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リフル・ヘイル 2 誰が何と言おうと可愛い!
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この出会いから、ぼくの環境は慌ただしく流れて変わっていった。
気がつけば……気がついたら、ただ仰ぎ見るだけでそこにある、決して入ることなどかなわないと思っていた王城の、それも後宮の中庭を歩いている自分がいたりする。
あの時、先生のご学友は、偶然学校に訪れたわけではなく。上級貴族のお坊ちゃまであり、ずっと学者として教育現場以外で生活したことがない先生が、ぼくの立場的なことに理解のある、元上級貴族で現在下級文官?のような立場の友達に相談をしていたこと。あの時、読書をしていたわけではなく、ぼくの身上書のようなものを読みながら、ぼくと先生の会話を見て、聞いていたこと。その場で、ぼくの採用を決めていたこと。等々。
初級学校の卒業までの短い時間に全てが完了して、卒業式のその日に攫われるように、後宮の一室に連れてこられていたのだった。
ぼくの立場は、侍従見習い。それも第一王子の専属の。
連れてこられてすぐ、主人たる第一王子にお会いすることなく、魔法契約書にサインさせられた。
『これから目にすること、耳にすることどのようなことも外部に漏らすことは云々云々……』
とにかくすべてが秘密ですってこと。仕事上の守秘義務?
子供のぼくにも結ばされたそれは、まぁ要するに、自分の意志で話すことはもちろん、意志ではなく、しゃべらそうとすることも魔法でできなくするという、結構きつめの契約魔法らしい。
よくわからないけど、断ることなどできない状況。後から考えると、子供にこんなもの結ばせるの、どんなもんよ、って思ったけど。
仕事をする以上これは必ず必要で、ここの雇用条件だというのだから仕方がないよね。
ぼくは侍従見習いをしながら、中級学校レベルの勉強も空き時間に教えてもらえることになっていたし、今更家には帰れない。
サインしましたよ。
一応練習していたんだ、なんかかっこいいじゃない大人になった気もしたし。
少し怖いなぁと思った契約魔法は痛くも痒くもありませんでした。
その後で、いよいよこれから生涯仕えるだろう、第一王子殿下に、会える!と思ったら、しっかりお風呂に入れられ、侍従見習いのお仕着せを着せられてからの対面となったのでした。
アーク殿下はねぇ。誰が何と言おうと可愛い!
弟二人面倒を見てきた経験があったから、2歳の男の子の扱いなんて楽勝!と思っていた時もありました……。
流石に殿下。庶民に毛が生えたくらいの下級貴族の子供とは、何もかもが違っていた。
イヤイヤ、とか、いつまでも走り回る、とか、食べ物を手づかみでぐちゃぐちゃにする、とか、そんなこと一切ない!
まず、話さない。声を聴いたことがない。歩かない。座ったまま、全く動かない。食べ物に手を出さない。口元に匙をもっていかないと食べない。……。
つまり、2歳児に対する一番大変なところは、まったく手がかからないのです。
が、生命維持に関する面で、誰かがついていないと大変なことになりそうなのが否めないというか……。
しかし、腐っても王族。そちらの誰かの手は腐るほどあるので大丈夫なのです。
といっても、この第一王子殿下の侍従は少数精鋭、っていうか、このような殿下の様子を誰にも言えない状況であるので、ぼくごときにも契約魔法なのです。
知られれば、物理的抹殺もあり得るのだと、政治を全然知らないおこちゃまなぼくでもわかるのです。
陛下、(三年前のクーデターで陛下になったのです。これ、一般人には知られてません。きっと、ぼくの一番目の兄は知っていても、二番目の兄は知らないことでしょう。)にも、今の状態はシークレットらしいのです。
「そんなぁ……。親にも内緒って……」
そのことを知った時、ぼくははじめて座ったままでほとんど外部の状況に対して反応すら見せられない殿下をそっと抱きしめたのです。
ぼく自身、気づかず泣いてしまったようなのです。そんな、濡れてしまっているぼくの頬っぺたを、殿下の小さな手がそっと拭ってくれたのです。
偶然かもしれない、ただぼくの涙がかかって冷たく感じたから反射的に拭ったのかも知れない。でも、確かにその時、ぼくは殿下の小さな手のひらの温もりを感じたのです。
2歳にしてはちっちゃすぎる、日に焼けたことのない真っ白い肌の、まるでお人形さんのような殿下。
