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12 神様は星に名前を

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 無事に住める家を建てることに成功(見た目は豆腐だが)した俺たちは、ベッドの上で朝を迎えていた。


「知っている天井だ……」
「ナユタ様。そのネタはいささか、古すぎるかと」


 いいじゃないか。これは様式美だよ、様式美。異世界に行ったら一度は言ってみたかったんだよ、コレ。


「それより私は、知らない天上に連れて行って欲しいです……」
「アイ……って、駄目だ!! 昨晩はあれだけしただろうが!?」


 そう、俺たちは同じベッドの中に居る。
 昨日は寝床が出来たことと、久しぶりにアルコールが入ったことで盛り上がってしまった。それはもう、天上にも昇るような思いを……


 だが、今日の俺は一味違う。
 この世界の神となった俺は――昨日スッキリして賢者になったとも言う――強靭な理性をもって、この星を豊かにするという役目を果たすのだ!!


「ふふふ。そうはいっても、ナユタ様のアソコは元気になっていますよ? 可愛い顔をしているのに、コッチは凄いんですから……私があんなに鳴かされるなんて」


 ……まぁ、起きるのは少しだけ遅くなっても良いか!!
 なんたって俺は神だしな! がはははは!!!!



「とか言っているうちに、いつの間にか昼になってしまった……」


 昨日この家を作るゼウスポイントを稼ぐためにやっていた、陸上競技。
 その時、実はアイは陸上のユニフォームを着ていたのだ。


 あの薄い生地から漏れるタユンタユンなおっぱいと、艶めかしい生足……ジュルリ。
 俺がそれをチラチラと見ていたのがバレていたらしく……
 その、行為の間にも着てくれたら盛り上がってしまい……


「ナユタ様って、案外ケダモノですよね……」
「すまん……」


 うっかり理性のタガが外れてしまい、彼女に負担を掛けてしまったのは反省すべきだ。いくら彼女が求めてくれるからといって、粗雑に扱っていいわけじゃ無いからな。


 俺はキッチンの水道から聖水を汲んでくると、汗をタオルで拭いていたアイに渡す。
 アイは礼を言いながら両手で受け取ると、コクコクと喉を鳴らしながらそれを一気に飲み干した。
 
 彼女の白く細い喉が妙に色っぽい。そこには俺が昨晩付けた、愛の証の痕が残されている。そして、それはきっと俺にも有るだろう。


 情熱的な彼女と違い、聖母のように優しく微笑む今の彼女をボーっと見つめていると、ふと目が合った。少し照れ臭そうにしながら、「そんなに見ないでください」と恥じらう彼女もまた、愛おしい。


 と、そんな時。アイは何かを思い出したかのように、「あっ」と言った。


「そういえば、ナユタ様」
「ん? なんだ?」


 なんだろう、何か大事なことでも忘れていたのだろうか。


「この世界……というより、星に名前って付けてませんでしたよね?」
「星に、名前……?」


 そういえばこの世界には、まだ名前は無い。
 前の世界だって別に名前は無かった気がするが、星には地球という呼び名はあった。


「はい、せっかくナユタ様がこの星の主になったことですし、名を与えてみては如何でしょうか」


 真っ直ぐに俺の目を見つめながら、アイはそんな提案をしてくる。
 まぁ、星に名前をつけるなんてこと、普通に生活していたらできることじゃないもんな。


「うーん、名前。名前かぁ……」


 とはいえ、俺のネーミングセンスじゃあ、良い案なんて思い浮かばないんだよなぁ。岩しかないから岩星? アイが居るからアイスター?


「あの、もう少し真面目に……」
「いやいや!? 俺はいつも真面目に考えているぞ?? そもそもだな、今の状態のこの星から連想するようなワードがないじゃないか」


 緑に溢れているとか、太陽に近いとか、そういった特徴がこの星には無いのだ。
 いっそ、俺とアイの愛の巣で『アイアイ』とかにするか!?


「……絶対に止めてください。この星を爆破させたくなりますので」
「だ、だよな……」


 うーん、じゃあ俺が自分の事で決めるか?


「那由多の星……いや、その上を行くってことで『ワンダー』なんてどうだ? 惑星ワンダー」
「ワンダー……あぁ、数の単位の不可思議ですか。まぁ、仮の名前としてそれでいきましょうか」


 えぇ~、これで決定じゃ駄目なのか!?
 一〇の六〇乗で那由多だから、それを超えた存在を目指すってことで不可思議(一〇の一二〇乗)にしてみたんだが……。


「奇跡の星、ということでワンダーでも良いと思いますよ。それではナユタ様。今のうちに、ちゃっちゃとアプリで登録しちゃいましょう」


 俺はベッドサイドに置いてあったスマホを手に取る。

 コイツも不思議なスマホだ。
 アイいわく、これは神器扱いで簡単には壊れないらしい。たしかに海に入っても、土にまみれても、鉄球に潰されても壊れなかったしな。
 きっとまだ何か隠された秘密があるに違いない。


「えっと、ゼウスメーカーの設定か? 星の名称を、ワンダーに変更……よし、これでオッケーだな」

『ピロリン♪』

「ん……?」

『ミッション達成! 一万ゼウスポイントをゲットしました!!』


 ミッション?
 俺は何もしていないぞ……?


「あっ、それは隠しミッションですね! デイリーミッションと隠しミッションを達成することで、ゼウスポイントが貰えるんですよ!」


 ひょこっと隣りから現れたアイが、スマホの画面を見ながら説明してくれた。
 ミッションって……なんだか本当にゲームみたいだな……。そういえば今までも勝手にゼウスポイントが増えてたことがあったが、コレのお陰だったのか?


「つまり、今回は星に名前を付けるのがミッション?」
「そうです! こうやって星を育てることで解放される隠されたミッションを、一緒に楽しくこなしていきましょう!」


 へぇ……確かにただ何も考えずにやっていくより、目標があった方がモチベーションにも繋がるもんな。

 どんなミッションがあるのか、探してみるのも楽しそうだし。
 でも、他のミッションって何があるんだろう?


 今回は名前を決めただけでも一つクリアしたってことは、初めて何かを達成すれば良いのか。環境を整えたり、世界レベルを上げたりすればいいのだろうか。

 ん? クリア一覧ってのがあるな。ゲームでもある、実績を解除したってやつか……なになに?


「水源の確保、家の建築、神レベルと世界レベルのアップに……なんで異性との性行為が実績にあるんだよ!?」


 しかもコレに限っては初回クリアに加えて、十回連続クリア、六時間継続クリアといった事細かな項目がある。こんなの、一体誰がどうやってカウントしていたんだよ!?


「てへっ?」
「って、お前かよ!! 怖いわ!! ていうか、なんでそんな事をしているんだよ!?」
「そりゃあ、繁殖行為は生命活動においても最重要項目ですし……頑張ってクリアしましょうね?」
「……ノーとは言えない自分が恥ずかしい」


 そっちのミッション達成はともかく、他のミッションはクリアしたい。ゼウスポイントは幾らあっても多すぎることは無いし、スローライフの為にはまだまだ不足していることも多い。


「あと喫緊で必要なのは……やっぱり食料だよなぁ」
「そうですね。今のところこの星に存在する生命体は私たちだけですが、将来的にはここで生活する民ができるとなると……」
「だよなぁ……」


 全てをデリバリーで賄うのはあまりに現実的じゃない。
 だからここで農業が出来るようになればいいのだが……。


「農業なんて知識も経験も無いんだよなぁ」
「ナユタ様! それならいい方法があります!」
「うん? 良い方法? またハイスペックなアイが手取り足取り教えてくれるのか?」


 しかしアイはフルフルと首を振ると、俺のスマホを指差した。



「新たに農業のエキスパートを創造クリエイトしましょう!!」





 ◇現在のデータ◇
 日付:三日目

 神レベル:Ⅱ
 世界レベル:Ⅱ
 身体データ:身体能力レベルⅣ
 環境:デフォルトモード(二六℃、晴れ、空気正常)【残り二八日】
 設備:噴水型水源、水力発電、豆腐ハウス
 人:アイ
 所持物:スマホ、スーツ、買い物袋、鞄
 ゼウスポイント:八万→一〇万pt


 To_be_continued....




















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