何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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国落とし編

ギルドの崩壊

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「ルーナさん。お時間です」

「ん?もうそんな時間か」

 話し合いを終えた後、部屋へと戻って本を読んだりしながらゆっくりと過ごしたい俺に、日が沈み空が暗くなった頃にミリアが声をかけてくる。

「リリィたちの準備?」

「すでに準備はできております」

「りょーかい。なら、まずはそっちに行こうか」

 ミリアに連れられて部屋を出た俺は、アイリスたちが待つ部屋へと移動すると、中には装備を整えたアイリスと、まるで死地にでも向かう雰囲気のロニィ、そしてすっかり意気消沈してしまったシャルエナが待っていた。

「お待たせ。準備の方は?」

「問題ありません。魔力も全て回復しております」

「私も覚悟は決めました。最悪の場合、リリィさんのために命を捨てます」

 ロニィは大人としての責任感からか、それとも男としての矜持なのか、確かな覚悟を決めた表情でそう言うが、彼はまだ知らない。

「ありがとうございます、ロニィさん。ですが、私に命をかける必要はありませんよ。私、あなたが思っているよりも強いので」

「で、ですが……」

「まぁ、いざとなればそうすればいいんじゃないか?ただ、こう言ってはなんだけど、あまり戦力にならないロニィにリリィをつけた意味、すぐにわかるんじゃないかな」

 言い方は悪いが、ロニィはフィエラと同じ獣人でも戦闘に向かないハムスターの獣人だった。

 そのため、彼が最初から戦闘の時に役に立つなど思っておらず、それを踏まえた上でアイリスを彼につけているのだ。

 彼女の実力については序列戦や武術大会の時にも十分見させてもらったし、俺がフーシルを拷問していた時も顔色ひとつ変えず冷静に状況を見ていた。

 最初はアイリスが人を殺せるのかという不明確な部分もあったが、あの拷問を見ても目を逸らそうとしなかったのを見るに、いざとなれば迷わず人を殺すことができるだろう。

「ルーナさんの期待に応えられるよう、最善を尽くします」

「頼むよ。ミーゼの方はどう?」

「私の方も準備は完了しています。魔力および武器の補充も問題ありません」

「おーけー。なら行こうか」

 全員の準備が終わったことを確認した俺たちは、これから戦闘に行くというのに軽い雰囲気で宿屋を出ると、そこで二手に分かれた。

 なお、シャルエナは最後まで喋ることはなく、罪悪感と悲壮感が籠った瞳で俺たちを見送るだけだった。




~sideアイリス~

 ルイスと別れたアイリスは、事前にルイスから預かっていた霧の隠者をロニィに貸すと、自身は腕輪に魔力を流して認識阻害と気配希薄を纏いながら冒険者ギルドを目指す。

 堂々と町の中を歩いていけば、余計な者に見つかる可能性があるため、必要以上に人目につかないようにするためだった。

「着きましたね。大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ……大丈夫です」

 冒険者ギルドに着いた頃には、ロニィは息を切らしながら膝に手を付いており、先ほどの意気込みが嘘のように情けない姿を見せていた。

「すみません。情けない姿をお見せしてしまい」

「気にしないでください。では、息も整ったようなので中に入りましょうか」

「わかりました」

「ですが、その前に……『水の監獄ウォーター・プリズン』」

 ロニィが落ち着いたところで、二人は冒険者ギルドに入ろうとするが、その前にアイリスが水魔法でギルド全体を囲む監獄のような檻を作り出す。

「す、すごい……」

「これで問題ありませんね。行きましょう」

「は、はい!」

 アイリスの魔法を初めて見たロニィは、そのあまりの規模に驚きを隠せないが、アイリスはそんなロニィの反応を無視して堂々とギルド内へと足を踏み入れる。

「みなさんこんばんは。今夜は素晴らしい夜ですね」

「なんだ?」

「なんか入ってきたぞ」

 場違いな言葉と共にギルドへと入ったアイリスは、そんな彼女を訝しみながら見てくる視線を無視し、中の状況を確認していく。

(職員が5人に冒険者が8人。それと騎士が6人ですか。昨日より増えてますね)

 ギルドの中にはギルド職員がカウンターの奥に5人おり、今まで仕事をしていたのか手を止めてアイリスのことを見ている。

 また、冒険者8人のうち3人は腕や足に蛇の刺青があり、騎士の数は昨日のクランの襲撃があったからか、人数が増えていた。

「おい嬢ちゃん。こんな時間にどうしたんだ?」

「こんな時間に一人で出歩くのは危ないぜぇ?変な奴らに捕まっちまうかもなぁ」

 最初は頭のおかしな奴が入ってきたと思っていた冒険者たちだったが、アイリスの見た目が美しいことからすぐに下卑た笑みを浮かべると、ニヤニヤと笑いながら彼女のもとに近づいていく。

「あなたは方は毒蛇の鉤爪のメンバーですね」

「あぁん?俺たちのことを知ってるのか?」

「そりゃあそうだろ。俺たちのクランは有名なクランだからな」

「ひひ。嬢ちゃんもうちのクランに入りたいから、こんな時間にここにきたのか?」

「私も、というと?」

「あぁ、あそこにいる奴らもうちのクランに入りたいってんで、今その話をしていたんだよ」

「可哀想になぁ。なんでも、依頼を受けるたびに誰かに邪魔されて依頼が達成できないらしいんだよ」

「だから、うちのクランに入るから助けてほしいって言われたんだよ」

 男たちはそう言って楽しそうに笑うが、後ろにいる冒険者たちは震えながらアイリスの方を見ており、彼らが好きでこのクランに入ろうとしている訳ではないということが分かる。

(おそらく、この町に来たばかりの冒険者たちに圧力をかけ、裏で依頼を失敗させているのでしょう。本当に……)

「クズですね」

「あぁん?」

 彼らのやり方があまりにも気に食わなかったアイリスは感情のままにそう呟くが、リーダーらしき男はその言葉を聞くと、顔に怒りを滲ませる。

「今なんて言ったよ。嬢ちゃん」

「クズですね、と言ったんで。というか、私が毒蛇の鉤爪なんかに入るわけありませんよ。だって、一度断っているのですから」

「断ってるだと?」

「おい。もしかしてこいつ……」

 仲間の一人がアイリスの言葉の意味に気がついたのか、その事をリーダーらしき男に耳打ちすると、その男は嗜虐的な笑みを浮かべながら大声で笑った。

「あっははは!お前らだったのか!うちのクランの勧誘を断り、あまつさえ喧嘩をふっかけてきたっていう馬鹿な冒険たちは!」

「ふふ。馬鹿ではありませんが、確かにあなた方のクランの勧誘は断りましたね」

「あはははは!それが馬鹿だって言ってんだよ!ただの冒険者ごときが、うちのクラン相手に喧嘩売るなんざ、自殺願望でもあったのかぁ?」

「ふふふ。面白い事を言いますね?私たちに自殺願望?死ぬ覚悟はできていますが、決して自殺願望がある訳ではありませんよ?それに、あなたたちのクランって、昨日は大変だったのでしょう?」

「あぁん?何だと?」

「だって、部下が40人とお店の店員さんが3人お亡くなりになられたのでしょう?残念でしたね。一晩にしてそれだけのお仲間が死んでしまわれるとは」

「お前、何でそんなに詳しく知ってやがる」

「ふふ。さぁ、どうしてでしょうね?あなたはどう思いますか?」

「テメェがやったのか!!ぶっ殺してやる!!!」

 アイリスがそう言って揶揄うように笑うと、男は昨日の犯人がアイリスか彼女の仲間によるものだと理解し、怒りで顔を真っ赤にしながら掴みかかろうとする。

「触らないでいただけますか?」

「ぐあぁぁぁあ!!!」

 しかし、男があと少しでアイリスに触れようかという時、突如上から降ってきた水の剣が男の掌を貫き、そのまま木製の床に突き刺さって男を跪かせる。

「私。あの方以外の殿方に触られるのが非常に不快なんです。例え髪の毛の一本でさえ、誰かに触らせたくはありません。ましてや、あなたのような品性の欠片も無い殿方は論外ですね」

「クソが!お前ら!この女を今すぐ殺せ!!」

 リーダーの言葉を合図に、後ろに控えていた二人の男たちも剣を抜いてアイリスに向かって切り掛かる。

 それに対し、アイリスは逃げる事なく一歩踏み込むと、そこから魔法が展開され、男たちの下から水の剣が伸びた。

「がはっ」

「ごほっ」

 その剣は男たちの胸や腹部を貫くと、水が血の色で赤く染まり、魔法が解除されると男たちは力無く倒れる。

「なっ?!」

「私も舐められたものですね。この程度の相手に、私が殺されるとでも?」

「くっ!!絶対に……絶対に殺してやる!俺をここで殺したとしても、俺たちのリーダーが必ずお前たちを……」

「うるさいですね」

 男は呪いの言葉でも残すかのようにそう言うが、容赦のないアイリスは煩わしそうにしながら男の口を水の剣で貫いて黙らせた。

「残念ですが、あなたのリーダーが私を殺すことは不可能でしょうね。だって、そちらにはあの方が向かわれましたから」

 口から頭を貫かれた男はそのまま絶命するが、そんな男を気にかけることなくアイリスはギルド内へと目を向ける。

「そこの冒険者の皆さん」

「ひっ!?こ、殺さないでください!」

「安心してください。あなたたちは殺しませんよ。ただ……」

 アイリスはそう言ってギルド職員と騎士たちに目を向けると、職員たちは肩を跳ねさせて震え、騎士は剣を抜いて構える。

「職員のみなさんはその場から動かないでくださいね。まぁ、出ようとしてもこの場所から出ることはできませんが。そして騎士のみなさんは……」

「ぐはぁ!!」

「あ、足が!!」

「腕!うでぇぇぇ!!」

 剣を構えたまま警戒する騎士たちに対し、先ほどと同じように水の剣を上や地面から出現させると、騎士の足や腕を貫き、動けないように地面へと跪かせる。

「あなたたちの処分は私の担当ではありませんので、とりあえずそのままでいてくださいね。ただ、邪魔をするようなら殺しますからあしからず」

 アイリスはそう言う、騎士たちの間を通って階段を登って行き、以前にも訪れたギルドマスターの部屋へと入っていく。

「ごきげんよう、ギルドマスターさん」

「な、なんだお前は」

 部屋の中に入ると、そこには酒を飲んでいたのかワインのボトルとグラスがテーブルの上に置かれており、部屋の中は酒の匂いが充満していた。

「初めまして、カーリロのギルドマスターさん。私はCランク冒険者のリリィです」

 カーリロのギルドマスターは、40代くらいに見える男で、背丈はそこまで高く無いが、お腹に付いた脂肪のせいで横に大きく、オークを縦に縮めたような見た目をしていた。

「Cランク冒険者だと?いったい何のようだ」

「そこまで重要なことでは無いんですが、あなたのギルドを潰しに来ました」

「は?」

 まるで可愛らしい花でも見つけたかのような笑顔で自分のギルドを潰しに来たと言われた男は、すぐに言葉の意味を理解することができなかったが、アイリスの次の言葉でようやく理解することができた。

「あなたがいるこのギルドは、随分と悪どい事をやっているそうですね?犯罪組織をクランとして認めたり、騎士にお金を渡して犯罪を揉み消してもらったり、あとは貧民や新人冒険者を奴隷として売ったりとか」

「っ!?な、何故それを!!」

「あら、簡単に認めてしまうのですね。では、私も教えて差し上げますよ。ローブを脱いでください」

 アイリスがそう言うと、先ほどまで彼女とギルドマスターしかいなかったその空間に、彼がよく知る人物が現れる。

「な?!ろ、ロニィ!!何故貴様が!」

「生きている、でしょうか?ふふ。簡単なことです。私がお助けしたのですよ。その本棚の裏から繋がっている牢獄の空間から」

「な、なんだと!!」

 全く予期していなかった事態に驚いた男は、脂汗を流しながらゆっくりと後退していく。

「くっ。だ、だが!私を殺せば、毒蛇の連中が黙っていないぞ!騎士たちもお前を犯人として帝国中に指名手配するだろうな!!それに、私には強力な後ろ盾があるのだ!だから私を殺せばお前は……」

