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16 デメルフリード
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デメルフリード視点
マリアンヌ・ガセット!僕は本日この時を持って貴様との婚約を破棄する!」
モラーハルトがマリアンヌに向かって叫んだ。
こ、婚約破棄だと!?
ピンク女がモラーハルトの腕にぶら下がってマリアンヌに気持ちの悪い笑みを向けている。
こいつらは‥‥
いったい何処までマリアンヌを傷つければ気が済むんだ!!
「僕はこのミリヨンを新しい婚約者として迎えることとなった。このことは国王であらせられる父上も同意して下さっている!」
「いかにも。マリアンヌのような才と美貌をひけらかすだけの悪女を未来の王妃にするわけにはいかぬからな!」
父は目を細めてミリヨンを見つめ、更に続ける。
「そんなマリアンヌに比べ、ミリヨンは見目も心も身体もまるで聖女のように清廉で美しい」
ミリヨンがうっとりとした表情で父を見つめ返す。
そしてパチパチと瞬きをした。
これは‥‥魅了魔法の重ね掛け‥‥?
ああ、何ということだ。
国王までもがこの女の魅了魔法に掛かっているのか!
「皆の者!世はここに宣言する!モラーハルトとマリアンヌの婚約は破棄!そしてミリヨンを新たにモラーハルトの婚約者とする事を!」
父が玉座から立ち上がり、右手を挙げて宣言した。
壇下に立つ者たちが、満面の笑顔でこれでもかと力強く拍手する。
このピンク女!!
愚弟と父だけでなく、この場にいる全ての者に魅了魔法を掛けている!!
「そしてデメルフリードには王位継承権剥奪、王家からの除籍の上、マリアンヌとの婚姻を命ずる!!」
なっ!!
俺とマリアンヌの婚姻だと?!
何を言っている!!!
それではマリアンヌがあまりにも可愛そうではないか!!
ここにいる誰一人、マリアンヌの味方をする者は居ないのか!!
この国の中枢たる者たちが、揃いも揃ってミリヨンの単純な魅了魔法に掛かるなど!
屈強な護衛騎士が俺を突き飛ばし、マリアンヌの隣に並ばせた。
父が俺達に向かって婚姻誓約書を投げつける。
「ほら、早くサインしろよ、マリアンヌ」
モラーハルトがいやらしい笑みを隠す事もせずに急かす。
「何をしておる、早うサインをせぬか」
父が脅すような低い声で命令する。
周りの者は皆、ニヤニヤと卑下た笑みを浮かべて台の前に立つ俺達を見ている。
「ほらぁ、何してるのぉ?二人とも早くサインしてくれなきゃ、この下らない会議はいつまで経っても終わりませんよぉ?それともマリアンヌさん、舌を噛んで自害しますぅ?」
舌を噛んで自害‥‥だと?
ああ、これはあの時のマリアンヌのセリフに対する意趣返しか。
モラーハルトもこのピンク女も何故そこまでしてマリアンヌを傷つけたい?
マリアンヌがお前達に何をしたというのだ!!
隣のマリアンヌに目を移すと、その顔を俯かせ、まろい背中を小さく震わせている。
許さない‥‥
マリアンヌを傷つけ、その人生を壊そうとするこいつらを俺は誰一人許さない!
己の背の裏で右手の人差し指を立てた。
全て壊してやる。
全て殺してやる。
マリアンヌを傷つける全てをぶっ壊してやる!!
バチバチと、指先に負の魔力が集まったその瞬間。
マリアンヌの柔らかい手が俺の人差し指を優しく掴み、誰にも見られぬようにふんわりとしたドレスの陰に隠した。
俺の指先に集められた魔力が霧のように消えていく。
何故止める?!
何故!!
「大丈夫です」
俯いたままのマリアンヌが、耳を澄まさなければ聞こえぬほどの小さな声で呟いた。
そして俺の人差し指をギュッと強く握りしめる。
俺の人差し指から体中に、脳みそにまで強烈な甘い痺れが走り抜けた。
マリアンヌはゆっくりとその手を離し、ペンを持つ。
そして‥‥美しい文字で婚姻誓約書にサインをした。
あ‥‥あ‥あああああああああああああああ!!!!!!
マリアンヌ!!!
君は良いのか!
君はこんなにも醜悪で、歪み、狂った愛し方しか出来ない俺の妻になるというのか!!
そうだ。
全てを壊そうとした俺を止めたのは君だ。
俺の妻になると決めたのは君だ!
俺はもう君を離してやれない。
たとえ君が、心の底ではモラーハルトの愛を求めているのだとしても。
歪んだ、狂った愛で、君を永遠に縛り付けてやる!!
マリアンヌのサインの横に書いた俺のサインは酷く歪んでいて、それはまるで俺自身をそのまま文字にしたようだった。
「今此処にデメルフリードとマリアンヌの婚姻が成立した!!」
モラーハルトの大声が広い謁見室に響き渡る。
「デメルフリード、貴様はサムーイ地方へ追放だ!!これは王命である。何人たりとも覆すことはできぬ。分かったら今すぐにマリアンヌと共にサムーイ地方へ立て!」
そうしてそのまま俺とマリアンヌは、今にも壊れそうなボロ馬車へと押し込まれた。
御者のかけ声と共に馬車が走り出す。
ああ、マリアンヌ、君はもう引き返せない。
泣こうが喚こうが、その命が尽きるまで君は俺の腕の中だ。
ほの暗い、けれど天にまで突き上がりそうな喜びが湧き上がる。
俺ももう引き返せない。
君の全てを俺のものに出来るなら、俺は地獄に落ちても構わない。
ゴーン ゴーン ゴーン
王城の大きな時計台から正午を告げる鐘が鳴り響いた。
マリアンヌ・ガセット!僕は本日この時を持って貴様との婚約を破棄する!」
モラーハルトがマリアンヌに向かって叫んだ。
こ、婚約破棄だと!?
ピンク女がモラーハルトの腕にぶら下がってマリアンヌに気持ちの悪い笑みを向けている。
こいつらは‥‥
いったい何処までマリアンヌを傷つければ気が済むんだ!!
「僕はこのミリヨンを新しい婚約者として迎えることとなった。このことは国王であらせられる父上も同意して下さっている!」
「いかにも。マリアンヌのような才と美貌をひけらかすだけの悪女を未来の王妃にするわけにはいかぬからな!」
父は目を細めてミリヨンを見つめ、更に続ける。
「そんなマリアンヌに比べ、ミリヨンは見目も心も身体もまるで聖女のように清廉で美しい」
ミリヨンがうっとりとした表情で父を見つめ返す。
そしてパチパチと瞬きをした。
これは‥‥魅了魔法の重ね掛け‥‥?
ああ、何ということだ。
国王までもがこの女の魅了魔法に掛かっているのか!
「皆の者!世はここに宣言する!モラーハルトとマリアンヌの婚約は破棄!そしてミリヨンを新たにモラーハルトの婚約者とする事を!」
父が玉座から立ち上がり、右手を挙げて宣言した。
壇下に立つ者たちが、満面の笑顔でこれでもかと力強く拍手する。
このピンク女!!
愚弟と父だけでなく、この場にいる全ての者に魅了魔法を掛けている!!
「そしてデメルフリードには王位継承権剥奪、王家からの除籍の上、マリアンヌとの婚姻を命ずる!!」
なっ!!
俺とマリアンヌの婚姻だと?!
何を言っている!!!
それではマリアンヌがあまりにも可愛そうではないか!!
ここにいる誰一人、マリアンヌの味方をする者は居ないのか!!
この国の中枢たる者たちが、揃いも揃ってミリヨンの単純な魅了魔法に掛かるなど!
屈強な護衛騎士が俺を突き飛ばし、マリアンヌの隣に並ばせた。
父が俺達に向かって婚姻誓約書を投げつける。
「ほら、早くサインしろよ、マリアンヌ」
モラーハルトがいやらしい笑みを隠す事もせずに急かす。
「何をしておる、早うサインをせぬか」
父が脅すような低い声で命令する。
周りの者は皆、ニヤニヤと卑下た笑みを浮かべて台の前に立つ俺達を見ている。
「ほらぁ、何してるのぉ?二人とも早くサインしてくれなきゃ、この下らない会議はいつまで経っても終わりませんよぉ?それともマリアンヌさん、舌を噛んで自害しますぅ?」
舌を噛んで自害‥‥だと?
ああ、これはあの時のマリアンヌのセリフに対する意趣返しか。
モラーハルトもこのピンク女も何故そこまでしてマリアンヌを傷つけたい?
マリアンヌがお前達に何をしたというのだ!!
隣のマリアンヌに目を移すと、その顔を俯かせ、まろい背中を小さく震わせている。
許さない‥‥
マリアンヌを傷つけ、その人生を壊そうとするこいつらを俺は誰一人許さない!
己の背の裏で右手の人差し指を立てた。
全て壊してやる。
全て殺してやる。
マリアンヌを傷つける全てをぶっ壊してやる!!
バチバチと、指先に負の魔力が集まったその瞬間。
マリアンヌの柔らかい手が俺の人差し指を優しく掴み、誰にも見られぬようにふんわりとしたドレスの陰に隠した。
俺の指先に集められた魔力が霧のように消えていく。
何故止める?!
何故!!
「大丈夫です」
俯いたままのマリアンヌが、耳を澄まさなければ聞こえぬほどの小さな声で呟いた。
そして俺の人差し指をギュッと強く握りしめる。
俺の人差し指から体中に、脳みそにまで強烈な甘い痺れが走り抜けた。
マリアンヌはゆっくりとその手を離し、ペンを持つ。
そして‥‥美しい文字で婚姻誓約書にサインをした。
あ‥‥あ‥あああああああああああああああ!!!!!!
マリアンヌ!!!
君は良いのか!
君はこんなにも醜悪で、歪み、狂った愛し方しか出来ない俺の妻になるというのか!!
そうだ。
全てを壊そうとした俺を止めたのは君だ。
俺の妻になると決めたのは君だ!
俺はもう君を離してやれない。
たとえ君が、心の底ではモラーハルトの愛を求めているのだとしても。
歪んだ、狂った愛で、君を永遠に縛り付けてやる!!
マリアンヌのサインの横に書いた俺のサインは酷く歪んでいて、それはまるで俺自身をそのまま文字にしたようだった。
「今此処にデメルフリードとマリアンヌの婚姻が成立した!!」
モラーハルトの大声が広い謁見室に響き渡る。
「デメルフリード、貴様はサムーイ地方へ追放だ!!これは王命である。何人たりとも覆すことはできぬ。分かったら今すぐにマリアンヌと共にサムーイ地方へ立て!」
そうしてそのまま俺とマリアンヌは、今にも壊れそうなボロ馬車へと押し込まれた。
御者のかけ声と共に馬車が走り出す。
ああ、マリアンヌ、君はもう引き返せない。
泣こうが喚こうが、その命が尽きるまで君は俺の腕の中だ。
ほの暗い、けれど天にまで突き上がりそうな喜びが湧き上がる。
俺ももう引き返せない。
君の全てを俺のものに出来るなら、俺は地獄に落ちても構わない。
ゴーン ゴーン ゴーン
王城の大きな時計台から正午を告げる鐘が鳴り響いた。
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