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第34話:ヴィクトリアを失いたくない~ディーノ視点~

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翌日、シーディス侯爵と夫人が登城したとの知らせが入った。急いで侯爵が待つ部屋へと向かうと、既に僕の両親と侯爵が話をしていた様だ。

「シーディス侯爵、夫人、この度はヴィクトリアの食事に毒が盛られるという失態を犯してしまい、申し訳ございませんでした」

侯爵に深々と頭を下げた。王宮で提供された食事に毒が盛られるだなんて、あってはならない事なのだ。

「殿下、頭をお上げください。ヴィクトリアのスープに毒が盛られていたというのは、本当になのですね…」

「はい、本当です。毒はテリオの葉でした」

「テリオだって!その様な恐ろしい毒が、ヴィクトリアの食事に…」

真っ青な顔で俯く侯爵。夫人もフラフラと侯爵にもたれかかっている。

「シーディス侯爵、母上の話ではヴィクトリアはスープの口に含もうとした瞬間、スプーンを置いたとの事です。テリオの毒は無味で、臭いもほとんどありません。それなのにヴィクトリアは、臭いを嗅いだだけで気が付いた様なのです。もしかしてヴィクトリアは、毒について特殊な勉強を行っていたのでしょうか?薬にも詳しい様ですし」

昨日僕の為に作ってくれた薬の事もある。あんな特効薬を作れるだなんて、一体どんな訓練を受けて来たのだろう…

「申し訳ございません、ずっと娘は領地で生活をしておりましたので。専属メイドの話では、体の弱かった娘がよく薬草などの研究をしていたとは申しておりましたが、まさか毒の知識まで身に付けていただなんて…と驚いておりました。本当にあの子は、どこでそんな知識を身に着けたのか…親の私も驚かされるばかりで…」

確かシーディス侯爵は、ヴィクトリアが領地で乗馬や剣の稽古を行っていた事すら知らなかったと言っていたな。きっとメイドにも隠れて色々と勉強をしていたのだろう。

「殿下、あの…ヴィクトリアは親の私ですら理解できない程、知識が豊富で非常に頭の回転が速い娘です。ただ、まだ13歳。今回は運よく毒に気が付いて事なきを得た様ですが、これからずっと命を狙われ続けると思うと…私は娘には平穏に暮らして欲しいのです。ですからどうかお妃候補の辞退をお願いいたします」

やはり侯爵はそう言って来たか。シーディス侯爵は争いごとを嫌う人物。自分の出世よりも平穏な日々を望むのだろう。ただ僕は、ヴィクトリアを諦めるつもりはない。

「シーディス侯爵、申し訳ないが辞退は受ける事が出来ない。僕はもう、ヴィクトリアなしでは生きていけないくらい彼女を愛してしまったのだから。既に犯人の目星は付いておりますし、ヴィクトリアがお妃に内定するまでには、決着をつけるつもりです。ですので、ご辞退はどうかお考え直し下さい」

侯爵に深々と頭を下げた。

「殿下、頭をお上げください。分かりました、ヴィクトリアはこのまま…」

「あなた!殿下、本当に申し訳ございませんが、娘は今日連れて帰ります。あの子は確かに非常に頭の回転も速く、母親の私も長年欺き続けられておりました。それでもまだ、私にとっては13歳の幼い娘なのです。きっと毒を盛られて、どれほど怖い思いをしたか。昨日も恐怖で寝られなかった事でしょう。たとえ国家反逆罪で投獄されようとも、私は娘を守りますわ」

夫人が泣きながら訴えて来たのだ。これは困ったぞ。ここまで言われては、お妃候補に留まって欲しいなんて言いづらい。でも…

「夫人のお気持ちはよく分かりました。それではヴィクトリアちゃんに話しを聞いてみましょう。今すぐヴィクトリアちゃんを呼んでくれるかしら?」

「母上!」

母上の提案に声を上げる。ヴィクトリアを呼んでこの話しをしたら、両手を上げて大喜びし、さっさと帰ってしまうに決まっている。それなのに母上は何を考えているのだろう。もしかして母上は、僕からヴィクトリアを奪おうとしているのか?

ギロリと母上を睨んだが、涼しい顔であちらを向いてしまった。

嫌だ…僕はヴィクトリアを失いたくはない。ヴィクトリアを失うくらいなら、いっそ…

「王妃殿下、ヴィクトリア様を連れて参りました」

ヴィクトリアがやって来たのだ。僕はヴィクトリアを失うかもしれない恐怖から、体が震えのを必死に堪える。

「お父様、お母様も一体どうされたのですか?」

「ヴィクトリア、あなた毒を盛られたのですってね。可哀そうに、さぞ怖かった事でしょう。お母様が悪かったわ。さあ、お家に帰りましょう。あなたが命の危険に晒されていると知って、王宮には置いておけないわ」

コテンと首を傾げているヴィクトリアに、夫人が抱き付き訴えている。まずい、このままヴィクトリアが王宮から去ってしまう!何とかしないと。
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