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第2章 慈悲深き瞳を持つ女
第20話 ドロップ品の鑑定
しおりを挟むモモさんに案内された部屋の中心には大きな机が置いてあり、その上には水晶や眼鏡など様々なアイテムが置かれていた。
それらは一目見ただけでは何に使うのかサッパリ分からないものばかりだったが、中でも一際目を引いたのは真ん中に置かれた大きな金属製の箱だ。
サイズ的には子供一人がすっぽり入るぐらいの大きさだろうか。少し小さめのバスタブみたいだ。
金色に輝いているのだが、何の素材でできているのかは分からない。これは鑑定用の魔導具なんだろうか?
促されるままに机の前にある丸椅子に腰かけると、モモ&グリン姉妹は俺たちの前に座った。そして妹のグリンさんは机の上に置かれた箱をバンッと叩いた。
「さあ、フェンさん。遠慮せずドンドン出してください!」
「え? この中にドロップ品を淹れるんですか?」
「そうです。私が責任をもって鑑定しますので!」
ウェーブのかかった緑髪を揺らしながら、自信満々に薄い胸を張るグリンさん。この子、入職して一か月って言っていたけど本当に大丈夫なのか?
不安になった俺はグリンさんの隣に座る姉のモモさんに視線を移すと、ピンク髪の彼女は苦笑を浮かべていた。
「……すみません。グリンはこれでも“鑑定師”のジョブ持ちなんです。性格はこのようにお調子者ですが、腕だけは確かですので」
「そうなんだ……それじゃあ、さっそく」
しっかり者のモモさんがそう言うなら大丈夫だろう。
肩に掛けていた収納ポーチから箱の中に次々と戦利品を入れていく。
「ええっと、バターフライの濃厚油にレモンスパイダーの強酸液……あっ、マッシュルームボアの肉厚茸! それにアースドラゴンモドキの香辛爪まである! すごいすごい!!」
興味津々な様子でグリンさんが箱の中を覗き込み、アイテムの名前と数を読み上げる。それをモモさんが一つ一つ丁寧に確認して何かの紙にメモをしていっていた。
モモさんは時折驚いたような表情をしているんだけど、なんだろう。何か問題があったんだろうか。
「えっと、これらは全てフェンさんたちが集めたんですか……?」
ようやくポーチの中身を出し切ったところで、モモさんが引きつった笑みを浮かべながら尋ねてくる。
そんなに驚くほどなんだろうか? たしかにかなりの量はあるけど。
「正確に言えば、ポーチに入りきらなかった分はその場に放置してきたかな……」
「もっとあったんですか!? この辛味鳥の手羽先も!?」
正直に伝えると、モモさんは箱の中にある鳥肉を指して驚きの声を上げる。
「あー、本当はもっとあったんですけど。食べられそうな物は道中の食料にしました」
「なんですって!?」
「え、なにかマズかったですか?」
モンスター食材は食べちゃいけない決まりだったとか?
「滅多に食べられない高級食材ですよ! モンスターそのものは強くはないですが、ドロップ率があまりにも低いので市場にもほとんど出回らないんです!」
「へぇ~、そうだったんですね~」
なるほど、どうりでモモさんが驚いたわけだ。
倒せば割と高頻度でドロップしていたんだけど、俺たちも初めてのモンスター討伐だったし、これが普通じゃないってことも知らなかったんだよな。
おそらくはアビリティの幸運を手に入れていたからだと思うけど。
「ねぇ、フェン」
「うん。アビリティのことは、あんまり大っぴらにはしない方が良さそうだね」
俺の膝の上に座っているマリィが小声で話しかけてきたので、俺も小声で返す。
モモさんの様子を見る限り、こんなスキルを持っていることが知られたら色々と面倒なことになりそうだしな。
マリィと二人でコソコソと相談していると、今度はグリンさんがお腹を抱えて笑い始めた。
「あははは。お姉ちゃん、化けの皮が剝がれてるってば。相変わらず珍しい食べ物を見ると、人が変わっちゃうんだね!」
「ちょっと、グリン!! 余計なこと言わないでよ!!」
いや、事実じゃん。だってさっきから目がキラキラしてるもん。
恥ずかしそうに頬を染める姉の姿に妹はニヤニヤと笑う。そんな二人のやり取りを見ていると何だか微笑ましくなってきた。
なんだかこの二人とは仲良くなれそうだ。
「ともかく、こんなにたくさんのドロップ品を一度に見たのは初めてです。新人とは思えない、とても素晴らしい成果ですよ?」
獲得物だけ見れば中堅の狩人レベルですね、と手元にある紙を食い入るように見つめるモモさん。そこにはアイテムの名前や数が事細かに記されている。おそらくあれが換金リストなのだろう。
彼女の隣では、グリンさんが箱の中にあるアイテムを種類ごとに仕分け始めていた。
「それで、どれぐらいの金額になりそうですか?」
期待を込めて尋ねると、モモさんは難しい顔をして首を横に振った。
「……すみません、今すぐには判断できません」
「えっ、なんで!?」
まさかの結果に愕然としてしまう俺だったが、その理由は次の一言で明らかになった。
「価値が分からないからです」
「……はい?」
一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
いや、言葉の意味自体は分かるのだが、どうしてそのような結論に至ったのかが全く理解できないのだ。さっき鑑定したって言ってなかったっけ?
するとモモさんは机の上に置かれた箱を指し示した。
「たしかにセンターの方で用意した目安の買い取り額はあるのですが、それらは日常的に取引のある品がメインです。ですが今回フェンさんが持ち寄られたアイテムの半分近くは、普段は取り扱いのない珍しい品々だったので……」
「つまり、どれくらいの値段で売れるのかが分からないってこと?」
俺がそう問いかけると、彼女は小さく頷いた。
「ええ。こちらも慈善事業ではないので、利益を出す必要があるのです。レアだからといって、売れないものを高い値段で買い取ってしまうと、ただの不良在庫になってしまいますので……」
「まあ、そうか……」
「納得するしかないね、フェン」
だけど困ったな……これで旅の資金をゲットしようと思っていたんだけど。
思わず顔を見合わせて互いに肩を落とす俺とマリィに、モモさんはニッコリと笑って告げた。
「そう落ち込まないでください、フェンさん!」
「え?」
「タイミングよく、今は年に一度の豊穣祭が行われています。つまり買う人も売る人も集まっているってことです!」
だからこの機会を逃す手はありませんよ! そう言って張り切るモモさん。
ええっと。つまりそれは、買い取り手が見つかるかもってこと?
「もちろん、その可能性は十分にあります! 特に今回は目玉商品である“モンスター素材”が大量に持ち込まれているんです。センターには商人課もありますので、伝手も十分。運が良ければ、フェンさんたちが持ち込んだドロップ品の価値をさらに跳ね上げることも可能ですよ!」
おおっ、これはラッキーだ! それならまだお金を稼ぐチャンスがあるかもしれないぞ!!
希望の光が差してきたことで気分が高揚してくる。
そんな俺たちを見て、モモさんも嬉しそうに微笑んでくれた。
「ねぇ、お姉ちゃん。そんなこと言って、本当はどさくさに紛れて自分も珍しい食材を買おうとしていない?」
「ぎくっ」
だがそこでグリンさんの鋭い指摘が入った。
ギクリとした様子の姉に対して、妹はジト目で睨みつける。
「もう、そんなことばっかり考えてるから婚期逃すんだよ」
「なっ!? なんでアンタに言われなきゃいけないのよ!!」
どうやら図星だったらしい。姉妹喧嘩が始まりそうになったところで、俺は慌てて仲裁に入った。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
「もう! あとで覚えてなさいよグリン!」
「いーっだ。私はただ、お姉ちゃんにやられたことをやり返しただけだもん!」
俺の説得に二人は渋々ながら納得(?)してくれたようだ。
ひとまず険悪な雰囲気はなくなったものの、依然として睨み合いは続いている。やれやれ、先が思いやられるなぁ……。
「ではフェンさん。豊穣祭が開催されている三日間の間に、こちらもできる限り売れるよう手配をいたしますので。申し訳ありませんが、それまでお待ちいただけますか?」
「分かりました。よろしくお願いします」
申し訳なさそうに頭を下げるモモさんに、俺たちは笑顔で答えたのだった。
「いやー。当初の予定とは違ったけど、結果的に良かったんじゃないかな?」
「うん、そうだね」
換金の申請が終わり、俺たちはセンターのロビーにあるテーブルでホッと一息ついていた。
というのも提出したアイテムの中にすぐに換金できる品があったので、金銭的な余裕ができたからだ。残りのアイテムも売れれば、かなり懐が温かくなるだろう。
とりあえず当座の資金は確保できたことだし、後はお祭りを楽しむだけだ。
「これで装備が買えるね!」
「そうだな。さすがに木剣じゃこの先不安だし」
ロビー内で売っているジュースを飲みながら、マリィの言葉に相槌を打つ。
今俺が持っている武器は、俺が自分で木を削って作ったものだ。
当然ながら切れ味なんて期待できないし、鈍器として叩き殴ることしかできない。扱い慣れてはいるけど、もうそろそろ金属製のちゃんとした武器を入手したいところだ。
「あとは防具だね。やっぱり鎧とかの方がいいかな?」
「うーん、あんまり重いと動きづらいんだよなぁ……」
今の格好のままだと防御力的に心許ないし、できれば軽い方がいいんだけど……。
「(俺としては、自分の防具よりもマリィの安全性を確保したいんだよな。どう考えたって、回復できないのは致命的だ)」
たとえそれが命取りになるとしても、俺にとって一番大切なのはマリィの安全なのだ。
彼女を二度も失うなんて絶対に耐えられない。彼女を守れるなら、俺は何だってするつもりだ。
「なぁ、マリィ。思ったんだけど、俺が魔法を使えるようになればもっと戦闘が楽になると思わないか?」
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