宇宙からの侵略者と食堂はじめました。地球の激ウマご飯で宇宙人の様子が…?

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
10 / 21

第10話 星人の姫と英雄の娘

しおりを挟む

 銀髪女はヒルダの怯えた表情を見て、嘲笑あざわらうように鼻で笑う。

(誰だ? どこかで見たことがあるような……)

 しかしどうにも思い出せない。
 こんなに美人で、胸元の大きく空いたラバースーツを着た女なんて、絶対に忘れないと思うんだが。

 この頭の奥で、何かが引っかかっているような感覚はなんなんだろう?

 そんな俺の疑問をよそに、シルヴィアと呼ばれた女はカツカツとヒールの音を鳴らしながら店内を闊歩かっぽする。
 やがて彼女はヒルダの前で足を止めると、腕組みをして仁王立ちした。


「どけっ。地球人とやらはどこにいる」
「きゃっ!?」

(あの野郎!?)

 不意に肩を押されたヒルダはバランスを崩し、倒れそうになった。

 俺は慌ててカウンターから飛び出し、震えるヒルダの肩を抱き寄せる。そしてシルヴィアの前に立ち、射殺すようににらみつけた。


「ほう、同胞をたぶらかしているのは貴様か。しかし我を前にしておくさぬとは、恐れの知らぬ馬鹿犬よ」
「馬鹿犬……? ははは。俺が犬なら、アンタは見境なく威嚇いかくする気性の荒い雌猫か?」
「――ふっ。口だけは達者のようだな」

 俺の軽口に動じる様子もなく、ゴミでも見るかのような目で見下ろしてくる。そのアイスブルーの瞳には、わずかな熱も帯びぬ極寒の冷たさを感じた。

 客たちは俺たちのやり取りを見て、遠巻きにざわつき始める。中には面白い見せ物だと言わんばかりに、携帯端末で撮影を始める者もいた。


「貴様はいつまで、その薄汚い手で我が同胞に触れている」

(うおっ!?)

 シルヴィアは怒声と共に腕を振りかぶると、俺の顔面に勢いよくビンタをしてきた。

 まるで鞭のようにしなやかに伸びた白い腕。その拳は俺の頬を正確に捉えていた。

 バチンッと痛々しい音が響き渡ると、店内にどよめきが起こった。


「……なぜ止める、ヴァニラ」

 シルヴィアの手は俺には届かなかった。代わりにヴァニラが彼女の手首を直前で掴んで、止めてくれていた。

「ナオトやヒルダは私の大切な友人です。手を出すのはやめてください」

 ヴァニラはシルヴィアを鋭い目つきで睨みつける。しかし彼女の視線を物ともせず、涼しい顔で受け止めた。

「……フンッ、我に盾突くとは生意気な。親の威光は我には通じぬぞ」
「挑発には乗りませんよ。ここは私の店でもあります。貴女こそこの場を荒らさないで」

(ヴァニラ、助かった!)

 今にも一触即発といった雰囲気に、俺はヒルダの手を引いてカウンター内へと避難した。


(とりあえずヒルダを厨房に入れておくか。客も一旦避難してもらって……)

 このままだと、客たちに被害が及ぶかもしれないからな。よしっ、と気合を入れ直して再び前を向くと――。

「おい、貴様」
「うおっ!?」

 いつの間に近づいたのか、シルヴィアがすぐ目の前まで来ていた。

「お前の作る料理とやらはコレか?」
「……何が言いたいんだよ?」
「こんな貧相な料理に、どいつもはしゃぎおって」

 シルヴィアは呆れた様子で、カウンター席に残っていたカレーを見下ろす。
 そして細長い人差し指でスッとすくうと、真っ赤な舌でペロリと舐め取った。


「ふっ……」

 彼女の赤い舌と、蠱惑こわく的に微笑む口元から目が離せない。不覚にも鼓動が高鳴ってしまうほど、なまめかしく美しい仕草だった。

 だが――。

不味まずい」

 シルヴィアの右手が唐突にテーブルへと振り払われる。飛ばされたカレー皿が、ガシャーンと大きな音を立てて割れた。
 俺は突然のことに、頭が真っ白になった。


「おい、何てことしやがるんだ!?」

 さすがにこれには、俺もブチ切れた。だがその怒りはすぐに驚愕きょうがくへと変わる。

 シルヴィアは右手に『黒い炎』をまとい、皿の破片ごとカレーを焼き払ってしまった。

(な……なんだアレ!?)

 まるでアニメの世界のような光景に、俺は唖然あぜんとするしかなかった。
 そんな俺を尻目に、シルヴィアはキッと眉を吊り上げて店内をにらみつける。まるで心底軽蔑するような眼差しだった。


「こんな薄っぺらい味に満足するとは……貴様らも随分と落ちぶれたものだな」

 そう言ってシルヴィアは鼻で笑うと、何もない空間から巨大な一本の剣を取り出す。

「我らメス星人が味わった、あの屈辱を思い出せ!」

 ドン、と床に剣を突き刺し、柄尻に両手を乗せる。

「豊かな母星を捨て、感情を放棄し、他惑星を侵略する――どうして誇り高き我らが、このようなはずかしめを受けねばならなかったのか――その理由を答えよ、ヴァニラ!」

(えっ?)

