【完結】無愛想な辺境伯様、酒の席だけは距離が近いと思ったら溺愛ルートでした

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
2 / 5

第2話


「いや、余所者で知らなかったとはいえ、初対面のときは辺境伯に向かって失礼なことを……」

「半年も前のことをそんなに気にするのならば、これから先もこうして俺の晩酌に付き合ってくださいね」

「……それは果たして罪滅ぼしになるのか?」

「なるんですよ、特に俺の場合は」

 ニコニコと嬉しそうに、私をからかうような瞳で見つめてくる。

 それにしてもまさか『冷酷非情な辺境伯サマ』がただの酒好きとは、いったい誰が思うだろうか。私は隣の男をじっと見つめて、ため息を吐いた。


「ねぇ、レイ殿。お願いついでに、今日こそあの話を受けてくれないかな?」

「ウォーレスの副官になるって話なら、私には無理だと言ったじゃないか」

「そんなに教会警備の仕事が大事なのかい? でも昼間にキミの姿を見た者は居ないって聞くけどなぁ」

「うっ、それは……」

 痛いところを突かれ、私は気まずくなりながら空のコップに口をつけて誤魔化した。

 そんなやり取りをしているうちに、酒場の奥から野太い歌声が響き始めた。赤ら顔の男たちが肩を組み、大合唱を始めたのだ。

 ――どうやら、辺境伯ウォーレスを讃える歌らしい。

 その熱気に呆れながらも、さすがに止めた方がいいかと席を立とうとすると、ウォーレスは人懐っこい笑みを浮かべ、そっと人差し指を唇に添えた。


「ウォーレス、その顔を普段から民に見せてあげたらどう?」

「……本当はそれができたら良いんですけどね。怖がられていた方が何かと便利なんで。特に、物騒なこの辺境では」

「それで溜めた気苦労を、酒場で発散させているわけか」

「そういうことです。だから付き合ってくれるキミのような人は貴重なんですよ」

 そう言いながら、彼は私のコップに静かに酒を注いだ。

 琥珀色の液体が揺れ、ランプの光を反射してきらめく。それを見つめながら、私はため息混じりにコップを手に取った。


「じゃあ、今度は私が注ぐよ」

「ふふ、では遠慮なく」

 チリン、と微かにグラスが触れ合う音がした。

 それからは、ただひたすらに酒を酌み交わした。

 ウォーレスは酔うほどに饒舌になり、普段は決して見せない本音を次々と零していく。

 その姿が面白くて、愛おしくて。そんな彼を肴にしながら飲む酒は、何よりも美味しいものだった。

感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】怖がり祓い師は腹黒王子に囲い込まれて溺愛される

未知香
恋愛
エラルド王子は第三王子ながら、整った顔、優雅な所作、そして能力、全てにおいて完璧だ。 次期王になる事は間違いないはずだった。 しかし、親しくなる女性が皆幽霊を見るようになり、女性はエラルド王子に誰も近寄らなくなってしまった。 このままでは結婚もままならない。 そこで呼ばれたのが、祓い師であるネラリアだ。 ネラリアはエラルド王子のゴーストを祓おうとするが、ゴーストの正体は…… 腹黒王子の溺愛ハッピーエンドです。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

【結婚式当日に捨てられました】身代わりの役目は不要だと姉を選んだ王子は、隣国皇帝が私を国ごと奪いに来てから後悔しても手遅れです。

唯崎りいち
恋愛
結婚式当日、私は“替え玉”として捨てられた。 本物の姉が戻ってきたから、もう必要ないのだと。 けれど—— 私こそが、誰も知らなかった“本物の価値”を持っていた。 世界でただ一人、すべてを癒す力。 そして、その価値を知るただ一人の人が、皇帝となって私を迎えに来る。 これは、すべてを失った少女が、本当に必要とされる場所へ辿り着く物語。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

聖女クローディアの秘密

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
神託によって選ばれた聖女クローディアは、癒しの力もなく結界も張れず、ただ神殿にこもって祈るだけの虚しい日々を送っていた。自分の存在意義に悩むクローディアにとって、唯一の救いは婚約者である第三王子フィリップの存在だったが、彼は隣国の美しい聖女に一目ぼれしてクローディアを追放してしまう。 しかし聖女クローディアには、本人すら知らない重大な秘密が隠されていた。 これは愚かな王子が聖女を追い出し、国を亡ぼすまでの物語。

ベッドの上で婚約破棄されました

フーツラ
恋愛
 伯令嬢ニーナはベッドの上で婚約破棄を宣告された。相手は侯爵家嫡男、ハロルド。しかし、彼の瞳には涙が溜まっている。何か事情がありそうだ。

『都合のいい女』枠で捨てられたはずの私でしたが、氷の公爵様が「お前がいない場所には意味がない」と言い出しました

にたまご
恋愛
"都合のいい道具"として扱われてきたはずだった。 「使えないなら帰れば?」 「あなたなんて、最初からいらなかったのよ」 瘴気の渓谷に置き去りにされた浄化術師リーネに残されたのは、自分の身ひとつと結界だけ。 荷物もない暗闇の中、淡い光を纏って歩いていたら、無口でいつも冷たいあの人が、初めて私に本心を打ち明けてくれて—— ※短編完結/不器用/ざまぁ/溺愛

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……