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杖の章
♣6 偉大なる巫女
しおりを挟む「事の始まりは、ある心の優しい巫女の思い付きだった――」
遥かなる昔、農村に住まう一人の巫女が居た。
ある年、疫病や日照りによる不作が続き、巫女の村にも多くの死人が出てしまった。
当時は農業や医学は進んでいない。
為す術がなかった巫女は家族や村人をどうにか救いたいと、縋る思いで天に祈り始めた。
彼女は天啓を受けた。――呪いで民を救え、と。
ただの偶然か、それとも本当に能力を授かったのか。
それは定かではないが、巫女は呪いをすることで民を導き始めた。
「最初は試行錯誤の連続だった。動物の骨を用いた占いや、大掛かりな祈祷、鏡を使った儀式など、様々な方法を思い付いては実行し、そして板に書き留めたんだ」
それはいわば、一つの実験ノートとも言えた。
一部は上手くいったのだろう。
いつしか実験が術となり、呪いは呪術となった。
村人たちは巫女を崇め、やがて彼女の噂は全国へと広まっていく。
「だけど巫女は人間であって神ではない。いつかは死んだ」
その巫女の死後、大量に呪術の方法が書かれていた板は人の手に渡った。
あの巫女の秘儀が書かれているのだ。誰しもがその手法を研究し、どうにか己も実現させてやろうとして、次々に手が加えられていく。
そうして長い時の中で、実験は幾度となく繰り返され、失敗し、研鑽されていった。
「もちろん、それは平坦な道では無かったみたいだね。いつしか媒体は板から紙へと変わり、本となった。秘匿と保存の為に石板や竹などが使われることもあった。本の名前は何度も変わったし、占いとは全く関係のない学問へと変化するものも生まれた。それでも、彼女の魂は死ぬことなく、受け継がれていったんだ」
その間に世界は目まぐるしく変化していった。
国が興っては消え、新たな指導者が生まれては死んでいく。
学問や技術は革命が起こり、流通の発展で情報は世界を一周した。
交易や通信技術が発展した近代では、海外の手法も取り入れられ、研究者や専門家同士での争いも起きるようになった。
反りが合わなければ幾つもの本に分かれ、または廃れる。時には権力者に焚書されることもあった。
それでも誰かに受け継がれている限り、巫女の本は不死鳥のごとく何度でも生まれ変わった。
「そして今から数十年前。ここ日本で万華鏡と呼ばれる占いの集団が結成された」
彼らはありとあらゆる占いの技術を命、卜、相、の三つに体系化させた。
そこから占星術、タロット、手相、石、呪術、風水の分野を発展させ、協力し合いながらも六種の本が編纂された。
「いやぁ、凄いよね。あのボロボロの板切れだったものがさ。気が遠くなるほどの年月を経て、再び彼らのもとで新たに生まれ変わったんだ。それに……巫女の魂も一緒にね」
幾星霜の想いが奇跡を起こしたのか、六冊の本の内、一冊に魂が宿った。
その本の所持者はカレイドスコープの創立者であり、彼らの中心人物だった女だった。
「その六冊の中でも、彼女が所有していたのはタロットの本だった。そしてその魂の正体が――ボクだ」
「じゃあ、悪魔の愛読書っていうのは……」
前に紅莉が言っていた六冊の本。それを悪魔の愛読書と言っていたはずだ。
そして自分を襲った女が狙っているのも――。
「あはは。その悪魔もボクのことだね。我ながら物騒な名前だよね、まったく」
元はと言えば、人類の為に役立てようとしていたのだから、悪魔というよりは本の精霊といえるだろう。事実、彼はタロットの本の所持者を主と認め、力を貸すようになったのだから。
「ボクは占いで人を導く才を持った二十人の者たちに、アルカナの宿命を授けた」
「それが、禍星の子だったのか……あれ? アルカナって全部で二十一あるんじゃ」
「あぁ、ボクも宿命を背負っているからね。一人だけ仲間外れは寂しいだろう?」
「ってことはマルコも禍星の子なのか……」
以前、紅莉に幾つかカードを見せてもらった時に、たしか「悪魔」のカードもあったはずだ。
カードに描かれていた絵はけっこう恐ろしい絵だったが……。
「まぁ実際、カレイドスコープや禍星の子は良くやってくれたよ。彼らは目立ちすぎず、裏からこの国を救ってきた」
非科学的な一面があるとはいえ、占いの力は絶大だった。
根拠はなくとも、商売、紛争、天候から個人の健康までありとあらゆる事象を言い当てれば信じない方がおかしい。
特に権力を持つ者というのは非常に目が敏い。
カレイドスコープの面々はそれぞれの占いを活かし、すぐに彼らとのコネを築き上げた。必要とあれば自らが政治家の真似事をしたし、会社の経営にも乗り出した。
大きな災害があれば事前、事後を問わず支援もした。
「それでもね。幾ら禍星の子達と言えど、時には救えなかったり、意図せず人を傷付けたりすることもあったんだ。彼らは嘆き、自身を責めた。法律という鎖に縛られ、善意というギロチンに掛けられることもあった」
人間というのは万能じゃない。多少の力を持っていたって、全ての人を幸せにできるわけがない。彼らはそれでもできるだけ多くの人を救おうとしたのだろう。それこそ、最初の巫女のように。
「だからボクは神に代わり、そんな彼らの悩みを聞き、赦したんだ」
マルコはテーブルの上で祈るように手を組み、悲しそうな表情を浮かべた。
どうやら彼なりに苦悩があったみたいだ。
そこで悠真は、さっきマルコが言っていたことが気になった。
「じゃあ、罪を犯すのに手を貸したっていうのは……」
「彼らの力の源はボクだからね。それはつまり、ボクが手を貸したも同然だろう?」
「そんな、マルコは……」
ここまでの話を聞く限り、悠真は彼が悪魔だとはとても思えない。
良くも悪くも、ただ純粋なだけであって。
「だけどね、やはり禍星の子も良い子ばかりじゃなかった」
マルコは少し悲しそうに、自虐的な笑みを浮かべてそう言った。
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