「ふふ。ふふふふふ……」

「な、何がおかしい!!本当のことだぞ!」

 アイリスが突然笑い出したことで、自分の言葉が嘘だとでも思われていると感じたのか、男は慌てた様子でそう叫ぶ。

「えぇ。わかっていますよ。あなたのお言葉が正しいと言うことは」

「なら!私を見逃して……」

「で・す・が……それはあなたを見逃す理由にはなりません」

「なんだと?」

「では、一つ一つ教えて差し上げましょう。一つ。毒蛇というクランのことですが、そのクランは今夜中に壊滅いたします」

「は?」

「昨日は仲間の半数以上が殺されたようですが、今夜は残りのメンバーが私の大切な人によって始末される予定です。あの方はとてもお強く、敵には一切の容赦をいたしませんから、すぐに終わると思います」

「まさか、お前たちが昨日の……」

「二つ。騎士の件ですが、それも意味はありません。その証拠に、ここに私がいて、騎士が誰一人として来ないことがその理由になるのでは?明日の朝にはヴァレンタイン公爵家から騎士が来ることになっておりますし、全員が捕まることでしょうね」

「そ、そういえば、何故誰も助けにこない」

「三つ。あなたが言っている後ろ盾というのは、竜人族のことですよね?」

「っ?!」

「その竜人族については、あの方が心に消えない傷を与えてしまいましたから、今では従順なペットのようになっておりますよ。ロニィさんが生きてここにいらっしゃるのがその証拠になるかと」

「…………」

 男は衝撃の事実ばかりを聞かされて言葉を無くすと、まるで引き上げられた魚のように口をぱくぱくとさせる。

「という訳で、あなたを助けてくれる人は誰一人としていないという訳です」

「そ、そんな。ど、どうかお助けください!何でもいたします!どうか命だけは!!」

 ようやく自分が置かれた状況を理解した男は、情けなくも地面に頭をつけて命乞いをするが、アイリスはそんな男を冷めた目で見下ろす。

「あの方が将来治ることになるこの地に、あなたのようなゴミは必要ありません。それに、自分は数々の犯罪を犯し、ロニィさんを殺そうとしたにも関わらず、自分は助けて欲しいなんて、随分と都合が良すぎるお話だとは思いませんか?」

「あ、謝ります!ロニィにも全員にも謝りますから!どうか!どうか!!!」

「ロニィさん。どうされますか?」

 アイリスにはこの男を許すつもりなど微塵も無いが、一応は被害者の一人であるロニィにどうしたいのか尋ねてみる。

「私は、あなたを許すつもりはありません。あなたもそうやって助けて欲しいと言った人々を、奴隷として売っていたのでしょう。その報いを受ける時が来たのです。リリィさん。やってください」

「わかりました」

「ま、待て!!」

 男は必死な形相でそう叫ぶが、アイリスは容赦なく男の顔を水の玉で覆うと、死ぬ寸前まで追い込み、意識を無くしたところで魔法を解除する。

「あなたのことは殺しませんよ。あの方がまだ使い道があると言っていたので。ですが、きっと楽には死ねないでしょう。生き残った事を後悔してくださいね。あなたのせいで死んだかもしれないみなさんのためにも」

 そう言ってニヤリと笑ったアイリスの顔は、愛しいルイスと少しだけ似ており、彼女がその事を知れば喜んだことだろう。

「では、あとは全員を拘束してルーナさんたちのもとへ向かいましょう」

「わ、わかりました」

 ロニィは自分を助けてくれた時とは全く違う雰囲気のアイリスに驚きながらも、彼女に指示された通りギルドマスターの男と下の階にいた職員や騎士たちを全員拘束する。

「それでは、行きましょうか……っ?!」

 アイリスがそう言ってギルドを出ようとした瞬間、何かが自身の魔法を突き破ったのを感じ取ると、次の瞬間にはその何かがギルドの天井をぶち抜いて地面へと落ちてくる。

「女の人?」

「ん?あぁ、リリィか。そっちは終わった?」

「る、ルーナさん?」

 アイリスは突然空から女性が落ちてきた状況を理解できないでいると、上から自身を呼ぶ声が聞こえてそちらに目を向ける。

 するとそこには、月のような金色のオーラを纏い、夜空のように美しい濃紺の髪を靡かせ、そして少しだけ楽しそうに笑う愛しい人の姿がそこにはあった。





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