寄る!

「蒼史!」

イルドナも気付き、振り返る。

クラーザが短剣を抜く間に、
ランレートが遠くから鞭で蒼史の首を捕らえる!

ピシィィィン...!!!

『あががっ...』

クラーザは躊躇いもなく、短剣を振り下ろした!

ザンッ!!!!



「きゃあああ!!!!」

叫んだのは亜紀だった。

『ぐわぁぁっ!!!!ぎぎぎっ』

悍ましい声で蒼史が叫び声を上げる。
クラーザは、亜紀の首にかけられていた蒼史の左腕を一刀両断したのだ!

ランレートの鞭が蒼史の首を捕らえることで、
憑依している新羅を身体から逃げ出させない効果があった。

『うがあっ!ぎげぇぇ..!!!』

蒼史の中の新羅が、苦しみのたうちまわる。

「――――」

クラーザはすぐに、短剣を新羅に突き刺そうとした!

「やめてぇ!!!!」

亜紀がクラーザを止めようと、手にしがみつく。

「きゃっ――!!」

目の見えない亜紀は、無我夢中でクラーザの手を止めたが、誤って持っていた短剣にしがみついてしまった!
両手が短剣の鋭い刃で血だらけになる。

「放せ!あきっ!」

クラーザが慌てて、亜紀の腕を掴む。

「だめ!……だめ!!!蒼史さん殺すだめー!!!!」

亜紀は物凄く興奮状態にあり、大声で絶叫した!

クラーザは短剣を手放す。
すると亜紀の手からも、スルリと抜けて床に落ちる。

『ぐげぇぇえ...!!!!』

左腕を失い転げ回る蒼史を、亜紀は覆い隠した。

「あき、どけ。新羅が逃げる」

クラーザの低い声。
アコスは少し出遅れて、亜紀に駆け寄る。
しゃがみ込む亜紀の肩をアコスは引っ張った。

「あき!放れろよ!危険だ!」

「...あぁ...!」

亜紀は泣きながらアコスの手を振り払い、
クラーザが立っている方向に顔を上げた。

「新羅さま殺すため、蒼史さんも殺すの....!!!?
蒼史さん、悪くない!なのに殺す!いいの!?」

亜紀から顔を背けず、クラーザは口を開く。

「迷ってる暇はない」

「クラーザ...!!!!」

亜紀は呼吸を荒くしていた。

「あき、どけ」

クラーザが近寄る。

「いやっ!!
クラーザ...新羅さま、アコスさんに入ったら、アコスさん殺す...?
ランさんに入ったら.......ランさん殺すの!?」

息遣いが荒くなる亜紀の言葉は、
いつも以上に聞きづらい。

しかし、クラーザは顔色も変えず、
今度は無理矢理、亜紀を押し退けた。

クラーザは右手を突き出し、手刀に変えた!

「いっいやぁあぁあ...!!!!」

亜紀の悲鳴が響き渡る。




ピシィィィン....

すると、ランレートは蒼史の首から鞭を引き抜き新羅を逃がした。


「.....」

クラーザは造りだした手刀をそのままに、無言でランレートを見た。

「うぅぅ....」

新羅が抜け、蒼史の苦痛の声が洩れた。
アコスは蒼史の身体を支え、上半身を起き上がらせる。

「....蒼史...大丈夫かっ?」

蒼史の左腕は失い、顔色は青白くなっていた。

「す...すみませ...ん」

蒼史は謝り気を失った。
なんとか蒼史は助かった。
ランレートが新羅を逃がさなければ、クラーザは新羅ごと蒼史を殺していただろう。

「...あき、手を見せろ」

クラーザの感情のない声が聞こえた。
亜紀はクラーザに手をとられる。

「.......はぁ..はっ...」

亜紀の呼吸がまだ荒い。
クラーザは気にせず、手の傷を確認する。

「ね...クラーザ...教えて...
......新羅さま...アタシに入ったら、クラーザは..アタシを殺すの...?」

「....」

そもそも、亜紀を守る為に蒼史を犠牲にしようとしただけだ。
亜紀の命を脅かす存在を、全て排除できればそれでいい。

「---------------」

クラーザは亜紀の顔を見る。
小さくて弱くて、泣き過ぎて、それだけで亜紀は死んでしまうんじゃないかと、クラーザは思った。

「あき...他人の心配より、まず自分の心配をしろ。
少しは強くなれ」

クラーザは亜紀の頬に手を振れ、涙に触れた。
亜紀は震えながら、鳥が鳴くような小さな声を出す。

「クラーザ強い....意味ない...」

クラーザの目が凍りつく。

「クラーザ弱かったら...蒼史さん殺されない..
その方がいい......アタシ、危険でもいい...
強くても...幸せなれないよ..!」




クラーザは亜紀から手を放した。

「弱者は死ぬ。そこで終わりだ」

亜紀は涙をボロボロとこぼす。

「クラーザ...ひどい...!
今のクラーザ...顔見えなくて良かった...!!
...クラーザなんて...大嫌い..!!!大嫌いよ...!!!!」

「...好きだと言ったり、嫌いだと言ったり...
笑っていたかと思えば、急に泣いたり、一体どっちなんだ」

「ーーーもうやめよう!クラーザ!」

ランレートはクラーザの肩を引き、クラーザを止める。
クラーザはあっさりと身を引き、部屋を出ていった。


カァァァ...


ランレートが黙って亜紀の両手を治療する。
ランレートの手から発する光で、傷はみるみるうちに治っていく。

イルドナは蒼史の様子を伺った。

「アコス、私達があきを見ている間に蒼史を連れて行け」

「...わかった」

アコスももう蒼史と亜紀を近付けておくのは危険だと感じ、蒼史をおぶさり、宿を出て行った。
アコスは蒼史を『朝凪の浜』行きの船に乗せた。

「蒼史...またな」

別れを名残惜しむ余裕はない。
こうして今まで、人との別れを幾つも経験してきた。

アコスは船員に、蒼史が目を覚ましたら『術を解いて、絶対に追い掛けてこいよ』と、伝えてもらうように頼んだ。

ずっと前に、アコスはクラーザに着いて行くと決めた。
今も変わらない。
だから、何があろうと立ち止まらない。
後ろを振り返らない。

自分の決めた、輝かしい未来を追い掛ける為に。



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