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序章 神代の依頼
11話 星魔教の少女
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陣は少年の手足に拘束具を付ける。
そして持ってきていた注射器を取り出し、少年に打ち込んだ。投与したのは強力な睡眠剤であり、これでしばらくは目を覚まさないだろう。
「よし、捕獲完了っと」
「陣、ご苦労様。あとは彼を例の研究機関に運ぶだけね」
奈月が手をパチパチたたきながら、ねぎらいの言葉を掛けてくる。
「ああ、さっそく回収チームを呼んでと……、ハッ!? 誰だ!?」
陣はすぐさま立ち上がり、後ろを振り返った。
そこには陣たちと同年代ぐらいの少女がいた。見た感じこの少年と同じく一般人のようだ。おそらく彼女もまた星魔教にそそのかされ、この少年と同じようにこの場所に来たのだろう。
「その人から離れて!」
少女は陣たちに敵意を向けてながらさけぶ。
「なんだ、あの子? こんなところにいるということは、通りすがりの一般人じゃないよな?」
「ふむ、微弱だけど星の余波を感じるわね。彼女、今回のターゲットと違い、創星術師としての第一難関である星の安定化に成功してるみたいよ」
奈月は少女を観察し、興味深いことを口に。
「まだ力を完全に隠せてないところを見ると、なりたてか。そりゃー、めでたいねー。これでこの世界にまた一人、正式な創星術師が生まれたというわけだ。それでどうするよ? あの子の身柄も確保するのか?」
「いいえ、彼女にはこのまま星詠みを極めてもらうわ。その方がより高純度のデータを取れるはずだしね。ただこの場所は星葬機構がいるから、彼女を安全なところまで逃がしてあげましょう。そしてどこかの星魔教の教会にでも預ければ、あとは彼らが保護してくれるはず」
暴走しているよりも、星詠みを使いこなせている者の方が得られるデータは多い。なのでここはあえて見逃し、彼女が星詠みを少しでも極めるのを待つというわけだ。
そのためにもまずは彼女をここから逃がさなければならなかった。星葬機構にバレれば彼女は捕まる可能性が非常に高いのだから。あと逃がすだけでなく、少女の今後のためにも星魔教のもとへ送り届けるべきであろう。星詠みを崇める彼らであれば、そのスタート地点に立った彼女を放っておくはずがない。きっと少女が一人前の創星術師になるまで面倒を見続け、それ以降もサポートしてくれるはずだ。
「いいえ、その心配には及びません」
少女のことを考えていると、まだ別の少女の声が。
「あら、あなたは?」
「ワタシはルシア・ローゼンフェルト。星魔教の信者をやっている者です。彼女の身柄は我々星魔教が責任を持って預かり、創星術師として生きていけるよう全力でサポートさせてもらいます」
ルシアと名乗る少女が、丁寧にお辞儀しながら自己紹介を。
彼女は陣たちより一つ年下ぐらいだろうか。輝く金色の髪に少し大人びた雰囲気を持つ、奈月に劣らないぐらいの美少女である。ただどことなく破滅的といった危うい印象を受けてしまうのは気のせいだろうか。
「そう、手間がはぶけたわ。ところで今回の経緯はどういったものなのかしら?」
「そうですね。今回は創星術師になることを希望するお二人に方法を教え、実際になってもらいました。結果一人は安定化に成功したのですが、もう一人が暴走。このまま放っておくわけにもいかないので、昔からよくさせてもらっている神代の方々に連絡を入れ、この場を離れようとしたのです。ただ彼女が暴走した方を放っておけないと、ワタシが目を離した隙に向かわれてしまい、急きょ追いかけてきたというわけです」
実のところ神代と星魔教は、かなり良好な関係といっていい。創星術師を増やし成長させたい星魔教は、さらなる星詠みのデータを求める神代にとってもはや願ったり叶ったりな組織。ゆえに彼らが円滑に目的を達成できるよう、資金や人材、設備などいろいろ援助しているのだ。それゆえ星魔教側はその恩を返すため、いろいろ神代の研究に協力してくれるのであった。
「あなたたちもいろいろと大変ね。創星術師の道に誘うだけでなく、暴走した者の対処や、無事成功した者への手厚いサポートまで。それを慈善活動でやってるというんだから、開いた口がふさがらないわ」
奈月は肩をすくめながら、感想を伝える。
一応口では称賛しているみたいだが、内心呆れ呆れなのがすぐにわかった。
「うふふ、とんでもない。彼らは神にいたる試練に挑戦する、前途有望な開拓者なのです。そんな途方もないことを成し遂げようとする彼らに、手を差し伸ばさずにいられましょうか」
ルシアは祈るように手を合わせ、慈愛に満ちた表情で答える。
それは完全に聖職者の顔だが、その内容が内容だけに少し不気味に見えてしまう。
「――はぁ……、この子もきっすいの星魔教信者のようね……。――まあ、いいわ。それじゃあ、アタシたちはこの暴走した子を連れて帰るわよ」
「はい、よろしくお願いします」
「ルシアさん!?」
少女は少年が連れていかれることに、抗議しようと。
だがルシアは少女の肩に手を置き、優しくさとし始めた。
「残念ですが、彼は神の試練に立つに、力が及ばなかった。だからここでお別れなのです」
「――そんな……」
「彼のことを想うなら、その無念を心に刻み前へ進んであげましょう。それがあなたにできる、彼への唯一の手向け……。それにまだ本当の意味でお別れになるとは限りません。もしかするとお優しい神代の方々が、返してくれるかもしれませんしね」
ルシアは奈月の方に、意味ありげな視線を向けてくる。
クロノスでは彼のような暴走した創星術師を何人も捕まえており、その扱いにも慣れている。今までの研究データから星詠みによる暴走を抑える薬剤なども開発されているらしいので、ぎりぎり理性を取り戻せるかもしれなかった。
「データが取れれば用はないわね。正気に戻れるなら、そのまま返してあげられるわ」
「だそうです。さあ、この別れも神の道に通ずる試練の一つ。星魔教と共に進みましょう」
ルシアは少女の手をとり、やさしくほほえみかけた。
「――わかりました……」
こうしてルシアに言い聞かされ、少女はこの場を去っていった。
「ではこれにてワタシも失礼しますね」」
ルシアは陣たちに一礼して、少女のあとを追う。
「アタシたちもこの場を離れるわよ。ここまで来て断罪者に邪魔されたくないし、なによりもう眠いわ」
奈月が目をこすりながら、提案してくる。
「そうだな。さっさと依頼を完遂させて、帰るとするか」
陣は近くで待機しているであろう、回収チームを無線で呼んだ。あとはこのままヘリに乗ってこの場からおさらばするだけである。
もはや仕事はおわったも同然なので背筋を伸ばし楽にしていると、奈月がふとなにかを思い出したらしい。
「そうそう、また明日も仕事があるから、付き添いよろしくね!」
陣の腕をつかみながら、にっこりほほえんでくる奈月。
「おい、確かに呼ばれたら行くといったが、そう何度も呼び出されるとなると話は別だぞ。それじゃあ、付き人のころと同じだろうが」
「くす、口答えしないの! アタシの中ではまだ陣は付き人なんだから、ご主人様の言うことは聞かないと! ね!」
抗議の言葉に対し、奈月は陣の胸板に手を当ててくる。そして得意げにウィンクをして、無邪気に告げてくるのであった。
そして持ってきていた注射器を取り出し、少年に打ち込んだ。投与したのは強力な睡眠剤であり、これでしばらくは目を覚まさないだろう。
「よし、捕獲完了っと」
「陣、ご苦労様。あとは彼を例の研究機関に運ぶだけね」
奈月が手をパチパチたたきながら、ねぎらいの言葉を掛けてくる。
「ああ、さっそく回収チームを呼んでと……、ハッ!? 誰だ!?」
陣はすぐさま立ち上がり、後ろを振り返った。
そこには陣たちと同年代ぐらいの少女がいた。見た感じこの少年と同じく一般人のようだ。おそらく彼女もまた星魔教にそそのかされ、この少年と同じようにこの場所に来たのだろう。
「その人から離れて!」
少女は陣たちに敵意を向けてながらさけぶ。
「なんだ、あの子? こんなところにいるということは、通りすがりの一般人じゃないよな?」
「ふむ、微弱だけど星の余波を感じるわね。彼女、今回のターゲットと違い、創星術師としての第一難関である星の安定化に成功してるみたいよ」
奈月は少女を観察し、興味深いことを口に。
「まだ力を完全に隠せてないところを見ると、なりたてか。そりゃー、めでたいねー。これでこの世界にまた一人、正式な創星術師が生まれたというわけだ。それでどうするよ? あの子の身柄も確保するのか?」
「いいえ、彼女にはこのまま星詠みを極めてもらうわ。その方がより高純度のデータを取れるはずだしね。ただこの場所は星葬機構がいるから、彼女を安全なところまで逃がしてあげましょう。そしてどこかの星魔教の教会にでも預ければ、あとは彼らが保護してくれるはず」
暴走しているよりも、星詠みを使いこなせている者の方が得られるデータは多い。なのでここはあえて見逃し、彼女が星詠みを少しでも極めるのを待つというわけだ。
そのためにもまずは彼女をここから逃がさなければならなかった。星葬機構にバレれば彼女は捕まる可能性が非常に高いのだから。あと逃がすだけでなく、少女の今後のためにも星魔教のもとへ送り届けるべきであろう。星詠みを崇める彼らであれば、そのスタート地点に立った彼女を放っておくはずがない。きっと少女が一人前の創星術師になるまで面倒を見続け、それ以降もサポートしてくれるはずだ。
「いいえ、その心配には及びません」
少女のことを考えていると、まだ別の少女の声が。
「あら、あなたは?」
「ワタシはルシア・ローゼンフェルト。星魔教の信者をやっている者です。彼女の身柄は我々星魔教が責任を持って預かり、創星術師として生きていけるよう全力でサポートさせてもらいます」
ルシアと名乗る少女が、丁寧にお辞儀しながら自己紹介を。
彼女は陣たちより一つ年下ぐらいだろうか。輝く金色の髪に少し大人びた雰囲気を持つ、奈月に劣らないぐらいの美少女である。ただどことなく破滅的といった危うい印象を受けてしまうのは気のせいだろうか。
「そう、手間がはぶけたわ。ところで今回の経緯はどういったものなのかしら?」
「そうですね。今回は創星術師になることを希望するお二人に方法を教え、実際になってもらいました。結果一人は安定化に成功したのですが、もう一人が暴走。このまま放っておくわけにもいかないので、昔からよくさせてもらっている神代の方々に連絡を入れ、この場を離れようとしたのです。ただ彼女が暴走した方を放っておけないと、ワタシが目を離した隙に向かわれてしまい、急きょ追いかけてきたというわけです」
実のところ神代と星魔教は、かなり良好な関係といっていい。創星術師を増やし成長させたい星魔教は、さらなる星詠みのデータを求める神代にとってもはや願ったり叶ったりな組織。ゆえに彼らが円滑に目的を達成できるよう、資金や人材、設備などいろいろ援助しているのだ。それゆえ星魔教側はその恩を返すため、いろいろ神代の研究に協力してくれるのであった。
「あなたたちもいろいろと大変ね。創星術師の道に誘うだけでなく、暴走した者の対処や、無事成功した者への手厚いサポートまで。それを慈善活動でやってるというんだから、開いた口がふさがらないわ」
奈月は肩をすくめながら、感想を伝える。
一応口では称賛しているみたいだが、内心呆れ呆れなのがすぐにわかった。
「うふふ、とんでもない。彼らは神にいたる試練に挑戦する、前途有望な開拓者なのです。そんな途方もないことを成し遂げようとする彼らに、手を差し伸ばさずにいられましょうか」
ルシアは祈るように手を合わせ、慈愛に満ちた表情で答える。
それは完全に聖職者の顔だが、その内容が内容だけに少し不気味に見えてしまう。
「――はぁ……、この子もきっすいの星魔教信者のようね……。――まあ、いいわ。それじゃあ、アタシたちはこの暴走した子を連れて帰るわよ」
「はい、よろしくお願いします」
「ルシアさん!?」
少女は少年が連れていかれることに、抗議しようと。
だがルシアは少女の肩に手を置き、優しくさとし始めた。
「残念ですが、彼は神の試練に立つに、力が及ばなかった。だからここでお別れなのです」
「――そんな……」
「彼のことを想うなら、その無念を心に刻み前へ進んであげましょう。それがあなたにできる、彼への唯一の手向け……。それにまだ本当の意味でお別れになるとは限りません。もしかするとお優しい神代の方々が、返してくれるかもしれませんしね」
ルシアは奈月の方に、意味ありげな視線を向けてくる。
クロノスでは彼のような暴走した創星術師を何人も捕まえており、その扱いにも慣れている。今までの研究データから星詠みによる暴走を抑える薬剤なども開発されているらしいので、ぎりぎり理性を取り戻せるかもしれなかった。
「データが取れれば用はないわね。正気に戻れるなら、そのまま返してあげられるわ」
「だそうです。さあ、この別れも神の道に通ずる試練の一つ。星魔教と共に進みましょう」
ルシアは少女の手をとり、やさしくほほえみかけた。
「――わかりました……」
こうしてルシアに言い聞かされ、少女はこの場を去っていった。
「ではこれにてワタシも失礼しますね」」
ルシアは陣たちに一礼して、少女のあとを追う。
「アタシたちもこの場を離れるわよ。ここまで来て断罪者に邪魔されたくないし、なによりもう眠いわ」
奈月が目をこすりながら、提案してくる。
「そうだな。さっさと依頼を完遂させて、帰るとするか」
陣は近くで待機しているであろう、回収チームを無線で呼んだ。あとはこのままヘリに乗ってこの場からおさらばするだけである。
もはや仕事はおわったも同然なので背筋を伸ばし楽にしていると、奈月がふとなにかを思い出したらしい。
「そうそう、また明日も仕事があるから、付き添いよろしくね!」
陣の腕をつかみながら、にっこりほほえんでくる奈月。
「おい、確かに呼ばれたら行くといったが、そう何度も呼び出されるとなると話は別だぞ。それじゃあ、付き人のころと同じだろうが」
「くす、口答えしないの! アタシの中ではまだ陣は付き人なんだから、ご主人様の言うことは聞かないと! ね!」
抗議の言葉に対し、奈月は陣の胸板に手を当ててくる。そして得意げにウィンクをして、無邪気に告げてくるのであった。
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