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第1章 悪役令嬢、日本へ
1-1 婚約破棄ついでに世界を追放されました。
しおりを挟む「レイカ=グランデ=ファスティア様。これがどういう事か……分かりますわよね?」
「……はぁ、そういうこと。はいはい、りょーかい。ふふふっ、これでやっと私は晴れてこの馬鹿王子の婚約者としての立場から解放されるってわけね?」
実家である公爵家の屋敷で息抜きのティータイムをしていたレイカは、婚約者であるサーディス王子に突然呼び出された。しかも婚姻用の正装をして教会に来い、と。
遂に結婚する意志を固めてくれたのかと喜び勇み、以前から仕立てておいた純白のドレスに身を包んでノコノコとやってきた結果がこれである。
少しでも王子を信じた結果がこれとは、と鈍い頭痛がレイカを襲う。
というわけでレイカは今、ファスティア王国の王城の隣りに建造されているこの教会にやってきていた。
国教でもある女神教の総本山でもあるこの教会はファスティア大聖堂とも呼ばれ、煌びやかな装飾をされた白く美しい建造物としても有名だ。そして世界中から多くの参拝者が訪れる聖地でもある。
「女神像の見守るこの祭壇で、最愛の人と永遠の愛を誓い合うのが小さい頃からの夢だったんだけどなぁ……あーぁ。私の場所、盗られちゃったみたいね」
何度もそのシーンを夢想したその場所――婚約者である王子の隣り――には、自分ではない女が我が物顔で立っている。
彼女は世界中にある女神教会、そこのトップである教皇の娘。
神の執行代理人として、民からの絶大な人気を誇る聖女サマでもある。
「公爵令嬢という立場はともかく、王子にとって私みたいに口煩い婚約者よりよっぽどいい女なんでしょうね。まったく、聖女サマの腰に馴れ馴れしく手を回しちゃってまぁ。……相変わらず節操のない王子サマだこと」
王子との婚約を決めた筈の国王陛下でさえ、それを見咎めもしない。
ここに居る中でレイカの味方なのは壁際で兵に剣を向けられて拘束されている、彼女の実父であるグランデ公爵ぐらいだろう。
「それだけではありませんのよ、レイカ様?」
「そうだ! 貴様は長年ボクのことを騙していたそうじゃないか! この、穢らわしい魔女め!!」
聖女の言葉に被せるようにして王子が唾を飛ばし、レイカを罵るような言葉を投げかける。その態度はもう、彼女のことを愛していたとはとても思えない。
何を以って騙していたというのか……それはレイカにも何となく察することが出来た。
たしかに王子には内緒にしていたことはある。
しかしそれは勝手な行為ではなく、公爵である彼女の父、さらには他でもない国王陛下との相談の上で決定したことだったはず。
陛下を差し置いてレイカのみを悪者と罵るその浅慮さに、レイカの頭痛は加速度的に酷くなっていった。
「……はぁ。まさかここまで馬鹿だったとは」
「なっ、なんだとっ!? 貴様、ボクを愚弄しやがったな!?」
――普段から馬鹿だと思っていたけど、こんなにも頭の中がオメデタイだなんて。本当にコイツは、王子としていったい何を学んできたんだろう。
そんなことを考えながら、この件の責任者であり、彼の親である国王をジト目で見つめるレイカ。
そもそも、レイカのことを嘘つき呼ばわりする王子であるが、彼は自分のことを相当棚に上げている。
彼は普段から婚約者であるレイカを放ったらかしにした挙句、自身は公務や勉強もせず、他の貴族令嬢やメイドと遊びまくっていたのだから。
ちなみにその間、レイカは王妃教育として礼儀作法やこの国の内政、果ては外交についてまで幼い頃から真面目に学び続けてきた。とてもではないが、王子に彼女を悪く言える義理は無い。
「当然、ボクとの婚約も解消して貰うからな! それで良いですよね、父上っ!?」
「……むぅ。次期国王となるお前がそう言うのなら、仕方があるまいな」
この親にしてこの子あり、であった。
いくら次期国王だからとはいえ、そこは現国王としてしっかりと諫めなくてはならないシーンである。
あまり子に恵まれず、最愛であった王妃も早くに亡くしてしまった影響で子育てを失敗してしまったのかもしれない。
だからといって、決して許されるものでもないが。
そしてそれを許せなかったのは、彼女の親であるグランデ公爵も同様であった。
「お待ちください陛下っ!! わ、私たち公爵家が……いえ。我が娘が小さい頃から、どれだけ苦労してこの国の為に生きてきたと思っておられるのですか!! この娘はっ、このレイカは……王家の為に身を捧げておったのですぞ!! それを貴方たちはっ!!」
遂に我慢ならなくなったのか、自らの立場が更に危うくなることも顧みず、レイカを庇うように国王に訴えるグランデ公爵。
彼こそがレイカのことを一番近くで見守ってきたのだ。
彼女の文字通り血の滲むような努力、国民すべてを包み込むような優しさ、己の青春とこれからの人生全てを懸けた献身を全て踏み躙るような行為を許すことなど、親として出来るわけがない。
父の必死な姿を見たレイカは泣きそうになる感情を押し殺し、震える口を開いた。
「……いいのですよ、父上。これはある意味、将来の伴侶となるはずであった私が彼をキチンと導けなかった、私の責任でもあります。その咎は甘んじて受けましょう」
「なんだとぉ~!? さっきからボクのことを「レイカ様の仰る通りですわ」言いたい放題……え? せ、聖女!?」
激昂しレイカに食って掛かろうとするが、台詞の途中で聖女に割り込まれる王子。
しかし彼を気にした様子もなく、やや演技がかったような口調で言葉を続けた。
「これからは、ワタクシがサーディス王子を導きますわ。それにレイカ様――いいえ、この世に混沌をもたらす魔女よ。神の声を聞く教皇様の命に従い、聖女であるこのワタクシが貴女を追放いたします」
この瞬間、教会のステンドグラスから差し込む神々しい光のカーテンが彼女を照らす。
それはまるで女神が直々に語りかけているかのように錯覚するほどだった。
その場にいた人間は恐怖すら感じるほどの威圧感を感じ、レイカ以外の全員が跪いた。
――そう、それは国王でさえも。
「ははっ、追放ですって? えぇ、いいわよ。国から追い出したいのならお好きなようにしなさいよ。まったく、このクダラナイ人生にも疲れたわ。――殺しなさい」
王妃となり王を隣りで支え、民を富ませ、国を発展させるために生きてきた彼女にもプライドがある。
今以上に酷い辱めを受けるのであれば、いっそのこと高潔な志を持ったまま最期を迎えたいのだろう。
強い意志を込めて、キッと鋭い眼差しを聖女と元婚約者たちに向けるレイカ。
「ふふふっ……ワタクシは神の執行代理人なのですよ? たった一人のゴミの為にこの手を汚すなんて、ありえませんわ。――その代わり、この神の御力を以って貴女を排除させていただきます」
聖女はそう告げると、持っていた杖に力を込める。すると突然、大聖堂に嵐が巻き起こり始めた。
それは恐ろしいほどの魔力の奔流であり、魔女と蔑まれたレイカでさえ脅威に感じるほどだ。
「なによ、これ。なんなのよ、その力は……答えなさい、聖女!!」
しかしレイカのその驚きの声に答えることはなく、聖女は恐ろしい笑顔を浮かべる。
皆が彼女のその姿に慄く中、聖女の力が遂に臨界を迎えたようだ。
聖女はチャージされた杖をレイカに向け、別れの言葉を告げる。
「それでは、魔女よ。――お元気でね?」
「なっ……!!」
――バシュン!!
杖の先端から飛び出した巨大な光の玉がレイカを襲う。続けて目が眩むほどの閃光を放ち――弾けた。
「お、おい。彼女は何処へ行った!?」
「消え……た?」
「なんと偉大な力……!! これぞ次期王の妻に相応しい!!」
大聖堂を包む光の奔流が収まり、人々が新しい王妃候補に歓声を上げ始めた時には――レイカの存在は、この世界から完全に消滅してしまった。
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