上 下
17 / 56
第2章 とあるメイドの入学

第11話 そのメイド、同情される。②

しおりを挟む
 食事を提供するカウンターに並び、夕飯をトレーに載せて空いている席へと向かう。

 今日のメニューは、丸めたパンに野菜のスープというシンプルなもの。

 だけどその辺に生えていた野草と、沸かしたお湯で食い繋いでいた日々に比べれば、幸せすぎる食事だ!!


「今度はこんな質素な食事を、泣きながら食べているし……本当に大丈夫かしらこの子……」
「だって……塩以外の味付けなんて、本当に久しぶりで……!!」
「うえぇっ!? ちょっと貴女。貧民街で育ったとでもいうの? 普通はそんなこと有り得ないわよ!?」

 いや、まさにその貧民街出身ですけれども。

 男爵家に拾ってもらったけれど、その男爵家だって貧乏だったし。みんなで助け合いながらどうにか生きてきたのよね。


 どんな人生を歩んできたのかを、食事を摂りながら話す。

 すると対面にいたルーシーは、途中から食べる手を止めて、ポカンとしてしまった。


「貴方、そんなに貧しい生活を……」
「でも生きている限り、不幸だなんて思わなかったけどね! こうして美味しい食事もできることだし!!」
「随分と安い幸せね……でも、そうだったの……」

 なんだかルーシーの私を見る目が、段々と可哀想なものを見るような感じになってきた。

 挙句の果てには、私のトレーの上に自分のパンをそっと乗せてくれた。


「えっ、いいの!?」
「……別に貴方の為じゃないわ。夜中に部屋でお腹の音がうるさかったら、寝れなくて困るじゃない」
「えへへ、ありがとうルーシー!」

 お礼を言って受け取ると、ルーシーはちょっと照れ臭そうに横を向いた。

 やっぱりルーシーって、根は優しいのかもしれない。

 ……でも、こんな子が本当に傷害沙汰を起こしたのかしら?



 ご飯を手早く食べた後は、同じくパラスにある大浴場へと向かう。

 寮のフロアごとに交代制で入るらしいんだけど、彼女はいつも独りで入っているんだって。

 だから私は無理矢理ルーシーを連れて、お風呂へと突撃した。


「どうしてわたくしの裸を見つめてくるんですの……?」
「……別に。どうしてかなぁって観察しているだけよ」

 やっぱりルーシーのプロポーションは凄かった……。

 貴族は魔法みたいな化粧品でも使っているのかしら?

 うーん、いつかその秘訣を聞いてみよう。


 お風呂に入った後は、ちょっと早いけれど就寝だ。

 そのうち夜の実習が入るらしいんだけど、私はまだ入学したばかりなので無い。

 メイドって早朝から夜遅くまで働き詰めで大変だわ。


 ルーシーから二段ベッドの上を奪うことに成功した私は、洗濯したての真っ白なシーツの上に横になる。

 入学から入寮まで、怒涛の一日だったけど、無事に入学できたし……これなら何とかなりそうね。


「ふわぁ、なんだかもう眠くなってきた……ん? この声は……ルーシー?」

 私の真下……下段のベッドから、彼女のくぐもった声が聴こえてきた。

 どうやら布団の中で、すすり泣いているみたい。


「うぐっ、どうして……お母様……お父様……わたくしはこれからどうしたら……」
「ルーシー……」

 なにか声を掛けてあげたいけれど、安い慰めの言葉しか出てこない。

 貧乏人の、何も持っていない私の無力な手。これでは彼女を救うこともできない。

 無責任な優しさは、彼女を傷付けるだけだ。

 ……だからもっとお互いを知って、一緒に強くなろうね。


 私も心の中に、同じ熱を持っている。
 絶対にどん底から這い上がって、自分を追い詰めた人間に復讐してやる。


 なんだか彼女とは仲良くなれるかも……そんな事を思いながら、私は目を閉じて眠りにつくのであった。


しおりを挟む

処理中です...