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マーシュ・スリート 24 殿下を共に守る者 1
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その存在に気付いたのはいつだったのか。いや、初めから気がついていたのかも知れない……
殿下が帯剣の儀を終えられた後、はっきりと意思表示を始められたときから、その存在は確かにあったのだ。
いつも殿下の側に寄り添うように確かに存在していた。
殿下が宙に目を向けて何かと会話をしているような仕草をされている事を目にした後、暫くするとその事を忘れていたと言う事実を、また同じ様な仕草を目にした時に思い出すのだ。そして、そのこともまた忘れ……
このようなことが頻発すると、思い出した時に警戒するようになった。
殿下のお立場は警戒してもし足りない。お守りする者が私しか居ないのだから。
このような事がどの位続いたか。
忘却の魔法?、それとは若干性質の違う何か。それなりの防御も取れるようになりつつあった時、その存在が姿を現したのだった。
いつもは殿下に寄り添うようにある何かが、私の目の前に。これまで感じた事がないほどの強い存在感を持ってそこに在ったのだ。
見つめ合う?ことしばし。目が慣れてきたのかその輪郭をもはっきりと捉えだした時に、それが言葉を発した。
「…スク…イクを守っ…くれてあり…とう……」
頭がこの現実を受け入れる事が難しかったのか、初めは何を言っているのか理解ができなかった……が、再び同じ音がそれから聞こえてきてやっと、私の頭はそれがきちんとした意味を持った言葉であると認識したのだ……
そのものとの邂逅は、殿下の午睡の時間。離宮の廊下であった。
この場では落ち着いて話も出来ない。それに、かの者の姿や声は今は私しか感知する事ができないというではないか。
今この現場を目にする者がいたとすれば、私は廊下の途中で廊下の壁に向かって呟いている不審者以外の何者でも無い事になってしまう。
私は、いつもこの時間に行なっている殿下の夕食のメニュー決めを、手早く済ませて、自室で暫く休む事を言い置くと、それ?彼?を連れて自室に向かった。
私の部屋は、畏れ多くも殿下のお部屋のすぐ近くに設けさせて頂いている。
普段通りに音を立てず自室の扉の開閉を行い、彼を自室に誘った。
彼はまだその存在の輪郭をかろうじてとらえられる程度の濃さで、そこに漂っているように在った。
私の部屋は殿下のごく近くにあったほうが殿下をお守りしやすいと言う点から、離宮にある普通の居室である。一般的な使用人部屋などと比べることも烏滸がましいほど、その内装や備え付けられている家具類は豪華である。
寝室と居間も別にある、使用人には勿体のない部屋を使わせて頂いている。
居間の中央に置かれているソファーの席を勧める。
私も彼の向かいに座る。
座った彼を改めて認識すると、殿下と姿形は違うのに纏う雰囲気はとてもよく似た、少年がそこに確かにいた。
金髪碧眼の殿下とは全く違う、どちらかといえば私によく似た色、髪も目も黒く、その髪は非常に短く切りそろえられていて、騎士のようにも見える。
着ている服も全く見たことがない形で、どこにもボタンのようなものがついていない、ただ頭から被った真っ白な貫頭衣?肌着?と、ピタリと足に張り付いたような紺色のトラウザーズを履いているのだが何故か傷みが所々に見える上に片方の膝は破れている。
上半身は全く汚れていない真っ白な状態であるのに、下半身は汚れはないようだが傷みの酷い、とてもちぐはぐに感じる服装であった。
まず名を聞いた。
「キールです」と、名乗った。
不思議なことに、彼が名乗った途端、彼『キール』の存在が濃くなったように感じる。
この離宮の中には、許可を得ていない人物は決して入ることが出来ないように渾身の結界を張っているはずである、しかし、『キール』と名乗る人物にこの離宮に入る許可を出した事はない。
私自身の力を過信しているつもりはないが、今のこの王宮の中で、私よりもそう力の強い精霊術師は居ないと思う。
だからその私の張った結界を堂々と抜けて、この場に居ることができる人間は居ないはずなのだが……
服装は何処かの貧民のようでもあるが、姿勢正しくソファーに腰掛けている姿や、どう見てもその魔力が余りにも殿下に似過ぎている事に混乱しつつも、とにかくキールの話を聞こうと、気を落ち着けた。
キールも私の葛藤に気がついていたようで、私が落ち着いた頃合いを計ったように話し始めた。
「私はアースクエイクのスキルのキールと言います。アースクエイクが今のアースクエイクになった時に一緒に目覚めました。アースクエイクが成長する事で私も成長し、アークだけが見える状況から、私が決めた方には実体化ができるようになったので、私と供にアースクエイクを守ってくれるマーシュ……さまに、姿を見せることにしました」
落ち着き払って私の目を見て話す彼の言葉に、偽りは全く感じない。
私はまず、彼の説明の中で、特に理解できなかった殿下のスキルということについて説明を求めた。
「言葉にして説明する事はとても難しいのですが……私はアークの持つ力の一つであり、アーク自身でもあるという事です。しかし、アークは自分自身のこと全てを知っているわけではなく、私が認識している事は全てアークも認識できる事であり、私ができる事は全てアークができる事である、という事をアークは認識していない。アークの力がこの国、いえ、この世界においても誰も、神すらも超えるほどの力を持ち得ていることをわかっていないのです」
