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剣の章
♠20 変化の兆し
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「どうしてよ? 洋一さんだって本を奪われたら困るでしょう? ちょっとは協力してよ」
「馬鹿なことを言うな! 俺には、禍星の子とは無関係な妹が居るんだぞ!? そんな危ないことに首を突っ込むわけにはいかないだろうが」
「あー、そういえば汐音ちゃんが居たかぁ……」
怒鳴る洋一にちっともビビる様子もなく、むしろ納得した様子の紅莉は次のお菓子に手を伸ばした。
今度は愛知県の特産品であるウナギが練り込まれたパイである。
袋を開け、バリボリと齧り始めた。細かくなった欠片がポロポロと高級そうなソファーに散らばっていく。
「だいたい俺とお前の間柄は兎も角、彼とは初対面なんだ。そう簡単に信用できるわけがないだろうが!」
「相変わらず用心深いなぁ。悠真君は私の大事な人なんだから大丈夫だって……」
「(俺が、紅莉の大事な人……? それってどういう――)」
「相手が誰だろうと、お断りだ!! 帰ってくれ! 俺は妹を護るので精一杯なんだよ。頼むからこれ以上、俺の負担を増やさないでくれ!」
そこまで言うと洋一はガバッと立ち上がり、部屋の扉を指差した。つまりは帰れ、ということなんだろう。
悠真は「どうするんだよ、これ」といった視線を、隣りでマイペースを貫き続ける少女に送る。
紅莉もさすがに「これ以上なにを言っても無駄」と判断したのか、つまらなさそうに鼻で息を吐いた。
「分かった。無理言ってゴメンね?」
「……分かったのなら、それでいい。すまん、俺には余裕が無いんだ」
言い過ぎたと思ったのか、洋一は頭を掻き毟りながら謝った。
「いいよ。汐音ちゃんが大事なのは、私も知ってるから。それじゃ……」
「あ、あぁ。菓子なら好きなだけ持っていってくれて構わないから。……悠真もすまない。こちらも命が掛かっているからこそ、俺は家族を護らなくてはならないんだ……」
「え? あっ……あぁ、はい」
ここは折れるしかない。迷惑を掛けているのはこちらの方なのだから。
仕方なく悠真と紅莉は立ち上がり、帰り支度を始める。
当然のように紅莉は机の上にあったお菓子を片っ端から、持って来ていたカバンの中に突っ込んでいた。
「(紅莉ってこんなにがめつい奴だったっけか……?)」
「悠真、コイツには注意しろよ」
「え?」
部屋から退室しようとした悠真の腕を、洋一が掴んで引き留めた。
そして彼の耳元で、紅莉には聞こえないよう、小声で注意をした。
「影を奪われるというのは、いわば自分の片割れを失うようなものだ。理性だとか、自制心だとか、そういうリミッターが外れることがあるらしい。君自身もどうなるかは分からないが、その……」
「分かりました。心に留めておきます。ありがとうございました」
「あぁ……」
洋一はそのまま掴んでいた悠真の左手をチラ、と見た。
「……幸運を祈る」
「あ、はい……」
意味ありげな言葉含みをする彼の言葉に、悠真は同じように曖昧な返事をする。
握る力がギュッと強められた。それはまるで「くれぐれも」という強調の意があるようにも思えた。
少し痛む左手首を擦りながら、応接間の扉を閉める。
さて、帰るか……と、重い足取りで歩き始めたのだが。
「お、おい紅莉! 何処へ行くんだよ」
彼女が向かっているのは、玄関ホールの方では無かった。
「馬鹿なことを言うな! 俺には、禍星の子とは無関係な妹が居るんだぞ!? そんな危ないことに首を突っ込むわけにはいかないだろうが」
「あー、そういえば汐音ちゃんが居たかぁ……」
怒鳴る洋一にちっともビビる様子もなく、むしろ納得した様子の紅莉は次のお菓子に手を伸ばした。
今度は愛知県の特産品であるウナギが練り込まれたパイである。
袋を開け、バリボリと齧り始めた。細かくなった欠片がポロポロと高級そうなソファーに散らばっていく。
「だいたい俺とお前の間柄は兎も角、彼とは初対面なんだ。そう簡単に信用できるわけがないだろうが!」
「相変わらず用心深いなぁ。悠真君は私の大事な人なんだから大丈夫だって……」
「(俺が、紅莉の大事な人……? それってどういう――)」
「相手が誰だろうと、お断りだ!! 帰ってくれ! 俺は妹を護るので精一杯なんだよ。頼むからこれ以上、俺の負担を増やさないでくれ!」
そこまで言うと洋一はガバッと立ち上がり、部屋の扉を指差した。つまりは帰れ、ということなんだろう。
悠真は「どうするんだよ、これ」といった視線を、隣りでマイペースを貫き続ける少女に送る。
紅莉もさすがに「これ以上なにを言っても無駄」と判断したのか、つまらなさそうに鼻で息を吐いた。
「分かった。無理言ってゴメンね?」
「……分かったのなら、それでいい。すまん、俺には余裕が無いんだ」
言い過ぎたと思ったのか、洋一は頭を掻き毟りながら謝った。
「いいよ。汐音ちゃんが大事なのは、私も知ってるから。それじゃ……」
「あ、あぁ。菓子なら好きなだけ持っていってくれて構わないから。……悠真もすまない。こちらも命が掛かっているからこそ、俺は家族を護らなくてはならないんだ……」
「え? あっ……あぁ、はい」
ここは折れるしかない。迷惑を掛けているのはこちらの方なのだから。
仕方なく悠真と紅莉は立ち上がり、帰り支度を始める。
当然のように紅莉は机の上にあったお菓子を片っ端から、持って来ていたカバンの中に突っ込んでいた。
「(紅莉ってこんなにがめつい奴だったっけか……?)」
「悠真、コイツには注意しろよ」
「え?」
部屋から退室しようとした悠真の腕を、洋一が掴んで引き留めた。
そして彼の耳元で、紅莉には聞こえないよう、小声で注意をした。
「影を奪われるというのは、いわば自分の片割れを失うようなものだ。理性だとか、自制心だとか、そういうリミッターが外れることがあるらしい。君自身もどうなるかは分からないが、その……」
「分かりました。心に留めておきます。ありがとうございました」
「あぁ……」
洋一はそのまま掴んでいた悠真の左手をチラ、と見た。
「……幸運を祈る」
「あ、はい……」
意味ありげな言葉含みをする彼の言葉に、悠真は同じように曖昧な返事をする。
握る力がギュッと強められた。それはまるで「くれぐれも」という強調の意があるようにも思えた。
少し痛む左手首を擦りながら、応接間の扉を閉める。
さて、帰るか……と、重い足取りで歩き始めたのだが。
「お、おい紅莉! 何処へ行くんだよ」
彼女が向かっているのは、玄関ホールの方では無かった。
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