でも、それからすっごくよく殿下を観察して見ると、うっすい反応ながら、しっかりとぼくらに答えてくれていることが分かったし(それは思い込みだという同僚一っ歳上もいる)。僕でも読めないような小難しい本を読んでいる殿下の姿(本は侍従長が用意している、これも謎)もよく見かけるし。
とにかく、殿下は可愛いのです‼
侍従長が見ていないところで、一日に一回は腕の中に囲い込むように抱き込んで、ウリウリしちゃう。弟たちも3歳を過ぎるころには照れちゃってか、逃げられてしまって、今では手をつなぐことも難しくなってしまったけど、殿下は5歳にもうすぐなるかなぁて頃になっても、腕の中に納まってかわいいったらないのだ。
そんな、ぼ……わたしにとって、唯一の癒しである殿下が遂に『帯剣の儀』をむかえることになり、参加人数の調整のため、専属侍従のわたしは、殿下の控室で控えていることになった。
殿下が大広間に儀式をお受けになるためにこの部屋を移動されてから、ほどなくして、いきなりへやの照明がすべて落ちてしまった。窓からこの部屋以外のところも確かめてみれば、この城すべての明かりが落とされたように真っ暗になっていることが分かった。
何が起こったかわからないが、良くないこと起こったのは判断できたので、この部屋の一つだけある扉の近くで待機することにした。
静音魔法がかけられているこの部屋には全く音は聞こえてこなかったが、普段感じることのないおおきな振動を確かに一度、大広間がある方角の壁から感じたのだった。
振動から時を開けずに、今は侍従長しか開けることのできない扉が勢い良く開けられた。
王城内で決して乱れた姿を見せない侍従長が、上着を脱いで、その上着に何かを大切にくるんでいる。
「でんか……」
殿下はどうしたのか尋ねようとしたところで、侍従長の厳しい目線に気が付いた。これは……?
もう一度声をかけようとして、それは叶うことなく……。
侍従長は踵を返すと、足元に小さなライトを発生させて、こちらを振り返ることなく、音を立てずに廊下を走り出した。
この廊下にも静音魔法がかかっているのかと思ったら、しっかり私の靴音は響渡って、前を行く侍従長の背中で怒られる、という貴重な体験をした。
音を立てずに、後宮まで、誰にも咎められずに戻ること、それも全速力で。
この王城に配属されて、一番難しい任務かも知れない。
気がつけば……気がついたら、ただ仰ぎ見るだけでそこにある、決して入ることなどかなわないと思っていた王城の、それも後宮の中庭を歩いている自分がいたりする。
あの時、先生のご学友は、偶然学校に訪れたわけではなく。上級貴族のお坊ちゃまであり、ずっと学者として教育現場以外で生活したことがない先生が、ぼくの立場的なことに理解のある、元上級貴族で現在下級文官?のような立場の友達に相談をしていたこと。あの時、読書をしていたわけではなく、ぼくの身上書のようなものを読みながら、ぼくと先生の会話を見て、聞いていたこと。その場で、ぼくの採用を決めていたこと。等々。
初級学校の卒業までの短い時間に全てが完了して、卒業式のその日に攫われるように、後宮の一室に連れてこられていたのだった。
ぼくの立場は、侍従見習い。それも第一王子の専属の。
連れてこられてすぐ、主人たる第一王子にお会いすることなく、魔法契約書にサインさせられた。
『これから目にすること、耳にすることどのようなことも外部に漏らすことは云々云々……』
とにかくすべてが秘密ですってこと。仕事上の守秘義務?
子供のぼくにも結ばされたそれは、まぁ要するに、自分の意志で話すことはもちろん、意志ではなく、しゃべらそうとすることも魔法でできなくするという、結構きつめの契約魔法らしい。
よくわからないけど、断ることなどできない状況。後から考えると、子供にこんなもの結ばせるの、どんなもんよ、って思ったけど。
仕事をする以上これは必ず必要で、ここの雇用条件だというのだから仕方がないよね。
ぼくは侍従見習いをしながら、中級学校レベルの勉強も空き時間に教えてもらえることになっていたし、今更家には帰れない。
サインしましたよ。
一応練習していたんだ、なんかかっこいいじゃない大人になった気もしたし。
少し怖いなぁと思った契約魔法は痛くも痒くもありませんでした。
その後で、いよいよこれから生涯仕えるだろう、第一王子殿下に、会える!と思ったら、しっかりお風呂に入れられ、侍従見習いのお仕着せを着せられてからの対面となったのでした。
アーク殿下はねぇ。誰が何と言おうと可愛い!
