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Chapter 3

02 反応

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 下着だけの姿になった途端に今までの百倍ぐらい恥ずかしくなる。部屋の照明は薄暗いけれど、既に目が慣れてしまっている。電気を消してほしい、なんて言うのも恥ずかしい。裸を恥かしいと思っていることが恥かしい。とにかく恥ずかしい。

 足首を捕まえられて、無意識にベッドの上を後ずさっていたことに気がつく。上から覆い被さられて、逃げ場がなくなる。ちょっと待って、まだ心の準備が整ってない。でももう僕には止められない。高い所までかたかたと登りきって、あとはもう勢いをつけて発進するしかないジェットコースターみたいに。

 耳たぶを唇で食まれて、つい「ふえ」と情けない声が出る。耳の外側をなぞるようにキスをされて、同時にわき腹を撫でられる。
 自分で触ってもなんともない場所なのに、人に触られたらこんな感覚がするんだ。頭の片隅でそんなことを考えながら、ぞくぞくと込み上げる感覚をどうにかやり過ごす。必死に声を押し殺して震えを抑えていたら、耳に軽く歯を立てられて、びくりと体が震えた。

「痛っ……!」
「ほんと、いい反応するよね」

 霧谷さんは心底楽しそうな声で囁いて、噛んだ跡を舐めた。ぬるりと肌の上をなぞる生々しい感触に、肌が粟立つ。僕の体の形を確かめるように優しく撫でながら、首筋や鎖骨の辺りにキスをする。時折ちくりと痛む程度に噛まれて、その跡を舐められる。恥ずかしい、だけじゃない。体の芯が熱くなる。心臓が破裂しそうだ。

 されるがままじゃなくて、僕もなにかしないと。ぎこちなく手を伸ばして、霧谷さんの背中に触れてみる。しっとりとした滑らかな肌。霧谷さんの真似をして、優しく撫でる。でも手が震えてしまう。

「もしかして、はじめて――だったりする?」
「いっ、いいえ! そんなことないです、慣れてます!」

 豪快に大口をたたいて即刻後悔する。なにを言ってるんだ僕は。正直に告白するチャンスだったんじゃないか今のは。意地なのか、見栄なのか。自分で自分の気持ちがわからない。

「ふうん。じゃあ、舐めてくれる?」

 舐める、とういのは、どこを。そう問う暇もなく、霧谷さんがボクサーショーツを脱いだのを見て、遅れて理解する。舐める、というのは、霧谷さんのを。
 顔がぶわりと熱くなる。でもうろたえたら嘘がばれてしまう。慣れてる。僕はこんなこと、全然平気だ。自分にそう言い聞かせながら体を起こして、霧谷さんの足の間に顔を近づけた。
 僕にだって、同じものがついているのに、間近に見ると怖い。いや同じといっても僕のはこんなに立派じゃないけれど。まだ完全に形を変えてはいないのに、それでも十分大きい。

 どうすればいいんだろう。雑誌やネットから得た、うすらぼんやりとした曖昧な知識を総動員する。舌で舐めたり、口で咥えたりしたらいいんだということはわかる。わかるけど。
 ためらっていても仕方ない。意を決して、先端にキスをする。何度かキスを繰り返してみると「焦らしてんの?」と、からかうような声が降ってきた。そんな余裕は一切ない。

 恐るおそる先端を口に含む。つるりとして、熱くて、他のなにとも比べられない不思議な感触。舌を這わせるとすぐに反応を示して、大きく形を変えていく。
 歯を立てないように、慎重に。喉の奥、ぎりぎりまで迎え入れる。それでも全部は咥えきれない。

「無理しなくていいよ」

 頭上から降る優しい声音とは裏腹に、霧谷さんの性器は存在感を増して僕の口の中を支配する。
 僕でも、霧谷さんを気持ちよくしてあげられるんだ。そう思うとなんだかほっとする。
 霧谷さんの気持ちがいいところって、どこだろう。感じる場所はきっと同じだ。一度口の中から出して、先端のえらの張った部分や、裏側を探るように舐める。また奥まで飲み込んで、唇で扱きながら顎を引く。少ししょっぱいような味と、石鹸と体臭がまざったような匂いがする。

 必死で舐めていると、霧谷さんの口から切なげな吐息が漏れはじめた。もう十分に大きいと思っていたのに、さらに硬く、張り詰めていく。咥えたまま、目だけで霧谷さんの顔を伺うと、とろけるような表情で僕を見ていた。

「上手だね……すごく気持ちいい」

 ご褒美みたいに髪を撫でられて、胸がぎゅっと苦しくなる。もっと、もっと気持ちよくなってほしい。

「ぐ、うっ、んん……っ!」

 口に意識を集中していたら、不意に喉の奥を軽く突かれて、えずいてしまう。霧谷さんは「ごめんね」と優しく囁いて、でも腰の動きは止めてくれなかった。髪を強めに掴まれて、少し痛い。まるで僕の口を性器に見立てているみたいに、喉の奥を突いてくる。

 乱暴にされて苦しいのに、なぜか腹が立たない。そういえば最初から、恥ずかしかったり怖かったりする気持ちはあったけれど、汚いとか気持ち悪いとか、嫌悪感なんて少しも沸かなかった。
 それどころか、嬉しい。乱暴にされても、痛くされても、霧谷さんが気持ちよくなってくれたら、僕は嬉しい。

 唇が。胸の底が。体中が熱い。ちゃんと息ができなくて、頭がくらくらする。でも止めてほしくなくて、僕の口の中をもっといっぱい使って欲しくて、霧谷さんの腰に縋るようにして抱きつく。徐々に勢いを増していく霧谷さんの動きに合わせて、舌を絡める。口の周りが唾液でぬるぬるに汚れていく。

「……っ、は……」

 霧谷さんが、切羽詰ったように息を漏らす。と同時に僕の口の中で霧谷さんのが膨れて、生温かい体液が弾けた。口いっぱいに放出された精液はむせるほど青臭くて、どろりと舌に絡みつく。
 僕の口の中から霧谷さんのが出て行く。こぼれそうになる精液を全部飲み干して、空気を吸い込む。時折咳き込みながらも呼吸を整えて、口元にこぼれたよだれを手の甲でぬぐう。水が欲しい。うがいしたい。でもそういうのって失礼なんだろうか。

「え……飲んじゃった?」

 顔を上げると、ティッシュの箱を差し出してくれていた霧谷さんが目を丸くしていた。

 ――ああああ! そうなんですか! 違うんですか普通は飲まないのですか!

 だってえっちな漫画で読んだことあったから、そういうものなんだなあと思ってしまって、というかそもそも漫画でそんなこと勉強しちゃだめなのか!

 内心で半ばパニックになっていたら、霧谷さんは僕のおでこにキスをしてくれた。

「すごいな……飲んでもらったのって初めてだ」

 驚きと感心が混ざったような声音に、嫌悪感がにじんでいなくて胸をなでおろす。
 でも、ほっとしていられたのは一瞬だった。
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