創星のレクイエム

有永 ナギサ

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序章 神代の依頼

8話 暴走した創星術師

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 陣と奈月は星葬機構の集団を突破し、廃墟街の奥へと。ただ進めば進むほど次第に空気が重くなっていき、人としての本能がこの先は危険だとうったえかけてくる。しかし陣たちは歩みを止めず進む、ようやく今回のターゲットと接触した。
 ここは十字路のかなり開けた交差点であり、その中央に十五歳ぐらいの少年が。彼をくわしく観察してみると、顔色がわるく瞳が狂気の色に染まっている。さらに薄気味悪く唇をいがませ、笑いをこらえているようだった。

「あれが今回のターゲットみたいね」
「そうみたいだな。オレがいつものようにおわらせてきてやるから、奈月はここで見守っといてくれ」
「陣、頼んだわよ」

 奈月を後方に下がらせ、陣は少年に近づいていく。
 一歩一歩進むにつれて、重苦しい空気が増していくのがわかる。もちろん発生源はあの少年。彼を中心に禍々しいオーラが辺りを浸食しているのだ。
 だが陣はそれがどうしたといわんばかりに近づいていき、軽い口調でたずねた。

「なあ、参考までに一つ聞いていいか? あんたはどうしてそんなものに手を出した? 星詠ほしよみはまさに禁忌中の禁忌。一度その境界を超えれば、戻ってこれなくなる代物だぞ?」
「フッ、誰だって力にはかれるでしょ。星詠みは魔法とはケタ違いの、まさしく神の御業みわざといっていい力。そんな素晴らしい力が少し手を伸ばすだけで使えるというんですから、求めずにいられましょうか?」
「なるほどね。それでどうだ? その力を手に入れてみた感想は?」
「フッ、最高の気分ですよ! 魔法では見えなかった景色が見えるんです! 今の僕の力なら、もはやなんだって出来ると思えてしまうぐらいに! ああ、力があふれ出てくる。これなら断罪者だんざいしゃに選出されても、おかしくないですね!」

 少年は酔いしれているのか、声高らかにかたりだす。

「あぁ、星魔教せいまの方々には感謝しきれないほどです! こんな素晴らしい力とめぐり合わせてくれたのだから! しかもこれから星詠みをきわめていく中で様々なサポートまでしてくれるというんですから、願ったり叶ったりですよ!」

 星魔教という宗教にとって、星詠みとは神の御業として崇める対象そのもの。なので信者たちはその力を尊び、世界に広めようと活動しているのだ。
 なんでも彼らの最終目的は人間が星詠みの最終段階にたどり着き、どういう選択をするのか見届けることらしい。本来ありえない人智を超えた力、星詠み。もはや神の御業みわざといっていい代物ゆえ、その果ては神と同等の力を得られるのではないかと信じられているとかなんとか。
 ゆえに星魔教の信者たちは、自分たちの悲願を叶えるであろう創星術師を増やすため布教活動に励んでいるのだ。しかもただ星詠みを布教するだけでなく、創星術師となった者たちがさらに上の位階を目指せるよう、サポートにも徹しているのであった。

「――はぁ……、歓喜してるところわるいが、あんたに残念なお知らせが二つある。一つは断罪者になんか到底なれないということだ。そこまで暴走してたら、すべてが手遅れ。殲滅対象確定だな」

 そんな少年に、陣はあわれみながらも現実を突きつけてやる。
 なにやら断罪者になる夢を見ているようだが、その願いは決して叶わない。それもそのはず彼は星詠みを制御できておらず、逆に飲み込まれてしまっているのだから。

「暴走? なにを言って……」
「今のあんたは言ってしまえば爆発寸前のだ。その膨れ上がった力を使わずにはいられないだろ? そのうち湧き出る破壊衝動にしたがうまま、魂が燃え尽きるまで破壊を繰り返すことしかできなくなる。ようするに過ぎた力は、己が破滅しか招かないということだ。断罪者のような星詠みを使いこなせる奴らは魔法の素質だったり、魂の度合いがぶっ壊れてるから出来てるだけの話。普通の人間がひとたび星詠みに手を出せば、高確率で飲まれるしかない」

