11 / 32
11 デメルフリード
しおりを挟む
デメルフリード視点
──俺という人間は本当に生きている価値がない。
入学式のあの日、ピンク女がモラーハルトに魅了の魔法を掛けていた。
マリアンヌを泣かせるなら容赦はしないと、マリアンヌを守ってやると、そう思ったはずだった。
それなのに、俺がやっていることはまるで正反対だ。
マリアンヌに馴れ馴れしく近付き、頻りに話しかけている見目の良い生徒たちに嫉妬した。
マリアンヌの名を呼ぼうとする者の口を塞ぎ、肩に触れようとする者の手を弾く。
皆、不思議そうに首を捻りながらもマリアンヌの側から去っていく。
ピンク女はそんな生徒達に次々と魅了魔法を掛けて落としていった。
愚弟と二人してマリアンヌの事を悪し様に語り、どんどんと孤立していくマリアンヌ。
俺はそんなマリアンヌを見て‥‥
歓喜に震えた。
そうだ、それでいい。
誰も、誰も、マリアンヌに近付くな。
マリアンヌをその目に映すな。
マリアンヌの美しい瞳にお前達が映ることは許さない。
彼女を見つめるのは、俺だけだ。
そんな感情に、腹の底から喜びが溢れてくる。
たとえ君の瞳に俺の姿が映ることはなくても。
その身に触れることが出来なくても。
姿を隠して君を見つめて、心の中で愛を囁く。
どす黒い嫉妬と独占欲が、俺を支配する。
俺は歪んでいる。
狂っている。
✳✳✳✳
愚弟とピンク女が口づけをかわしていたらしい。
マリアンヌを傷つけると解っていて、いや、わざと傷つけてやろうと学園の裏庭という衆人の目がある中で口付けたのだろう。
『あら、まぁ、下位貴族の令嬢と不埒に戯れるなんて殿下も困った方ですわね。ドブール男爵令嬢も簡単に殿方に唇を許すなど‥‥いったいどういう貞操観念をお持ちなのかしら‥‥』
マリアンヌはモラーハルトの事など1ミリも愛していない。
その証拠に、眉ひとつ動かさぬ淡々とした物言いと態度。
マリアンヌにとって愚弟はただの政略結婚のために国から命じられた婚約者。
あんな馬鹿で性格の悪い男をマリアンヌが愛するはずがないんだ。
そう思っていたのに‥‥‥‥
マリアンヌはチャイムが鳴っても、誰もいなくなった廊下に一人ポツンと佇んでいた。
その美しいかんばせを誰にも見られぬように深く俯き、まろい肩を小刻みに震わせている。
マリアンヌが‥‥泣いている。
あんな馬鹿な弟を想い、傷付いている。
ああ、マリアンヌ。
まさか君は本当はモラーハルトの事を愛しているのか‥‥?
駄目だ!許さない!!!
君があんな男を愛するなんて絶対に許さない!!!
モラーハルトを今すぐに殺してやりたい衝動に駆られながらも、マリアンヌの震える肩から目がそらせない。
ああ、お願いだ。
頼むから、あんな男の為に泣かないでくれ‥‥
俺は、彼女の周りを暖かい春の空気で包み込んだ。
マリアンヌの肩の震えが治まり、俯いていた顔を上げた。
その目に涙のあとは無く、ただ気持ちよさそうに目を細め、俺が作り出した春の空気を感じている。
俺は思わず彼女に向かって手を伸ばした。
何故、彼女の髪に触れてしまったのか。
分からない。
無意識だった。
鮮やかな黄緑色の、しっとりと吸い付くように柔らかい髪に触れた瞬間。
手のひらに甘い痺れが走って我に返った。
やってしまった!
彼女に触れてしまった!!
覗き見する変態から、ストーカーに。
そして今、俺は痴漢魔に成り下がった!!
逃げるように王城の自室に転移してそのドアに鍵を掛けた。
この部屋に誰かが訪ねて来たことなど一度も無いのに。
ベッドの端に腰掛けて、震えの止まらない自分の手のひらを見つめた。
しっとり柔らかな感触と、甘い痺れがよみがえる。
その手を顔前にかざし、すうっと匂いを嗅いでみた。
優しい香りが俺の鼻孔をくすぐる。
マリアンヌの、香り。
ああああ、マリアンヌ、マリアンヌ、マリアンヌ!!
俺は夢中でその香りを吸い込みながら、己の劣情を吐き出した。
もう、駄目だ。
俺は君に触れたい。
その髪に、手に、肩に、背中に、頬に、唇に。
そして柔らかい躰を掻き抱き、俺の腕の中に閉じ込めてしまいたい。
俺は君を俺だけのものにしたい!!
欲望はもう、心の内にとどめることなど出来やしない。
目を瞑ると、あられも無い姿の君が俺を誘うような瞳で見つめている。
その夜俺は夢の中で、何度も何度もマリアンヌを穢した。
──俺という人間は本当に生きている価値がない。
入学式のあの日、ピンク女がモラーハルトに魅了の魔法を掛けていた。
マリアンヌを泣かせるなら容赦はしないと、マリアンヌを守ってやると、そう思ったはずだった。
それなのに、俺がやっていることはまるで正反対だ。
マリアンヌに馴れ馴れしく近付き、頻りに話しかけている見目の良い生徒たちに嫉妬した。
マリアンヌの名を呼ぼうとする者の口を塞ぎ、肩に触れようとする者の手を弾く。
皆、不思議そうに首を捻りながらもマリアンヌの側から去っていく。
ピンク女はそんな生徒達に次々と魅了魔法を掛けて落としていった。
愚弟と二人してマリアンヌの事を悪し様に語り、どんどんと孤立していくマリアンヌ。
俺はそんなマリアンヌを見て‥‥
歓喜に震えた。
そうだ、それでいい。
誰も、誰も、マリアンヌに近付くな。
マリアンヌをその目に映すな。
マリアンヌの美しい瞳にお前達が映ることは許さない。
彼女を見つめるのは、俺だけだ。
そんな感情に、腹の底から喜びが溢れてくる。
たとえ君の瞳に俺の姿が映ることはなくても。
その身に触れることが出来なくても。
姿を隠して君を見つめて、心の中で愛を囁く。
どす黒い嫉妬と独占欲が、俺を支配する。
俺は歪んでいる。
狂っている。
✳✳✳✳
愚弟とピンク女が口づけをかわしていたらしい。
マリアンヌを傷つけると解っていて、いや、わざと傷つけてやろうと学園の裏庭という衆人の目がある中で口付けたのだろう。
『あら、まぁ、下位貴族の令嬢と不埒に戯れるなんて殿下も困った方ですわね。ドブール男爵令嬢も簡単に殿方に唇を許すなど‥‥いったいどういう貞操観念をお持ちなのかしら‥‥』
マリアンヌはモラーハルトの事など1ミリも愛していない。
その証拠に、眉ひとつ動かさぬ淡々とした物言いと態度。
マリアンヌにとって愚弟はただの政略結婚のために国から命じられた婚約者。
あんな馬鹿で性格の悪い男をマリアンヌが愛するはずがないんだ。
そう思っていたのに‥‥‥‥
マリアンヌはチャイムが鳴っても、誰もいなくなった廊下に一人ポツンと佇んでいた。
その美しいかんばせを誰にも見られぬように深く俯き、まろい肩を小刻みに震わせている。
マリアンヌが‥‥泣いている。
あんな馬鹿な弟を想い、傷付いている。
ああ、マリアンヌ。
まさか君は本当はモラーハルトの事を愛しているのか‥‥?
駄目だ!許さない!!!
君があんな男を愛するなんて絶対に許さない!!!
モラーハルトを今すぐに殺してやりたい衝動に駆られながらも、マリアンヌの震える肩から目がそらせない。
ああ、お願いだ。
頼むから、あんな男の為に泣かないでくれ‥‥
俺は、彼女の周りを暖かい春の空気で包み込んだ。
マリアンヌの肩の震えが治まり、俯いていた顔を上げた。
その目に涙のあとは無く、ただ気持ちよさそうに目を細め、俺が作り出した春の空気を感じている。
俺は思わず彼女に向かって手を伸ばした。
何故、彼女の髪に触れてしまったのか。
分からない。
無意識だった。
鮮やかな黄緑色の、しっとりと吸い付くように柔らかい髪に触れた瞬間。
手のひらに甘い痺れが走って我に返った。
やってしまった!
彼女に触れてしまった!!
覗き見する変態から、ストーカーに。
そして今、俺は痴漢魔に成り下がった!!
逃げるように王城の自室に転移してそのドアに鍵を掛けた。
この部屋に誰かが訪ねて来たことなど一度も無いのに。
ベッドの端に腰掛けて、震えの止まらない自分の手のひらを見つめた。
しっとり柔らかな感触と、甘い痺れがよみがえる。
その手を顔前にかざし、すうっと匂いを嗅いでみた。
優しい香りが俺の鼻孔をくすぐる。
マリアンヌの、香り。
ああああ、マリアンヌ、マリアンヌ、マリアンヌ!!
俺は夢中でその香りを吸い込みながら、己の劣情を吐き出した。
もう、駄目だ。
俺は君に触れたい。
その髪に、手に、肩に、背中に、頬に、唇に。
そして柔らかい躰を掻き抱き、俺の腕の中に閉じ込めてしまいたい。
俺は君を俺だけのものにしたい!!
欲望はもう、心の内にとどめることなど出来やしない。
目を瞑ると、あられも無い姿の君が俺を誘うような瞳で見つめている。
その夜俺は夢の中で、何度も何度もマリアンヌを穢した。
141
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?
夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。
けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。
思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。
──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……?
※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
『推しに転生したら、攻略対象が全員ヤンデレ化した件』
春夜夢
ファンタジー
「推しキャラが死ぬバッドエンドなんて認めない──だったら、私が推しになる!」
ゲーム好き女子高生の私が転生したのは、乙女ゲームの中の“推しキャラ”本人だった!
しかも、攻略対象たちがみんなルート無視で私に執着しはじめて……!?
「君が他の男を見るなんて、耐えられない」
「俺だけを見てくれなきゃ、壊れちゃうよ?」
推しキャラ(自分)への愛が暴走する、
ヤンデレ王子・俺様騎士・病み系幼なじみとの、危険すぎる恋愛バトルが今、始まる──!
👧主人公紹介
望月 ひより(もちづき ひより) / 転生後:ヒロイン「シエル=フェリシア」
・現代ではゲームオタクな平凡女子高生
・推しキャラの「シエル」に転生
・記憶保持型の転生で、攻略対象全員のヤンデレ化ルートを熟知している
・ただし、“自分が推される側”になることは想定外で、超戸惑い中
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!
エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。
間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる