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第3章 「皇帝の陰謀と動き出す闇」
157話:「アリシアの最後の願い」
しおりを挟む「はあ、はあ……」
土の層を繰り抜いたように作られた広い空間で戦いが行われていた。
一人は妖艶という言葉が擬人化したような色香を漂わせる美女、そしてもう一人は
冴えない中年男性が傷だらけで剣を支えにして片膝を付いた状態だ。
男性の方は床に手枷をはめられた状態で横たわる少女を助けるために来た剣の賢者ことガリウス・ブラウンで
対峙する美女はその少女を攫った魔人のサーヒルン・マシャーであった。
黒装束の男との死闘に打ち勝ったガリウスだったが、間髪入れずに倒した男の上司であるサーヒルンと
連戦することとなってしまい、奮闘するも彼我の実力の差から徐々にガリウスが押され現在ガリウスが劣勢を強いられていた。
何とか倒れないように体を支えながら対峙するサーヒルンに射殺すような視線で睨みつけるも
最早そんな視線など彼女にとっては死にかけている者の虚勢であることは明白のため歯牙にもかけずガリウスとの間合いを詰める。
初戦の黒装束の男との戦いがまるで児戯のようであると錯覚させるほどの攻防だったのだが
そんなものですらサーヒルンにとっては遊びでしかなかったのだ。
「最後に何か言うことはないかしら、色男さん?」
「くっ、化け物め……」
「あらあら、こんな美人を捕まえておいて化け物呼ばわり? それはいくら何でも失礼ではなくて?」
「はっ、自分で言ってりゃ世話ないぜ」
もうすでにガリウスにはサーヒルンと戦う力は残っておらず、刀で自分の体を支えるのが精一杯だった。
そんな様子を見ていたアリシアの元にもう一人の魔人であるガルブがゆっくりと近づいてくる。
三メートルはあろうかという巨体が近寄ってくる様はそれだけでアリシアに恐怖を与えるには十分すぎた。
「小娘、取引だ」
「取引? どういう事じゃ?」
人狼姿の魔人は口端を吊り上げニヤリと笑いながら、悪魔のような選択肢を提案した。
「大人しく我々の操り人形になり従うというのなら命だけは助けてやる。
だが、逆らうというのなら……分かるな?」
ガルブの握りこぶしが開かれると鋭くとがった爪がキラリと光った。
それだけで全てを理解したアリシアは不条理な二択を迫られることになる。
このまま奴らの言うことを聞けば命は助かるが、この国が魔人達の手に落ちてしまう。
かと言ってこのまま逆らえば、自分を助けに来てくれたガリウス共々殺されるだけだ。
だが、腐ってもドライゴン帝国の皇帝であるアリシアに魔人の手に落ちるという選択肢はなかった。
民が苦しむ選択を自ら選ぶようなことは彼女の皇帝としてのプライドが許さなかったのだ。
「殺したければ殺せばいいのじゃ! このアリシア・ティル・ドライゴン、例え力に屈しようとも
主らのような存在に従うつもりなどはない!!」
仮に大人しく従ったとしても自分が生まれた国を、自分が守ると決めた国を、自分が愛した国を
他の者の手によっていいようにされることがアリシアには許せなかった。
例えこの場で殺されようともドライゴン帝国を裏切るようなことだけは出来なかったのだ。
「そうか、ならばこちらの返答はこうだ……」
「ガルブ様、今その嬢ちゃんを殺すと面倒なことになるのではないですか?」
ガリウスとの勝負に飽きてしまったサーヒルンがアリシアとガルブの会話を耳ざとく聞きつけ
ガルブに疑問を投げかけた。
「ふん、そんなもの姿を似せた影武者を潜り込ませればよかろう。
別にこの小娘本人でなくとも国を裏から操る方法はいくらでもある」
「それならば、わたしに異存はございません」
そう言って恭しく一礼すると、再びガリウスに視線を戻すサーヒルン。
一方ガルブはアリシアをこの場で亡き者にすることを決意したため、自分の手を開きながら爪を立てる。
(ああ、最後にもう一度、もう一度だけでもいいからヤマト殿の顔が見たかったな……)
彼女の最後の心残りなど察することもなく、ガルブが右腕を上げそれをアリシアに振り下ろさんとしていた。
「じゃあ小娘、我ら魔人の栄光のためその糧となるがいい」
「ヤマト殿……」
アリシアがそう呟くと同時に勢いよくガルブの腕が振り下ろされる。
それを見たガリウスが「やめろ」と絶叫するも空しく振り下ろされる腕の勢いは止まらない。
アリシアでなくともガルブの腕から振るわれる力を食らえば人間などひとたまりもないだろう。
ガルブの腕がアリシアの体に直撃する寸前最後の断末魔のように叫んだ。
「ヤマトどのおおおおおおぉおおおおおおお!!!」
そして、ガルブの腕がアリシアに直撃すると思われた刹那――。
「ぐはっ」
気付けばガルブの巨体が宙に舞い土の壁にめり込むほど吹っ飛ばされていた。
何が起こったのか、その場にいた全員が理解できずにいると突然声が聞こえた。
「呼ばれて飛び出て、ほほいのほーい」
どこか場違いな間の抜けた掛け声に全員が呆気に取られていたが、アリシアがその声の主を視認すると
途端に安心感から大きな瞳に大粒の涙を溜めながらその者の名を呼んだ。
「や、やまとどのおおおぉぉぉおおおおおお!!」
そう、ガルブの攻撃からアリシアを救ったのはその場にいなかったはずの人物であり
アリシアがもう一度会いたいと願った大和だったのだ。
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