創星のレクイエム

有永 ナギサ

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序章 神代の依頼

4話 陣と奈月

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「陣、起きなさい。もうすぐ目的の場所に着くわよ」

 もはや聞きなれた少女の声に、陣は目を開けた。
 どうやら昔の夢を見ていたようだ。とある少女との出会いの夢を。

「おっ、やっと、到着か」

 ヘリの窓から外の様子を見ると、そこには黒く染まった上空が。今陣たちが乗っているヘリは真夜中の空を飛び、目的の場所へと向かっていた。
 陣のすぐ隣には一人の少女が座っている。彼女はさっきから本を読んでいたらしい。今もピンときれいに背筋を伸ばしながら、ページをめくっていた。

「もう、アタシを差し置いて爆睡するなんて、どういう了見なのかしら?」

 陣が起きたことを確認し、少女はパタンと本を閉じる。そしてジト目で陣の方をのぞき込んできた。
 長いきれいな黒髪の少女。陣と同い年の彼女の名前は神代かみしろ奈月なつき。顔が非常に整っているため誰もが美人と認めるほどの美少女で、物怖じせずしっかり者の性格から実年齢よりも大人びて見えてしまう。
 神代とは今や経済界の頂点に君臨する大財閥、クロノスを取り仕切る事で有名な一族。その姓が与える影響力は計り知れず、もはや国や軍を動かせるほどであり世界中の人々から畏怖いふされていた。
 クロノスの表向きは、わりとまっとうな大財閥。主に魔法による技術革新を目指す財閥で、エネルギー工学や軍事産業、魔法使いや創星術師そうせいじゅつしによる人材派遣など様々な分野に手を出し、覇権をにぎっているのだ。しかし裏の顔は魔道に染まりきった、危険極まりない集団。星詠ほしよみを求道するため多くの研究所を所持し、倫理に反した実験さえも行っている。しかも素材やデータ集め、害となす者の排除といった過程で手を汚すことをいとわなかった。
 こうなるのも神代の家系が、きっすいの創星術師の家系ゆえ。すべては自分たちの悲願を達成するため、日々魔道の求道にはげんでいるのだ。

「今はもう夜中の0時。こんな時間に呼び出されたんだから、眠くても仕方ないだろ。はぁぁ……、出来ればもう少しだけ、仮眠を取りたかったんだがな。せっかくなつかしい夢を見れていたのにさ」

 大きくあくびしながら言い返す。
 これからハードな仕事が待っている分、少し居眠りしてもバチは当たらないはずだ。

「なつかしい夢?」
「ああ、奈月と初めて会った時の夢だ。あの一件以来奈月の付き人になって、神代側に身を寄せることになったんだよな。そして様々な技術をたたき込まれ、今ではクロノスの優秀なエージェント的存在に。ほんと、人生はなにがあるかわからんねー」

 腕を組みながら、感慨深くうなずく。
 六年前奈月と初めて会ったあの日。あれから陣は奈月の付き人として、神代の血族に世話になることになったのだ。
 当然世界の頂点に君臨する大財閥を取り仕切る神代家のご息女の付き人となれば、それ相応の人材でなくてはならない。ゆえに向こうに行ってすぐ様々技術をたたき込まれ、彼女の付き人にふさわしいよう鍛え上げられたのである。そしてのちに陣があまりの逸材であったため、付き人だけではもったいないとクロノスのエージェント的仕事をこなすまでに。

「――昔か……。はぁ……、今思い返しても、初めのころはひどかったわね……。陣があそこまでアタシの純情を踏みにじるだなんて……」

 奈月は両手頭を抱えながら、ぐったりうなだれる。
 その嘆きようはまるでトラウマレベルとでもいいたそうであった。

「オレそんなことしたか?」
「ええ、完膚無かんぷなきままにね。だって陣を誘った時のアタシはひそかに期待してたのよ。陣は付き人としての最低限の知識や力を身につけるとき、苦労するはず。そこへアタシが手伝うことで、頼りになるお姉さん気分を味わえるんじゃないかって。うまくいけばこの先、陣がすごく慕ってくれるいい子になってたかもしれなかったし」

 あの時の奈月は陣の素性をまったく知らなかった。どこぞの頭のネジが外れかけた一般人としか、見ていなかったのである。なので奈月の付き人になるための様々な技術をマスターするのに、当然苦戦すると踏んでいたらしい。だがその見通しは、すぐさま裏切られることとなった。

「だというのになに! 付き人として連れて帰ってみたら、常人をはるかに凌駕する魔法のウデって! しかも教えられたことはすぐ吸収して、またたく間にアタシを追い抜いていくとか! それで素性を聞けば、あの四条家の次期当主として選ばれた過去を持ってるし! もう全然普通じゃなさすぎて、当初の淡い期待も主人の面目も丸潰れ! 危うく寝込みそうになったわ!」

 奈月はビシッと指を陣に突き付け、悔しそうに言い放つ。
 そう、陣のスペックはもはや規格外。魔法だけでなく、他のことの才能もずば抜けていたのだ。ゆえに魔法はもちろん武術や勉学もすぐさま身に着けてしまい、一カ月もしないうちに奈月の付き人として認められたのである。もはやその時には、主人である奈月を軽く追い越していたのはいうまでもない。

「ははは、オレが先生役をする時もあったもんな。だけど逆によかっただろ。オレみたいな優秀な人間が付き人でいることで、奈月の株は大上がり。幼くして神代に名をはせていったんだからさ。さぞ、鼻が高かったというか、実際かなり自慢してたよな。アタシの付き人はすごい奴だって」
「まあ、あれだけ優秀だったんだから、自慢したくもなるわよ。みんなが陣の才能を見て、自分の陣営に引き入れようとスカウトしまくってたこともあったしなおさらね。それにしてもよく最後まで、アタシのところに残ってくれたわよね。スカウトしてきた人たちが出した待遇は破のもの。子供のアタシには到底用意できない見返りばかりだったというのに、それでも首を振り続けたなんて」

 奈月はほおに手を当てながら、小首をかしげてくる。
 神代家はその世界の立ち位置上血筋同士の争いがすさまじく、優秀な人材は自分らのもとに集め少しでも優位に立つというのが当たり前なのだ。そのため優秀な陣をどこも呼び込もうと、スカウトする数が尋常ではなかったといっていい。中には次期当主候補といった、すごい人間まで勧誘してくる始末。その見返りは奈月のより比べ物にならないものばかりであったが、陣は最後まで奈月のもとを離れなかったのである。

「当たり前だろ。オレは奈月の付き人として、どこまでもついて行くって約束したんだ。たとえどれだけ好待遇な条件を出されても、心が揺れるはずがない。なんたってオレが仕える主人は神代奈月、ただ一人だけなんだからさ……」
「――陣……」

 陣の心からの言葉に、奈月は感激したようだ。胸元をぎゅっと押さえ、瞳をうるませる。

「――じゃあ、どうして今、その約束が実現されていないのかしらね!」

 だがそれもつかの間、奈月は陣の肩をつかみながら、ジト目を向けてきた。

「いやー、どうやら人の下でいるのが苦手だったらしいんだ。ほら、一人気ままにさすらうのが、まさにオレのスタンスだったわけよ。というかぶっちゃけ奈月の付き人でいるのが飽きた!」

 頭をかきながら、もはや開き直る。
 彼女の言う通り、今の陣は奈月の付き人ではない。少し前に彼女のもとを去り、なんでも屋のようなことをしているのだ。

「飽きた、じゃなーい!?  まさかそんな理由であの約束を破ったというの!? アタシの純情をことごとく踏みにじって、そんなに楽しいのかしら!?」

 奈月は陣の両肩を勢いよく揺さぶりながら、ぷんすか怒りをあらわに。
 彼女の怒る気持ちもわからなくはない。あれだけ彼女の付き人であると宣言しておいて、その果てが飽きたという理由で離れていったのだ。奈月からしてみれば、あの誓いはなんだったのかというもの。少女の大切な思い出が、くすんでしまったのはいうまでもない。

「いやいや、第一あの約束、ブラックにもほどがあるだろ! なんで子供の頃の約束で一生拘束されることになってるんだよ!」
「あー、乙女心が全くわかってない陣のせいで、あのころのきれいな思い出がことごとく崩れ去っていく……。――ふん、もういい。陣なんてしらない!」

 奈月は頭を両手で抱えながら、並々ならぬショックを。そしてウデを組みながら、そっぽを向いてしまう。 
 普段の人前で見せる大人びた彼女からは想像もできないほど、子供じみた態度。なんだかすごくかわいく見えてしまう。
 ただこのまま放っておくわけにもいかないので、機嫌を戻そうとフォローを。

「そうむくれるなよ、お姫様。確かに今のオレは、奈月の付き人じゃない。だけど呼ばれたら、いつでも駆けつけてやる。絶対にな」

 彼女の髪を優しくなでながら、力強く宣言してやる。
 この言葉は機嫌を取りつくろうために言った、でまかせではない。これは四条陣のまぎれもない本音。彼女には今まで見れなかった景色を見せてくれた恩があるのだから。いや、それ以上の理由として、陣は奈月のことを気に入っている。彼女こそ陣の主人にふさわしい人間だと思えるほどに。そのため実際奈月の付き人という名目は捨てているが、陣の心持ち的にはまだ彼女の付き人。奈月が陣の力を必要とすれば、すぐさま駆けつけるつもりだ。その証拠にこれまで何度も彼女の要請に応え、力を貸し続けていた。

「ほんとに?」
「ああ、今だってこうして奈月の手伝いに来てやってるだろ?」
「――わかった。ゆるす……」

 陣の心が伝わったのか、奈月はスカートをぎゅっと両手でにぎりしめながらうなずいてくれる。
 長年一緒にいただけあって、お互いのことはよくわかっているのだ。だから陣が嘘をついていないということを、彼女はすぐわかるのである。

「奈月様、目的地上空に到着しました」

 そんなやりとりをしていると、ヘリのパイロットが状況を伝えてきた。

「お、着いたか。行くぞ、奈月。お仕事の時間だ」
「そうだったわね。夜も遅いし、さっさと片付けちゃいましょう」

 二人して立ち上がり、ヘリのドアの方へと向かう。

「今着陸する場所を探していますので、もうしばらくお待ちください」
「いや、そういうところは奴らに待ち伏せされてる可能性もあるから、このまま行かせてもらうさ。少し高度を下げてくれるだけでいい」

 増援の足止めをしようと、敵があらかじめ待ち伏せている可能性が。なにより着陸する場所を探すのも時間がかかる。陣たちは急いでいるので多少強引だが、正規の方法を使わずそのまま乗り込むべきだろう。

「わかりました」

 陣は高度が下がったのを見計らい、ヘリのドアを開ける。そして奈月に手を差し出した。
 奈月はその陣の手を迷わずとり、オーダーを。

「じゃあ、陣、お願いね」
「了解、お姫様」

 陣はそのまま彼女を引き寄せ、お姫様抱っこしてやる。

「さあ、まずは夜空の遊覧飛行としゃれこむとするか」
「くす、二人っきりしかいない夜空のデート、なかなかロマンチックね! エスコート、がんばってちょうだい!」

 すると奈月はとびっきりの笑顔を向けながら、陣の首に腕を回してしがみついてきた。

「おうよ」

 そんなはしゃぐ奈月に応えるためにも、陣は今だ上空にいるにも関わらずヘリから飛び降りるのであった。



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