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1章 少女との契約 上
19話 とあるシスター
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陣と奈月がやってきたのは、星魔教が保有する巨大な教会である。この近くには星魔教が拠点とする高層ビルもあるが、今回お目当ての人物がこの場所にいるということでこちらに足を運んだという。
教会の中は色とりどりのステンドグラスや神秘的な内装により、圧巻の一言。あまりの神々しさに思わず息を呑んでしまうほどである。この場所は信者だけではなく一般人にも開放されている場所であり、よくミサが行われているらしい。
中は信者らしき者たちがところどころで祈りを捧げており、陣たちはそんな彼らの邪魔にならないように奥へと進んでいく。そして祭壇近くまでたどり着くと、そこには一人のシスターが。彼女は祭壇前で膝をつきながら、熱心に祈りを捧げていた。
しかしこちらに気付いたのか、シスターはふと立ち上がり、陣たちの方を振り向く。そしてやわらかくほほえみながら、たずねてきた。
「あなた方もお祈りにいらしたんですか?」
「あんたは確か、昨日の……」
なんと祈りを捧げていた人物とは、昨日の夜会った金髪の少女ルシア・ローゼンフェルト。彼女は昨日と違い修道服を着ており、どこからどうみても教会にいるシスターに見えてしまう。
「あら、祈るって誰に向かってなのかしら? まさかこんなまともじゃない世界を許してる、神様とか言わないわよね?」
「ふむ、確かにこんな狂い狂った世界を生み出した神様を崇めていいものなのか、一般論的に考えると正直答えに困りますね。魔法や、星詠みにより人々の平穏は失われ、世界は混沌(こんとん)に満ちあふれている。もしかするとこれは神様がワタシたちに愛想をつかし、見捨てたからなのかもしれません。ならばそんないい加減な神様に祈りを捧げ、敬う価値があるのかどうか……」
奈月の問いに、ルシアはあごに手を当てながら感慨深そうに思いをめぐらせる。
「その口ぶりだと、あんた自身は神様をリスペクトしてるんだな」
「うふふ、ええ、もちろん! ただただ神様に対して、感謝の言葉しかありません! よくここまで面白おかしく狂った世界にしてくれたと、拍手喝采を送りたい! もう一生ついて行くと断言するほどですね! なんたってあの星詠み! あの人智を超えた輝きときたら、もう! あぁ、恋焦がれるほど美しく、実に甘美(かんび)だと思いませんか? 輝きに焼かれ溺れたいぐらいに!」
ルシアはあまりの歓喜ゆえか自身の胸に手を当て、もう片方の手のひらを天高く掲げた。
そして声高らかに、歌うかのごとく主張する。そんな彼女の瞳はもはや狂気の色に染まっているといっても、過言ではなかった。
「ダメだわ、この子。もう手遅れなぐらい壊れてる」
「まあ、言いたいことはわかるが、ここまでとなるとさすがに擁護はできないかもな」
魔道には親しみ深い陣や奈月でも、さすがに引いてしまう。それほどまでにルシアは星魔教の狂気の思想に、染まり過ぎているのだ。
「――はぁ……、よくこんなヤバイ奴らが大勢いる星魔教に、無数の信者が集まるものね。上層部がこんなんだと、普通はみな一目散に逃げ出すでしょうに」
奈月は改めて星魔教の狂気に触れ、肩をすくめだす。
陣たちにとって星魔教は、星詠みを崇める狂信者の巣窟というイメージが強い。実際その通りなのだが、それはあくまで裏側の話。表側は表側で違う側面があるのだ。そのためいくら星魔教といっても、みながみな星詠みに心酔しているわけではないのである。その表側の側面とは星詠みではなく、普通の魔法を求める信者たちのことをさす。実のところみな始めは基本、魔法が目的で入団してくるのであった。というのもこれまでの星葬機構が敷くいき過ぎた制限のせいで、満足に魔法の一つも使えない状況。それに反発してもっと魔法を求めたいと願う者が、星魔教の門をくぐっていくのである。
なので実際そのほとんどが当初の目的通り魔法だけを求め、星詠みというやばい力に心酔するのはごく一部。魔法を崇める者たちが全体の八割を占めているといってよかった。
「うふふ、そうでもありませんよ。だってワタシたち星魔教信者はみな、根元の部分は同じなんですからね」
するとルシアはおかしそうに笑いながら、意味ありげな一言を。
「どういう意味なのかしら?」
「星魔教創設時の当初、どうして人々はこんな見るからに怪しい宗教に次々と入ってきたと思います?」
レーヴェンガルトが創設した星魔教。本来なら魔道を崇めるという頭のいかれてそうな組織に、誰も加わろうとしないはずだ。だが現実は違った。創設後なんとまたたく間に世界中に広まり、無数の信者を加えていったのである。
「確か魔法を全面的に布教することで、信者を増やしいったのよね」
普通のやり方ではまず信者は集まらない。そこで魔法だ。
今まで自分たちの世界にありえなかった未知の力を見せられれば、食いついてしまうのは自然の摂理。恐怖や畏怖の念はもちろんあるが、それ以上に好奇心が勝ってしまうのは仕方のないことだろう。発足時当初の星魔教はこの力に対する欲望をフルに利用し、信者を集めたといっていい。
この組織に加われば魔法を求めることができると公言することで、人々は力に魅了され次々入団。見るからに怪しい教団は、瞬く間に人員を確保していく。これこそ当初の星魔教の策略。世界に魔法という未知の力を知らしめながら、星魔教の規模を拡大していく計画であった。
この計画がのちに功をなし、世界中で魔法のうわさが流れることに。星魔教ならば星葬機構が隠ぺいし禁止する魔法を、好きなだけ求めることができると。そしてパラダイスロストが起こる前の世界において、魔法の入門は星魔教に入団することが常識とかし信者が続出。世界規模まで急速に広がっていったのだ。
「はい、すべては魔法という力のおかげ。かつての宗教のような目で見えないあやふやなものではなく、実際に実在し信じられる明確なものがあったから。しかもそれは本来ありえない純粋な力そのものだった。となるとこれまで普通に生きてきた人々にとって、これほどまでに刺激的なものはありません。その力に人々は畏怖し、もっと知りたいと興味を惹かれるのは当たり前のこと」
ルシアは口元を緩め、興奮気味にかたっていく。星魔教という組織の実態を。
「そう、我々星魔教信者はもとをたどれば、一度力に魅入られてしまっているのです。ゆえに人智を超えた禁断の果実である星詠みが、たとえどれだけ危険とわかっていても必ず心のどこかで求めたいと思ってしまう。さらなる甘美(かんび)な刺激を求めてね……。結果、狂信者の気持ちをわかってしまうがために、彼らを拒まずむしろ逆に力を貸すという意志が芽生えるものなのです」
星魔教はそんな普通の信者の手助けによって、本来の目的通りに動けているのだ。
星魔教の狂信者による創星術師への崇拝活動。これをするにあたり資金や人材、資材といった様々なものが必要になってくる。しかも星葬機構が敵対してくるため、表だってに動くことは難しい。そこで力を貸すのは、世界中に散らばる普通の信者たちだ。
信者といっても、表では普通に働いて生活をしている者も多い。その立ち位置を利用し狂信者を手引きしたり、情報を集めることができる。中には企業や財閥側の者が援助したり、隠れ蓑となってかくまうということも。つまり彼らが裏で間接的に力を貸しサポートすることで、狂信者たちがスムーズに動けるようになるのである。
「同じであるがゆえのシンパシーというわけね」
「はい、なので星魔教の結束力は随一。みな心のどこかでつながっているのです!」
ルシアは胸に手を当て、誇らしげに宣言する。
星魔教がこれまで存続できたのも、その結束力があってこそなのだろう。
「――と、世間話はおわりにして、改めまして自己紹介を」
「ははは、ずいぶん重い世間話だったな」
「そうね、軽く胸やけしちゃうぐらいだったわ」
「うふふ、奈月さん、陣さん、ワタシの名前はルシア・ローゼンフェルトです。お二人のうわさはカーティス神父からかねがね。ですので会えて、すごく光栄に思ってるんですよ」
ルシアは陣たちのツッコミを軽く受け流し、昨日と同じように恭しくお辞儀してくる。
「カーティス神父とはどういう関係なのかしら? 昨日の場にいたということは、そこいらにいるシスターとは違うんでしょ?」
カーティス神父とは星魔教の中でもかなり上層部の人間。今日会いに来たのも、そんな彼と今後の動きについて話がしたかったからなのだ。
「はい、ワタシは彼の直属の部下みたいなものです。立場的には陣さんに近しいかもしれませんね。主に汚れ仕事メインにおこなう、エージェントといった感じです」
星魔教の活動の多くは、星葬機構にとって認められないものばかり。なので彼らとぶつかることは日常茶飯事といっていい。ゆえに星魔教の信者の中には、星葬機構に対抗する荒事専門の部隊が数多く存在しているとか。おそらくルシアもそういう側の人間なのだろう。
「オレの目からして、彼女は相当の手練れだな。昨日の立ち振る舞いからみるに、動きが洗練されていてまったく隙がなかった。きっとかなりの場数を踏んできたエージェントに違いないな。さすがはカーティス神父、いい部下を手元に置いてるよ」
狂信者過ぎるのは擁護できないが、ウデの方は確かだと陣の直観がさけんでいた。
「へぇ、陣にそこまで言わせるなんて相当なのね。でもカーティス神父とは付き合いが長いけど、ルシアさんとは会ったことがなかったわよね?」
奈月はほおに手を当て、首をひねる。
「ワタシは主に激戦区での任務が多いですからね。基本各地を転々とし星魔教に仇名すものを仕留めたり、創星術師の護衛やサポートなどいろいろしてました。そして今回今まで静かだった神代特区があわただしくなるということで、こうして呼び出された経緯でして」
近々レイヴァース当主が神代特区に乗り込んでくる。しかも彼らがなにやら裏で動こうとしているといった情報があるため、いつでも対抗できるように戦力を集めているみたいだ。
この神代特区は神代の恩恵を受けられるので、星魔教としてはもはや絶好の拠点。それゆえ星魔教側からしてみれば、決して落とさせるわけにはいかないというわけなのだろう。
「あら、それだとしばらくはカーティス神父のもとにいるということ?」
「そうですね。なので奈月さんと陣さんとはこの先、一緒に行動することがあるかもしれません。その時はどうぞよろしくお願いします」
ルシアはやわらかくほほえみながら、頭を下げてくる。
カーティス神父とはこの神代特区の防衛を、共に行う仲でもある。よって彼の直属の部下であるルシアとは、今後星葬機構とやり合うにあたり協力することになるはず。ルシアのウデは相当みたいなので、陣たちにとって大きな戦力になってくれるかもしれなかった。
「おう、その時は戦力として期待させてもらうぜ」
「お願いね。じゃあ、アタシたちはそろそろカーティス神父のところに行くわ」
陣と奈月はいづれ仲間になるであろうルシアに激励の言葉をかけ、この場を去ることに。
「長い間引き留めてしまってすみません。カーティス神父ならいつもの場所にいるかと」
「ありがとう」
こうして奈月と、カーティスがいるであろう執務室へ向かおうと歩み始めた。
「陣さん、少しお待ちを」
「うん?」
だがすぐさまルシアに呼び止められてしまう。
名指しということは、どうやら奈月ではなく陣に用があるのだろう。
教会の中は色とりどりのステンドグラスや神秘的な内装により、圧巻の一言。あまりの神々しさに思わず息を呑んでしまうほどである。この場所は信者だけではなく一般人にも開放されている場所であり、よくミサが行われているらしい。
中は信者らしき者たちがところどころで祈りを捧げており、陣たちはそんな彼らの邪魔にならないように奥へと進んでいく。そして祭壇近くまでたどり着くと、そこには一人のシスターが。彼女は祭壇前で膝をつきながら、熱心に祈りを捧げていた。
しかしこちらに気付いたのか、シスターはふと立ち上がり、陣たちの方を振り向く。そしてやわらかくほほえみながら、たずねてきた。
「あなた方もお祈りにいらしたんですか?」
「あんたは確か、昨日の……」
なんと祈りを捧げていた人物とは、昨日の夜会った金髪の少女ルシア・ローゼンフェルト。彼女は昨日と違い修道服を着ており、どこからどうみても教会にいるシスターに見えてしまう。
「あら、祈るって誰に向かってなのかしら? まさかこんなまともじゃない世界を許してる、神様とか言わないわよね?」
「ふむ、確かにこんな狂い狂った世界を生み出した神様を崇めていいものなのか、一般論的に考えると正直答えに困りますね。魔法や、星詠みにより人々の平穏は失われ、世界は混沌(こんとん)に満ちあふれている。もしかするとこれは神様がワタシたちに愛想をつかし、見捨てたからなのかもしれません。ならばそんないい加減な神様に祈りを捧げ、敬う価値があるのかどうか……」
奈月の問いに、ルシアはあごに手を当てながら感慨深そうに思いをめぐらせる。
「その口ぶりだと、あんた自身は神様をリスペクトしてるんだな」
「うふふ、ええ、もちろん! ただただ神様に対して、感謝の言葉しかありません! よくここまで面白おかしく狂った世界にしてくれたと、拍手喝采を送りたい! もう一生ついて行くと断言するほどですね! なんたってあの星詠み! あの人智を超えた輝きときたら、もう! あぁ、恋焦がれるほど美しく、実に甘美(かんび)だと思いませんか? 輝きに焼かれ溺れたいぐらいに!」
ルシアはあまりの歓喜ゆえか自身の胸に手を当て、もう片方の手のひらを天高く掲げた。
そして声高らかに、歌うかのごとく主張する。そんな彼女の瞳はもはや狂気の色に染まっているといっても、過言ではなかった。
「ダメだわ、この子。もう手遅れなぐらい壊れてる」
「まあ、言いたいことはわかるが、ここまでとなるとさすがに擁護はできないかもな」
魔道には親しみ深い陣や奈月でも、さすがに引いてしまう。それほどまでにルシアは星魔教の狂気の思想に、染まり過ぎているのだ。
「――はぁ……、よくこんなヤバイ奴らが大勢いる星魔教に、無数の信者が集まるものね。上層部がこんなんだと、普通はみな一目散に逃げ出すでしょうに」
奈月は改めて星魔教の狂気に触れ、肩をすくめだす。
陣たちにとって星魔教は、星詠みを崇める狂信者の巣窟というイメージが強い。実際その通りなのだが、それはあくまで裏側の話。表側は表側で違う側面があるのだ。そのためいくら星魔教といっても、みながみな星詠みに心酔しているわけではないのである。その表側の側面とは星詠みではなく、普通の魔法を求める信者たちのことをさす。実のところみな始めは基本、魔法が目的で入団してくるのであった。というのもこれまでの星葬機構が敷くいき過ぎた制限のせいで、満足に魔法の一つも使えない状況。それに反発してもっと魔法を求めたいと願う者が、星魔教の門をくぐっていくのである。
なので実際そのほとんどが当初の目的通り魔法だけを求め、星詠みというやばい力に心酔するのはごく一部。魔法を崇める者たちが全体の八割を占めているといってよかった。
「うふふ、そうでもありませんよ。だってワタシたち星魔教信者はみな、根元の部分は同じなんですからね」
するとルシアはおかしそうに笑いながら、意味ありげな一言を。
「どういう意味なのかしら?」
「星魔教創設時の当初、どうして人々はこんな見るからに怪しい宗教に次々と入ってきたと思います?」
レーヴェンガルトが創設した星魔教。本来なら魔道を崇めるという頭のいかれてそうな組織に、誰も加わろうとしないはずだ。だが現実は違った。創設後なんとまたたく間に世界中に広まり、無数の信者を加えていったのである。
「確か魔法を全面的に布教することで、信者を増やしいったのよね」
普通のやり方ではまず信者は集まらない。そこで魔法だ。
今まで自分たちの世界にありえなかった未知の力を見せられれば、食いついてしまうのは自然の摂理。恐怖や畏怖の念はもちろんあるが、それ以上に好奇心が勝ってしまうのは仕方のないことだろう。発足時当初の星魔教はこの力に対する欲望をフルに利用し、信者を集めたといっていい。
この組織に加われば魔法を求めることができると公言することで、人々は力に魅了され次々入団。見るからに怪しい教団は、瞬く間に人員を確保していく。これこそ当初の星魔教の策略。世界に魔法という未知の力を知らしめながら、星魔教の規模を拡大していく計画であった。
この計画がのちに功をなし、世界中で魔法のうわさが流れることに。星魔教ならば星葬機構が隠ぺいし禁止する魔法を、好きなだけ求めることができると。そしてパラダイスロストが起こる前の世界において、魔法の入門は星魔教に入団することが常識とかし信者が続出。世界規模まで急速に広がっていったのだ。
「はい、すべては魔法という力のおかげ。かつての宗教のような目で見えないあやふやなものではなく、実際に実在し信じられる明確なものがあったから。しかもそれは本来ありえない純粋な力そのものだった。となるとこれまで普通に生きてきた人々にとって、これほどまでに刺激的なものはありません。その力に人々は畏怖し、もっと知りたいと興味を惹かれるのは当たり前のこと」
ルシアは口元を緩め、興奮気味にかたっていく。星魔教という組織の実態を。
「そう、我々星魔教信者はもとをたどれば、一度力に魅入られてしまっているのです。ゆえに人智を超えた禁断の果実である星詠みが、たとえどれだけ危険とわかっていても必ず心のどこかで求めたいと思ってしまう。さらなる甘美(かんび)な刺激を求めてね……。結果、狂信者の気持ちをわかってしまうがために、彼らを拒まずむしろ逆に力を貸すという意志が芽生えるものなのです」
星魔教はそんな普通の信者の手助けによって、本来の目的通りに動けているのだ。
星魔教の狂信者による創星術師への崇拝活動。これをするにあたり資金や人材、資材といった様々なものが必要になってくる。しかも星葬機構が敵対してくるため、表だってに動くことは難しい。そこで力を貸すのは、世界中に散らばる普通の信者たちだ。
信者といっても、表では普通に働いて生活をしている者も多い。その立ち位置を利用し狂信者を手引きしたり、情報を集めることができる。中には企業や財閥側の者が援助したり、隠れ蓑となってかくまうということも。つまり彼らが裏で間接的に力を貸しサポートすることで、狂信者たちがスムーズに動けるようになるのである。
「同じであるがゆえのシンパシーというわけね」
「はい、なので星魔教の結束力は随一。みな心のどこかでつながっているのです!」
ルシアは胸に手を当て、誇らしげに宣言する。
星魔教がこれまで存続できたのも、その結束力があってこそなのだろう。
「――と、世間話はおわりにして、改めまして自己紹介を」
「ははは、ずいぶん重い世間話だったな」
「そうね、軽く胸やけしちゃうぐらいだったわ」
「うふふ、奈月さん、陣さん、ワタシの名前はルシア・ローゼンフェルトです。お二人のうわさはカーティス神父からかねがね。ですので会えて、すごく光栄に思ってるんですよ」
ルシアは陣たちのツッコミを軽く受け流し、昨日と同じように恭しくお辞儀してくる。
「カーティス神父とはどういう関係なのかしら? 昨日の場にいたということは、そこいらにいるシスターとは違うんでしょ?」
カーティス神父とは星魔教の中でもかなり上層部の人間。今日会いに来たのも、そんな彼と今後の動きについて話がしたかったからなのだ。
「はい、ワタシは彼の直属の部下みたいなものです。立場的には陣さんに近しいかもしれませんね。主に汚れ仕事メインにおこなう、エージェントといった感じです」
星魔教の活動の多くは、星葬機構にとって認められないものばかり。なので彼らとぶつかることは日常茶飯事といっていい。ゆえに星魔教の信者の中には、星葬機構に対抗する荒事専門の部隊が数多く存在しているとか。おそらくルシアもそういう側の人間なのだろう。
「オレの目からして、彼女は相当の手練れだな。昨日の立ち振る舞いからみるに、動きが洗練されていてまったく隙がなかった。きっとかなりの場数を踏んできたエージェントに違いないな。さすがはカーティス神父、いい部下を手元に置いてるよ」
狂信者過ぎるのは擁護できないが、ウデの方は確かだと陣の直観がさけんでいた。
「へぇ、陣にそこまで言わせるなんて相当なのね。でもカーティス神父とは付き合いが長いけど、ルシアさんとは会ったことがなかったわよね?」
奈月はほおに手を当て、首をひねる。
「ワタシは主に激戦区での任務が多いですからね。基本各地を転々とし星魔教に仇名すものを仕留めたり、創星術師の護衛やサポートなどいろいろしてました。そして今回今まで静かだった神代特区があわただしくなるということで、こうして呼び出された経緯でして」
近々レイヴァース当主が神代特区に乗り込んでくる。しかも彼らがなにやら裏で動こうとしているといった情報があるため、いつでも対抗できるように戦力を集めているみたいだ。
この神代特区は神代の恩恵を受けられるので、星魔教としてはもはや絶好の拠点。それゆえ星魔教側からしてみれば、決して落とさせるわけにはいかないというわけなのだろう。
「あら、それだとしばらくはカーティス神父のもとにいるということ?」
「そうですね。なので奈月さんと陣さんとはこの先、一緒に行動することがあるかもしれません。その時はどうぞよろしくお願いします」
ルシアはやわらかくほほえみながら、頭を下げてくる。
カーティス神父とはこの神代特区の防衛を、共に行う仲でもある。よって彼の直属の部下であるルシアとは、今後星葬機構とやり合うにあたり協力することになるはず。ルシアのウデは相当みたいなので、陣たちにとって大きな戦力になってくれるかもしれなかった。
「おう、その時は戦力として期待させてもらうぜ」
「お願いね。じゃあ、アタシたちはそろそろカーティス神父のところに行くわ」
陣と奈月はいづれ仲間になるであろうルシアに激励の言葉をかけ、この場を去ることに。
「長い間引き留めてしまってすみません。カーティス神父ならいつもの場所にいるかと」
「ありがとう」
こうして奈月と、カーティスがいるであろう執務室へ向かおうと歩み始めた。
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「うん?」
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