弟二人面倒を見てきた経験があったから、2歳の男の子の扱いなんて楽勝!と思っていた時もありました……。
流石に殿下。庶民に毛が生えたくらいの下級貴族の子供とは、何もかもが違っていた。
イヤイヤ、とか、いつまでも走り回る、とか、食べ物を手づかみでぐちゃぐちゃにする、とか、そんなこと一切ない!
まず、話さない。声を聴いたことがない。歩かない。座ったまま、全く動かない。食べ物に手を出さない。口元に匙をもっていかないと食べない。……。
つまり、2歳児に対する一番大変なところは、まったく手がかからないのです。
が、生命維持に関する面で、誰かがついていないと大変なことになりそうなのが否めないというか……。
しかし、腐っても王族。そちらの誰かの手は腐るほどあるので大丈夫なのです。
といっても、この第一王子殿下の侍従は少数精鋭、っていうか、このような殿下の様子を誰にも言えない状況であるので、ぼくごときにも契約魔法なのです。
知られれば、物理的抹殺もあり得るのだと、政治を全然知らないおこちゃまなぼくでもわかるのです。
陛下、(三年前のクーデターで陛下になったのです。これ、一般人には知られてません。きっと、ぼくの一番目の兄は知っていても、二番目の兄は知らないことでしょう。)にも、今の状態はシークレットらしいのです。
「そんなぁ……。親にも内緒って……」
そのことを知った時、ぼくははじめて座ったままでほとんど外部の状況に対して反応すら見せられない殿下をそっと抱きしめたのです。
ぼく自身、気づかず泣いてしまったようなのです。そんな、濡れてしまっているぼくの頬っぺたを、殿下の小さな手がそっと拭ってくれたのです。
偶然かもしれない、ただぼくの涙がかかって冷たく感じたから反射的に拭ったのかも知れない。でも、確かにその時、ぼくは殿下の小さな手のひらの温もりを感じたのです。
2歳にしてはちっちゃすぎる、日に焼けたことのない真っ白い肌の、まるでお人形さんのような殿下。
でも、それからすっごくよく殿下を観察して見ると、うっすい反応ながら、しっかりとぼくらに答えてくれていることが分かったし(それは思い込みだという同僚一っ歳上もいる)。僕でも読めないような小難しい本を読んでいる殿下の姿(本は侍従長が用意している、これも謎)もよく見かけるし。
とにかく、殿下は可愛いのです‼
侍従長が見ていないところで、一日に一回は腕の中に囲い込むように抱き込んで、ウリウリしちゃう。弟たちも3歳を過ぎるころには照れちゃってか、逃げられてしまって、今では手をつなぐことも難しくなってしまったけど、殿下は5歳にもうすぐなるかなぁて頃になっても、腕の中に納まってかわいいったらないのだ。
そんな、ぼ……わたしにとって、唯一の癒しである殿下が遂に『帯剣の儀』をむかえることになり、参加人数の調整のため、専属侍従のわたしは、殿下の控室で控えていることになった。
殿下が大広間に儀式をお受けになるためにこの部屋を移動されてから、ほどなくして、いきなりへやの照明がすべて落ちてしまった。窓からこの部屋以外のところも確かめてみれば、この城すべての明かりが落とされたように真っ暗になっていることが分かった。
何が起こったかわからないが、良くないこと起こったのは判断できたので、この部屋の一つだけある扉の近くで待機することにした。
静音魔法がかけられているこの部屋には全く音は聞こえてこなかったが、普段感じることのないおおきな振動を確かに一度、大広間がある方角の壁から感じたのだった。
振動から時を開けずに、今は侍従長しか開けることのできない扉が勢い良く開けられた。
王城内で決して乱れた姿を見せない侍従長が、上着を脱いで、その上着に何かを大切にくるんでいる。
「でんか……」
殿下はどうしたのか尋ねようとしたところで、侍従長の厳しい目線に気が付いた。これは……?
もう一度声をかけようとして、それは叶うことなく……。
侍従長は踵を返すと、足元に小さなライトを発生させて、こちらを振り返ることなく、音を立てずに廊下を走り出した。
この廊下にも静音魔法がかかっているのかと思ったら、しっかり私の靴音は響渡って、前を行く侍従長の背中で怒られる、という貴重な体験をした。
音を立てずに、後宮まで、誰にも咎められずに戻ること、それも全速力で。
この王城に配属されて、一番難しい任務かも知れない。
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