オンラインゲームしてたらいつの間にやら勇者になってました(笑)

こばやん2号

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第2章 「ドグロブニク攻防戦」

103話:「男の友情」

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『止めだ』という耳を疑うような言葉が男から発せられる。
たった今相手の命を奪わんとお互いに戦いに身を投じていた人間の口にする言葉とは思えないほどに。
サマエルは相手がこちらを油断させるための狂言だと言うことも考慮に入れ戦闘態勢を維持し続ける。
だがそんな彼の思惑は相手が剣を鞘に納めたことでいとも容易く裏切られた。

己の獲物を鞘に納め戦闘態勢を完全に解除した無防備な姿をさらけ出す目の前の男に
目を見開き怪訝な表情を浮かべたまま先の言葉の真意を問い詰める。

「止めとは一体どういうことだ!?」

相手の思惑が理解できないでいる彼に向かって
大和はさも当たり前のようにその言葉を言い放った。

「俺がお前を殺したくないからだ」

サマエルにとって彼の言っている意味が理解できなかった。
先ほどまで命のやり取りをしていた身からすれば彼の思いは至極当然だろう。

(こいつ一体何を考えてやがる?)

そんな彼が頭の中で混乱する中、大和がどうしてこの戦いを止めたのかその答えは至ってシンプルだ。
この世界にとって弱い奴は強い奴に蹂躙され滅ぼされるしかないが我々の世界はどうだろう?
弱い存在も強い存在も共に共存し理解し生きている。
だからこそ彼は目の前にいる魔族との戦いを止め共存の道を選択したのだ。

かつて大和が元の世界にいた時彼は業界ではそこそこ名の知れた企業で営業サラリーマンとして働いていた。
そこでの経験が彼に“人を見る目”つまり洞察力と観察力が人並み外れた領域にまで足を踏み入れさせていた。
先の僅かな戦いで大和はサマエルの人となりと彼が抱えているものを読み取り察してしまった。
魔族としての意地や誇り、そして惚れた女に無様な姿を見せるくらいなら死ぬ方がマシだという覚悟。

それは男が男として存在する意義に等しい矜持であった。
女はこれを『くだらない』と吐き捨てることだろう。
だが男にとってそれが全てなのだ。
だからこそそんな心の内を見せられてこれ以上彼と刃を交えることなど大和にはできなかった。
“彼のことを気に入ってしまった”のだから。

「ふざけんな!!!!!!!」

辺り一帯を巻き込むほど大音量のサマエルの咆哮に大地が揺れる。
相手を射殺さんとする勢いで睨みつけながら大和の言葉を否定する。

「そんな生ぬるい考えでこの戦いが止まると思っているのか!!」

魔族にとって戦いは必ず勝ち負けが決まる。
引き分けは存在しない。
どちらかが生き残りどちらかが死ぬそれが戦いというものなのだ。
だからこそそんな考えを真っ向から否定する大和の言にサマエルは激しい怒りを覚える。
そのはらわたが煮えくり返る怒りのまま大和に突撃しようとした刹那。

「お前が死んだら悲しむものがいるんじゃないか?」

その言葉にサマエルの体がピタリと止まる。
彼が何をしてくるのかということを歯牙にもかけず大和は言葉を続ける。

「お前だってできれば俺と事を起こしたくはないはずだ。
 だがお前には立場があり何よりも逃げることなどできなかったのだろう?」

まるでこちらの心を見透かしたような彼の物言いにサマエルは狼狽する。
さらに彼が続ける言葉がさらにサマエルをうろたえさせた。

「別にお前の覚悟を無下にするつもりはない。
 誰だって引くに引けない場面というものがある。 特に“男”はな・・・・
 だからこそ思ってしまった。 “今殺すには惜しい男”だと」

最初からこちらを下に見た発言に憤りを感じると同時に
彼の人柄の良さが伝わってきた。
さきほどの怒りも頭に消え失せサマエル自身も戦いの興を削がれてしまった。
彼の心中を悟ったのか大和が突拍子に問いかけてくる。

「ところでお前の惚れた女とやらはあの子なのか?」

あの子というのが大和と最初に対峙した際に隣にいたヘルだと推察したサマエルは
彼の言葉を肯定するように肩を竦めて肯定する。

「ああそうさ、うちの部隊の統括師団長をやってる」

「いい女じゃないか、それで彼女とはどこまで言ってるんだ?」

まるでこちらをからかう様に言ってきた大和の言葉に
多少の苛立ちを感じつつも本当に悪気で言っているようには思えなかったサマエルは
頬を赤く染めながらさっきとは別の狼狽を見せつつ答える。

「なっなんでそんなことを今言わないといかんのだ!!」

「え? だって好きなんだろその子のこと?」

さも当たり前のように聞いてくる大和の言葉にまるで恋する乙女のように小さく頷く。
大和はそんな彼をまるで弟ができたように語り掛ける。

「いいかサマエル? “男”たるもの惚れた女がいるのなら
男の方からガンガン行かねばならない。 それが男だ」

と言いながら親指を立てながら格言のようなものを言ってきた。

「まあ死んだ爺ちゃんの受け売りだけどな」

そう言いながら爽やかな笑顔を向けてくる。
さっきまでの死闘が嘘のように。
サマエルは完全に大和のペースに飲まれてしまっていた。
その後彼らはさまざまなことを語り合った。
男の恋愛観について大和の考え方はこの世界の住人であるサマエルにとって
彼が常日頃から理想とする男の姿そのものだった。
そんな価値観を持っている大和のことを一人の男として憧れるのには十分なものだった。

「神託の勇者コバシヤマト」

「ヤマトでいいぜ」

「じゃあこれからは“ヤマトの兄貴”って呼ばせてもらうぜ」

そう言うとどちらからともなく笑い合い固い握手を交わした。
こうして二人の間に男の友情が成立したのであった。
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