透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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剣の章

♠18 火傷顔の男

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「おい、もうそろそろ良いか? 空気読むのも限界だぞ、こっちは」

「「あっ……」」

 声のした方を見れば、家主と見られる男性が立っていた。

 カジノのディーラーが着るようなベストを纏っている。見た目は三十代ぐらいだろうか。顎髭を蓄えているせいで若干老けて見えるが、話し口調と皺の無い肌艶などからすれば四十は越えていないと思われる。

 それよりも悠真が気になったのは、顔面の右半分が爛れた火傷の痕で覆われていたことだった。


「待たせたのはこちらだし、それに関しては申し訳ないと思うが。ここは人ん家だからな?」

 悠真が火傷の痕から咄嗟に目線を外したことには気にした様子はなかった。その代わり、自分の家の前でイチャつかれたことが苛立たしいようだ。


「す、すみません……」
「あぁ、もういい。それよりも、さっさと入れ。なんだか話が長くなりそうだからな」

 ギロ、と紅莉の方を見てから、火傷の男はくるっと身をひるがえした。


「な、なぁ。あの人が紅莉の知り合い、なのか?」
「そうだよ。ちょっと気難しいけれど、良い人だから」

 紅莉は笑顔を絶やすことなく、男に続いて庭園の方へと歩いていく。
 置いて行かれるわけにもいかず、悠真も彼女の後について白薔薇のアーチを潜った。


「そっちの彼は初めてだよな」
「え? あ、はい。初めまして、白鳥悠真といいます。紅莉と同じく、河口高校の一年です」

 薔薇の庭園を歩きながら、簡単に自己紹介を済ませる。

 いったい誰が手入れをしているのだろうか、棘のある茎も見栄え良く丁寧に剪定されていた。

 花には詳しくないが、庭一面に生えているこれらを世話するには手がかかるだろう、というのは想像できる。もしかしたら庭師や使用人でも雇っているのだろうか。もしかしたら本物のメイドが見えるのかもしれない。

 品のあるワインレッドの薔薇を眺めながら、悠真は優雅に水やりをするメイド服の美女を想像していた。


観月みづき洋一よういちだ。それよりも俺の家に入るにあたって、幾つかルールがあるから、覚えておいてほしい」
「ルール、ですか……?」

 思っていた以上に簡素な自己紹介だったが、それに突っ込むわけにもいかない。
 それよりも彼の言葉を遮ってしまうと何だかマズそうだと、直感が告げている。聞き漏らすことの無いように、より意識して耳を向けた。


「我が家は防犯の為に色々とがある」

 仕掛けと言われ、悠真の頭にクエッションマークが浮かぶ。
 だが洋一は詳しい説明を付け加えることなく、そのまま話を続けた。


「家主が許可した場所以外には行くな。歩くな、触るな。これが守れないのであれば……」

 洋一は立ち止まり、自身の足元にあった仔猫大の庭石を片手で軽々と拾う。
 そして先ほど悠真が間近で見ていた、ワインレッドの薔薇が生えている根元にスッと放り投げた。


「うわっ!?」

 石が地面に落ちるや否や。どこからともなくボウガンらしき矢がビュン、と飛翔してきた。


「こういうことになるからな」
「ちょ、これって危な過ぎるんじゃ……」


 地面に刺さっているボウガンの矢を指差しながら、悠真が震えた声で抗議する。
 もしかしたら悠真がこれに刺さっていたかもしれないのだ。悪戯なんかじゃ済まされない。


「俺は警告したからな。何かあっても、警察を呼べないと思え」
「悠真君、ここは洋一さんに従って? 本当に危ないから……」

 紅莉はそう言うと、こっそりと鞄の中にあるスマホを悠真に見せる。
 何事かと思えば、画面には圏外と表示されていた。


「うぇ!? ドラマの中だけじゃなかったのか、そういうの……」
「本当は違法なんだろうけどね。意外にもネットで買えたりするらしいよ……」
「マジかよ……そこまでするか、普通?」

 どうやらここには、電波を妨害するジャミング装置まであるらしい。
 ということは。洋一の言うように何かあっても、誰かに助けを求めることができない。

 状況を理解すればするほど、自分の頬が耳の方へと引き攣っていくのを感じる。

 しかしまぁ紅莉の言うように、素直に従っておいた方が良いだろう。一体何が、あの神経質そうな火傷男を怒らせてしまうか、まだ分からない。

 アンティークでありそうな重厚な木製扉を抜け、館の中へと入る。
 玄関ホールは洋風の造りになっており、靴を脱ぐようなスペースはなかった。
 代わりに真っ赤な絨毯が出迎えてくれている。


「あの、この絨毯は通っても?」

 そう思ったらつい、聞いてしまった。
 言ってしまってからやっちまったと思ったが、気付いた時にはもう手遅れだった。

 少し前を進んでいた洋一と紅莉が同時に振り返り、二人とも同じような顔を悠真に向けた。


 ……これ以上、余計なことは何も言うまい。

 悠真は口をギュッと堅くつぐむのであった。
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