言った。

梶崎 みのる

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ある日

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私は深夜に毎日起こされる。起こしてくる人はこの家の家主のおじさん。
 「行くぞ。」
私はただ頷いて、おじさんと同じ服に着替えついていく。
 地下に行くための階段を降りて、おそらく鉄で出来ているであろう大きな扉を開けたら、いつもの景色が広がる。
 数々の拷問器具、昨日使ったもの、先週使ったもの、それよりも前に使われたもの、洗ったことなど一切ないような血生臭いが部屋中に漂っている。
「始めよう。」
「今日は何をすればいいですか。」
私がそう聞くと、スッと左を指さす。そこには丸焦げになった人が放置されている。性別は判断できない、本来の人間の原型すらとどめていない。
「それを処理してくれ、また新しい客が来た。」
早速その人を処理する。
 まず、器具から丁寧に取る、一つの部位も欠けさせてはいけない。如何せん焦げているので欠けやすい、正直こういうタイプの処理は苦手だ。
 外す作業が終わったら担架のようなものに乗せて奥の部屋に綺麗におろす。
 これが何に使われるのかは知っている、そしてこの人が誰なのかも知っている。
「終わりました。」
終わった報告をすると、何も返事をせずに黒い大きな袋から女性が出てきた。気を失っている。きっと私のできることはないんだろう。いつものことだ。
 おじさんはその女性をベッドに寝かせた、足枷、手枷、口枷をつけて次は女性を起こす作業に入る。おじさんは横の机に置いてあった注射器を女性の腕に刺す。女性は大きく痙攣し始め、すぐ目を覚ました。けれど、うまく声が出せず、唸り声のような声しか出していない。可哀そうに。
「こんばんは。」
おじさんはすごく優しい口調で、笑顔で女性に話しかけた。目は笑っていない。
 女性は急に見ず知らずの男性に声をかけられて酷く困惑しているような感じがした。そうなっても無理もない、急に知らない場所で、しかも拘束されいる挙句、知らない男性がにっこりと笑って話しかけてくるのだから。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。」
女性は泣いていた。
「泣いても何も変わりませんよ。」
そう言いながら、口枷だけ取ってあげていた。
「あ…た、…れ。」
声が掠れていてよく聞こえない。
「何ですか。」
「あな…、…れ。」
もう一度言わせてみるが全く分からない。
「なんて言っているのか分かりませんよ。もう少し頑張って話してください、できるはずですよ。」
女性は少し静かになった、落ち着こうとしているのだろう、深呼吸をしている。
「あなた誰!」
ようやく声が出せたみたい。
「誰でもないですよ。」
またしても笑顔でおじさんはそう言う。
 ここに連れられてくる人は生きては帰れない。逃げることができない。拘束されたまま、息絶えるまで遊ばれ、数日間は放置される。だからこの部屋はいつも匂いがきつい。長いことここにいてもこの匂いには慣れない。
 おじさんは私の方を見る、こっちへ来い。と私はその女性の視界に入る位置へ行った。この人か。
「なんで…ここに、いるの…?」
女性は私を見るな否や青ざめた顔をしていく。
「久しぶりに会ったことでしょう。どうですか、お話でもしますか?私は待っていますよ。」
おじさんはそう言って少し離れたところにある椅子に腰かけた。正直この人と話すことなんてない、気がする。けれど何か話さなくては。
「こんばんは。」
「気持ち悪い!離れて!」
そう言われると分かっていた。
 話し方、顔、きつい香水の匂い。この人は紛れもなく私を殺した人。覚えている、忘れることはない。
 私はこれ以上話すことがないのでおじさんに目線で助けを求めた。
「もう話すことはないみたいですね。それにしてもそんなこという母親いますかね。」
「そいつは私の子供じゃないし、母親になった覚えはないわ!」
何回もその言葉を聞いてきた。
「ただの嫉妬でそんな…くだらないですよ。」
私が小さい頃、親が離婚、その時に私は父親に付いていった。その数か月後、父が再婚。その相手がこの女性だった。最初はすごく優しい人だなと思った。しかしそれは父がいる時だけだった。当たり前の暴行、罵声。その時に言われた言葉「お前が前の女の子供なのがきもいんだよ」ただの嫉妬の言葉だった、そんなことで私は殴られる意味がいまいち分かっていなかった。
 ある日それらはエスカレートしていった。母は私の頭を掴み水に突っ込んだ、死んだ。
 でも生きている。私は死ねないのだ。死にたくても死ねないのだ。
「始めよう。」
その一声で、元母の叫び声が響き渡る。
 いつもの光景。私は静かに見続ける。
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