2 / 7
第2話 餌付けし甲斐のあるエルフ、あらわる
しおりを挟む『こちらバッハイム王国軍第三師団、リベルト=ブジャンナック師団長! 現在魔族の襲撃を受け、被害多数! 応援求む!! 繰り返す!! 至急応援を求む!!』
仕事疲れを癒そうと乙女ゲーを始めたのに、初っ端から不穏な雰囲気である。
私のスマホには今、必死の形相で助けを呼ぶ金髪イケメンが映し出されていた。
この人の耳、普通の人間よりも長い気がする。ムービーにも出ていた、エルフ族なのかな。
しかもそのムービーで見たエルフより数段カッコイイ。
森の番人であるエルフといえば華奢なイメージだけど、このエルフさんは戦士なのか細いながらガッシリとした体格だ。
ふふふ、筋肉好きな私にはそこもポイントが高いぞ? きっとご飯なんてモリモリ食べる系だ。実に餌付けし甲斐がある!!
……ただ、ちょっと待ってほしい。
「え? なにこれ……戦争? これってそういうゲームだったっけ? キャラクターの選択とか説明は……うわ、グロッ!? 後ろでモンスターの手足が吹き飛んでいるんですけど……」
戦争映画もかくやと言うほどの激しい戦闘が、画面上で繰り広げられている。
爆発音や人の叫び声がスピーカーから大音量で流れてきたせいで、驚いた私は思わず音量をミュートにしてしまった。
え、そもそもどういう状況なんですか?
操作の説明すらないし、何をすれば良いのかさっぱり分からない。
「この画面の人、さっき救援がどうのって言っていたけれど……」
音声を切ったから何も聞こえていないけれど、イケメンのエルフは今もこちらに向かって何かを叫び続けている。
しっかし、凄いリアルな演技だなー。
モーションに実際に誰かモデルを使ったのかしら。知らない声優さんだったけど、随分と迫真なセリフだった。
たぶんこのエルフさんが主要キャラの一人なのかな?
グラフィックの作り込みもこだわっていて、肩口で揃えられた金髪が動きに合わせてサラサラ~って流れている。顔や身体にベットリ付いた血糊も本物みたいな質感だ。
ていうか、うん。リアルすぎる。
最近のスマホゲームは進化し過ぎじゃない?
……しかし残念だ。
こだわるポイントはそこじゃないのだ、運営陣よ。
たしかにこのイケメンは私の好みドストライクな餌付け対象だけど、初手で血塗れはないんじゃないですかい? これじゃ血も滴るい男だよ?
普通はさ、お城の中庭とかで運命的な出会いのシーンから始まるもんでしょうよ~。
それに折角の美形なのに、目が殺意で血走っているし、顔つきも尋常じゃなく怖い。戦闘中だからってのはあるだろうけれど、これじゃ第一印象が悪すぎるのよ!!
「……いつまで続くんだろう、このムービー。スキップとかできないのかな」
殺戮シーンをずっと観させられていたせいで、段々と気分が悪くなってきた。
あ、ゴブリンっぽいモンスターが現れた。
エルフのイケメンはそれを剣で一刀両断に切り捨てた。そのあとに地面に転がっている仲間のエルフを引き摺って助け始めた。
うん、カッコイイ。でも強くて仲間想いの良い男なのは分かったから、さっさと次のイベントに進んでくださーい。
「ムービーをスキップしようにも、画面にはそんな項目はどこにもないのよね」
代わりにあるのは、“支援”と“通話”というアイコンのみ。せめて解説してくれるお助けキャラでもいれば話は別なんだけど。
……このままボーっと観ていてもしょうがないか。エルフさんとの会話を試みてみよう。
私はおそるおそる、音量を元に戻していく。
『クッ、キリが無いな……しかし、せっかく使えそうな魔道具を得たというのに。神は我々バッハイムの民をお見捨てになったのか?』
あ~、なるほど。
このエルフさんはプレイヤーと通信ができるアイテムを持っているって設定なのね。
これがオープニングイベントだと仮定すると、私が彼を助ければいいってことなのかしら。つまり、“支援”と“通話”をしないとゲームが始まらないってこと?
