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2部【アース大陸横断編】 第1章 「目指せドグロブニク 漫遊編」
54話:「エルノアの隠れた才能」
しおりを挟む大和たちがリコルと出会いを果たした後
先ほどスリの男から取り返したばかりの金袋が無くなっていることに気付いた。
さまざまな可能性を模索したが出された答えは一つだった。
「あの女の子が?」
先ほどぶつかってきた年端もいかない愛らしい女の子
その子が盗んだというのが最も自然な答えだった。
まだいなくなって数分しか経っていないため辺りを見回すが
彼女が盗んだのなら近くにいる訳はない。
「ヤマト様、あたしにお任せください!」
そう自信満々に答えたのはエルノアだった。
大和の許可を得る前に彼女は女の子を探索し始める。
探索と言っても周囲を見回している様子はなく
鼻を突き出してまるで警察犬のように臭いを辿っている様子だった。
「まさか臭いで分かるとでも言うんじゃないだろうな? 冗談きついぞエルノア」
「クンクン・・・・そのまさかですよヤマトさま、あたしこう見えても鼻がよく利くんです」
そう言いながら女の子が逃げていった方向を臭いで追いかけるエルノアに
半信半疑ながらも三人は追従する。
徐々に人ごみが途切れだし、完全に人の流れが無くなると
人気のない暗い路地に入っていく。
「おいおい、ホントにここか?」
「大丈夫ですよ、あたしがヤマトさまの臭いを間違えるわけないじゃないですか」
「ってか俺の臭いかよ!!」
てっきり女の子の臭いを覚えて追っていたとばかり思っていたので
思わず突っ込んでしまった。
というより俺が隣にいるのによくわかるものだと言いたかったが
なんとなくツッコんだら負けのような気がしたので黙っておくことにした。
しばらく歩いていると進行方向から小さい人影が走ってくるのが見えた。
「いました! さっきの子です」
「うわっマジで探し当てやがった!!」
「エルノアさんすごいですのん!」
「ってかホントに犬並ですね」
エルノアの隠し持っていた才能に三者三様の反応を示す。
「っ!?」
大和たちを視認した女の子が踵を返し逃げようとするが
小さい女の子の逃げ足と一端の冒険者の走りどちらが早いか比べるまでもない。
逃げようとする小さな背中から前に手を回し、そのまま体ごと持ち上げる。
「ヤー! はなっ離してーーー!!」
大和の手から逃れようと必死になって暴れる女の子だったが
暴れ疲れたのか次第におとなしくなり俯いてしまう。
「やっとおとなしくなったか?」
「・・・・・・」
「ん? どうした?」
「どこさわってるんだっ・・・・」
「え?」
よく見ると女の子の背中から回された手は
発展途上の真っただ中にある彼女のほんの僅かな膨らみを掴んでいた。
それは膨らみというには些か表現が適切ではない気もしたが
彼の手に伝わる感触は間違いなく女の柔らかさを備え持ったものであり
リナやエルノアのような立派なものでもなくマーリンのように手に収まるものでもない。
だがしかし、そこには確実に女性の膨らみが存在し柔らかい手応えも確かに感じられたのだ。
「~~~~~~~」
顔を真っ赤にして俯く彼女、その顔は初心で幼げなものではあったが
女性としての羞恥と異性を意識する感情が入り乱れていた。
「ヤマトさんその子から手を離すですのん!!」
「キィーーーー! うらやますぃいいいいいいい!!!!!!」
「あたしだってまだしっかり揉んでもらってないのにぃぃぃぃ!!!」
一人は真面目に、一人は奇声を、最後の一人は訳の分からんことを宣う。
確かにいくら子供とはいえ相手は女性なのだ
最低限度の異性としての扱いは必要だったかもしれない。
大和は女の子から手を離し、一瞬の動きで
先ほど好き放題言ってくれた三人の言葉に応えた。
一人は頭を撫でて残りの二人は頭にチョップをお見舞いする。
そして何事もなかったかのように女の子に向き直る。
「すまない」
大和は短く謝罪すると彼女の両脇に手を入れそのまま持ち上げながら
くるりと回転させ自分の方を向かせる形でストンと降ろした。
「俺たちが何でここにいるかわかるね?」
怖がらせないようにできるだけやさしい口調で問いかける。
目の前の幼女はこくりと頷く。
「じゃあ盗ったものを返してくれるかい?」
そう言いながら彼女に手を差し出し奪った金袋を返すよう促した。
だが大和の手に返されたのは2枚の銀貨だけだった。
「これは?」
「ごめんなさいっ!!」
謝罪の言葉と共に深く頭を下げる彼女
状況が理解できなかったため詳しく事情を聴いた。
彼女が言うには自分はこの町を縄張りとするスリ集団の一員で
大和から奪った金袋をお頭に届け分け前を貰おうとしたが
顔を殴られた挙句分け前としてもらったのが今彼の手に乗っている銀貨2枚だけだったという。
「「「「・・・・・・」」」」
四人とも彼女が抱える身の上に言葉も出ない様子だ。
しばらく5人の間に沈黙が続いた。
頭を下げながら事の顛末を全て話した女の子は
相手が沈黙を貫いているのを不思議に思ったのかおずおずと頭を上げ様子を窺う。
「あのぅ~?」
大和たちの反応に訝しげな表情を浮かべながら問いかけてくる。
次の瞬間4人の叫ぶ言葉が同じ言葉となって木霊した。
「「「「ゆるさーーーーーーん!!!」」」」
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