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2部【アース大陸横断編】 第1章 「目指せドグロブニク 漫遊編」
79話:「霧の中から現れた化け物」
しおりを挟む「なっなんだ!?」
突然の出来事に戸惑う大和。
状況確認のためすぐさま後ろを振り返り見ると
そこにはとんでもないものが待っていた。
5メートル以上はあろうかという巨体に象のようにがっちりとした四肢に太い胴体
そして何よりも特徴的なのは胴体から生えている八つの首にモグラのような頭だ。
「こっコイツは間違いない! ヤマタノモゲラ! 魔獣ヤマタノモゲラです!!」
目の前の化け物を視認したリナが化け物の正体を教えてくれた。
「そっそんな、なんで七大魔族の一柱がここにいるのですかっ!?」
「そんなこと聞かれてもわからないですのん!!」
突然の化け物襲来にその場にいる者が浮足立つ中大和は一人冷静に相手を見据える。
(あれがヤマタノモゲラか・・・・確かにタワーファイナルの時と同じ姿だな)
彼が化け物を値踏みするように視線を向けていると奴が高圧的な態度を口にする。
それは七大魔族に数えられるだけのことはあり見る者に畏怖の念と恐怖を植え付けるには十分だった。
「この俺をこんな霧の中に閉じ込めた報いを受けさせてやる。
とりあえずそこの人間ども、我が血肉の糧となるがいい!」
自然の摂理を持ち出すのであれば目の前にいる巨大な化け物に対抗する術を持たないものは
抗うことすらできずに殺されるだろう。
そう抗う手段を持たなければ・・・・
「やれやれうるさいモグラだな・・・・」
自分の身の丈の数倍はあろうかという化け物を前にしても大和は冷静だった。
それはごくごく単純な理由で、このモンスターもまた【餌モン】だったからだ。
【餌モン】とはかつてタワーファイナルで行われていた定例イベントにおいて
プレイヤーのステータス上限を上げるアイテムをドロップするモンスターが出現するというイベントがあり
このヤマタノモゲラもまた餌モンの一体だったからだ。
タワーファイナルにおいてレベルを最高の255に上げてもステータスはカンストしない。
全てのステータスをカンストするためには餌モンは欠かせないモンスターなのだ。
かく言う大和もまた己のステータスをカンストにするために餌モン狩りに勤しむプレーヤーの一人だった。
この世界に転移してきた初っ端にに餌モンの一体である【幻獣ヴァルボロス】を倒しているということもあり
そのヴァルボロスと同格のヤマタノモゲラが出てきたところで彼の中に焦りという感情は皆無であった。
増してやかつてタワーファイナルにおいて数千体という膨大な数の餌モンを屠ってきた彼にとって
目の前にいるモンスターなど数千体の一体でしかなかったのだ。
(さて・・・・少々困ったぞ・・・・)
そんな大和だが実は少し思案していた。
目の前にいるモンスターを倒せるかという心配ではなく。
いかにしてこのモンスターを自分の実力を隠しつつ倒すかということの心配だった。
大和の実力はこの世界において最強と言っても過言ではない。
レベルは最高の255であり彼の職業は最高職のパラディンを修めている。
餌モンによって相当数のステータスの底上げも行われている。
だからこそ実力を隠す必要があったのだ。
圧倒的な力を誇示すればするほど面倒事に巻き込まれる可能性が高くなり。
現在共に行動する仲間から「ヤマト様に任せておけば大丈夫ですね!」と言われかねない。
以前から話しているが大和は自分が勇者だとはこれぽっちも思っていない。
寧ろ普通の冒険者として振舞いたいとさえ思っている。
だがこの世界の神が神託を出した際
その時の勇者の特徴がたまたま自分と一致しているに過ぎないため
本人がいくら否定したところでこの世界の人間が信じてくれなかったのだ。
そのうち否定するのが面倒臭くなり自ら勇者を名乗るようになったが
決して自分が勇者と自覚したうえの呼称ではなく本人の中ではあくまでも【自称】なのである。
どうやってこの場を収めるか思案していた大和に対して
目の前に立ちはだかるモンスターが声を上げる。
「きっ貴様は確か我が同胞ヴァルボロスを屠ったという神託の勇者ではないか!
丁度良い、同胞の仇というわけではないが我ら七大魔族が舐められたままでは
我らの沽券に関わるのでな、おとなしく死んでもらおう!」
堅苦しい物言いに気が滅入りそうになる大和だったが
なんとか気合でその思いを押し殺すと最終の手段に打って出ることにした。
「あーヤマタノモゲラ君、もし君が嫌じゃなければで構わないのだが
俺と一騎打ちで戦わないか?」
そう、ベルゼとの戦いでも使った
【誰も見てないところでサクサクっと倒しちゃおう作戦】を使うことにしたのだ。
だがその作戦は早々にご破算することになる。 彼女の一言によって。
「今回は全員でかからないと勝てないですのん!」
(マーリンっ!!!!!)
