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第3章 悪役令嬢、日本を満喫する
3-5 翔琉の初体験。
しおりを挟むまったくもって、俺らしくない。
だけど今更、吐いた言葉は飲み込めなかった。
「もしよかったら、この後に食事でも行きませんか」
俺が自分から女性をこんな風にあからさまなセリフで誘うなんて、生まれて初めてだ。
思い出すだけでも、恥ずかしくて顔が熱くなってくる。
「ふふ、本当にご無理しなくて良かったんですよ?」
「いや……そんなことは……」
う、マズい。
逆にレイカさんに気を遣わせてしまった。
お詫びを兼ねて食事になんて誘ってみたけど、これは明らかにデートのお誘いだ。
だけど彼女は笑顔で「喜んで」と応えてくれた。
普通なら下心を警戒されるか、無駄に恋愛感情を意識されるかのどっちかなのに。
レイカさんは今まで出逢ったことのないタイプの女性だ。
もちろん、彼女みたいに見た目の良い女性は居た。
……でも、俺に近付くようなのは俺の内面なんて殆ど見ていなかった。
『思ってたのと違う』
『勉強してないで遊びに行こうよ』
『貴方といてもつまんない』
自分は最初から何も変わってなんかいないのに、そんな事を言って去っていく。
俺にとって趣味や楽しみとは、研究や勉強だった。
だが誰も俺のそんな考えを理解しようとしてくれる女性は、今まで誰一人として居なかった。
……いや、これは多分俺が悪いんだと思う。
付き合っておいて、相手を楽しませようともせず、自分のやりたいことばかり。
理解しようともせず、興味も向けなかったのは俺の方。
これでは嫌われて当然だった。
でもレイカさんは違った。
医者の仕事に熱中する俺の事を、素晴らしいと褒めてくれた。
彼女は医療についての理解も、尊敬もしている。
それも上辺ばかりじゃない。
あれは人の命を救う事の難しさを身をもって知っているようだった。
もしかしたら彼女も過去に、何かあったのかもしれない。
この前に俺の勤め先であった、勉強会の時だってそうだ。俺からあれだけ質問責めにされたら嫌だっただろう。
それでも嫌な顔ひとつせずにひとつひとつ、真摯に答えてくれた。
その場で分からないことは、曖昧に誤魔化すこともしなかった。
逆に勉強会が終わった後には目をキラキラとさせて、時間を忘れて積極的に質問してくれた。
あんなこと、本当に初めてだったんだ。
だから、俺も彼女に興味が湧いた。
今日も偶々見掛けて、嬉しくなって、思わず話し掛けてしまった。
向こうも気さくに応じてくれて……俺はまた調子に乗って、気付けば……彼女を食事へ誘っていた。
「レイカさんは何か、苦手な食べ物はありますか?」
食事には誘ってはみたものの、彼女の事はまだ知らないことだらけだ。
医者の付き合いもあって、この辺の食事処のほとんどは網羅しているつもりだし、たいていの好みに合わせてセッティングできる自信はある。
……嫌々でも先輩の食事について行っていて本当に良かった。
「そうですね~、泥ナメクジの踊り食いなんかはちょっと……」
「え?」
まさかの回答。
ど、泥ナメクジ……??
ナメクジって、あのヌメヌメしているアレ?
ポカンとしている俺を見て、しまったという顔になるレイカさん。
慌てて「昔に異国で食べたのがトラウマで……!」と誤魔化していたが……彼女は本当に海外に住んでいたのかもしれない。
苗字で呼ばれ慣れていないとか、少し日本の常識から外れた考えをすることがある。
でもそれが余計に俺の好奇心をくすぐってくる。
もっともっと、彼女と話がしたい。
彼女のことを知りたい、研究したい。
……駄目だ駄目だ、どんどん彼女から目が離せなくなっていく。
結局彼女は大抵の物は食べられるという事だったので、俺は駅近のビルにある創作料理の店に行くことにした。
ここは落ち着いた雰囲気で、料理も大将が和洋中を取り合わせた逸品揃いだし、お酒も豊富にある。
「えへへ。私、とっても楽しみです!!」
「……良かった」
本心からのキラキラとした眩しいくらいの笑顔。
『自分のこの手で、レイカさんをもっと笑顔にさせたい』
気付けば俺は、心からそう思うようになっていた。
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