117 / 196
チュート殿下 85 遂にやって来たXデイ⁉ 2
しおりを挟む
リフルの嬉しい馬車ドライブは、何事もなく終わった。
学園専用の橋を渡り、学園の敷地内に馬車が入る。
既に保護者の馬車渋滞は解消しているようで、それでも何台か豪奢な馬車が講堂近くの広間に留まっている。
入園式は式典の時間は短いものだから、上位貴族の中には式典のみ参加してすぐにここから帰るつもりの者もいるのだろう。
帰りは来た時よりも馬車渋滞がひどくなるかもしれないからね。上位の貴族になればなるほど待たされることは嫌いみたいだ。
講堂正面に一番近いところに馬車を止める。
この馬車の御者もそして馬も、マーシュが選んで俺に着けているのだから只者ではない。
リフルはどうかわからないが、この馬車の異常な防御の硬さについては聞いていることだろう。
と言って、気を抜く様子もないところはプロだな。
講堂の正面の入り口を入ったところは、円形に近い広いエントランスになっており、正面にはメインの教場にもなる演壇のある式典会場につながる両開きの大きな扉が、その左右には二階、三階につながる大きな階段がある。
既にほとんどの参加者は式典会場に入場が済んでいるのだろう。結構な音量の話し声が両扉の向こうからきこえてくる。
この両扉の向こうにも、入室を調整するための広間があり、その広間の一面が式典会場に入るための四枚のお大きな両扉で仕切られているのだ。
しかし、この状態で真正面の扉から堂々と式典会場に入り、目立つなんてことはしたくない。
広い会場に入るのに扉がここだけというわけもなく、この広間の左右についている扉は、この講堂をぐるりと囲む長い廊下に繋がっていて、その廊下にいくつもある扉の中の、俺に用意されている席の一番近くの扉から、そう目立たないように入室することが、今回の自分に課されたミッションだ。
俺一人で入場するならば結構簡単なミッションなのだが、愛想笑いを浮かべた学園の事務官か何か言っていた奴が案内するということで、講堂のエントランスで待っていたのだ。
リフルは会場内には入ることはできないということで従者が控えているところへ、俺は式典が終わってすぐに帰ることはできないから、俺の馬車は一旦帰すことになっている。
「薄暗くなっておりますのでお気を付けてお通り下さいませ」
やけに腰が低い男だ。まだ何物でもない俺にここまで遜っていると、逆に腹の中のことを疑うな。
『男爵家の3男だな。学園長の腰巾着だ。以前のことから、学園の上層部が要らぬ気をまわしているのだろう』
キールが簡単に鑑定をかけたようだ。詳しく俺に知らせないということは、それだけの人物ということ。
『座る場所もわかったから、この男いらないな』
少し物騒な言葉が聞こえたと思ったら、少し前を歩いていた男の動きがピタリと止まった。
「?」
「ほんの少しの間意識不明になってもらった。寝たともいえる」
立ったまま寝ているという珍しい状況の男の顔を見ると,目が半眼になっており、その場で棒立ちのままフラフラ揺れている。
実体化したキールが男の服をつまんでその場に縫い留めていた。
「こいつの頭の中ではきちんとアークを案内したことになるから、この場において行こう」
キールがトンっと背中を押すと、フラフラした足取りながら元来た廊下を戻っていく。
「エントランスに出る扉をくぐったら元の状態に戻るから心配するな。それより早く入場してしまおう」
キールはまた実体化を解いて、他の誰にも見えない状態になると、迷うことなく俺を先導する。
先ほど鑑定したときに、男の中の今回の俺の席についての情報も得たのだろう。
「ほんと、便利だね……」
『まあな』
少しあきれを含んでかけた声に、返ってきたものもウインク付きで、味方だからよかったけど、こんなのが敵に回るかもしれない国王陛下とか大変だろうなぁと、他人事のように感じた。
『ここから入るぞ』
演壇の近くに新入生が並んでいるのだろう、もうすぐこの廊下がなくなるぞというところに近い扉にキールが手をかけた。
誰にも見えないし触れないし、壁の通り抜けもできるのに、キールからは触ろうと思えば触れるという不思議現象。
「……」
『なに?』
俺は首を横に振ってから、キールの開けてくれた扉をくぐった。
【ぎぎぎぎ……】
さび付いたような音をあげて扉が開く。
油差しとけよなぁ、と思いながら廊下よりは幾分明るい式場内に足を踏み入れる。
扉の上げた音に、近くにいた幾人かはこちらに意識を向けたようだが、俺たちには認識を阻害する魔法をかけているので、行動じたいに他の人の意識が向かないようになっている。
ササッと動いて俺の座る所まで移動する。
ここではさすがに表立っての特別扱いはしていないようで、あまり目立たないようなところに空いた椅子があった。
認識阻害をかけたまま椅子に座り、それをすべて絶つことなく薄くかけたまま入園式に臨むことにした。