「う、うーん。ちょっとだけ試して、合わなかったらアンインストールしよう。さすがに戦闘ばっかりだったら、私にはハードすぎる」
戦闘シミュレーションやグロは嫌いじゃないけれど、判断を急かされる系のゲームは大の苦手なのだ。
そもそも私が求めているのはイケメンの癒しである。殺し合いでドキドキハラハラさせられては、ちっとも息抜きにならない。
「えっと、まずは“通話”をすればいいのかな? “支援”はまだ何をしたら良いか分からないし……」
電話の受話器のマークをタップする。するとエルフさんの目が途端にギョッとなった。
『だ、誰だ!? その顔は……まさか人間なのか!?』
え? その人間って私のこと?
私が“通話”を選択したことで、向こうは初めてこちらを視認できた……ってことかしら。
この流れだと恐らく、このあとは自己紹介になるパターンかな? きっと次は私の名前を聞かれるんじゃない?
『あぁ、取り乱してすまない。なにしろ緊急事態で……改めて私はバッハイム王国軍、第三師団のリベルトだ。そちらの……貴殿の所属と名前を教えてもらえるだろうか』
あ、やっぱりね。なるほどなるほど。
まるで実際にキャラクターとの会話をしているかのような演出をすることで、ゲームへの没入感を狙っているのね。
私は姿勢を正し、どう答えるか考え始めた。
こういった、なりきり系のゲームって実は危険だったりする。
上手いことこちらの心を揺さぶって、課金に誘導するのだ。特にこの手に慣れていない初心者プレイヤーは引っ掛かりやすい。
ふふふ、しかし甘かったわね。
どこの会社がこのゲームを作ったかは知らないけれど、そう簡単にこの私を篭絡できるとは思わないで頂戴。
こっちはかつて、重課金ほぼ必須の学園恋愛モノ乙女ゲーで難攻不落キャラを無課金で堕とし、公式から“生きたバグ”とまで言われた女なんだからね!!
『む? 聞こえていないのか? この魔道具も使い方さえ分かれば……』
「あっ、ごめんなさい。ちゃんと聞こえてます!!」
ついつい辛い過去の記憶を思い出してしまっていた。
運営に修正という暴力で、クリア報酬の特別スチルごとクリアデータを奪われたんだよね。私の苦い記憶だ。
「プレイヤーネームはどこで入力すれば良いのかな……あ、あれ? どこにもないじゃない」
自分の名前を教えたくても、肝心な文字の入力欄がない。
『む、プレイヤーネームとは……? すまない、急いでもらえると助かるのだが……』
「そんなこと言ったって……あれ? もしかして普通に会話できてる?」
『会話? 暗号回線ということか……?』
仕組みは良く分からないけれど、このゲームはキャラクターと音声で会話ができるらしい。
最近のゲームの進化っぷりは凄いな!? 受け答えもすっごく自然だ。
エルフのリベルトさんは私の言っていることが分からず、眉を下げて困った顔になった。
ヤバイ、イケメンエルフの困り顔ってキュンとくる。
どうしよう、もっと困らせてみたいけど、あんまり長引かせると好感度下がっちゃうよね……。
「えっと、私の名はシズクといいます」
『シズク……人間領でもあまり聞かない名だな。もしやコードネームなのか?……いや、それよりもだ。他国の者に言うのが筋違いだというのは、重々承知の上で頼みがある』
頼み? なんだろう??
『他にもこの通信用の魔道具があるならば、どうか救援をお願いしたい。我々は現在、魔族に襲撃を受けているんだ!!』
通話をしている今も、リベルトさんの背後では彼の仲間らしきエルフたちが激しい戦闘を繰り広げている。
おおっ、すごい。飛び回っていた氷の鳥を弓で射抜いた。やっぱりエルフといえば、弓の精密射撃よね!!
――っと、それどころじゃなかった。
「わ、分かりました! ちょっと待ってください!!」
たしか“支援”って項目があったはず……あっ、“支援”のアイコンが選べるようになっている! よし、これを使えばいいのね!
「初回無料一〇連ガチャ? アイテムを推しの英雄たちに送ろう?」
『ガチャを回しますか?』との問いにイエスで答える。すると突然、大きな宝箱を両手に抱えた可愛い猫がスキップをしながら画面中央にやってきた。
もちろん、この時も画面の端っこでは誰かの血しぶきが舞っている。ちょっと……いや、あまりにも不釣り合いな演出だ……。
やがて派手なドラムロール音が鳴り響きはじめた。
元気いっぱいの猫が宝箱をヨイショ、と開ける。
箱の中からはやたら派手な虹色の光が溢れ出し、画面を埋め尽くしていった。
あれれ? これに似た演出、他のゲームでも見たことがあるぞ――!?
「これってもしかして……高レアリティ確定演出ッ!?」
1
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる