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第4章 とあるメイドと王家の波乱
第34話 そのメイド、トロフィーにされる。
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~ジークハルト視点~
日課となっている剣の鍛錬を終えた僕は、晴れやかな気分で我が家である城内を歩いていた。
「どうなるかと思ったけれど、プレゼントを喜んでもらえて良かった。お婆様もさっそく身につけてくれていたし……」
数日前に迎えた、お婆様の誕生日。
僕はお祝いの場で一つのブローチを贈った。アカーシャと一緒にデザインから考えた、渾身のプレゼント。
普段はあまりアクセサリーをつけないお婆様が受け取ってくれるか、ちょっとだけ不安だった。僕はともかく、彼女が悲しむのは見たくなかったから心の底からホッとした。それにお婆様もなんだかんだ言って、アカーシャのことを気に入っているみたいだったし、僕の心配は最初から杞憂だったみたいだ。
「最近じゃまるで孫娘のように可愛がっているみたいだし……お婆様もかなり丸くなったよなぁ」
きっと彼女がお婆様の家に来てくれるようになったおかげだ。
アカーシャの実習先をシルヴァリア公爵家にしてくれた、メイド学校のキーパー理事長には感謝しかない。なにより、僕も彼女に会いに行く口実ができたし。
「はぁ。でも彼女の実習は、あと少しで終わってしまうんだよな……」
このまま会えなくなってしまったら、お婆様はきっと寂しい思いをする。
……いや、ここは正直に言おう。僕自身が一番つらい。彼女と過ごす日々が何よりも楽しいし、僕にとってかけがえのない宝物となっている。最近では会えない日が寂しすぎて、何をしていてもアカーシャの顔が頭をよぎるほど。このままでは騎士としての仕事もままならなくなってしまいそうだ。
「どうしよう。いっそのこと、父上にお願いして彼女を王城のメイドにしてもらおうか……ん、兄上?」
いかにしてアカーシャと会える時間を捻出しようか。そんなことを考えながら廊下を歩いていると、アモン兄上が僕の自室の前で腕を組みながら立っているのが目についた。
――僕が部屋に戻るのをずっと待っていた? こうしてわざわざ会いに来るなんて珍しいな。世間では僕と兄上は不仲だと噂されていて、実際に城内ですれ違ったとしても会話はしないし、目すら合わせない。それくらい、僕らはお互いのことを避けていたのに。
「やぁ、ジーク」
「お久しぶりです、兄上。……いったい、どうされたのですか?」
アモン兄上も僕の姿に気付き、顔を上げてニカッと笑いかけてきた。僕に向けられるのは本当に久々だけれど、相変わらず人好きのする笑顔だ。陰気な僕とは違って、誰にでも明るい態度をとる兄はまさに国王に相応しい人物と言えるだろう。詩人風に例えるなら兄上が太陽で、僕は月といったところかな。
別にそのことに関して不満は無いし、僕は表舞台に立てなくともそれでいいと思っている。兄上が王座について、僕が陰で支える。それで僕らの立場が安定すれば、また以前のように仲の良い兄弟になれるかもしれないしね。
「ちょっとジークに頼みたいことがあってな……にしてもえらく上機嫌だな」
「え? ええ、まぁ。それにしてもアモン兄上が僕に頼み事なんて珍しいですね」
「ん、まぁな……」
頭を掻きながら少し気まずそうにする兄上と、さっそく話題に困ってしまう僕。会話をするのが本当に久しぶり過ぎて、お互いにぎこちなさが隠せない。
でも本当にどうしたんだろう。兄上が僕に何か頼み事をするなんて、生まれて初めてなんじゃないか? 何か困った事態が起きているなら、僕は喜んで手を貸すけれど。
「どうぞ遠慮なくおっしゃってください。できることなら何でもしますよ?」
「ん、そうか……ならお言葉に甘えさせてもらおう」
「――!?」
突如、アモン兄上から大量の殺気があふれ出した。すっかり油断していた僕は慌てて後ずさるが、それよりも早く兄上はこちらに接近し、僕の胸倉を右手で掴んだ。
「いったい、なにを――」
「なぁ、ジーク……今から俺と、本気の決闘をしてくれないか?」
「……はい?」
◇
「兄上、どうして急に決闘などと……」
王城の中庭に用意された簡易決闘場。魔道具による魔法障壁に囲まれた僕は目の前に立つ兄上に問いかけた。
「悪いな、ジーク。俺にもどうしても譲りたくないモンができちまってな」
問答無用で突きつけられた、アモン兄上からの決闘。
廊下でいきなり胸元を掴まれたと思いきや、そのまま引きずられるようにして、この王城にある中庭へと連れてこられた。
最初からそのつもりだったのか、その中庭にはすでに決闘用の舞台が整えられていた。帰宅しようとしていた王城勤めの貴族たちもこの騒ぎを聞きつけたようで、次から次へと集まってきている。まぁこの国の王子二人が決闘をしようとしていると聞いたら興味も沸くか。
……それにしても、譲れないものって何だろう。
「そんなことを言われても、僕には兄上と争う理由なんて何もないですよ!」
なにか勘違いをしているのならば一刻も早く誤解を解かなくては。だけど兄上は不敵な笑みを浮かべながら、実戦用の剣を僕に投げてよこした。
