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第2話
「いや、余所者で知らなかったとはいえ、初対面のときは辺境伯に向かって失礼なことを……」
「半年も前のことをそんなに気にするのならば、これから先もこうして俺の晩酌に付き合ってくださいね」
「……それは果たして罪滅ぼしになるのか?」
「なるんですよ、特に俺の場合は」
ニコニコと嬉しそうに、私をからかうような瞳で見つめてくる。
それにしてもまさか『冷酷非情な辺境伯サマ』がただの酒好きとは、いったい誰が思うだろうか。私は隣の男をじっと見つめて、ため息を吐いた。
「ねぇ、レイ殿。お願いついでに、今日こそあの話を受けてくれないかな?」
「ウォーレスの副官になるって話なら、私には無理だと言ったじゃないか」
「そんなに教会警備の仕事が大事なのかい? でも昼間にキミの姿を見た者は居ないって聞くけどなぁ」
「うっ、それは……」
痛いところを突かれ、私は気まずくなりながら空のコップに口をつけて誤魔化した。
そんなやり取りをしているうちに、酒場の奥から野太い歌声が響き始めた。赤ら顔の男たちが肩を組み、大合唱を始めたのだ。
――どうやら、辺境伯ウォーレスを讃える歌らしい。
その熱気に呆れながらも、さすがに止めた方がいいかと席を立とうとすると、ウォーレスは人懐っこい笑みを浮かべ、そっと人差し指を唇に添えた。
「ウォーレス、その顔を普段から民に見せてあげたらどう?」
「……本当はそれができたら良いんですけどね。怖がられていた方が何かと便利なんで。特に、物騒なこの辺境では」
「それで溜めた気苦労を、酒場で発散させているわけか」
「そういうことです。だから付き合ってくれるキミのような人は貴重なんですよ」
そう言いながら、彼は私のコップに静かに酒を注いだ。
琥珀色の液体が揺れ、ランプの光を反射してきらめく。それを見つめながら、私はため息混じりにコップを手に取った。
「じゃあ、今度は私が注ぐよ」
「ふふ、では遠慮なく」
チリン、と微かにグラスが触れ合う音がした。
それからは、ただひたすらに酒を酌み交わした。
ウォーレスは酔うほどに饒舌になり、普段は決して見せない本音を次々と零していく。
その姿が面白くて、愛おしくて。そんな彼を肴にしながら飲む酒は、何よりも美味しいものだった。
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