 思わず俺が店内に視線を向けると、そこには顔面蒼白のヴァニラが立っていた。


「――っ。そ、それは……」

 彼女の体は小刻みに震えており、その瞳は恐怖に染まっていた。そして今にも泣き出しそうなほど涙を溜めて下唇を噛み締めていた。

(いったいどうしたんだ……?)

「忘れたとは言わせぬぞ……貴様らが、軍の英雄だった我の母をおとりにし、星を侵略してきた敵から逃げたことを……」

(こいつの母親を犠牲に、メス星人が母星から逃げ出した? いったい何の話だ!?)


「答えろヴァニラ! 我らの使命はなんだ!」
「……ひっ」
「すべてを失ったあの日。我らは復讐を誓った……そうだろう!」

 シルヴィアに怒鳴りつけられた瞬間、ヴァニラは小さな悲鳴を上げておびえてしまった。

 それを見た俺の体は自然と動き出し、咄嗟とっさに彼女の前に立っていた。

(これ以上はやらせねぇぞ……!)


「なんだ、駄犬。邪魔をするなら殺すぞ」

 シルヴィアは剣の切っ先を俺に向け、殺意のこもった目で睨みつけてくる。

「営業の邪魔してんのはお前だろ。店の中で剣を振り回すな、危ねぇだろうが」

 シルヴィアが手にしている大剣は、常に炎が燃え盛っているように見えた。

 そして彼女の瞳の奥からも同じ禍々まがまがしいオーラを感じるのだ。おそらくこれは彼女が持つ特殊な能力か何かなのだろう。


「我には貴様を殺すことなど、造作もない」

 シルヴィアは俺の喉元に剣先を突きつける。少しでも動けば、そのまま突き刺すつもりのようだ。

「なら試してみるか?」

 俺は一歩も動かないまま、シルヴィアを挑発する。

 さっきから冷や汗が止まらない。コイツの殺意に満ちた目を見たら尚更である。だけど――。


「俺だってなぁ、引けない理由があるんだよ」

 メス星人に奪われた自分の家族を取り戻すため、ヴァニラたちや食堂を失うわけにはいかないんだ。

 俺の心情を察したのか、シルヴィアは小さく鼻を鳴らすと剣先を引っ込めた。

 彼女の周囲から禍々しいオーラが消え、徐々に空気がやわらいでいく。

(ふぅ……何とか収まったか)

 俺はほっと胸を撫で下ろし、深く安堵の息を吐いた。

 しかしシルヴィアの鋭い視線が、再び俺を捉えた瞬間。彼女の口が再び開いた。


「ならば、その理由もろとも消し去ってやろう」

 シルヴィアは手に持った剣を軽く振り上げると――店の壁に向けて、勢いよく振り下ろした。

(おいおい!? なにしやがる!)

 そんな俺の心のツッコミもむなしく。剣は食堂の壁を貫通し、大きな風穴を空けた。

「うわああああっ!?」

 バキバキッと木材が割れる音と共に、店内には悲鳴が響き渡る。

(なんて破壊力だよ!?)

 俺は思わず目を覆いたくなった。
 その前にシルヴィアは剣を床に突き刺すと――今度は俺の前に歩み寄り、その華奢な腕で俺の胸元をつかみ上げた。


「なっ……なにをする!?」
「命だけは見逃してやる。だがこのまま我の邪魔をしようというのなら――次は殺す」

 まるで重さを感じさせない動作で、シルヴィアは俺を軽々と持ち上げる。

 そして鼻先が触れそうなほど顔を近づけると――震え上がるほど恐ろしい、獰猛どうもうな笑みを向けてきた。

「う、ぐうっ……」

 彼女の鋭い眼光を目の当たりにして、俺の背筋はゾワっと凍り付いた。この女には絶対に逆らってはいけないと本能が訴えてくる。

 そして彼女は俺の体を雑に放り出すと、再びヴァニラの方に視線を向けた。


「……貴様たちもだ。ヴァニラ、スカーレット。大事な飼い犬を殺されたくなければ、首輪はしっかり絞めておけ」
「――くっ!」
「…………」

 圧倒的な存在感に気圧されそうになる。彼女の瞳の奥に宿った炎は、いまだに燃え続けていたからだ。

 客たちは、恐怖に顔を歪めて逃げるように店を出て行く。そんな様子を見送ると、シルヴィアはクルリときびすを返した。


「ふんっ、きょうめた」

 最後にそれだけ言い残すと、彼女は店から去っていった。

(俺の店が……壊されちまった)

 あとに残されたのは穴の開いた壁に、ボロボロの机や椅子たち。
 それらを見て、俺はただ呆然としていた。

 こうして俺のダンジョン食堂は、開店初日から休業を余儀なくされてしまうのであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。 悪役貴族がアキラに話しかける。 「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」 アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。 ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

処理中です...