「俺や国のために王座を譲るぐらいだものな。お前はやっぱり良い奴だよ。……ならジーク、ついでにアカーシャのことも譲ってくれないか?」
日課となっている剣の鍛錬を終えた僕は、晴れやかな気分で我が家である城内を歩いていた。
「どうなるかと思ったけれど、プレゼントを喜んでもらえて良かった。お婆様もさっそく身につけてくれていたし……」
数日前に迎えた、お婆様の誕生日。
僕はお祝いの場で一つのブローチを贈った。アカーシャと一緒にデザインから考えた、渾身のプレゼント。
普段はあまりアクセサリーをつけないお婆様が受け取ってくれるか、ちょっとだけ不安だった。僕はともかく、彼女が悲しむのは見たくなかったから心の底からホッとした。それにお婆様もなんだかんだ言って、アカーシャのことを気に入っているみたいだったし、僕の心配は最初から杞憂だったみたいだ。
「最近じゃまるで孫娘のように可愛がっているみたいだし……お婆様もかなり丸くなったよなぁ」
きっと彼女がお婆様の家に来てくれるようになったおかげだ。
アカーシャの実習先をシルヴァリア公爵家にしてくれた、メイド学校のキーパー理事長には感謝しかない。なにより、僕も彼女に会いに行く口実ができたし。
「はぁ。でも彼女の実習は、あと少しで終わってしまうんだよな……」
このまま会えなくなってしまったら、お婆様はきっと寂しい思いをする。
……いや、ここは正直に言おう。僕自身が一番つらい。彼女と過ごす日々が何よりも楽しいし、僕にとってかけがえのない宝物となっている。最近では会えない日が寂しすぎて、何をしていてもアカーシャの顔が頭をよぎるほど。このままでは騎士としての仕事もままならなくなってしまいそうだ。
「どうしよう。いっそのこと、父上にお願いして彼女を王城のメイドにしてもらおうか……ん、兄上?」
いかにしてアカーシャと会える時間を捻出しようか。そんなことを考えながら廊下を歩いていると、アモン兄上が僕の自室の前で腕を組みながら立っているのが目についた。
――僕が部屋に戻るのをずっと待っていた? こうしてわざわざ会いに来るなんて珍しいな。世間では僕と兄上は不仲だと噂されていて、実際に城内ですれ違ったとしても会話はしないし、目すら合わせない。それくらい、僕らはお互いのことを避けていたのに。
「やぁ、ジーク」
「お久しぶりです、兄上。……いったい、どうされたのですか?」
アモン兄上も僕の姿に気付き、顔を上げてニカッと笑いかけてきた。僕に向けられるのは本当に久々だけれど、相変わらず人好きのする笑顔だ。陰気な僕とは違って、誰にでも明るい態度をとる兄はまさに国王に相応しい人物と言えるだろう。詩人風に例えるなら兄上が太陽で、僕は月といったところかな。
別にそのことに関して不満は無いし、僕は表舞台に立てなくともそれでいいと思っている。兄上が王座について、僕が陰で支える。それで僕らの立場が安定すれば、また以前のように仲の良い兄弟になれるかもしれないしね。
「ちょっとジークに頼みたいことがあってな……にしてもえらく上機嫌だな」
「え? ええ、まぁ。それにしてもアモン兄上が僕に頼み事なんて珍しいですね」
「ん、まぁな……」
頭を掻きながら少し気まずそうにする兄上と、さっそく話題に困ってしまう僕。会話をするのが本当に久しぶり過ぎて、お互いにぎこちなさが隠せない。
でも本当にどうしたんだろう。兄上が僕に何か頼み事をするなんて、生まれて初めてなんじゃないか? 何か困った事態が起きているなら、僕は喜んで手を貸すけれど。
「どうぞ遠慮なくおっしゃってください。できることなら何でもしますよ?」
「ん、そうか……ならお言葉に甘えさせてもらおう」
「――!?」
突如、アモン兄上から大量の殺気があふれ出した。すっかり油断していた僕は慌てて後ずさるが、それよりも早く兄上はこちらに接近し、僕の胸倉を右手で掴んだ。
「いったい、なにを――」
「なぁ、ジーク……今から俺と、本気の決闘をしてくれないか?」
「……はい?」
◇
「兄上、どうして急に決闘などと……」
王城の中庭に用意された簡易決闘場。魔道具による魔法障壁に囲まれた僕は目の前に立つ兄上に問いかけた。
「悪いな、ジーク。俺にもどうしても譲りたくないモンができちまってな」
問答無用で突きつけられた、アモン兄上からの決闘。
廊下でいきなり胸元を掴まれたと思いきや、そのまま引きずられるようにして、この王城にある中庭へと連れてこられた。
最初からそのつもりだったのか、その中庭にはすでに決闘用の舞台が整えられていた。帰宅しようとしていた王城勤めの貴族たちもこの騒ぎを聞きつけたようで、次から次へと集まってきている。まぁこの国の王子二人が決闘をしようとしていると聞いたら興味も沸くか。
……それにしても、譲れないものって何だろう。
「そんなことを言われても、僕には兄上と争う理由なんて何もないですよ!」
なにか勘違いをしているのならば一刻も早く誤解を解かなくては。だけど兄上は不敵な笑みを浮かべながら、実戦用の剣を僕に投げてよこした。
「俺や国のために王座を譲るぐらいだものな。お前はやっぱり良い奴だよ。……ならジーク、ついでにアカーシャのことも譲ってくれないか?」
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