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32話
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電撃はレイの唯一の特殊攻撃である。
とはいえ、密かに身に着けている電子機器から発生させる電気的エネルギーなので、それほどたいしたパワーはない。
それを知っているからこそ、レイは仕返しに電撃を使用する。
だが、打ちどころが悪いということはある。
「あれっ?」
レイはぐったりと手すりに伏せる貴奈津を覗き込んだ。
毛皮があるので、外からはわからないが、レイの顔から急速に血の気が引いた。
「は、は、月葉っ!」
「どうしたんだ」
声と共に、月葉がバルコニーヘ飛び出してきた。
そのとき、貴奈津がゆっくり顔をあげた。
両手で手すりを掴み、体を起こす。
しかし、その目は閉じられたままだ。
貴奈津の全身を青白色の淡い靄が包んでいるのに、月葉は気付いた。
平常時であれば目には見えない霊気的エネルギー波、つまりオーラである。
「レイ、これはいったい?.」
触れるのが躊躇われ、月葉は為す術もなく貴奈津を見つめた。
「トランス状態に入っちゃったんだ。異能力者がトランスにおちいると、ボクの手には負えないぞ。どうしよう」
「と、言われても困る。こんなのは、はじめて見た。貴奈津の身に危険はないんだろうか」
「それは大丈夫だ。本人は宇宙エネルギーそのものみたいに安全だ。
おい、月葉おまえ、恒星が爆発しても耐えられるくらいの障壁張れるか?.」
月葉は即座に首を振った。
「いや、無理だと思う」
「かもな。攻撃型異能力者というのは、不器用なとこがあるからな。と、なるとローユンがいない、今……」
貴奈津の顔がすっと仰向いた。
レイが短い悲鳴を上げて宙を後退り、月葉の手を取った。
いざというとき、月葉を防御壁に入れるために。
次の瞬間、天空から稲妻が走り、バルコニーに落雷した。
月葉とレイには、そう見えた。至近に落雷したとしか思えない。
激しい放電現象が大気を切り裂き震わせる。
閃光と衝撃、そして轟音。
建物全体が揺れた。
シールドを張る前にレイは引っ繰り返り、月葉は床に張り付いた。
音と揺れはすぐにおさまったが、月葉はしばし起き上がれなかった。
「わたしはここにいる。あなたもやっと戻ってきたのね」
「ナーディ、きみが来てくれるとは思わなかった。ありがとう、再会できてとても嬉しい」
そんな会話が聞こえたような気がしたが、月葉の視界は真っ白だった。
閃光に目が眩んでしまっていた。
目蓋を押さえ、頭を振る。
ようやく視力を取り戻し、最初に月葉が目にしたのは、あろうことか貴奈津をしっかり胸に抱きしめる、異国の青年の姿だった。
ローユンがついに実世界にその姿を現したのである。
レイならば、感涙にむせんだかもしれない。
しかし、月葉はたちまち怒りに包まれた。
「あいつ、一度ならず二度までも!」
飛び出そうとした月葉の出鼻を、派手な衝突音がくじいた。
イーライが力任せにあけたドアが、その勢いで壁にぶつかり跳ね返ったのだった。
月葉はバランスを崩して、床に手をついた。
普段ならこんなことにはならないのだが、
いましがたの落雷に似た衝撃が尾を引いていたらしい。
「月葉!」
かけよりイーライが月葉を支える。
倒れているレイには見向きもしない。
そんな余裕はないのだろうが、最初から気にしていないのかもしれない。
イーライは銃を、まっすぐローユンに向けていた。
職業的な反射行動だった。
「貴奈津、月葉!」
かけつけてくる眞鳥の叫び声が聞こえた。
二階にいた眞鳥が、一階にいたイーライより到着か遅いのは体重のせいか、脚力のせいか。
眞鳥のあとに、複数の人間の足音が続いていた。
眞鳥家のガードマンや、執事の牧野の足音だ。
あれだけの音と衝撃がしたのだ、ただならぬ事態が生じたと思って当然だろう。
