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第2章 「ドグロブニク攻防戦」
97話:「本当の始まり」
しおりを挟む船上は静寂に包まれていた。
先ほどまで乗組員たちが阿鼻叫喚の地獄絵図状態だったのが嘘のように静まり返っている。
しばらくしてその場にいた全員がゲソルドの死を理解しだす。
それと共に沈黙を貫いていた者たちが生きている喜びを声に出して表現する。
それは彼女たちも同様だった。
「やりました! さすがはヤマトさま!!」
「ご神託の勇者様は伊達じゃありませんね!!」
「マーリンなにもしてないですのん!」
「わたしもです。 これではここに来た意味が・・・・」
それぞれが大和の勝利を称えながらも
ゲソルドと戦わなかったということを悔しがっていた。
彼女たちもこの旅を通じて少しは強くなってきているとはいえ
まだまだ大和の足元にも及ばない。
もっと彼女たちには強くなってもらわねば自分が楽できないという思いを抱きながら
大和は彼女たちに向かって親指を立てた右手を突き出す。
こうしてビルド大陸に行くための障害となっていたイカの化け物は倒され
再び大陸へと行ける道が切り開かれた。
大和たちはいい報告ができると喜び勇んで町に帰還するのであった
ゲソルドが倒されたことが知れ渡ると町の者たちは歓喜の声を上げた。
ある者は涙を流し、ある者は勇者に感謝し、ある者は感無量といった感じで遠くを見つめる。
アイゼンの屋敷まで向かう道中、大和たち一行には黄色い声援や賞賛の声がこれでもかと言わんばかりに降り注いでいた。
船を提供してくれたアイゼンの屋敷に到着した大和たちは彼に事の顛末を報告するとともに
ゲソルドを倒したことを報告した。
アイゼンは目を見開き驚愕と喜びが入り混じった表情を浮かべながら大和に感謝する。
「ありがとうございますヤマト様、これでまたビルド大陸との交易が再開できるというもの!」
彼の心からの感謝の言葉に少し照れつつもその言葉を素直に受け取る。
そして、ここから本題とばかりに大和が話をしようとしたが
ゲソルドを倒したということで祝いの宴が町を上げて開かれることになったようで
難しい話は後日するとアイゼンに追い返されてしまった。
マチルダとは簡単な挨拶をして一旦別れることになった。
仕方なく宿屋に戻るとそこでも大和たちを賞賛する声が響き渡る。
その言葉を受け止めながらなんとか自室まで戻った彼等は
ぐったりとした表情を浮かべながらも自分たちの行いが多くの人を救ったという実感で胸がいっぱいになる。
「なんだかとても胸がぽかぽかしますね」
「良い行いをするとこうも気持ちがいいものなんですね」
「でも実際ゲソルドと戦ったのはヤマトさんだけですのんっ」
「あれはしょうがないよ、不可抗力ってやつさ不可抗力」
船上での時とは違い4人の間に和やかな雰囲気が流れる。
気付けばその場にいる4人が声を出して笑い合っていた。
一方、大和たちと別れたマチルダはあてがわれた自分の部屋に戻るとベッドにそのまま倒れ込む。
自分のいない間に交換されている新しいシーツには陽の光を十二分に浴びたお日様の臭いが鼻をくすぐる。
部屋には簡素な造りのベッドに丸いテーブルと椅子そして彼女の服を収納するためのクローゼットが置かれていた。
鼻から吸い込んだ空気を目一杯吐き出すが吐き出された息には二つの意味が込められていた。
一つは緊張から解き放たれた安堵のため息
そしてもう一つは結局大和の役に立てなかったという無力感に苛まれるため息であった。
「何の役にも立てなかった・・・・わたしは何をしに船に乗ったの?」
自分があの場にいながら何もできなかったことに対する憤りを感じていると
ふとここで何者かの気配を感じ取りベッドから身体を起こした。
見た目はいつもの自分の部屋なのにも関わらず、何かがいる気配がする。
目に見ることができない何かがそこにいる感覚、彼女はそれを敏感に捉えていた。
すると気配のする方に視線を向けるとそこに靄のような影が浮かび上がった。
それはあたかも意思を持って行動しているようなあるいは何者かに操られているように宙を浮遊する。
(なっ何なのあの影は!?)
彼女がその影に警戒していると突然それが彼女の身体に纏わりついてきた。
そのことに思わず悲鳴を上げようとするが襲ってきた影が彼女が声を出す前に口を押さえ込む。
必死に抵抗するも力が徐々に抜けていき、意識も遠くなってきた。
抵抗むなしく彼女は完全に気を失ってしまった。
彼女に纏わりついていた影が人の形を形成し、一人の女性の姿に変化する。
「ようやくおとなしくなりましたか」
雪のように白い肌をした紺碧の長髪を持つ眼鏡の女性がぽつりと呟く。
彼女の力によって意識を刈り取り床に伏しているマチルダの横顔を眺めながら
返事をしないだろう彼女に向かって口を開く。
「悪いんだけど、あなたの事利用させてもらうわね」
そう言いながらしなやかな指でずれた眼鏡を上げるとともに
彼女とマチルダを漆黒の闇が包み込むと泡のように掻き消えてしまった。
マチルダがいなくなったことが明るみになるのはこの時より1時間後の事となる。
彼女が攫われたことは今の大和たちにとって本当の戦いが始まることを意味していた。
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