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第4話
~約半年前~
「忌々しい勇者め、聖女め……! 古の時代より世代を超えて儂の邪魔ばかりしおって! だが忘れるなよ、この世に悪がある限り、儂は何度でも蘇るのだ!」
大陸の果てにそびえる魔王城。
城と言っても華美な装飾は何ひとつなく、今や白い煙がもうもうと立ち込める瓦礫の山となり果てていた。
その瓦礫を背に、恐怖の大魔王が今まさに力尽きようとしていた。
「それが貴様の最後の捨て台詞か、魔王。僕たちが倒れようとも、次代の勇者が必ずお前を討つだろう」
魔王を見下ろしながらそう言い放ったのは、勇者のローランドだ。
髪色と同じ白銀の鎧に身を包み、凛々しく美しい容貌はまさに物語の英雄そのもの。彼の真剣な眼差しは、見惚れてしまうほどだった。
一方の魔王は、禍々しい闇の影をまとい、目にするだけで心がざわつくような邪悪な姿をしている。
長く苦しい旅路を振り返りながら、私は勇者の隣で小さくため息を吐いた。
「やっと……やっと終わったわね……」
本当に過酷な旅だった。こんなに辛い思いをするなら、聖女の役目なんて引き受けなければ良かったかもしれない。
でも――。
「成功報酬の年金生活だけは魅力的だったし……」
親も家もお金もない孤児だった私に、教会はこう言ったのだ。
『魔王を倒せば、あとは国が生涯面倒を見てくれる。望むままの自由な暮らしが待っているぞ』
この魅力的な誘いに負けて、私は聖女の役目を受け入れた。命を懸けて戦った理由も、すべてはこの先の快適でグータラな暮らしを手に入れるためだったのだ。
それなのに――。
「ククッ……クハハハハハ!!」
魔王が不気味に笑った。
直後、私たちの周りを濃い闇が包み込んだ。
「ただでは終わらせんぞ! 我が最後の呪いを受けるがいい!」
「ローランド!?」
闇が消えた瞬間、私の隣に立つ勇者の姿が一変していた。
「な、なんだこれは……!? 身体が、女になっている……!?」
ローランドが震える声で呟く。美しく整った彼の容貌は、一瞬にして可憐で儚げな美少女のものへと変わってしまっていた。
「これで貴様らの血筋は絶える! ざまぁみろ!」
魔王は高らかに笑い声を上げ、そのまま消滅した。
「ローランド!? 大丈夫なの?」
私は戸惑いながらも、勇者を心配して声を掛ける。
「ああ、僕は平気だが……聖女レイチェル、君は?」
「私は……特に変化はなさそうだけど……」
口ではそう言ったが、内心では言いようのない不安に襲われていた。
翌日、魔王が残した呪いの影響ははっきりと現れた。
「つまり僕は朝(6-18時)になると女性になってしまう呪いで……」
「私は夜(18-6時)になるとオジサンになってしまう呪いね……」
時間帯によって性別が入れ替わるという、なんとも厄介な呪いを私たちは受けてしまったのだった。
「でもまあ、むしろ僕にとっては好都合かも。これで堂々と最愛の人と結ばれることができるし」
ローランドは、どこか照れたように微笑む。
「ちょっと待って、その姿でどこへ行くつもりなの!? 国への報告はどうするの?」
「そんな堅苦しいことは真面目な聖女様に任せるよ。それじゃ、元気でね」
そう言うと、勇者ローランドは旅の仲間だった剣士の腕に抱きつき、乙女のように幸せそうな笑顔で去っていってしまった。
「まさか本当に駆け落ちするなんて……前々から少し怪しいとは思ってたけど……」
本来なら魔王討伐後、私は勇者と結ばれ英雄の血を次代へ残すという大役が待っていた。それがこんな結末になってしまうとは。
結局、私は王や教会の命令で辺境の教会へ追いやられ、聖女であることを隠しながら、懺悔室の奥でひっそりと暮らすことになった。
「魔王の奴、本当に余計な呪いを残してくれたわね……」
私は小さくため息をつく。
こうして夢見たグータラ生活の希望は一瞬で消え去り、辺境での地味で静かな日々が始まった。
「さて、今夜も気晴らしに出かけようかな」
日中は教会にこもっているが、夜になればオジサン姿で気楽に外出できる。
「まぁ、勇者みたいにこの姿で女性を口説いたりする気はないけど……」
一人、酒場で過ごす時間は気ままで楽しく、私には十分な安らぎだった。
そんな平和な生活がずっと続くと思っていた。
しかし、その日々はある夜、酒場で運命の出会いを果たしたことで静かに変わり始めるのだった――。
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