悪役令嬢ですが、ヒロインを愛でたい

唯野ましろ

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悪役令嬢の可愛い婚約者

1 悪役令嬢ですが、幸せになりたい

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◇◇◇◇




 「麻理まりちゃん危ないっ!!」

 私は叫ぶよりも先に体が動きとっさに妹を突き飛ばし、ドーンという音の後に体が宙に舞い、地面に叩きつけられた。

 激しい痛みと朦朧とする意識の中でも駆け寄って来る可愛い妹の無事を確認し、よかったと安堵する。
 妹は私の手を握り、目からは大粒の涙が溢れ、言葉にならない悲鳴が響いた。

 妹にはまた家族を失う悲しみを負わせてしまうが、私も兄のように大切な人を守れたことを誇らしく思った。
 必死に呼びかける声が聞こえてはいるが、重くなる瞼に耐えられずゆっくりと目を閉じた。



 「お…姉……ちゃん。イヤァァァァーーーー!!」





◇◇◇◇






 「リ………リリち……リリちゃん!!」

 鈴の音のような透き通った若い女性の声と鼻に付くような薬品の香りで私はうっすらと目を開いた。

 「リリちゃん!お医者様呼んで来るわね!」

 意識がはっきりしない中、誰かが部屋から出て行く。

 視界がハッキリしてくると、自宅ではないのになんだか見慣れた天井と部屋の風景に不思議が感覚を覚えた。
 先ほど出て行った足音と共に廊下からバタバタと何人か部屋に入ってくる音が聞こえて来た。

 「リリちゃん!」
 「リリアンヌ!!!」
 「リリ!!」

 三人の顔を見た途端、大容量の記憶が私の頭の中に流れ込み、私は意識を手放した。






◇◇◇◇

 


 それは生まれる前の記憶。
そう、私はこの世界よりもずっと発展した世界の日本という国に(朝倉 梨々香あさくら りりか)という名で両親、兄、妹と暮らしていた。

 朝倉家はとても仲が良く、兄は特に私を可愛がってくれ、私は妹を激愛していた。
そんな妹がハマっていたのはゲーム、それも乙女ゲームという恋愛シュミレーションのゲームだ。
私と兄が妹に悪い虫がつかないようにゲームの世界、所謂二次元に目を向けさせたことが功をなし妹はどっぷりハマっていた。そんな妹との会話のネタになるかと思い私も乙女ゲームを始めたのだが、主人公のヒロインの舐めまわしたくなるような可愛さと攻略を妨害する令嬢たちのいじらしい姿に鼻水を垂らし泣きながら攻略を進めていたものだった。

 その中でも私のお気に入りのキャラは攻略対象の一人であるルカ・ノルマンディーではなく、
ルカの婚約者であるリリアンヌ・アルマニャックだった。


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 ルカ・ノルマンディー
 ノルマンディー公爵家の嫡子であり、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群で乙女ゲームの攻略対象の一人。
幼い頃に幼馴染みのリリアンヌの顔に傷を負わせてしまい、罪悪感と責任感からリリアンヌと婚約することを決意。
この事件と母の死から女性は儚く脆いと思い込み、リリアンヌ以外の女性を近づけず突き放し続けていたが主人公のヒロインと出会い、ルカの心の傷が癒えていくうちに主人公に恋心が芽生える。


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 リリアンヌ・アルマニャック
 アルマニャック伯爵家の長女でルカの婚約者、初恋であるルカに想いを寄せる。
主人公がルカルートに入ると、嫉妬から彼女を排除しようと数々の嫌がらせをするがそのことがルカにバレてしまい婚約破棄を告げられる。
 ルカが主人公と結ばれても結ばれなくても、リリアンヌの実家の不正が発覚し家族諸共没落。


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 ゲームでは、悪役令嬢という設定なのだが一途にルカを思い続ける姿勢や、根はいい子なのか生ぬるい嫌がらせをするリリアンヌはゲームユーザーの間でかなりの人気があり小説で書籍化もされたくらいだった。
私もそんなリリアンヌが名前が似ていることもあり、お気に入りだった。

 あの日も妹と待ちに待ったゲームの小説を買いに行った帰りで、妹をかばい私は死んだ。

 そのことは後悔していない。




 ——でも、お気に入りのキャラに転生してしまった……
それも没落確実の……………
今の私はリリアンヌで………………
リリアンヌを没落させたくないし、幸せになって欲しい……。

 ——私も幸せになりたい。


 そして私は、私自身のためにこの世界で生きていくことを決めた。


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