転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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マーシュ・スリート  8  交錯する思惑

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 私を貶めるために王子殿下を持ち出してくるとは、頭の緩さが際立っている。これだから脳筋のスリートと言われるのだ。その武の方も最近ではいかがなものかといわれているのだがな。

 このような誰が歩いているかわからない公の場で、一応同じ一族と認識されているのに、あらゆる意味でタブーとなっている王子殿下の話を上げてくるとは、またしばらく雀どもの話のタネになることだろう。


 このようなことをあげれば、枚挙に遑がない。

 基本的に何を言われても反応を返さないこと、殿下の様子など何事も外に漏らさないことを、殿下に関わる使用人達に言明していた。

 私が殿下の全てのことに権限をいただいていたので、使用人の人選には気を使った。王族の使用人とするには普段ならば貴族出身の者が付くのであるが、侍従長である私の身分が低いこともあり、そのことを気にしない志のある者か、平民出身の者を率先して採用した。

 徹底して王子の様子情報を秘匿したので、なおのこと悪い憶測を呼ぶことはあれど、直接手を出されることなく5歳の『帯剣の儀』をむかえたのだった。

 色々な思惑をはらみ、『帯剣の儀』は行われた。

 今まで公に出ることを尽く拒否してきたのは、殿下の日常の様子もさることながら、王子に王太子としての権力を与えたくない国王側の一部歪んだ思いもあって、我々と利害の一致があったためでもある。

 しかし、『帯剣の儀』への参加は必須。
 
 例年の『帯剣の儀』は王城で行われることはないが、第一王子もしくはそれに該当するだろう王子がいるときのみ、王城で行われる事となっていた。

 公の場に参加されるのはどの貴族の子息にしても、この『帯剣の儀』になるのだが。幼児とはいえ全く家族以外の者に顔を晒さず、5歳まで過ごすことはまず無理である。特に上級貴族になれば、生まれた直後からキッチリ教育されたことを周りに知らしめるべく、言葉を話すようになるころには、同じ派閥の貴族たちに対してデビューすることが常識となっている。

 それに対して、命の価値が大きく、また暗殺予防が必要な王族嫡子としても、生まれてから全く顔見世されていないアースクエイク殿下のこの扱いは異例であった。
 
 今回の『帯剣の儀』への参加希望者は、好奇心を煽る一大事であることもあって、国一番の広さを誇る大広間でも収容できる人員数を優にオーバーしていたため、関係ない者を排除することは勿論のこと、身分の高さでごり押ししてくる輩や、反王族派は参加をお控え願った。非常に不敬なことではあるが、陛下がお出しになる予定の招待状の最終チェックをさせていただき、陛下に了解を得ることなく何通か排除させていただいた。

 そして、招待状を持っていない人物はどんな者でも、この式典に参加することを禁じた。

 アーク殿下の侍従長の職に就いてから5年、就任直後はこの職に就くことに反対であった陛下から文句を言われることもあったが、こちらから出向くことをやめてから、ほぼ陛下や宰相職に就いた青や、陛下の護衛騎士も兼ねている騎士団長の赤とも直接顔を合わせることは無くなった。

 王城の大広間を使って行われる行事は、ほぼ夕暮れ時から始まり、美しく輝くクリスタルの明かりの元、国の繫栄を誇るがごとく行われるものであるが、『帯剣の儀』は5歳の子どものための儀式であるため、太陽が中天に掛かる時分から始められることとなった。

 しかし、余りにも多い参加者のため、一番最後に儀式に臨むアーク殿下の番にはとっぷりと日も暮れて、順々にクリスタルに明かりがともされ始める、ある種大広間が一番薄暗い時でもあった。

 時間を考えて殿下と共に控えの間に入室したが、結構な時間待たされて、入口を固めていた近衛騎士から、時が来たことを告げられた。

 儀式の手順については、何回かご説明をさせていただいた。いつものように、ほとんど反応を示されなかったが、生まれた時から近くに控えさせていただいている私には、しっかりと理解されていることがわかっていた。

 『帯剣の儀』で使われる子供用の模造刀は、歴代の王が使われてものである。これを使うことまでは陛下が否を唱えることはなかった。2年前のあの方に使われることは流石になかった。アレが近くにいた場合はどうであったかわからないが……。

 そんな、考えても仕方がないことが、剣が殿下の腰に下げられたときに浮かんできた。

 その瞬間であった。殿下を見ていた片方の目の端から、途轍もなく明るい光の塊がこちらに向かってくることを捉えたのであった。

 振り返る間もなく、白い光に殿下が包まれる瞬間を、この広間に集まっている誰しもが、ただ声もなく見つめることしかできなかったのだ。

 暗がりから放たれた閃光は、十分明かりのともっていない場所にいた我々の目を焼いた。

 攻撃魔法はどのようなものの放つことができない結界のなされたこの場所で、誰もが想像もしていないことであったと思う。

 それもピンポイントで、壇上の小さい体を狙った攻撃である。時を同じくして、広間を明るく彩り始めたクリスタルが一斉に光源を落とした。

 
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