息を切らして、眞鳥が部屋に飛びこんできた。
月葉が、
「大丈夫だから、ドアを閉めて誰も入れないように」
という指示を手まねでする。
眞鳥は非常事態の月葉の対応に信頼を置いている。
すぐに肯くと、廊下へ戻った。
ドアを閉めながら眞鳥が、
「なんでもなかった。貴奈津がおかしな機械を壊しただけで……」
と言いわけを始めるのが聞こえた。
とりあえず、そっちのほうは心配ない。
月葉はローユンと貴奈津に目を戻した。
いまだにローユンは貴奈津を抱きしめていた。
側にレイが浮かび、いつの間にかイーライも側で興味深げにローユンを見ていた。
立て続けにじゃまが入ったので、さっきほどの勢いはないが、またもや怒りが込み上げてきた。
「貴奈津に気安くふれないでくれ!」
月葉はつかつかとローユンの側へ歩み寄った。
二人を引き離そうと手を伸ばし、貴奈津が気を失っているのに気づいた。
では、ローユンは貴奈津の体を支えていただけなのか。
いや、しかし。
そこへ、レイが声をかけた。
「トランスは抜けた。ちょっと叩いてみたら目を覚ますんじゃないかな」
レイから貴奈津へ目をうつし、言われたように月葉は貴奈津の頬を数度叩いてみた。
すると、あっけなく貴奈津は目を開けた。
一同がほっとする。
貴奈津は朝の目覚めのときより正気だった。
トランス前に目蓋を閉じ、今また開いたくらいの感覚なのだろう。
ただし、その間に時間と状況は動いている。
したがって、貴奈津は目を開けたとき、自分がどこにいるのかわからなかった。
バルコニーの手すりにもたれているにしては、なんだか暖かくて柔らかいと思い、自分の足で立つと、目の前を見上げた。
「きゃーっ!」
貴奈津はバッとローユンから身を放した。
月葉が引き離すまでもない。
しかし貴奈津は、
「きゃーっ!」
などと言うことはいったが、誰が聞いても、それは悲鳴とは思えなかった。
声がはずんでいた。
だいたい顔が嬉しそうだ。
月葉は溜め息とともに、眉間を押さえるしかなかった。
続く……
とはいえ、密かに身に着けている電子機器から発生させる電気的エネルギーなので、それほどたいしたパワーはない。
それを知っているからこそ、レイは仕返しに電撃を使用する。
だが、打ちどころが悪いということはある。
「あれっ?」
レイはぐったりと手すりに伏せる貴奈津を覗き込んだ。
毛皮があるので、外からはわからないが、レイの顔から急速に血の気が引いた。
「は、は、月葉っ!」
「どうしたんだ」
声と共に、月葉がバルコニーヘ飛び出してきた。
そのとき、貴奈津がゆっくり顔をあげた。
両手で手すりを掴み、体を起こす。
しかし、その目は閉じられたままだ。
貴奈津の全身を青白色の淡い靄が包んでいるのに、月葉は気付いた。
平常時であれば目には見えない霊気的エネルギー波、つまりオーラである。
「レイ、これはいったい?.」
触れるのが躊躇われ、月葉は為す術もなく貴奈津を見つめた。
「トランス状態に入っちゃったんだ。異能力者がトランスにおちいると、ボクの手には負えないぞ。どうしよう」
「と、言われても困る。こんなのは、はじめて見た。貴奈津の身に危険はないんだろうか」
「それは大丈夫だ。本人は宇宙エネルギーそのものみたいに安全だ。
おい、月葉おまえ、恒星が爆発しても耐えられるくらいの障壁張れるか?.」
月葉は即座に首を振った。
「いや、無理だと思う」
「かもな。攻撃型異能力者というのは、不器用なとこがあるからな。と、なるとローユンがいない、今……」
貴奈津の顔がすっと仰向いた。
レイが短い悲鳴を上げて宙を後退り、月葉の手を取った。
いざというとき、月葉を防御壁に入れるために。
次の瞬間、天空から稲妻が走り、バルコニーに落雷した。
月葉とレイには、そう見えた。至近に落雷したとしか思えない。
激しい放電現象が大気を切り裂き震わせる。
閃光と衝撃、そして轟音。
建物全体が揺れた。
