創星のレクイエム

有永 ナギサ

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プロローグ

1話 星の祝祭

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 世界には魔法という力が存在した。
 魔法とは無色の力の塊に方向性を示すことで、自身の望む形を具現化するというもの。この力を行使する者を魔法使いと呼ぶのである。ただ魔法は誰でも使えるというわけでもなく、素質がある少数の人間だけ。そのため魔法を行使する魔法使いたちは表舞台に上がらず、世界の裏側で身をひそめることを選んでいったのだ。というのも強すぎる力は畏怖いふの対象となり、いずれ迫害を生む可能性が。ゆえに彼らは身の安全を守るため、魔法という神秘の力を表に漏らさず、隠ぺいしていくことを暗黙の了解にしていた。
 そのかいあって遠い昔から魔法は、表舞台に上がることはなかった。だがその試みは十九世紀始め、一人の男によって破られる。なんとその男はあろうことか魔法の力を使い、とある小国の王位を奪ってみずからの支配下に。そして二年の歳月を経て、ヨーロッパ大陸全土を脅かす大国まで成長させていったのだ。このようなことができたのも彼が世界中の魔法使いを集め、その圧倒的力で国々を滅ぼしていったから。それもそのはずこの時代の武器では、まず魔法という常識離れした力に歯が立たない。いくら軍勢で挑もうと、たった一発の魔法で瞬く間に壊滅状態にさせられるほど。当時の兵士たちには到底、勝ち目などないといっていい。あとここまで勝ち進めてこれたのは、戦力差の他にもう一つ。魔法という初めて目にした未知の力に人々が恐怖し、戦意を喪失したのも大きな要因であろう。
 こうして支配下を次々に拡大していった彼の国であったが、各国が魔法使いを戦力として戦場に投入したことで負け始め、今や滅亡の時が。

「力という名の暴虐ぼうぎゃくの炎がすべてを飲み込んでいく。人の命も、この国も、これまで続いてきた人の世の平穏さえもだ。まったく、ここまでのことを躊躇ちゅうちょなく実現した、自分の狂気が恐ろしいな」

 男は王宮のテラスから、外の様子を感慨深く眺めていた。
 本来なら王宮を取り囲む街々の明かりで、見事な夜景が広がっていたことだろう。しかし男の視界に広がる光景はまさしく地獄そのもの。王宮を取り囲んでいた建物のほとんどが燃えており、その火の手はとどまることをしらない。人々は逃げまどい、いたる所から悲鳴がこだましていた。今この瞬間にも何百、何千といった人々の命が潰えているのだろう。
 突然、爆音が郊外の方から鳴り響いた。それは一回だけでなく、郊外や街中、この王宮内部でも次々と連鎖していく。もはやどこもかしくも、戦場に成り果てているようだ。それもそのはず今この国は、滅亡間近といっていい。各国がこれ以上この国を放置するのは危険だと同盟を結び、連合軍を結成。攻略を開始。さらには不満がつのった傘下の国々のクーデターなどの要因もあり、残った領土はこの首都だけ。今や首都周辺は幾千、幾万の兵士たちと、多くの魔法使いたちに取り囲まれるまでにいたったのである。
 膨れに膨れ上がった連合軍の兵士たちの誰もが、勝利を確信したはずだ。そう、ここに攻め入ったその直後までは。

「サイファス様、このままいけば我が軍の勝利で終わりそうですね。現状敵側の集められた兵士たちや魔法使いは壊滅状態におちいり、敗走を開始しているそうですよ。フフフ、それにしても素晴らしい成果ですね。あなたが生み出した秘術は」

 拍手はくしゅしながら声をかけてくる、食えなさそうな二十代後半の男。東洋人である彼の名前は神代かみしろ時雨しぐれ
 時雨の言う通り連合軍はすでに壊滅状態といっていい。敵の兵士たちは人智を超えた力にことごとく蹂躙じゅうりんされ、逃げ惑うしかない状況。それは今まで両陣営の最大戦力でもあった魔法使いさえも例外ではない。いかなる凄ウデの魔法使いでも、その圧倒的力に瞬く間にひねり潰される始末なのだ。もはや連合軍に勝ち目などなかった。

「自身の魂を一つの恒星こうせいと化し、その輝きをもって世界を浸食する御業みわざ星詠ほしよみ。あれは魔法のようなただの力の塊ではない。自身の願った世界の理、そう、概念で世界ごと塗り潰す秘術だ。ゆえにあれに対抗するには同じく星詠み。みずからの世界の概念で塗り潰すしか勝ち目はない」
「いつ聞いても、バカげた話ですね。力ではなく、世界を生み出そうとするなんて。ただ彼らを見るに、問題は山ほどあるようですが」

 時雨はおかしそうに笑い、そして燃える街中に意味ありげな視線を向けた。

「しかたないさ。そもそも人間が一つの世界を内包するなど、無理がある。よほど力に対する素質がない限り、みずからの星に飲まれるのがオチだ。そう、彼らのように自身の魂が燃え尽きるまで暴走してしまうだろう」

 今こちら側で星詠みを使っている者たちのほとんどが、まともではない。みな途方もない力におぼれ、理性を半場失っているのだ。それはいわば狂気といっていい。あふれ出る力に酔いしれ、破壊衝動のおももくままに暴虐を振りかざす。そこには敵味方など関係ない。みな狂ったように笑いながら、目につくものすべてを破壊し尽くしているのである。

「もはやその点に関しては、目を閉じるほかないな。大半は暴走するが、我らのように星に適合できた者がいるのも事実。ならばなにも問題はない。後は我が悲願を叶えるためにも、この力を広め星をうたう者、創星術師そうせいじゅつしを増やすだけだ」

 サイファスは手を天高くかかげ、こぶしをにぎる。

「今回の計画のようにですか?」
「フッ、この大陸を巻き込んだ一件。星詠みのお披露目として、まったく申し分のない舞台であっただろう? もはやここまでのことをしでかしたんだ。のちの世に魔法だけでなく、星詠みの力も刻み込めたはず」

 この魔法を世間に知らしめ、多くの者たちを巻き込んだ前代未聞の一大事件。なんと国の建国からそのおわりまで、すべてシナリオ通り。つまりこの国が滅亡する今の状況も、初めから仕組まれていたということ。すべては星詠みの力を世界に見せつけるため、連合軍総戦力をこの場所まで集めたのだ。大陸全土をおびかしていた敵を、根絶ねだやしにできる機会をエサに。

「さあ、これからが忙しくなってくるな。この出来事を足掛かりに種をばらまかなければならんのだから」

 サイファスは途方もない志を胸に、時雨と共に王宮の中へと。
今回の一見はいわば序章にすぎない。そう、ここからが本番。自身の悲願を叶えるために行動を開始しなければ。なので今まで世話になったこの王宮から、立ち去ろうとする。
 実はこの王座のあるから、外につながる逃走経路を用意していたのだ。サイファスは時雨を後ろに引きつれ、その隠し通路へ向かおうと。だが歩みはこの王座の間に駆け込んできた一人の女性の声で止められてしまった。

「サイファス様、なにか弁解はありますか?」
「ソフィアか。フッ、弁解などあるわけがない。この惨状、すべては我が狙い通りのものゆえな」

 愛用の槍をかまえ敵意のまなざしを向けてくるソフィアに、不敵な笑みを浮かべただ事実を告げる。
 正義感が強そうな若い女性の名は、ソフィア・レイヴァース。彼女はこの国を建国する前からずっと共に戦ってきた、古参メンバーの一人。そのウデはサイファスが従える戦力の中で一、二を争う実力者であった。

「――そうですか……。あなたがなにを企んでいるのかは知りません。ですがその悲願、決して見過ごせない恐ろしいものであることは確か。ならばここでその火種ごと断ち切りましょう。それがあなたに力を貸してしまった私の、せめてもの罪滅ぼし! お覚悟!」

 ソフィアは手を横に振りかざし、意を込めて告げた。
 そして槍を振りかぶり、サイファス目掛けて突貫。身体強化の魔法を使っているためか、その勢いはもはや放たれた弾丸のごとく。しかもそこに彼女がこれまで磨いてきた槍さばきもあって、一閃の精度はまさに必中の代物だ。その一撃必殺の槍撃はサイファスを完全にとらえ、またたく間につらぬこうと。

「させんよ!」
「ッ!?」

 だがその槍の一撃は不発に。なぜならソフィア目掛けて、膨大なベクトルの塊といっていいものが襲ってきたのだ。
 巻き込まれれば、あまりの威力に五体が吹き飛んでもおかしくない攻撃。ゆえにソフィアはその衝撃波を回避しようと即座に踏みとどまり、後方へと跳んだ。

「シャーロット・レーヴェンガルト! 邪魔する気ですか!?」

 サイファスの後方から歩いてきたのは、どこか禍々まがまがしさをただよわせる若い女性、シャーロット・レーヴェンガルト。彼女はサイファスの右腕といっても過言ではない女である。

「ソフィア、わるいがここでサイファスを討たせるわけにはいかんのだよ。さあ、いけ、サイファス。ここは我が食い止めといてやろう」

 シャーロットは両腕をバッと横に広げ、立ちふさがりながら宣言を。

「では、任せたぞ、シャーロット」

 ソフィアの相手は彼女に任せ、サイファスは玉座の後ろにある避難用の隠し通路へと歩みだす。
 するとすれ違いざまに、シャーロットが意味ありげに問うてきた。

「ああ、その代わり例の件、わかっているな」
「無論だ。我が軍の創星術師と、これまで蓄えてきたもの全部くれてやろう。好きに使うがいい」
「ハハハ、では遠慮なく頂くとしよう。それらがあれば、新たに組織を創設できる。見ているがいい、サイファス。この一件を足掛かりに、いづれこの世界をレーヴェンガルトのものにしてみせる」

 シャーロットは手を高く掲げ、世界を手中におさめるといわんばかりに拳をにぎりしめた。野心に満ちあふれた笑みを浮かべながら。
 彼女は何事もずば抜けて優秀な女。魔法のウデもそうだが指揮官としての才も申し分なく、策略をめぐらせることに関しては他の追随ついずいを許さないほど。サイファスがここまで計画を円滑に進められたのも、彼女が副官として力を貸してくれたおかげなのだ。
 そんなシャーロットゆえ、世界を支配するぐらいのことはやって見せるだろう。それほどまでに彼女の手腕しゅわん末恐すえおそろしいのだから。

「待ちなさい! サイファス!」

 ソフィアはサイファスの歩みを止めようとするが、そこにシャーロットが立ちふさがる。

「ここを通りたければ、我を倒してみろ! ソフィア!」
「シャーロット! 邪魔をしないで!」

 互いに殺意をぶつけ合い、ソフィアとシャーロットはともに自身の星をうたう。そう、彼女たちもサイファス同様、星詠みを使える創星術師。ゆえに今この場で、星詠みによる死闘が繰り広げられるのだ。

「時雨。お前はどうするのだ」

 今だ後ろについてくる神代時雨に、最後の確認をとる。
 ソフィア・レイヴァースは牙を。シャーロット・レーヴェンガルトは独立を。ならば彼女たちと同じく最古参の彼はどういう選択をするのか。

「もうしばらくあなた様のお傍にいさせてもらいますよ。すべては我が探究心がおもむくままに」

 時雨はうやうやしくお辞儀し、敬服の意志を示す。

「好きにするがいい」

 そしてもう振り返らずに前へ進む。ずっとサイファスが来るのを待っている、銀色の髪のまだ幼い少女のもとへと。
 少女は脱出経路の入口で、ひざをつきながら手を組み、いのりを捧げていた。

「さあ、行こうか、我が女神リルよ。すべては最果てにある悲願のために」
「はい、父さん……」

 声をかけると少女は静かに立ち上がり、サイファスの方を振り返る。彼女のはかなげな瞳に映るのは果たして希望か絶望か。それとも。
 こうしてサイファス・フォルトナーは、再び行動を開始するのであった。


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