殿下が帯剣の儀を終えられた後、はっきりと意思表示を始められたときから、その存在は確かにあったのだ。
いつも殿下の側に寄り添うように確かに存在していた。
殿下が宙に目を向けて何かと会話をしているような仕草をされている事を目にした後、暫くするとその事を忘れていたと言う事実を、また同じ様な仕草を目にした時に思い出すのだ。そして、そのこともまた忘れ……
このようなことが頻発すると、思い出した時に警戒するようになった。
殿下のお立場は警戒してもし足りない。お守りする者が私しか居ないのだから。
このような事がどの位続いたか。
忘却の魔法?、それとは若干性質の違う何か。それなりの防御も取れるようになりつつあった時、その存在が姿を現したのだった。
いつもは殿下に寄り添うようにある何かが、私の目の前に。これまで感じた事がないほどの強い存在感を持ってそこに在ったのだ。
見つめ合う?ことしばし。目が慣れてきたのかその輪郭をもはっきりと捉えだした時に、それが言葉を発した。
「…スク…イクを守っ…くれてあり…とう……」
頭がこの現実を受け入れる事が難しかったのか、初めは何を言っているのか理解ができなかった……が、再び同じ音がそれから聞こえてきてやっと、私の頭はそれがきちんとした意味を持った言葉であると認識したのだ……
そのものとの邂逅は、殿下の午睡の時間。離宮の廊下であった。
この場では落ち着いて話も出来ない。それに、かの者の姿や声は今は私しか感知する事ができないというではないか。
今この現場を目にする者がいたとすれば、私は廊下の途中で廊下の壁に向かって呟いている不審者以外の何者でも無い事になってしまう。
私は、いつもこの時間に行なっている殿下の夕食のメニュー決めを、手早く済ませて、自室で暫く休む事を言い置くと、それ?彼?を連れて自室に向かった。
私の部屋は、畏れ多くも殿下のお部屋のすぐ近くに設けさせて頂いている。
普段通りに音を立てず自室の扉の開閉を行い、彼を自室に誘った。
彼はまだその存在の輪郭をかろうじてとらえられる程度の濃さで、そこに漂っているように在った。
私の部屋は殿下のごく近くにあったほうが殿下をお守りしやすいと言う点から、離宮にある普通の居室である。一般的な使用人部屋などと比べることも烏滸がましいほど、その内装や備え付けられている家具類は豪華である。
寝室と居間も別にある、使用人には勿体のない部屋を使わせて頂いている。
居間の中央に置かれているソファーの席を勧める。
私も彼の向かいに座る。
座った彼を改めて認識すると、殿下と姿形は違うのに纏う雰囲気はとてもよく似た、少年がそこに確かにいた。
金髪碧眼の殿下とは全く違う、どちらかといえば私によく似た色、髪も目も黒く、その髪は非常に短く切りそろえられていて、騎士のようにも見える。
着ている服も全く見たことがない形で、どこにもボタンのようなものがついていない、ただ頭から被った真っ白な貫頭衣?肌着?と、ピタリと足に張り付いたような紺色のトラウザーズを履いているのだが何故か傷みが所々に見える上に片方の膝は破れている。
上半身は全く汚れていない真っ白な状態であるのに、下半身は汚れはないようだが傷みの酷い、とてもちぐはぐに感じる服装であった。
まず名を聞いた。
「キールです」と、名乗った。
不思議なことに、彼が名乗った途端、彼『キール』の存在が濃くなったように感じる。
この離宮の中には、許可を得ていない人物は決して入ることが出来ないように渾身の結界を張っているはずである、しかし、『キール』と名乗る人物にこの離宮に入る許可を出した事はない。
私自身の力を過信しているつもりはないが、今のこの王宮の中で、私よりもそう力の強い精霊術師は居ないと思う。
だからその私の張った結界を堂々と抜けて、この場に居ることができる人間は居ないはずなのだが……
服装は何処かの貧民のようでもあるが、姿勢正しくソファーに腰掛けている姿や、どう見てもその魔力が余りにも殿下に似過ぎている事に混乱しつつも、とにかくキールの話を聞こうと、気を落ち着けた。
キールも私の葛藤に気がついていたようで、私が落ち着いた頃合いを計ったように話し始めた。
「私はアースクエイクのスキルのキールと言います。アースクエイクが今のアースクエイクになった時に一緒に目覚めました。アースクエイクが成長する事で私も成長し、アークだけが見える状況から、私が決めた方には実体化ができるようになったので、私と供にアースクエイクを守ってくれるマーシュ……さまに、姿を見せることにしました」
落ち着き払って私の目を見て話す彼の言葉に、偽りは全く感じない。
私はまず、彼の説明の中で、特に理解できなかった殿下のスキルということについて説明を求めた。
「言葉にして説明する事はとても難しいのですが……私はアークの持つ力の一つであり、アーク自身でもあるという事です。しかし、アークは自分自身のこと全てを知っているわけではなく、私が認識している事は全てアークも認識できる事であり、私ができる事は全てアークができる事である、という事をアークは認識していない。アークの力がこの国、いえ、この世界においても誰も、神すらも超えるほどの力を持ち得ていることをわかっていないのです」
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