学園専用の橋を渡り、学園の敷地内に馬車が入る。
既に保護者の馬車渋滞は解消しているようで、それでも何台か豪奢な馬車が講堂近くの広間に留まっている。
入園式は式典の時間は短いものだから、上位貴族の中には式典のみ参加してすぐにここから帰るつもりの者もいるのだろう。
帰りは来た時よりも馬車渋滞がひどくなるかもしれないからね。上位の貴族になればなるほど待たされることは嫌いみたいだ。
講堂正面に一番近いところに馬車を止める。
この馬車の御者もそして馬も、マーシュが選んで俺に着けているのだから只者ではない。
リフルはどうかわからないが、この馬車の異常な防御の硬さについては聞いていることだろう。
と言って、気を抜く様子もないところはプロだな。
講堂の正面の入り口を入ったところは、円形に近い広いエントランスになっており、正面にはメインの教場にもなる演壇のある式典会場につながる両開きの大きな扉が、その左右には二階、三階につながる大きな階段がある。
既にほとんどの参加者は式典会場に入場が済んでいるのだろう。結構な音量の話し声が両扉の向こうからきこえてくる。
この両扉の向こうにも、入室を調整するための広間があり、その広間の一面が式典会場に入るための四枚のお大きな両扉で仕切られているのだ。
しかし、この状態で真正面の扉から堂々と式典会場に入り、目立つなんてことはしたくない。
広い会場に入るのに扉がここだけというわけもなく、この広間の左右についている扉は、この講堂をぐるりと囲む長い廊下に繋がっていて、その廊下にいくつもある扉の中の、俺に用意されている席の一番近くの扉から、そう目立たないように入室することが、今回の自分に課されたミッションだ。
俺一人で入場するならば結構簡単なミッションなのだが、愛想笑いを浮かべた学園の事務官か何か言っていた奴が案内するということで、講堂のエントランスで待っていたのだ。
リフルは会場内には入ることはできないということで従者が控えているところへ、俺は式典が終わってすぐに帰ることはできないから、俺の馬車は一旦帰すことになっている。
「薄暗くなっておりますのでお気を付けてお通り下さいませ」
やけに腰が低い男だ。まだ何物でもない俺にここまで遜っていると、逆に腹の中のことを疑うな。
『男爵家の3男だな。学園長の腰巾着だ。以前のことから、学園の上層部が要らぬ気をまわしているのだろう』
キールが簡単に鑑定をかけたようだ。詳しく俺に知らせないということは、それだけの人物ということ。
『座る場所もわかったから、この男いらないな』
少し物騒な言葉が聞こえたと思ったら、少し前を歩いていた男の動きがピタリと止まった。
「?」
「ほんの少しの間意識不明になってもらった。寝たともいえる」
立ったまま寝ているという珍しい状況の男の顔を見ると,目が半眼になっており、その場で棒立ちのままフラフラ揺れている。
実体化したキールが男の服をつまんでその場に縫い留めていた。
「こいつの頭の中ではきちんとアークを案内したことになるから、この場において行こう」
キールがトンっと背中を押すと、フラフラした足取りながら元来た廊下を戻っていく。
「エントランスに出る扉をくぐったら元の状態に戻るから心配するな。それより早く入場してしまおう」
キールはまた実体化を解いて、他の誰にも見えない状態になると、迷うことなく俺を先導する。
先ほど鑑定したときに、男の中の今回の俺の席についての情報も得たのだろう。
「ほんと、便利だね……」
『まあな』
少しあきれを含んでかけた声に、返ってきたものもウインク付きで、味方だからよかったけど、こんなのが敵に回るかもしれない国王陛下とか大変だろうなぁと、他人事のように感じた。
『ここから入るぞ』
演壇の近くに新入生が並んでいるのだろう、もうすぐこの廊下がなくなるぞというところに近い扉にキールが手をかけた。
誰にも見えないし触れないし、壁の通り抜けもできるのに、キールからは触ろうと思えば触れるという不思議現象。
「……」
『なに?』
俺は首を横に振ってから、キールの開けてくれた扉をくぐった。
【ぎぎぎぎ……】
さび付いたような音をあげて扉が開く。
油差しとけよなぁ、と思いながら廊下よりは幾分明るい式場内に足を踏み入れる。
扉の上げた音に、近くにいた幾人かはこちらに意識を向けたようだが、俺たちには認識を阻害する魔法をかけているので、行動じたいに他の人の意識が向かないようになっている。
ササッと動いて俺の座る所まで移動する。
ここではさすがに表立っての特別扱いはしていないようで、あまり目立たないようなところに空いた椅子があった。
認識阻害をかけたまま椅子に座り、それをすべて絶つことなく薄くかけたまま入園式に臨むことにした。
44
あなたにおすすめの小説
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる