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1章 少女との契約 上
17話 星海学園の学園長
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陣と奈月が来たのは神代特区最大の教育機関、星海学園。この学園はクロノス側から多額の援助を受けているため規模や設備がすごく、もはやセレブ御用達といっていいほど。敷地内には図書館や魔道用の研究棟。さらには生徒用のラウンジや、広い緑豊かな中庭、小規模ながら庭園まで。もはや充実な学園ライフ間違いなしの学園なのであった。
そんな華やかな校舎内を歩いていき、目的の場所である学園長室前までたどり着く。ちなみに現在は春休み中なのであまり学生はおらず、見かけるのは部活や魔道の求道関連にいそしんでいる者たちぐらいであった。
「おじゃまするわよ、栞さん」
奈月に続き学園長室へと入る。中は学園長の席や来客用のソファーなどの高そうな家具が置かれている。ただあちこちにきれいなお花やかわいらしい小物が飾られており、どこか親しみやすい雰囲気がただよっていたといっていい。
「いらっしゃい。奈月さん、陣さん」
学園長室に入ると、一人の若い女性が出迎えてくれた。
非常にのほほんとした彼女の名前は春風栞、二十四歳。その穏やかすぎるオーラから厳格さの欠片もないが、なんと彼女こそこの星海学園の学園長なのだ。
「改めて中等部卒業おめでとう! ふふふ、小さいころからキミたちを見てきた身としては、なんだか感慨深いですねー」
栞は手をポンっと合わせ、まるで自分のことかのように喜んでくれる。
「ははは、そう言われてみたら、栞さんとは結構長い付き合いでしたね」
「姉さんがらみでちょくちょく会ってたものね。しかも本来なら神代特区案件だけの関係だったのに、いつの間にかプライベートでも仲良のいい関係になってるし。これもすべては栞さんの人がらのおかげかしら」
奈月はほおに手を当てながら、不思議そうに首をかしげた。
実は栞とは神楽の手伝いの関係上、昔からよく会っているのだ。しかも仕事だけの間がらではなく、プライベートでもお世話になっているのである。よく学園長室や彼女の自宅に呼ばれ、みなでお茶会を楽しんだりしていたのであった。
「ふふふ、二人ともいい子たちでしたから、ぜひお友達になりたかったんですよねー。気持ちは二人のお姉さん的な」
そしてどこかはしゃぎ気味にウィンクしてくる栞。
「くす、確かに栞さんはアタシたちの保護者みたいな感じね」
彼女はすごく優しい性格もあってか、陣たちのことをいつも気にかけてくれているのだ。なので奈月のその感想は的を射ているといっていい。あまり他者を信じない奈月も、彼女にはわりとなつき信頼していた。
「そういってもらえると光栄ですねー。――そうでした。二人の卒業祝い、まだでしたよね? では、ここでささやかながらパーティーでもしましょうか? 今、お茶とお菓子を用意しますねー」
「栞さん、悪いんだけど、その誘いはまた今度でお願いするわ。今日は神代特区案件で来たの」
いつものように楽しそうにお茶会の準備をしようとする栞を、奈月は申しわけなさそうに呼び止めた。
そう、ここに来たのも今日神楽やスバルに頼まれた案件のためなのだ。
「なるほど、わかりましたー。ではパーティーの方は後日、私の自宅に遊びにきてもらうということにしときましょう。お茶菓子をいっぱい用意しておきますねー」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「ぜひ、行かせてもらいますよ」
「はい、じゃあ、ここからはまじめなお話ということで、こちらにどうぞー」
栞にうながされ、陣と奈月はソファーの方へ腰かける。
栞の方も陣たちと向かいのソファーに座り、込み入った話をする態勢に。
「アタシたちが来たのは、星海学園に入学してくるレイヴァース当主のことよ。今後の対策と星葬機構側の動きについてね」
「その件については、わたしも頭を悩ませているんですよねー。クレハさんは星葬機構の思想にひどくご執心だから、星海学園の運営にいろいろ口を出してきそうなんですよねー。そしたら立場上、彼女の方針にしたがわないといけなくなる。今までならまだ星葬機構のオーダー通りことを進めていると、嘘の報告で適当に誤魔化せたけど、今回ばかりは難しいと思います」
額に手を当て、表情を曇らせる栞。
ここで問題なのは栞が学園長でありながら、星葬機構側の人間であるということ。もし関係がなければそこまでレイヴァースの影響を受けずに済んだが、さすがに自分の組織。しかもその代表者からの言葉となると、もはや無視することなどできないのである。
そもそもの話、なぜ星葬機構側の人間が星海学園の学園長をやっているのか。それは星葬機構の思想に反する星海学園の監視のため。魔法を探究するという本来なら許されないことを、星海学園はあえて推し進めているのだ。星葬機構側からしてみれば言語同断な事案だが、神代や星魔教がバックにつき力を入れている。しかも星葬機構の影響が届きにくい神代特区内にあるということで、いくら潰したくても叶わない。
そこで星海学園を存続するにあたり、星葬機構側の人間を学園長にする条件でしぶしぶ認めたという。これならば学園の状況を把握でき、行き過ぎないよう手綱をにぎられると踏んだわけだ。
「そのクレハって子視察も兼ねて来てるから、栞さんの働きぶりにも目を光らせるはず。だからしばらくは大人しく向こうのいうことを聞くべきだわ。下手に反感を買って、学園長を降ろされたら困るもの」
「そうするしかありませんねー。なんだか胃が痛くなりそうな日々が、続きそうですよー」
栞はこの先のことを考え、がっくりうなだれる。
「というかレイヴァースの当主を入学させるなんて、よく許可しましたね。星魔教側の星海学園に、敵の大将であるレイヴァース当主を踏み入れさすわけにはいかないみたいな感じで、断れそうですが。そうすればこんな事態にならなかったんじゃ」
星海学園は神代特区内にあるので神代側だと思うかもしれないが、実際は星魔教側が経営していた。
今の時代学生は星葬機構のせいで、魔法に対し厳しい制限を受けている。許可されているのは最低限の自己防衛手段だけ。それ以上は学び研究することも、切磋琢磨することも認められていない。そんな今の現状に不満を持ち続けているのが星魔教。彼らは魔法や星詠みを広めようとしている組織なので、今のうちに若い芽を刈り取ろうとするやり方を認めるわけにはいかないのだ。
そこで生まれたのがこの星海学園。これまでのように厳しい制限がなく子供たちに魔法をふれさせ、優秀な魔法使いに育成することをコンセプトにした学園を、星魔教が創設したのである。すべては早いうちから魔道に親しみを覚えさせ、将来有望な創星術師を増やすために。なので学園自体はすべて星魔教の考えにそっており、神代はただその夢の実現に手を貸しているだけに過ぎない。潰そうとする星葬機構から権力で守り、運営を続けられるよう様々なサポートを行う。神代としても創星術師が増えることは、自分たちの魔道の求道に大きく関係するため快く手伝っているのだそうだ。
「一応できましたが、あまり波風を立てたくなかったから止めておいたんですよー。さすがに視察に来た彼女を追い返したら、やましいことがあると見られ今後の学園の立場が悪くなりそうでしょー?」
「今さら険悪もなにもないけど、それが正しかったと思うわ。口実があれば、学園を潰したい星葬機構だもの。その件に付け込んで、攻めてくるのが少し早くなってたかもしれないんだから」
「はい、そういうわけですから、奈月ちゃんが頼みの綱。うまいこと神代の権力を使って、クレハさんの改革案を潰してほしいんですー。これまで通りの星海学園であり続けられるかは、奈月ちゃんにすべてがかかっているぐらいなんですからー」
栞は手を合わせ必死に頼み込んでくる。
彼女ではレイヴァースの言葉にしたがうしかない。だがもともと敵対する奈月ならば問題はない。運営に口出しするレイヴァースに、神代側の人間として抗議すればいいのだ。向こうとしても神代の影響力が強い神代特区内だと、そこまで強く言えないのだから。
「レイヴァースの動向を探るだけでなく、学園の今後をかけて争えと? ――はぁ……、入学早々ハードスケジュールすぎないかしら。――まあ、星海学園に関しては神代も他人事じゃないし、頑張るしかないわね」
やれやれと肩をすくめ、先のことを憂う奈月。
「ありがとう! カーティス神父はもちろん、私も陰ながらサポートするから安心してくださいねー。みんなで団結して、星葬機構から学園を守りましょー! おー!」
奈月の肯定に、栞は心強いと笑顔を咲かせた。そして今後の意気込みを示すためにも、ガッツポーズしながら音頭を取る。もはやこの状況を見て、彼女が星葬機構側の人間だと誰も信じないだろう。
そんな華やかな校舎内を歩いていき、目的の場所である学園長室前までたどり着く。ちなみに現在は春休み中なのであまり学生はおらず、見かけるのは部活や魔道の求道関連にいそしんでいる者たちぐらいであった。
「おじゃまするわよ、栞さん」
奈月に続き学園長室へと入る。中は学園長の席や来客用のソファーなどの高そうな家具が置かれている。ただあちこちにきれいなお花やかわいらしい小物が飾られており、どこか親しみやすい雰囲気がただよっていたといっていい。
「いらっしゃい。奈月さん、陣さん」
学園長室に入ると、一人の若い女性が出迎えてくれた。
非常にのほほんとした彼女の名前は春風栞、二十四歳。その穏やかすぎるオーラから厳格さの欠片もないが、なんと彼女こそこの星海学園の学園長なのだ。
「改めて中等部卒業おめでとう! ふふふ、小さいころからキミたちを見てきた身としては、なんだか感慨深いですねー」
栞は手をポンっと合わせ、まるで自分のことかのように喜んでくれる。
「ははは、そう言われてみたら、栞さんとは結構長い付き合いでしたね」
「姉さんがらみでちょくちょく会ってたものね。しかも本来なら神代特区案件だけの関係だったのに、いつの間にかプライベートでも仲良のいい関係になってるし。これもすべては栞さんの人がらのおかげかしら」
奈月はほおに手を当てながら、不思議そうに首をかしげた。
実は栞とは神楽の手伝いの関係上、昔からよく会っているのだ。しかも仕事だけの間がらではなく、プライベートでもお世話になっているのである。よく学園長室や彼女の自宅に呼ばれ、みなでお茶会を楽しんだりしていたのであった。
「ふふふ、二人ともいい子たちでしたから、ぜひお友達になりたかったんですよねー。気持ちは二人のお姉さん的な」
そしてどこかはしゃぎ気味にウィンクしてくる栞。
「くす、確かに栞さんはアタシたちの保護者みたいな感じね」
彼女はすごく優しい性格もあってか、陣たちのことをいつも気にかけてくれているのだ。なので奈月のその感想は的を射ているといっていい。あまり他者を信じない奈月も、彼女にはわりとなつき信頼していた。
「そういってもらえると光栄ですねー。――そうでした。二人の卒業祝い、まだでしたよね? では、ここでささやかながらパーティーでもしましょうか? 今、お茶とお菓子を用意しますねー」
「栞さん、悪いんだけど、その誘いはまた今度でお願いするわ。今日は神代特区案件で来たの」
いつものように楽しそうにお茶会の準備をしようとする栞を、奈月は申しわけなさそうに呼び止めた。
そう、ここに来たのも今日神楽やスバルに頼まれた案件のためなのだ。
「なるほど、わかりましたー。ではパーティーの方は後日、私の自宅に遊びにきてもらうということにしときましょう。お茶菓子をいっぱい用意しておきますねー」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「ぜひ、行かせてもらいますよ」
「はい、じゃあ、ここからはまじめなお話ということで、こちらにどうぞー」
栞にうながされ、陣と奈月はソファーの方へ腰かける。
栞の方も陣たちと向かいのソファーに座り、込み入った話をする態勢に。
「アタシたちが来たのは、星海学園に入学してくるレイヴァース当主のことよ。今後の対策と星葬機構側の動きについてね」
「その件については、わたしも頭を悩ませているんですよねー。クレハさんは星葬機構の思想にひどくご執心だから、星海学園の運営にいろいろ口を出してきそうなんですよねー。そしたら立場上、彼女の方針にしたがわないといけなくなる。今までならまだ星葬機構のオーダー通りことを進めていると、嘘の報告で適当に誤魔化せたけど、今回ばかりは難しいと思います」
額に手を当て、表情を曇らせる栞。
ここで問題なのは栞が学園長でありながら、星葬機構側の人間であるということ。もし関係がなければそこまでレイヴァースの影響を受けずに済んだが、さすがに自分の組織。しかもその代表者からの言葉となると、もはや無視することなどできないのである。
そもそもの話、なぜ星葬機構側の人間が星海学園の学園長をやっているのか。それは星葬機構の思想に反する星海学園の監視のため。魔法を探究するという本来なら許されないことを、星海学園はあえて推し進めているのだ。星葬機構側からしてみれば言語同断な事案だが、神代や星魔教がバックにつき力を入れている。しかも星葬機構の影響が届きにくい神代特区内にあるということで、いくら潰したくても叶わない。
そこで星海学園を存続するにあたり、星葬機構側の人間を学園長にする条件でしぶしぶ認めたという。これならば学園の状況を把握でき、行き過ぎないよう手綱をにぎられると踏んだわけだ。
「そのクレハって子視察も兼ねて来てるから、栞さんの働きぶりにも目を光らせるはず。だからしばらくは大人しく向こうのいうことを聞くべきだわ。下手に反感を買って、学園長を降ろされたら困るもの」
「そうするしかありませんねー。なんだか胃が痛くなりそうな日々が、続きそうですよー」
栞はこの先のことを考え、がっくりうなだれる。
「というかレイヴァースの当主を入学させるなんて、よく許可しましたね。星魔教側の星海学園に、敵の大将であるレイヴァース当主を踏み入れさすわけにはいかないみたいな感じで、断れそうですが。そうすればこんな事態にならなかったんじゃ」
星海学園は神代特区内にあるので神代側だと思うかもしれないが、実際は星魔教側が経営していた。
今の時代学生は星葬機構のせいで、魔法に対し厳しい制限を受けている。許可されているのは最低限の自己防衛手段だけ。それ以上は学び研究することも、切磋琢磨することも認められていない。そんな今の現状に不満を持ち続けているのが星魔教。彼らは魔法や星詠みを広めようとしている組織なので、今のうちに若い芽を刈り取ろうとするやり方を認めるわけにはいかないのだ。
そこで生まれたのがこの星海学園。これまでのように厳しい制限がなく子供たちに魔法をふれさせ、優秀な魔法使いに育成することをコンセプトにした学園を、星魔教が創設したのである。すべては早いうちから魔道に親しみを覚えさせ、将来有望な創星術師を増やすために。なので学園自体はすべて星魔教の考えにそっており、神代はただその夢の実現に手を貸しているだけに過ぎない。潰そうとする星葬機構から権力で守り、運営を続けられるよう様々なサポートを行う。神代としても創星術師が増えることは、自分たちの魔道の求道に大きく関係するため快く手伝っているのだそうだ。
「一応できましたが、あまり波風を立てたくなかったから止めておいたんですよー。さすがに視察に来た彼女を追い返したら、やましいことがあると見られ今後の学園の立場が悪くなりそうでしょー?」
「今さら険悪もなにもないけど、それが正しかったと思うわ。口実があれば、学園を潰したい星葬機構だもの。その件に付け込んで、攻めてくるのが少し早くなってたかもしれないんだから」
「はい、そういうわけですから、奈月ちゃんが頼みの綱。うまいこと神代の権力を使って、クレハさんの改革案を潰してほしいんですー。これまで通りの星海学園であり続けられるかは、奈月ちゃんにすべてがかかっているぐらいなんですからー」
栞は手を合わせ必死に頼み込んでくる。
彼女ではレイヴァースの言葉にしたがうしかない。だがもともと敵対する奈月ならば問題はない。運営に口出しするレイヴァースに、神代側の人間として抗議すればいいのだ。向こうとしても神代の影響力が強い神代特区内だと、そこまで強く言えないのだから。
「レイヴァースの動向を探るだけでなく、学園の今後をかけて争えと? ――はぁ……、入学早々ハードスケジュールすぎないかしら。――まあ、星海学園に関しては神代も他人事じゃないし、頑張るしかないわね」
やれやれと肩をすくめ、先のことを憂う奈月。
「ありがとう! カーティス神父はもちろん、私も陰ながらサポートするから安心してくださいねー。みんなで団結して、星葬機構から学園を守りましょー! おー!」
奈月の肯定に、栞は心強いと笑顔を咲かせた。そして今後の意気込みを示すためにも、ガッツポーズしながら音頭を取る。もはやこの状況を見て、彼女が星葬機構側の人間だと誰も信じないだろう。
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