クソゲーで美醜逆転の世界に転生ですか?!イケメン(化け物)はお断り!何としても醜男(超絶イケメン)と結ばれてみせます!

むぎてん

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22 デメルフリード

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デメルフリード視点



一瞬で着いたサムーイ地方の邸前。
そこは当然ながら極寒だった。

マリアンヌの歯と歯が噛み合わずガチガチと音を立て、青白い顔で己の肩を抱いている。

マズい!
マリアンヌが凍ってしまう!!

俺は慌てて邸の敷地を覆うように結界を張り、その中を暖かい春の空気で満たした。

「す、すごい!一瞬で着いたと思ったら今度は一瞬で暖かくなりましたわ!!」

胸の前で両手を組んで嬉しそうに笑うマリアンヌ。
その微笑みが俺に向いていることが嬉しくて堪らない。




周りを見渡すと、茶色く乾いた剥き出しの土。
草の一本も生えてはいない。

敷地内の庭であろうそこには、赤黒く錆びたアーチの残骸に、傾いたフェンス。
ポツンと置かれたベンチ型のブランコがもの寂しさを漂わせている。

ん?ブランコ?

一歩外に出れば一瞬で凍り付いてしまうほどの極寒の地。
そんな庭にブランコ?

ああ‥‥もしかしたら此処はかつて、色とりどりの花々が咲き乱れる庭園だった?

ではいったいいつからこんな極寒の地となったのだろう。

いや、此処は王都から遠く北にある最北端。
暖かい時代などありはしない。

それならば、この邸にはかなりの魔力を持つ者が住んでいた?
俺と同じように此処を春の空気で満たし、愛する者とブランコに揺られながら美しい花々を愛でていた?




そんなことを考えながら邸に目を向けると、そこは酷い有様だ。
外壁は崩れ落ち、屋根は所々落ちくぼみ、殆どの窓ガラスは無残に割れている。

床に散らばるガラスを踏まないように気を付けながら中に入る。
勿論マリアンヌは俺が抱き上げて。

マリアンヌはこんな酷い邸を宛がわれたと言うのに、それはもう嬉しそうにニコニコしている。

「ふわぁぁ!憧れのデメルフリード様のお姫様抱っこ!!幸せぇぇ‥‥」

なんて、耳元で可愛いセリフを吐いて俺の心臓を甘く痺れさせる。



そんな甘い気持ちも蹴散らすほどに、邸の中もまた酷く荒れていた。
破れた壁紙、外れて傾いた扉、めくれ上がった床板。
たわんだ天井からは埃まみれのシャンデリアがぶら下がっている。
その姿はまるで、落ちて堪るかと必死にしがみ付いているかのようだ。


俺は人差し指に魔力を集め
「修復」
パチンと指を鳴らす。

ボロボロだった邸内が見る間に修復されて、新築同様に生まれ変わる。

そして再び外に出て、外壁や屋根の外装にも修復魔法を掛けた。
ついでに錆びだらけのアーチとブランコにも。

驚きに目を見開き、パチパチと瞬きを繰り返すマリアンヌ。
可愛らしい瞬きはピンク女の汚らしい瞬きとは違う。
俺の体はその美しい瞳に吸い込まれてしまいそうだ。



この庭に花を植えよう。
沢山の花に囲まれて嬉しそうに笑う君と手を繋いで歩いてみたい。

たったの数時間前までは想像することすら許されなかった光景が、今ははっきりと見える。

色とりどりの花に囲まれて、微笑み合って歩く君と俺の姿。


「マリアンヌ、君は俺を幸せにすると言ってくれた。だが、俺はそれ以上に君を幸せにしてみせる」

「は、はい!一緒に幸せになりましょう!」

俺の腰に手を回し抱きつくマリアンヌ。

そしてマリアンヌの後ろに控えるファスグリーとフルールが、目をうるうるさせて抱き合う俺達を見ている。


ああ、この世に四人だけ。
俺とマリアンヌとその腹心の二人。

他には誰も要らない。

俺を憎んでいる父も、蔑む弟も、必死で目をそらすその他大勢も。

俺達しかいないこの極寒の暖かい地で、俺とマリアンヌはその命が尽きるまで愛し合って生きていく。

目も眩むような幸せが俺を優しく包んで溶かしてしまう。



「さて、次はわたくしの番ですわね!!」

マリアンヌが弾むような声で言って両手をパチンと合わせると、そこに現れたのは空間保存庫。

中から大きめのガーデンテーブルと四脚のチェアを取りだし、それをファスグリーが手際よく配置していく。

それから湯気の立つ紅茶のポットに美しい柄のカップとソーサー。
そして美しい模様が描かれたクッキー。

それを今度はフルールが流れるような動きでテーブルに並べていく。

「お昼抜きだったもの。みんなお腹が空きましたでしょ、取り敢えずお茶にしましょう?」

マリアンヌの可愛らしいウインクと共に、突如始まった庭でのお茶会。



この6年間、ずっと君とモラーハルトの茶会を見てきた。

罵詈雑言を浴びながらも貼り付けた笑みを浮かべ、静かにお茶を飲む君を。

愚弟が座るその席が俺のものであったなら、君にこんな顔をさせたりしないのに。

悔しさに歯噛みをしながら、ただ見ていることしか出来なかった。



今、君の目の前に座るのはこの俺だ。



あの頃とは違う、君の楽しそうな声と眩しい笑顔。
それが今、この俺に向けられている。



ああ、花々が舞う。
 


俺の目は、この閑散とした寂しい庭に色とりどりの花が舞い乱れる幻を見た。

そうか。
俺は君と一緒ならどんな場所でも花を見れるのだな。

そんな幸せな思い付きに、また涙が零れそうになるのを必死で留めた。
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