余計な一言をと言わんばかりに心の中で叫ぶ。
ますます困ったことになった。
再び思案モードに突入しなんとかこの場をやり過ごす良い手はないのかと考える。
だが当の本人たちであるリナ、エルノア、マーリンが戦闘スイッチを全開でオンにしているため
大和が冷静に説き伏せても聞く耳は持っていないだろう。
彼は何となくそれをその場の空気で感じ取りたまには成り行きに任せてみようということで
初めての4人パーティーで戦うという選択をしたのだ。
明らかに戦いたくないというオーラを出しつつやる気のない手つきで
腰に携えている剣を引き抜く大和。
まるでフェンシングの試合の様な構え方でモゲラと対峙する。
この構えは大和にとって舐めプ――――相手を舐めた状態でプレイする――――の構えであり
彼からすればお遊びで戦う時用の構えだったのだが彼の構えを見たモゲラから謎の賞賛が贈られた。
「むむっ! 他の者とは明らかに常軌を逸した構え。 やはり我が同胞を
討ち取っただけのことはあるようだな!!」
(はぁ!? 何言ってんだコイツ?)
その言葉を聞いて苦虫を噛みつぶした顔をする。
その表情をどう受け取ったのかモゲラの八つの頭が左右に展開し
臨戦態勢を取るようにある一定の間隔で距離を取った。
そして戦いの火蓋が切って落とされたのだが
大和が牽制のために放とうとした魔法より早く彼女の魔法が顕現する。
「上級魔法 (サード・マジック) ハイウインド・サイクロン!!」
彼女の杖から放たれた魔法が大きな竜巻に変わりターゲットであるモゲラを
巻き込む形で襲い掛かった。
だがあまり効果がなかったのか一瞬怯んだだけで風の魔法によるダメージは
目に見えて皆無に等しかった。
「ってなに勝手に先走ってんだよっ!」
大和は先んじて魔法を発動した白い神官服に身を包む少女を叱咤する。
その少女は大和に対して。
「・・・・・・てへぺろっ!」
「てへぺろじゃねえよ!! どういう意味かもわかってないものを使おうとするな!!」
なぜ彼女が大和の世界の言葉を知っているのかそれを話すと長くなるので割愛するが
簡単なことだ、大和がその言葉を使っていたからという理由で
今この瞬間この女は使いやがったんだ。
リナの魔法に耐えたモゲラが今度はこちらの番とばかりに魔法を発動させた。
「超級魔法 (ギガント・マジック) ロック・ヘイル!!」
モゲラの頭の一つから光線が飛び奴の近くの地面に埋まっていた大岩が宙に浮かぶ
空中に浮遊した大岩がソフトボール大の大きさに幾つも砕けると大和たちに襲い掛かった。
それに即座に反応したのはマーリンだった。
「させないですのん! 超級魔法 (ギガント・マジック) フリーズ・ジャベリン!!」
60センチほどの長さの氷で形成された細長い槍が数十本
それが相手の放った霰のように降り注ぐ岩めがけ飛んでいく。
岩塊と氷槍がぶつかり合い砕けていく様は幻想的な光景を思わせる。
その後両者の放った岩と氷全てが相殺され跡形もなく消え去っていく。
「ほお、人間にしてはなかなかやるではないか」
「あなたもモグラにしてはやるですのん」
お互いの魔法を相殺し合ったことで相手の実力を推し量ったかのように
モゲラとマーリンはニヤリと笑い合う。
(もういいや・・・・面倒臭い!!)
「超絶級魔法 (テラント・マジック) ヴァルス・ボム!!」
大和が突き出した手に光が集中し、巨大な球体が顕現する。
内在する彼の魔力が一点に凝縮された光の玉は想像を絶する破壊力を秘めている。
モゲラとて七大魔族の一柱と呼ばれているだけあって即座にその魔法が
自らを死に至らしめるのに十二分な威力を持っていることを理解する。
だがその場から逃走するにはもはや遅すぎる。
かといって大和の魔法を相殺できるほどの魔法を唱える余裕もなかった。
だからこそモゲラは最後の切り札と呼ぶべき技を出すしか選択肢がなかったのだ。
「絶対防御! アルティメータム・ロックシールド!!」
モゲラが使う技の中で最も防御に特化したスキルそれがアルティメータム・ロックシールドだ。
自らの体を岩のように硬質化しあらゆる攻撃に対し絶対防御に近い守りを誇る防御技である。
大和はモゲラの使った技を視認すると完全防御態勢を取る奴に対し
ためらうことなく手の球体を放った。
その光の玉は溢れんばかりの魔力をみなぎらせ高速回転をしながらモゲラに向かっていく。
圧倒的な力を身体で受け止める覚悟を決めたモゲラは迫りくる力に身構えた。
だがその攻防は何の脈絡もない方向からもたらされた魔法によって妨害された。
「っ!?」
突然の出来事に魔法を行使した大和は目を見開き何が起こったのか事態の把握に務める。
そして自らの魔法をかき消した張本人が現れたのを確認するとその人物に向かって悪態をつく。
「あんたが俺の魔法を妨害したのか? 面倒事が増えるから邪魔をしないでくれないかな?」
大和の魔法を妨害した者とは一体!?
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