転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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チュート殿下 63 生徒会長との邂逅

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 リフルは誤魔化すことができても、マーシュには無理だと思っていた。
 
 だけど、気づかれているのに気づかれていないと思って行動することの、なんて滑稽な事か。

 いつからか聞いたら、結構前からだとわかって、いろいろ誤魔化してきたのが全部わかっているかと思うと、穴があったら入りたい心地だ。

 でもこれで隠し事はしなくてもいいし、堂々とキールと過ごすことができる。

 初めは俺しか見ることのできなかったキールも、マーシュに挨拶に行けたように、他の人にも姿が見せられるようになったから、姿をさらすことに抵抗はないのだろう。

 リフルにもキールのことを教えることになるのかな、その時のことを想像するのも面白いかもしれない。

 ただ、キールの存在そのものが俺のスキルであって、俺の重要な能力の一部だからご開陳なんてことは、そもそもするつもりがないけど……。

 マーシュは俺キールのことをどのように理解しているのかな?

 リフルは「殿下すごいですぅ!」で終わりそうだけど。


「⁉」

 俺よりも前に流石のキールが、ミラージュの外で、俺に近づいてくる気配に気づいた。

 まだ距離がある間にミラージュを解く。
 
 この魔法も流石に目の前で見て気付かれないとは言い切れないから。

 近づいてきているのは、教師ではない。

 同じクラスでも、同じ学年でもない……生徒会長のクリフ・マークィス・ゲイルだった。

 今の時間って、2年生は授業がないんですか?

 生徒会長には見えてないけど、こちらには二人いるので気持ち的には負けてません。

 何か思いつめたような、ものすごい眼力で睨んでくるんだけど……ほんと、何の用?

 生徒会長は、俺が座っている教練場の見学席の近くまで来ると、深々と頭を下げた。

 こんな俺にも護衛は付いているので、その護衛がすんなりと近づけたのならばきちんとした手続きでもしたものか?

「初めて御目文字致します。ゲイル侯爵家嫡子クリフ・マークィス・ゲイルです。このような場所においてお声がけすること、お許しください」

 俺に剣の届かない間合いを開けて、頭を下げたまま、口上を述べる。

 俺はこのような時に、どういう風に答えればいいの?許す!とか言えばいいの?

 顔には出さないが、心の中でおたおたしていると、俺の返事は必要なかったのか、一息置いて生徒会長が話し始めた。

「お一人の時にお時間がいただきたかったので、今、授業を見学されているとお聞きして、こちらに参らせて頂きました。……正式には1学年後期からの生徒会への参加に関しまして、例年入学後1ヶ月たったころより手伝いという形で参加していただくことになっておりまして……そのぉ……」

 汗をかきかき、彼が説明するところによると、初級学校は2年しかないので、正式に1年生の後期から生徒会活動をすると、半年しか引継ぎの時間がなく、かつ2年生の最後の2か月近くは卒業試験などで生徒会活動は全くできなくなる。つまり、正規の形で引継ぎを行うとほぼほぼ3ヶ月間しかなく、いくら優秀な上級貴族の子息であるとしても、完璧な引継ぎが難しいため、入学後比較的すぐ、環境に馴染んだころから、手伝いとして生徒会に参加するのだそうだ。

「つまり、これから授業が終わったら、毎日生徒会室に顔を出して先輩たちのお手伝いをしろ、ということだね。……なぜ?」

 俺としては、手伝い云々は別として、もうすでに生徒会に入ることが決まっているような彼の言葉が不思議で尋ねたのだが、彼は違う様にとらえたみたいで……。

「殿下に置かれましては、つまらない仕事のましてや、手伝いなどというのは、おできにならないとおっしゃるのですね」

 今まで下げていた顔を、キッと上にあげて、眉毛を吊り上げながら、怒りの表情で一歩俺に近づいて彼が言う。

 そうではないのだが、今世、とんと決まった人以外話をしたことがないヒッキーなので、いきなり言い寄られても、返事がすぐにできない。

 詰まって声が出ないのを、また違う様に受け取ったみたいで、大きくため息をつくと首を振り、そのまま踵を返そうとした。

『……いいのかなぁ、なんか悪い方で勘違いしてるみたいだし……』

 キールも心配げに俺と彼を見比べている。

「貴重な殿下のお時間を、このようなくだらないことで……」

 なんか誤解されたままなのも面倒くさいことになりそうだし、投げやりな状態で、帰りの挨拶をしようとする彼の声を途中で遮る。

「違う!」

 俺の声に、にらみつけるような表情のまま、顔を赤くして息をのんだ彼は、それでも話すことを止めて俺の言葉を待ってくれた。

「オ……僕が疑問に思ったのは、手伝いがどうとかではなく、僕が生徒会に入ることが既に決まっているように話をしたことだ」

「生徒会に入ることが……」

「そうだ、僕はこの学校に入ってから一度も生徒会の話など聞いたことがない」

 そもそも俺に話しかけてくる人が全くいないのだがな!

 自分の勘違いに、怒りではなく顔を赤くした生徒会長は、思い切り頭を下げてから勢い良く上げると、落ち着くためにか深呼吸をして、初めからやり直すことにしたようだった。



  
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