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30 デメルフリード
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デメルフリード視点
マリアンヌを強く抱きしめて転移したのは邸の寝室。
「俺は父上と話をして来る。マリアンヌはここで待っていてくれ。何があっても絶対にこの部屋から出たら駄目だ」
マリアンヌの両肩に置いた俺の手は、カタカタと震えている。
しっかりしろ!!
震えている場合ではないだろう!
俺はマリアンヌを守らなければならないのだ!
「いえ、わたくしも一緒に行きますわ」
「な、何を言っている?!!駄目だ!!君に何かあったら俺は生きていけない。お願いだ、頼むからここにいてくれ!!!」
「いいえ、わたくしも行きます。行くと言ったら行くのです」
「お嬢さま、我々も援護いたします。参りましょう」
「ファスグリー!!余計なことを言うな!!」
ファスグリーに声を荒げる俺に、フルールが口を挟む。
「デメルフリード様、もしも貴方様に何かあれば、お嬢さまもまた生きていくことは不可能です。それならせめて、『その時』はご一緒に‥‥もちろん、わたしと兄もお供いたします」
「フ、フルール‥‥」
ああ、確かにフルールの言う通りだ。
相手はあの父なのだ。
きっと俺を殺す方法も分かっているに違いない。
俺が死ねば‥‥残されたマリアンヌはどうなる?
この極寒の地に捨て置かれれば、直ぐさま凍え死ぬだろう。
連れ戻されれば大勢の者に慰み者にされるかもしれない。
心を決めた。
「マリアンヌ、死ぬときは一緒だ」
マリアンヌの体を固く抱きしめて、耳元で囁いた。
そんな俺にマリアンヌは
「は?わたくし、死ぬつもりなど毛頭ございませんわよ?勿論貴方も死なせたりしませんわ」
そう言ってニコリと微笑む。
俺は己の頬をバチンと叩いて大きく息を吐いた。
大丈夫だ。
俺はマリアンヌとの幸せの為なら何でもする。
たとえ、母に次いで父の命まで奪うことになろうとも‥‥‥
父は、邸のエントランスに一人俯いて立っていた。
「ち、父上!」
エントランスに響いた俺の硬い声に、ビクリと肩を跳ねさせ、恐る恐るというように顔を上げた父が
「デメルフリード‥‥」
と、小さく呟く。
すると、マリアンヌが父の前に進み出て、見る者すべてを圧倒するような美しいカーテシーをした。
「陛下、このような北の最果ての地に共の者も連れずにお一人で、いったい何をしにいらしたのですか?」
美しいカーテシーに相反し、一国の王に対して無礼な挨拶をするマリアンヌ。
しかし、父は腹を立てるどころかその顔をクシャリと歪めた。
まるで泣くのを堪えているとでもいうような表情で。
「マ、マリアンヌ‥‥」
父がマリアンヌの名を呟いた瞬間、マリアンヌの鮮やかな黄緑色の髪がぶわりと逆立った。
そして、手に持っていた扇子を大きく振りかぶり
バチーーーーン!!!
父の横っ面を思い切り引っ叩いた。
「わたくしの大切なデメルフリード様を傷つけることは例え陛下であろうと許しませんことよ!!!お帰り下さい!とっととさっさと今すぐに!!ご自分の巣にお戻り下さいませ!!」
壁に掛かった絵画がガタガタ揺れて勢いよく落ち、美しい花を活けていた大きな花瓶は音を立てて割れた。
「マリアンヌ!落ち着け!!魔力枯渇を起こしてしまう!!」
俺は慌ててマリアンヌを後ろから抱きしめた。
しかしマリアンヌの暴走は止まらない。
両の拳を固く握りしめて大声で叫んだ。
「愛する夫を守るのは妻であるわたくしの役目!!!わたくしは貴方を幸せにすると誓いました!デメルフリード様!!!わたくしは何があろうとも貴方の幸せを守ってみせます!!わたくしたちはこの幸せを奪われない!!何からも!誰からも!!!」
マリアンヌの腹の底から突き上げるような力強い言葉が、まるで雷のように俺の体を突き抜けた。
ああ‥そうだなマリアンヌ!!
俺達は幸せを奪われない!
俺はここでマリアンヌと共にこの幸せを永遠に続けるんだ!!!
俺はマリアンヌの前に出て、父に向かって魔力を放出した。
「俺とマリアンヌの幸せを邪魔するというなら例え父上でも容赦はしない!!!帰って下さい!!死にたくなければ今すぐに帰れ!!!」
轟轟と地鳴りが響き、邸全体がガタガタと揺れる。
空気がビリビリと震え、キーーーーーンという超音波が鼓膜を塞ぐ。
もう、負けない。
俺は負けない。
誰にも負けない。
俺はずっと負けてきた。
他人に、己に。
全てを諦め、目を伏せて生きていた。
マリアンヌは俺と結ばれることを夢見て血の滲むほどの努力を重ねていたというのに、
俺はいつだってウジウジと自分の殻に閉じこもり、仄暗い想いで君を見つめていただけだった。
もうそんな自分はお仕舞いだ!!
「俺は強くなる!俺はマリアンヌを愛している!俺はマリアンヌに愛されている!
そしてマリアンヌを幸せにすると誓ったんだ!!!」
「う‥‥うおおおおぉぉぉおおぉぉーーーーデメルフリードおおおおぉぉ!!!!!」
父上が雄叫びを上げて俺の名を呼び、その場に膝を付いた。
そして、滝のような涙を流し、わんわんと泣いた。
マリアンヌを強く抱きしめて転移したのは邸の寝室。
「俺は父上と話をして来る。マリアンヌはここで待っていてくれ。何があっても絶対にこの部屋から出たら駄目だ」
マリアンヌの両肩に置いた俺の手は、カタカタと震えている。
しっかりしろ!!
震えている場合ではないだろう!
俺はマリアンヌを守らなければならないのだ!
「いえ、わたくしも一緒に行きますわ」
「な、何を言っている?!!駄目だ!!君に何かあったら俺は生きていけない。お願いだ、頼むからここにいてくれ!!!」
「いいえ、わたくしも行きます。行くと言ったら行くのです」
「お嬢さま、我々も援護いたします。参りましょう」
「ファスグリー!!余計なことを言うな!!」
ファスグリーに声を荒げる俺に、フルールが口を挟む。
「デメルフリード様、もしも貴方様に何かあれば、お嬢さまもまた生きていくことは不可能です。それならせめて、『その時』はご一緒に‥‥もちろん、わたしと兄もお供いたします」
「フ、フルール‥‥」
ああ、確かにフルールの言う通りだ。
相手はあの父なのだ。
きっと俺を殺す方法も分かっているに違いない。
俺が死ねば‥‥残されたマリアンヌはどうなる?
この極寒の地に捨て置かれれば、直ぐさま凍え死ぬだろう。
連れ戻されれば大勢の者に慰み者にされるかもしれない。
心を決めた。
「マリアンヌ、死ぬときは一緒だ」
マリアンヌの体を固く抱きしめて、耳元で囁いた。
そんな俺にマリアンヌは
「は?わたくし、死ぬつもりなど毛頭ございませんわよ?勿論貴方も死なせたりしませんわ」
そう言ってニコリと微笑む。
俺は己の頬をバチンと叩いて大きく息を吐いた。
大丈夫だ。
俺はマリアンヌとの幸せの為なら何でもする。
たとえ、母に次いで父の命まで奪うことになろうとも‥‥‥
父は、邸のエントランスに一人俯いて立っていた。
「ち、父上!」
エントランスに響いた俺の硬い声に、ビクリと肩を跳ねさせ、恐る恐るというように顔を上げた父が
「デメルフリード‥‥」
と、小さく呟く。
すると、マリアンヌが父の前に進み出て、見る者すべてを圧倒するような美しいカーテシーをした。
「陛下、このような北の最果ての地に共の者も連れずにお一人で、いったい何をしにいらしたのですか?」
美しいカーテシーに相反し、一国の王に対して無礼な挨拶をするマリアンヌ。
しかし、父は腹を立てるどころかその顔をクシャリと歪めた。
まるで泣くのを堪えているとでもいうような表情で。
「マ、マリアンヌ‥‥」
父がマリアンヌの名を呟いた瞬間、マリアンヌの鮮やかな黄緑色の髪がぶわりと逆立った。
そして、手に持っていた扇子を大きく振りかぶり
バチーーーーン!!!
父の横っ面を思い切り引っ叩いた。
「わたくしの大切なデメルフリード様を傷つけることは例え陛下であろうと許しませんことよ!!!お帰り下さい!とっととさっさと今すぐに!!ご自分の巣にお戻り下さいませ!!」
壁に掛かった絵画がガタガタ揺れて勢いよく落ち、美しい花を活けていた大きな花瓶は音を立てて割れた。
「マリアンヌ!落ち着け!!魔力枯渇を起こしてしまう!!」
俺は慌ててマリアンヌを後ろから抱きしめた。
しかしマリアンヌの暴走は止まらない。
両の拳を固く握りしめて大声で叫んだ。
「愛する夫を守るのは妻であるわたくしの役目!!!わたくしは貴方を幸せにすると誓いました!デメルフリード様!!!わたくしは何があろうとも貴方の幸せを守ってみせます!!わたくしたちはこの幸せを奪われない!!何からも!誰からも!!!」
マリアンヌの腹の底から突き上げるような力強い言葉が、まるで雷のように俺の体を突き抜けた。
ああ‥そうだなマリアンヌ!!
俺達は幸せを奪われない!
俺はここでマリアンヌと共にこの幸せを永遠に続けるんだ!!!
俺はマリアンヌの前に出て、父に向かって魔力を放出した。
「俺とマリアンヌの幸せを邪魔するというなら例え父上でも容赦はしない!!!帰って下さい!!死にたくなければ今すぐに帰れ!!!」
轟轟と地鳴りが響き、邸全体がガタガタと揺れる。
空気がビリビリと震え、キーーーーーンという超音波が鼓膜を塞ぐ。
もう、負けない。
俺は負けない。
誰にも負けない。
俺はずっと負けてきた。
他人に、己に。
全てを諦め、目を伏せて生きていた。
マリアンヌは俺と結ばれることを夢見て血の滲むほどの努力を重ねていたというのに、
俺はいつだってウジウジと自分の殻に閉じこもり、仄暗い想いで君を見つめていただけだった。
もうそんな自分はお仕舞いだ!!
「俺は強くなる!俺はマリアンヌを愛している!俺はマリアンヌに愛されている!
そしてマリアンヌを幸せにすると誓ったんだ!!!」
「う‥‥うおおおおぉぉぉおおぉぉーーーーデメルフリードおおおおぉぉ!!!!!」
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