結婚情報誌ゼ○シィで学ぶ異世界恋愛〜捨てられてお可哀想なのはどちらかしら?〜

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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最終話 秘密の付録

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 数日後――

 クラリスは親友のソフィアと共に、王城の庭園にある小さな東屋で、新しい結婚情報誌をめくっていた。

 使用人もつけず、気心知れた二人だけのお茶会。
 心地よい風が頬を撫で、テーブルには温かい紅茶と焼き菓子が並んでいる。


「……何かしら、これ?」

 情報誌の最後に、豪華な装飾が施された一枚の書類が挟まれていた。

『この誓約の証書に名を記した者は、運命の相手と結ばれる』

 ソフィアはその一文を見つめたまま、わずかに眉をひそめた。


「……また変なのが出てきたわね?」
「くだらなくはあるけれど、デザインはなかなか素敵ですわね……試しに自分の名前を書いてみようかしら」

 そう呟きながら、サラサラと名前を書くクラリス。まるで躊躇のない行動に、ソフィアは目を丸くする。

「クラリスって意外に肝が据わっているわよね。この本だって、怪しさだらけなのに……」
「ふふふ、そうね。でもきっと、本の妖精さんが悪戯でやっているのよ」

 嬉しそうに微笑む友を見て、ソフィアは軽く肩をすくめた。

 突然現れた不思議な本。著者も分からなければ、誰がクラリスの部屋に置いたのかも不明。

 どれをとっても怪しさだらけだが、クラリスに良い変化をもたらしたのは事実。なのでソフィアも、深くは考えないことにした。


「さて、紅茶のおかわりでも用意しましょう」
「あら、私が行くわよ?」
「ううん。ソフィアはここで待っていて」

 そう言って、クラリスは証書をテーブルに置き、席を立った。

 彼女を待つ間、ソフィアは友人の名が書かれた証書を眺めていたが――。


「これは……ふふ、ちょうどいいわね」

 庭園の奥から、落ち着いた足取りの影が近づいてくる。陽の光を背にして現れたのはヴォルフだった。彼はゆったりとした仕草で視線を巡らせ、東屋の中の様子を確かめる。


「クラリスは?」

 低く響く声が、静かな庭園に広がった。

「お茶を取りに行ったわ。ああ、ヴォルフ。ちょうどよかった!」

 ソフィアはさりげなくテーブルの上を片付けながら微笑んだ。

「少し試していただけません? このペン、どうもインクの出が悪くて……」

 ヴォルフは軽く眉を寄せたが、ペンを受け取り紙に試し書きをする。


「……問題なく出るが?」
「まあ、助かりましたわ! ところでヴォルフの家名って、どのような綴りでしたっけ? ここに書いていただけます?」

 ソフィアが差し出した書類の束の中には、一枚の誓約の証書が紛れ込んでいた。

 ヴォルフは特に気にせず、すらすらとサインを走らせた。

 ソフィアが書類を回収したとき、クラリスが戻ってきた。


「お待たせしました……え? 何かあったのですか?」
「いや、何でもない。ソフィアに頼まれて――」

 次の瞬間、書類がかすかに光を帯び、薄い金の文字が浮かび上がる。


『誓約成立』

 クラリスの目が大きく見開かれた。

「……これは?」

 ヴォルフも眉をひそめ、書類をもう一度見つめた。

「つまり……俺たちは、誓約を交わしたということになるのか?」

 彼はため息をつきながら、ソフィアへ視線を向ける。しかし彼女は素知らぬ顔で微笑むだけ。


「まあ……俺としては、悪くないが」

 ヴォルフはわずかに微笑み、今度はクラリスを見つめた。

「……私も、ヴォルフ様なら」

 クラリスは、誓約成立の光が静かに消えていくのを見届けながら、胸の奥に熱いものを感じていた。


 一方でソフィアがにっこりと笑みを浮かべた。

「ふふっ、見事なハッピーエンドね! あとは二人でゆっくりどうぞ」

 とウインクを残し、席を立って庭園の小道へと去っていく。そのすれ違いざま、クラリスに耳打ちした。

「ちゃんと結婚式には呼んでよね! もちろん、特等席で!」

 クラリスは顔を赤くしながらも、微笑みを返した。


「……これって、本当に誓約が成立したのかしら?」

 戸惑い混じりに呟いたクラリスに、ヴォルフは照れを隠すように小さく笑った。

「仮にそうじゃなくても、俺は貴女と一緒になりたい」

 クラリスはその言葉に目を見開き、そっと手を彼の上に重ねた。


「これからは逃げずに、貴方と向き合いますわ」

 ヴォルフはその手を優しく握り返し、低く囁いた。

「……なら、俺も全力で甘やかそう」


 ◆

 しばらくした後――王宮では「冷酷と噂された侯爵と、かつて悪役令嬢と呼ばれたクラリスが運命の誓約を交わした」という話題で持ちきりだった。

 結婚情報誌は『奇跡を起こす伝説の指南書』として貴族令嬢たちの間でますます神格化され、新たな伝説が静かに幕を開けたのだった。
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