シールドを張る前にレイは引っ繰り返り、月葉は床に張り付いた。
音と揺れはすぐにおさまったが、月葉はしばし起き上がれなかった。
「わたしはここにいる。あなたもやっと戻ってきたのね」
「ナーディ、きみが来てくれるとは思わなかった。ありがとう、再会できてとても嬉しい」
そんな会話が聞こえたような気がしたが、月葉の視界は真っ白だった。
閃光に目が眩んでしまっていた。
目蓋を押さえ、頭を振る。
ようやく視力を取り戻し、最初に月葉が目にしたのは、あろうことか貴奈津をしっかり胸に抱きしめる、異国の青年の姿だった。
ローユンがついに実世界にその姿を現したのである。
レイならば、感涙にむせんだかもしれない。
しかし、月葉はたちまち怒りに包まれた。
「あいつ、一度ならず二度までも!」
飛び出そうとした月葉の出鼻を、派手な衝突音がくじいた。
イーライが力任せにあけたドアが、その勢いで壁にぶつかり跳ね返ったのだった。
月葉はバランスを崩して、床に手をついた。
普段ならこんなことにはならないのだが、
いましがたの落雷に似た衝撃が尾を引いていたらしい。
「月葉!」
かけよりイーライが月葉を支える。
倒れているレイには見向きもしない。
そんな余裕はないのだろうが、最初から気にしていないのかもしれない。
イーライは銃を、まっすぐローユンに向けていた。
職業的な反射行動だった。
「貴奈津、月葉!」
かけつけてくる眞鳥の叫び声が聞こえた。
二階にいた眞鳥が、一階にいたイーライより到着か遅いのは体重のせいか、脚力のせいか。
眞鳥のあとに、複数の人間の足音が続いていた。
眞鳥家のガードマンや、執事の牧野の足音だ。
あれだけの音と衝撃がしたのだ、ただならぬ事態が生じたと思って当然だろう。
息を切らして、眞鳥が部屋に飛びこんできた。
月葉が、
「大丈夫だから、ドアを閉めて誰も入れないように」
という指示を手まねでする。
眞鳥は非常事態の月葉の対応に信頼を置いている。
すぐに肯くと、廊下へ戻った。
ドアを閉めながら眞鳥が、
「なんでもなかった。貴奈津がおかしな機械を壊しただけで……」
と言いわけを始めるのが聞こえた。
とりあえず、そっちのほうは心配ない。
月葉はローユンと貴奈津に目を戻した。
いまだにローユンは貴奈津を抱きしめていた。
側にレイが浮かび、いつの間にかイーライも側で興味深げにローユンを見ていた。
立て続けにじゃまが入ったので、さっきほどの勢いはないが、またもや怒りが込み上げてきた。
「貴奈津に気安くふれないでくれ!」
月葉はつかつかとローユンの側へ歩み寄った。
二人を引き離そうと手を伸ばし、貴奈津が気を失っているのに気づいた。
では、ローユンは貴奈津の体を支えていただけなのか。
いや、しかし。
そこへ、レイが声をかけた。
「トランスは抜けた。ちょっと叩いてみたら目を覚ますんじゃないかな」
レイから貴奈津へ目をうつし、言われたように月葉は貴奈津の頬を数度叩いてみた。
すると、あっけなく貴奈津は目を開けた。
一同がほっとする。
貴奈津は朝の目覚めのときより正気だった。
トランス前に目蓋を閉じ、今また開いたくらいの感覚なのだろう。
ただし、その間に時間と状況は動いている。
したがって、貴奈津は目を開けたとき、自分がどこにいるのかわからなかった。
バルコニーの手すりにもたれているにしては、なんだか暖かくて柔らかいと思い、自分の足で立つと、目の前を見上げた。
「きゃーっ!」
貴奈津はバッとローユンから身を放した。
月葉が引き離すまでもない。
しかし貴奈津は、
「きゃーっ!」
などと言うことはいったが、誰が聞いても、それは悲鳴とは思えなかった。
声がはずんでいた。
だいたい顔が嬉しそうだ。
月葉は溜め息とともに、眉間を押さえるしかなかった。
続く……
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