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第2章:パーティーができあがるまで
41話:「襲撃」
しおりを挟むジェスタの町に夜の帳が下りたのはつい今しがたのことである。
ある者は酒場で仲間内と宴に興じ、ある者は家族と共に一家団欒団欒のひとときに身を置き
またある者は次の日の活動に備えて疲労で酷使した身体を癒すため眠りについていた。
街灯は少なく、夜ともなれば闇が辺り一帯を支配する。
そんな闇の中に紛れて佇む一つの影がそこにはあった。
その者はこの町で最も高く作られた建物から町を見下ろし
一通り見渡すと不意に口を開いた。
「ここが勇者のいるジェスタの町か・・・・」
その鈴を転がすような声を放ちながら一人の女性が
誰に話しかけるともなく呟く。
当然のことながらその呟きに反応を示す者はなく
彼女の呟きは闇に掻き消されていく。
女性の名はリリス・ライラー、メフィストフェレス直轄第3部隊隊長である。
その容姿はリナと同年代くらいのなのだがどこか違う。
妖艶に満ちてはいるものの、成熟された妖艶さというよりは
まだ未熟さと拙さが残る青い果実の如き艶やかさを身に纏い
薄桃色のきめの細かい肌と煌びやかな銀色の髪を持ち合わせた人物である。
目鼻立ちもしっかりと整っておりまさに絶世の美女
一般的な女性よりも高い上背ながらその出で立ちは戦士を思わせる。
また女性の象徴である2つの膨らみも大きすぎず小さすぎず
美しい丸みを形作りそれはまさに美の結晶と呼称しても過言ではない。
胸元が開いた漆黒のドレスが彼女の身体を包み込みより一層美麗さが増長する。
「さて・・・・」
決意に満ちた声を発すると彼女は夜の町へと消えていった。
同時刻、大和とエルノアは自宅に戻っていた。
10日という短期間ではあったが家を空けたことに変わりはないため
家に溜まったホコリを掃除していたのだ。
エルノアが「そのようなことは私が」と進言してきたが
二人でやった方が早いという大和の提案をしぶしぶ受け入れ部屋を綺麗にしていく。
特に会話は無かったが決して居心地が悪いというわけではなく
寧ろ心地の良い沈黙を大和は感じていた。
そして、一通りの作業が終わり先ほどエルノアがお茶を入れようと
台所に向かって行ったところだ。
「ふう~そう言えば部屋の掃除なんてやったの
いつぶりくらいだろう?」
大和がかつて元の世界にいた頃はバリバリのサラリーマンとして
仕事に精を出していた。
その勤勉さは勤め先の会社も高く評価していたほどだ。
だがその高評価とは裏腹に仕事を終え帰宅した際は
飯を食べ風呂に入り、唯一の楽しみであるゲームに興じていたため
まともな掃除などほとんどやっていなかったのだ。
目を閉じ、以前の生活の様子を頭の中で想像していると
突如台所から窓ガラスが割れる音が大和の耳に入ってきた。
「っ!? なっなんだ?」
音の正体を探るべく台所に踏み込むと大和は大きく瞠目する。
目に飛び込んできたのは漆黒のドレスに身を包んだ美女
だがその背中からは禍々しい雰囲気を纏う黒き翼が生えていた。
その瞬間大和はその人物が人間ではないことを直感した。
「魔族か!?」
その問いかけを肯定するかのように目の前の美女が口を開く。
「お前が神託の勇者、コバシヤマトか・・・・」
そう言い放つと彼女は大和を頭の先から足の先まで舐めまわすように観察する。
見目麗しい彼女に見つめられていることに一瞬気恥ずかしさを覚えたが
相手が魔族それもかなり力を持つ魔族だということを肌で感じた彼は
腰の鞘に手を掛け戦闘態勢に入る。
大和が身構えるとほぼ同時に己の身を手で守っていたエルノアが
彼に倣い短剣を構える。
「お前は一体何の目的でここに来た!?」
