1 / 21
第1話 地球は宇宙人に支配されました。
しおりを挟む~北関東第二ダンジョン・地下二十層~
「まったく。ゴブリンにビビるなんて、情けないお猿さんですね」
心無い暴言と共に、俺の背中へ強烈な衝撃が走る。
グヘッと情けない声を出しながら、俺は頭からズザーと地面にダイブした。
「いってぇな、何すんだよ!」
グルリと振り向くと、こちらを見下ろしている少女と目が合った。
蹴飛ばした犯人は、エプロンドレスを着たメイド型アンドロイドだ。
胸の前で腕を組んでいるのだが、そこに膨らみは一切無い。そして丈の短いスカートからは、彼女の髪色と同じ青色の下着がチラチラと見えていた。
「それに俺は猿じゃねぇ、ナオトだって言ってんだろ」
「黙りなさい。機械人形の下着で発情するなんて、猿で十分です!」
「ぐっ……!」
機械のように整った顔(機械なのだが)から向けられる視線が、更に鋭くなる。
嫌悪感を丸出しにしやがって。アンドロイドならパンツも感情も隠しとけ、まったく。
「……それにパンツを見たのは、不可抗力だっつの」
ガン見? それはしました、ハイ。
「ヒルダ、そこまでにしなさい。あまり虐めるとナオトが可哀想だわ」
メイドに注意の声を上げたのは、銀色の鎧装束に身を包んだ長身の美少女だ。
彼女が金色の長髪をかき上げると、人間離れした長細い耳がチラりと見えた。もう片方の手には、二メートルを超える巨大な戦鎚が握られている。
まるで俺を助けに現れた勇者のよう。
だが決して油断をしてはいけない。こいつは、地球を襲った侵略者なのだ。
「ヴァニラお嬢様……ああ、我が主はなんてお優しいのでしょう。おい、猿。いつまで地面に這いつくばっているのですか」
「……いつか痛い目に遭わせてやるからな」
従うのは癪だが、今はそうも言っていられない。緑色のゴブリンたちがギャアギャアと叫びながら、棍棒を片手に目の前まで迫ってきているのだ。
「悪いが、俺も殺されたくないんでな! うおぉぉおお!」
俺は相棒である金属バットを握りしめ、ゴブリンの群れへと突撃していった。
◇
二年ほど前まで、俺はただの高校生だった。家族や友人もいたと思う。
言い方が少し曖昧なのは、過去の記憶があやふやだからだ。
宇宙人が現れた瞬間、俺たち人類の生活は崩れ去った。
男女の性別を統一され、記憶も消されて。ごく僅かな人数を除いて、地球にいた何十億といた人々は、奴らの用意した施設でコールドスリープにされてしまった。
そして俺は“選ばれた側”だ。
もちろん、良い意味じゃない。
運悪くメス星人(♀しかいないこと、Mess=混乱をもたらす者という意味で名づけられた)たちの目に留まったせいで、苦しい奴隷生活を送る羽目になった。
俺の飼い主となったのは二人の女。
美しい見た目で容赦なく敵を殺す、メス星人のヴァニラ。
もうひとりが人工的に作られた毒舌メイドのヒルダ。
地球人の価値観を持たない彼女たちに、俺は毎日のように振り回されている。
今回のダンジョン攻略だってそうだ。
こいつらはダンジョンボスを倒すことで得られる資源を回収したいらしいのだが、やり方がとにかくエグい。
こいつらメス星人は俺たち地球人を引き連れ、無理やりモンスターと戦わせる。そしてその様子を中継して、自分たちの娯楽にしてやがるんだ。
「ぷぷっ。なんですか、その腰の引けたダサい攻撃は!」
ヒルダのカメラ機能が搭載された茶色い瞳が、俺の戦闘風景を絶えず捉え続けている。
その映像は宇宙船へ中継され、メス星人がリアルタイムで視聴しているそうだ。
「うるせぇクソメイド! 気が散るだろうが!」
俺の戦闘スタイルは野球戦法だ。ゴブリンたちの頭を目掛け、特別製の金属バットをフルスイングする。
クリーンヒットしたゴブリンたちは、次々と遠くへ吹き飛んでいった。
よし、連続ホームランだ。
(最初の頃こそ、殺すことに躊躇いがあったんだけどなぁ)
でも今はもう慣れた。
というか、やらなきゃこっちが殺されるから、マジで。
「はぁ、はぁ……疲れた」
なんとか無傷で倒せたものの、全身が汗と土まみれだ。黒い前髪がベッタリと額に貼り付いて気持ちが悪い。
ゴブリン程度では後れを取らなくなったとはいえ、さすがに大群はキツかったなぁ。少なくとも二十匹は居たんじゃないか?
バットに付いた緑色の液体を払い落としながら、戦闘を撮影していたヒルダの元へと戻る。
すると彼女は、ニタニタとした笑みを浮かべながら、持っていたタブレットの画面をこちらに向けた。
<ゴブリン相手に苦戦し過ぎじゃない?>
<ちょwあの数に五分ww>
<汗くっさww>
くっ、ライブ配信を見ている視聴者のコメントか。宇宙人のくせに草なんて生やしやがって。いったい誰が日本のネタを……。
「ふふっ。こういうときは『ざーこ、ざーこ』って言うんでしたっけ?」
「やっぱてめぇか! あのなぁ、これでも最初の頃より倍以上は早くなっ――」
――ドオオォォン。
俺の言葉は途中で遮られ、頑丈なはずのダンジョンが縦に揺れた。
もちろん、自然災害の地震ではない。これは“彼女”が起こしたのだ。
「こっちは終わったわよ、ヒルダ」
腰まで伸びるブロンドの髪を優雅に揺らしながら、ヴァニラがこちらへ戻ってきた。
いや、待てまて。彼女の方にもモンスターがうじゃうじゃといたはずだ。それもゴブリンより数段強い、ロックゴーレムの大群が。
「さすがです、ヴァニラお嬢様! 頑丈なゴーレムも、お嬢様の前では紙くず同然でしたね」
ヒルダの言うように、ヴァニラが立ち去った後には砂利しか残っていない。
しかも彼女が戦い始めたのは、俺がゴブリンの相手をしている最中だった。実際の戦闘時間は五分も掛からなかったと思う。
「……化け物かよ、マジで」
こっちは泥まみれだってのに、ヴァニラは汗ひとつかいていなかった。
彼女の持つ戦鎚は、見た目の数倍以上に重いはずなんだが。
(それをあの細腕で振り回すって、いったいどれだけの馬鹿力なんだよ)
素早い動きで敵を翻弄し、どんなに硬いモンスターも一振りで圧壊する。
まさに戦場の女王。一人戦車。美人で強いとかマジで反則。
あとおっぱいがでかい。ハンマーを振り上げる度にブルンブルン震えてる。眼福。いつもありがとうございます。
「……? ナオト、どうかした?」
「いけません、お嬢様。変態を見ていると馬鹿が移ります」
目敏いクソメイドが、俺とヴァニラの間に立ち塞がった。
危ない危ない。卑猥な目で見ていることがバレたら、ヒルダに殺されるところだった。
「相変わらず仲が良いわね、貴方たち……」
バチバチと殺意を交わらせる俺たちを、戦鎚を肩に担いだヴァニラが見つめる。やめろ、微笑ましい顔でこっちを見るんじゃない。
「ふふっ、でもここからは気は引き締めてね? 今日こそ、このダンジョンを制覇するわよ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった
ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。
悪役貴族がアキラに話しかける。
「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」
アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。
ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
元商社マンの俺、異世界と日本を行き来できるチートをゲットしたので、のんびり貿易商でも始めます~現代の便利グッズは異世界では最強でした~
黒崎隼人
ファンタジー
「もう限界だ……」
過労で商社を辞めた俺、白石悠斗(28)が次に目覚めた場所は、魔物が闊歩する異世界だった!?
絶体絶命のピンチに発現したのは、現代日本と異世界を自由に行き来できる【往還の門】と、なんでも収納できる【次元倉庫】というとんでもないチートスキル!
「これ、最強すぎないか?」
試しにコンビニのレトルトカレーを村人に振る舞えば「神の食べ物!」と崇められ、百均のカッターナイフが高級品として売れる始末。
元商社マンの知識と現代日本の物資を武器に、俺は異世界で商売を始めることを決意する。
食文化、技術、物流――全てが未発達なこの世界で、現代知識は無双の力を発揮する!
辺境の村から成り上がり、やがては世界経済を、そして二つの世界の運命をも動かしていく。
元サラリーマンの、異世界成り上がり交易ファンタジー、ここに開店!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる