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第3話 深夜の訪問者
しおりを挟む惚とした表情を浮かべる男の顔を見て、私は確信した。
(ああ、やっぱりこの人は頭のおかしい人なんだ)
だってこんな状況なのに、堂々と魔王だなんて言い切れるのだから。
「ふぅ……やっと落ち着いたか。さて、丁度良くベッドの上にいることだし。改めて夫婦となる契りを交わそうか」
「……」
「ん? どうしんだ? ははあ、分かったぞ。転生後は俺のために清いままであったのだな? だが恥ずかしがることは無い。俺たちは何度も――「それ以上私を置いて妄想を吐くのをやめてっ!!」グハッ!?」
思い切り男の腹に蹴りを入れ、距離を取る。
しかし相手も魔王を名乗るだけあって、ただでは起き上がらなかった。
一瞬にして私の視界いっぱいに広がる黒い影。それが奴の胴体だと理解すると同時に、私は再びベッドに押し付けられていた。
「なっ、何をするのよ!!」
「……興が削がれた。今宵は一旦、俺は引くとしよう。再会できただけでも十分だ」
「ちょっ!? なんなの……って消えた!?」
何の前触れもなく、男は忽然と姿を消した。
慌てて部屋中を探したがどこにもいない。一体何処に……。
ハッとしてリビングのテーブルを見ると、空になったワインボトルと土鍋があることに気が付いた。
「まさか……あの変態、私の大事な食糧を食い逃げしたっていうの!?」
談じゃない!! 急いで玄関のドアノブに手をかけようとした瞬間だった。
ガチャリ。
目の前で扉が開かれ、思わず手を引っ込めてしまう。
恐る恐る顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべている白鎧の銀髪男が立っていた。
「やぁ、僕の聖女様。キミの勇者が会いにきたよ」
――バタン。
扉を閉めて、鍵をかける。
そして念のためチェーンもかけておく。
これでもう大丈夫。……よし、落ち着こう。まずは深呼吸だ。
(はぁあああ!? 何で今度はアイツがいるのよ!?)
黒髪男の次は白騎士である。
また幻覚かとも思ったけど、たぶん違う。こんな夜更けだというのに、なんだかピカピカ光っていたし。
「えーっと、今日は厄日か何かなのかしら?」
混乱している頭を必死に働かせ、何とか状況を整理しようとする。まずは今の時刻だ。スマホで確認すると深夜の零時前。
次に日付は?……うん、まだ変わってない。
ということはつまり、昨日の晩のうちに私の部屋には不審者が二人も侵入していたということになる。このまま明日になれば、シンデレラみたいに魔法が解けて何もなかったことにならないかしら?
「ねぇ、どうしてドアを閉めるんだい!? 僕だよ、勇者キリクだ!!」
「キリクなんて名前の人なんか知らないわよ!! 勝手に私の家に入ってこないで!!」
「酷いじゃないか! 僕はキミに会うために、わざわざ転移魔法で異界からやってきたっていうのに!」
「その設定はもう二度目なのよ!! そもそも私には、あんた達みたいなストーカー男なんか知らないわよっ!!」
「なっ、僕以外に異界からやってきた男だと!? それはどういうことだ聖女イーグレット!」
ドアを挟んでグイグイとおしくらまんじゅうをするスーツ女と白騎士の男。深夜に何をしているんだ私??
「はいはい、貴方のイーグレットさんならきっと、海外のお宅にいらっしゃいますよ! いいから帰れ!」
「そんなことはない! いくら見た目が変わろうとも、僕がキミの魔力を見間違えるわけがない!」
「私の名前は千鶴よ! それに異界の聖女ですって?? 残念ながら私はただの痛い社畜ですぅー!」
何が聖女よ。誰が勇者よ。アンタが正義のヒーローだっていうのなら、是非この馬鹿げた状況から救ってほしいものだ。
でも現実は非情であり、一向に私の願いを聞き入れてくれない。それどころか、ドアの向こうからは更に大きな音が聞こえてきた。
ドンッ、ドドドンッ!!!
おいおい何やってんだ、ドグサレ勇者様!?
「嘘でしょう? ちょっとやめなさいよ!!」
どうやらドアを壊そうとしているみたい。
私も慌てて止めようとするけれど、音は鳴りやむどころか激しくなる一方。しかもドアがベコンベコンとこちら側にへこみ始めた。
あかん。これはマジでヤバイやつだ! このままでは、私がドアを突き破って出てくるまであと数秒というところだろう。
(どうしよう……警察を呼ぶべき? でも二度も来てくれるものなの!?)
そう思い至り、急いでスマホを取り出すと、なぜか音が鳴りやんだ。どうしたんだろう、やめてってお願いを聞いてくれたのかしら?
だけどホッとしたのも束の間、今度は外から物凄く不吉な言葉が聞こえてくる。
「この家には結界が張られているね。それもかなり強力な奴だ」
「……はい?」
「まさか魔王が!? 待っていてくれ、今すぐ開けてあげるよ!!」
「ちょ、やめてぇーーー!!!」
そして再び鳴らされる激しいノックの音。もはや猶予はない。
こうなったら一か八かだ。
意を決した私は、ゆっくりと玄関の鍵を開ける。すると案の定、勢いよくドアが開かれてしまった。
もうダメだ……。
私は恐怖に耐えきれず目を瞑った。…………しかし。
いつまで経っても予想していた衝撃は訪れなかった。恐る恐る目を開くと、そこには信じられないものが映っていた。
「ヘブッ……」
車に轢かれたヒキガエルみたいに這いつくばる、白騎士の姿があった。
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