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剣の章
♠5 憧れの男の子
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紅莉がこんなイタイ性格になってしまったのは、彼女の家庭環境が一因している。
彼女は一人っ子で、両親と三人で暮らし。
母は若く、紅莉と同じく美しい見た目をしている。
二人並べば、美人姉妹だと持て囃されるだろう。
父にとって、自慢の妻と娘だった。
だが、この母親こそが彼女の性格を歪ませた原因であった。
彼女はいわゆる、ヒステリー気質だったのである。
母は娘のやることに対して、ことある毎に厳しく叱っていた。
しかしその躾が誰かに非難されたことは一度もない。
なぜならそれは、どの家庭でも日常的に言われている「勉強をしなさい」や「親の言うことは聞きなさい」といった類のことだったから。
しつけの一環と言われればそれまでだし、暴力を振られるといったこともなかった。
ただ、紅莉の母の悪い点を挙げるとするならば、それは言い方だったのだろう。
基本的に出てくる言葉は、ただ「やりなさい」という命令口調がメインで、どうして勉強をしなければならないのか、といった「なぜ」「どうして」を娘に説明しなかったことである。
加えて、言い出しっぺである母本人はそう言った姿勢をほとんど見せなかった。
彼女自身がそうして育ったことが一つの原因だったのかもしれない。
ともかく、紅莉に勉強を教えることもしなかったし、努力をして何かを成そうという手本も見せたことがなかった。
要するに、何も手本にならない大人。ただ口煩いことをキーキー喋る人間。
そんな部分しか映らなかったのである。
幼い紅莉はただ「やらなければ叱られる」「だからやらなくては」といった思考を刷り込まれていく。それが繰り返されていくうちに、彼女の脳は『ただ言われたことをこなしていれば良いのだ』と覚えてしまった。
その結果、自分から何かを思考する癖がつかず、ただ言われたことをやるだけの機械人間が生まれてしまったのだ。
こうなってくると、学校においても家庭と同じ生活を繰り返すようになってくる。
自分からは考えず、行動もしない。ただ教師が言うことを聞き、こなすだけ。
まぁ、その点のみで言えば、紅莉は優秀な生徒だったのだろう。
文句も言わず、課題やテストはキチンとこなしていたのだから。
しかしクラスメイトとの交流は減っていく一方だった。
自分からは進んで話し掛けもしない。話を作れないのだから、当然である。
十六歳にもなれば、ある程度人と違っていても許容することを覚える。
ウザいほどのキャラ、というわけでもない彼女は『クラスで何となく浮いている存在』に留まっていた。
しかし小学校時代は、そうもいかなかった。
紅莉は同じクラスの女子から虐められるようになったのだ。
自分と同じ性質ではないものをより本能的に拒絶する年頃では、紅莉は格好の的だった。
最初は無視だった。グループを作る授業で、誰も話を聞いてくれなくなった。
次は教科書の落書き。その次は上履きを隠された。その次は――
そんな紅莉を救ったのが、今も昔もイケメンである、悠真君だった。
「悠真は私のヒーローだもん。あの時から、ずっと」
当時から人気者だった悠真の正義のひと声は絶大で、あれだけ紅莉が「やめて」と抗議してもやめなかった悪戯が、ピタリと収まったのだ。
幼いながらに、紅莉は恋心を抱いた。いや、崇拝と言っても良かったかもしれない。
それからというもの、紅莉は常に悠真の影を追うようになっていった。
「はぁ、悠真君……」
色褪せない記憶。
否、記憶よりも数倍美化された悠真を思い浮かべ、至福の表情を浮かべる紅莉。
妄想に夢中になっていた彼女は、背後から近寄る人物に全く気が付いていなかった。
「ん、俺のこと呼んだ?」
「ひゃっ!?」
彼女は一人っ子で、両親と三人で暮らし。
母は若く、紅莉と同じく美しい見た目をしている。
二人並べば、美人姉妹だと持て囃されるだろう。
父にとって、自慢の妻と娘だった。
だが、この母親こそが彼女の性格を歪ませた原因であった。
彼女はいわゆる、ヒステリー気質だったのである。
母は娘のやることに対して、ことある毎に厳しく叱っていた。
しかしその躾が誰かに非難されたことは一度もない。
なぜならそれは、どの家庭でも日常的に言われている「勉強をしなさい」や「親の言うことは聞きなさい」といった類のことだったから。
しつけの一環と言われればそれまでだし、暴力を振られるといったこともなかった。
ただ、紅莉の母の悪い点を挙げるとするならば、それは言い方だったのだろう。
基本的に出てくる言葉は、ただ「やりなさい」という命令口調がメインで、どうして勉強をしなければならないのか、といった「なぜ」「どうして」を娘に説明しなかったことである。
加えて、言い出しっぺである母本人はそう言った姿勢をほとんど見せなかった。
彼女自身がそうして育ったことが一つの原因だったのかもしれない。
ともかく、紅莉に勉強を教えることもしなかったし、努力をして何かを成そうという手本も見せたことがなかった。
要するに、何も手本にならない大人。ただ口煩いことをキーキー喋る人間。
そんな部分しか映らなかったのである。
幼い紅莉はただ「やらなければ叱られる」「だからやらなくては」といった思考を刷り込まれていく。それが繰り返されていくうちに、彼女の脳は『ただ言われたことをこなしていれば良いのだ』と覚えてしまった。
その結果、自分から何かを思考する癖がつかず、ただ言われたことをやるだけの機械人間が生まれてしまったのだ。
こうなってくると、学校においても家庭と同じ生活を繰り返すようになってくる。
自分からは考えず、行動もしない。ただ教師が言うことを聞き、こなすだけ。
まぁ、その点のみで言えば、紅莉は優秀な生徒だったのだろう。
文句も言わず、課題やテストはキチンとこなしていたのだから。
しかしクラスメイトとの交流は減っていく一方だった。
自分からは進んで話し掛けもしない。話を作れないのだから、当然である。
十六歳にもなれば、ある程度人と違っていても許容することを覚える。
ウザいほどのキャラ、というわけでもない彼女は『クラスで何となく浮いている存在』に留まっていた。
しかし小学校時代は、そうもいかなかった。
紅莉は同じクラスの女子から虐められるようになったのだ。
自分と同じ性質ではないものをより本能的に拒絶する年頃では、紅莉は格好の的だった。
最初は無視だった。グループを作る授業で、誰も話を聞いてくれなくなった。
次は教科書の落書き。その次は上履きを隠された。その次は――
そんな紅莉を救ったのが、今も昔もイケメンである、悠真君だった。
「悠真は私のヒーローだもん。あの時から、ずっと」
当時から人気者だった悠真の正義のひと声は絶大で、あれだけ紅莉が「やめて」と抗議してもやめなかった悪戯が、ピタリと収まったのだ。
幼いながらに、紅莉は恋心を抱いた。いや、崇拝と言っても良かったかもしれない。
それからというもの、紅莉は常に悠真の影を追うようになっていった。
「はぁ、悠真君……」
色褪せない記憶。
否、記憶よりも数倍美化された悠真を思い浮かべ、至福の表情を浮かべる紅莉。
妄想に夢中になっていた彼女は、背後から近寄る人物に全く気が付いていなかった。
「ん、俺のこと呼んだ?」
「ひゃっ!?」
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