目の前の魔族の目的がわからず困惑する大和だったが
一先ず相手の出方を窺うためありきたりな質問を投げかける。
「フッ、魔族であるあたしが
勇者である貴様の前に現れる理由など知れたこと」
そう言って両手を構えると彼女の手に魔力が宿った。
そして、その魔力を媒体にしてとある呪文を発動させる。
「超級魔法 (ギガント・マジック) ダークネス・スフィア!!」
それはほんの一瞬の出来事だった。
彼女の魔力集中から魔法発現までの時間の短さから
先ほど大和が感じた直感が確信へと変わる。
(この魔族かなりの使い手だ)と・・・・
濃い紫とも漆黒とも取れる暗黒に満ちた球体が発現し
大和に襲い掛かった。
「くっ!」
不意を突かれた大和は対抗呪文を唱える暇もなく
相手の魔法をくらってしまった。
「ヤマト様ーーーーーー!!」
その力は凄まじく大和でもまともに食らえば
無傷とは言えないほどの威力を持っていた。
大和の身を案じエルノアが悲鳴にも似た声を張り上げる。
そして、魔法の効果が切れたのか球体が徐々に小さくなり
しまいには何事もなかったかのように消えてしまった。
だが同時に本来そこにいるはずの人物の姿もまた消えてしまい
エルノアは驚愕と焦りの色がまざまざと浮かび上がっていた。
最悪の事態を想像してしまった彼女はぽつりと呟く
「そんな・・・・ヤマト・・・・様」
さらにエルノアに追い打ちをかけるように
魔族が高笑いを上げながら口を開く。
「ははははははは、何が神託の勇者だ! 他愛もない
この程度の相手に警戒していたと思うと泣けてくる」
そう吐き捨てるように言い放った魔族に対し
エルノアは憎しみを色濃く湛えた表情を向けた。
殺意と言ってもいいその雰囲気を察知し彼女に視線を移した魔族は
口の端を吊り上げ、さらに彼女の憎しみを増大させる一言を付け加える。
「どうした? かかってこないのか?
どうせ返り討ちだが勇者の仇を打つチャンスだぞ?」
その言葉を聞いた瞬間、頭で理解するよりも先に身体が動いていた。
自分の恩人ひいては愛する人を失った絶望よりも先に
大切な人を殺した相手を同じ目に合わせるという感情が彼女を支配し
目的を達成すべく眼前の相手に突進していった。
エルノアと魔族の距離が縮まり
あと数歩で彼女が持つ短剣の間合いに入るかという刹那
二人の間に影が割って入る。
「っ!?」
一瞬戸惑ったがその姿を認めるとエルノアの目が潤みを帯びていた
その人物が余裕の表情を浮かべながら二人に語り掛ける。
「こらこら、勝手に人のことを殺さないでほしいな・・・・」
そう彼女たちの間に入ってきたのは
先ほど魔族の攻撃を食らって絶命したはずの大和だったのだ。
大和以外の二人が驚愕する中彼はエルノアに向かって指示を出す。
「エルノア、お前じゃこいつには勝てないから
少し下がってろ・・・・」
「ですが・・・・」
大和の命令とはいえ目の前で主が命を狙われているとわかっている状況で
引き下がる従者がいるだろうか? 答えは否!!
だがそんな彼女の心境を察知したのか彼女の頭に手をポンと乗せ
愛でるように左右に手を動かす。
そして、穏やかな笑顔を向けるとやさしい口調で彼女に語り掛ける。
「エルノア、俺を信じてくれないか?」
「・・・・・・わかりました」
納得はしていないが主人がそこまで言うのなら
その意思に従うのが従者としての責務
そう心の中で自分に言い聞かせたエルノアは
二人のやり取りをただ呆然と眺めている魔族を一瞥すると
これから繰り広げられる戦いの邪魔にならぬよう一歩下がる。
その後魔族の方に向き直った大和はごくごく単純な質問を投げかける。
「君の名前を教えてくれないか?」
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