 正気でないのがその証拠。もはや彼の様子から、力に飲まれ理性を半場失いかけているのがわかる。こうなるといずれは力に酔いしれ破壊を繰り返し、自滅するのがオチだろう。
 星詠みは魔法をはるかに凌駕りょうがする力が手に入るが、そのリスクは計り知れない。この力を前に正気を保っていられるのは、よっぽど魔法の素質がある者。または精神力、魂の純度が高い者。よって彼のような普通の人間は、暴走して自滅するしかないのだ。
 それゆえパラダイスロストでは多くの者たちが暴走し、大惨事を起こしたのである。

「そして二つ目のお知らせ。星魔教はたぶんあんたを切ったぞ。やつらは創星術師の道に誘うだけ誘って、見込みがなければすぐに切る連中だ。近くに星魔教の信者の姿が見えないとなると、どうせ次の犠牲者でも探しに向かったんだろ」

 もし少年に少しでも適性があればこの包囲網から抜け出せるよう、星魔教の信者たちが動いていたはず。信者にとって星詠みの適正があった者は、もはや希望そのもの。星魔教の悲願を達成する救世主になりえるかもしれない貴重な人材ゆえ、自分たちがいくら危険な目に合おうとも守り通していただろう。
 だというのにこの少年の周りには、信者らしき人物が一人とさえ見当たらない。本来なら護衛はもちろん、彼を逃がすため星葬機構の包囲網を破る手立てや、逃走経路の確保などいろいろ動いているはずなのだから。それがないということは彼は完全に見捨てられたということにほかならないのだ。

「――そんな、ばかな……」

 真実を知らされ、少年の顔には動揺の色が。

「――あなたたちは自分をどうする気ですか?」

 少年は現実を突きつけられたことで、少し冷静さを取り戻したようだ。警戒しながらも、陣に問うてくる。

「ははは、星葬機構と違って、たっぷり有効活用させてもらうよ。星詠みとはまさに人智を超えた力ゆえに、解き明かすには膨大なデータがいるんだとさ。というわけでさっそく、確保させてもらうぞ」
「クッ、大人しく捕まるとでも? 今の僕には星詠みがある。この力ならあなたたち程度、軽くひねり潰しておわりです!」

 少年は一歩後ずさるも、腕を振りかざし啖呵たんかを切った。

「まっ、抵抗するなら好きにすればいいさ。ただここを切り抜けても星葬機構が絶対に逃がしてくれないぞ? 奴らは暴走した創星術師を殲滅するプロ中のプロ。星魔教の力添えもなしに、やり過ごすことなんてほぼ不可能だ。それならもしかするとまだ助かる見込みのある、クロノスに身がらを押さえられた方がいいと思うが?」

 星葬機構ならばおそらく高確率で仕留めにくるだろう。彼らにとって星詠みに手を出した者は悪そのもの。しかも暴走しているとなれば、被害が拡大する恐れがあるため容赦なく討ちにくるはず。
 これまで幾千の暴走した創星術師を対処してきた包囲網はもちろん、星葬機構の最大戦力の断罪者まで押し寄せてくるのだから、もはや彼に逃げ道はない。手助けがなければ殲滅される未来しかないだろう。
 だが神代かみしろならば、モルモット的な立ち位置で生きながらえるかもしれなかった。

「フッ、問題ありませんよ! 邪魔する者はすべて倒せばいい! そして星詠みを十分使いこなせることを証明できれば、星魔教の方々はもう一度手を差し伸べてくれるはず! ええ! そうですとも! すべてを破壊し尽くし、僕は星詠みを!」

 そんな陣の助言だったが、少年は開き直ったようで戦う意志を示し咆哮ほうこうを。
 彼はもはやすがるかのごとく、自身の星へと同調していた。それゆえ少年の禍々しさはさらに膨れ上がり、狂気へと一直線に。

「――はぁ……、暴走する力に正常な判断ができなくなってやがるな。これはもう完全に手遅れか。仕方ない。そっちがその気なら、力づくで確保させてもらう。覚悟するといい、暴走した創星術師くん」

 話が通じる状態ではないので、すみやかに確保しに行く陣であった。
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