創星のレクイエム

有永 ナギサ

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1章 第3部 運命の出会い

41話 今日の成果

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「――ああ……、おかしい。一体どうしてこうなった?」

 陣は広場に設置されたベンチにどっと腰を下ろし、頭を抱えた。
 すでに空は夕暮れ色に染まっており、陽が沈みきるのも時間の問題。周りを見渡せば、家に帰ろうとする人々の姿がちらほら見える。こうなってくると陣たちも、そろそろお開きの流れだろう。

「うん? 陣くんどったの?」

 すると灯里はほおに指を当てながら、首をかしげてきた。

「いや、気づいたらもう日暮れ。しかもそれまでオレたちは……」
「あはは、楽しい時間はあっという間だからねー! あー、今日はなかなか充実した日々だったよー! 陣くんとリルとの街探索! また明日もこんな感じで遊び尽くそうね!」

 途方に暮れる陣とは逆に、灯里は両腕を伸ばしながら満足げに振り返りだす。
 陣たちはリルと合流後、再び擬似恒星の調査に向かった。だがそれも長くは続かず、いつの間にか灯里を先導せんどうに街をぶらつくことに。そして今まで三人で遊んでしまっていたのであった。

「えへへ、その時は今日立ちよった、クレープ屋さんにまた行きたいんだよー。あそこのクレープ絶品だもん! もう全種類制覇しないとねー! あとあとソフトクリーム屋さんも!」

 リルは両ほおに手を当てながら、うっとりしだす。

「あはは、リルったら食べることばっかですなー。でも私もその意見には賛成かなー! ちょうどおごってくれる、気前のいいお兄さんもいることだし! それでそのあとはショッピングのため、モールで!」

 陣に意味ありげなウィンクをし、はしゃぐ灯里。
 もはややるべきことを忘れて、完全に気が抜けている状態。休日を思う存分満喫している二人であった。
 楽しそうにしているところわるいが、陣としては文句を言うしかない。

「おい、お前ら、なにか忘れてないか?」
「なにかって? もしかして陣くん、ほかに遊びにいきたいとこあった? それなら灯里さんがとことん付き合うよ! なんなら今からでも!」

 灯里はどんっと胸をたたき、にっこり笑いかけてくる。
 そんな彼女に、もはや頭を抱えるしかなかった。

「ダメだ、完全に忘れてやがる。あのな、オレたちは調査のため歩き回ってたはずだろ?」
「あー、そういえばそんなこともあったねー」

 灯里は手をぽんっと合わせ、これまでの経緯を思い出した様子。
 だがそこまで重大性を感じていないらしく、持ち物を家に忘れてしまったぐらいのノリであった。

「うわー、軽い反応だな。まあ、オレ自身、今まで気づかなかったのもわるいが」

 陣としてはとがめたいが、今まで場の空気に飲まれ付き合ってしまったのも事実。なのであまり強く言えない立場なのであった。

「あはは、そりゃー、こんな花も恥らうかわいい女の子たちとのデートだもん! 夢中になるのも仕方ないよ! 陣くん!」

 灯里は上目づかいで、かわいらしくウィンクを。

「違うと思うが、結果が結果だけに反論しづらい。――はぁ……、灯里のペースにはまると、なんか調子が狂うな。いつもなら魔道一筋のオレが、別のことで夢中になるなんて……」

 頭をかきながら、今の自分にあきれるしかない。
 調査の対象はあのサイファス・フォルトナーの擬似恒星。そのため魔道を求道する陣からすれば、のどから手が出るほど欲しい代物といっていい。おそらく新鮮味を感じられない空虚さを吹き飛ばす、劇薬になること間違いなしであろう。そんな擬似恒星が手に入る絶好の機会に、別のことで頭がいっぱいになろうとは。これまでの陣からすると、ありえない事案なのだ。
 それもこれもすべては灯里のペースにはまったせい。なぜか彼女といると、今まで感じられなかった新鮮さが湧き上がってくるのである。そう、なにげない日常、普通の人々が生きる陽だまりの世界も、案外わるくないのではと。

「ふふっ、その気持ちはわかるんだよ。アカリは他者を自分のペースに巻き込む天才だからねー。気付けば振り回されてたなんて、よくある話なんだよ。――あと、一つ言っておくと、わたしは調査の件ちゃーんと覚えてたからね!」

 陣の驚きに対し、リルも心当たりがあるのかうんうんとうなずく。それからとってつけたようにとある主張を。

「えー、リルも絶対忘れてたでしょー。あれだけ目を輝かせてはしゃいでいたんだからさー」
「ぎく、――ふふっ……、そんなことは……」

 灯里のツッコミに、リルは笑顔を引きつらせる。

「むしろ後半は、リルが誰よりも早くお店に駆け込んでたようなー?」
「ははは、確かに灯里並みに楽しんでいたな」
「ジンくんまで!? うー、観念するんだよー。楽しすぎて、完全に忘れてましたー」

 二人の正論に、リルは手をもじもじさせながら白状してきた。
 すると灯里はほほえましそうに、リルの頭をなで始めた。

「はい、よく言えましたー! リルちゃん、偉いねー」
「灯里はどうして隙あらば、子供扱いしてくるのー!? わたしお姉さんなんだからねー!?」

 リルは子供のようにあやされているのが納得いかないのか、腕をブンブンしながら文句を。

「あはは、わかってる、わかってるてばー」

 だが灯里は笑い飛ばすだけで、リルの頭をなで続ける。
 本当の姉妹のごとく、仲むつまじい光景。そのほほえましい雰囲気に、これ以上真面目な話をするのは無粋だと判断。あきらめることに。

「――はぁ……、この流れだと、今日はここで解散か。明日こそ調査の方、頼んだぞ」
「およ? 陣くん、もしかして明日も付き合ってくれるの?」
「闇雲に探すより、標的を感知できるリルと一緒に行動した方が効率的だろ。なら選択肢は決まってるさ」

 ほおに指を当て首をかしげてくる灯里に、肩をすくめながら笑いかけた。

「陣くんがこんなにも自主的に力を貸してくれるだなんて! もしやあとで高い依頼料をぼったくる気なんじゃ?」

 すると灯里は一歩後ずさりし、なにやら勘ぐってくる。

「もちろんタダでだ。この件、非常に興味深いから最後まで付き合ってやるよ」
「キャー、マジ―!? 陣くん、太っ腹ー!」

 灯里はうれしさのあまりか陣の腕をとり、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

「というかそもそもの話、お前ら二人だけだと危なさそうだからな。仲良くなった以上ケガでもされたら目覚めがわるいし、荒事になれてるオレが付き添うべきだろ?」

 リルの話によれば、相手は創星使いを超え創星術師の域に。しかも暴走しかけときた。そんなターゲットを追っていく中で接触し、敵とみなされたらどうなるか。下手するとケガだけで済まないかもしれないのだ。ゆえに誰かが彼女たちを守らなければ。幸い陣はクロノスのエージェントとして、こういった荒事には慣れている。なので同行するのにはもってこいの人材だろう。

「私たちのためを思ってだなんて! キャー! 陣くん、イケメン! 抱いてー!」
「ははは、あがめろ、崇めろ。本来なら魔道一筋のオレが、どういう気まぐれかお前らの身の安全を優先してるんだからな。こんなことめったにないぞ」

 なにやら黄色い声を上げはやしたててくる灯里に、胸を張って笑う。

(――まあ、本音を言うと主に灯里が、なんだけどな)

 変な勘違いをされても困るので、最後は心の中だけでとどめておいた。
 確かに問題の擬似恒星は狂おしいほど欲しい。だがそれより彼女たち、特に灯里の安全の方が今の四条陣にとって大事らしいのだ。よって今の心持ちは擬似恒星を奪うためでなく、それを追う彼女を守るために同行する気でいる。
 これは自分でもまったく理解できないといっていい。陣は決してお人好しではなく、魔道の求道のためなら他者を斬り捨てられる人間。ゆえに相手がいくら親しい間がらでも、魔道と天秤てんびんにかければどうしても後者を優先してしまうはず。だというのに出会ってあまり時間がたってない灯里を、優先してしまっている。一体これはどういうことなのだろうか。どうやら四条陣にとって、水無瀬みなせ灯里はよほど特別な存在らしい。

「ジンくん、ありがとう。キミがついてきてくれるなら、とても心強いんだよ」

 リルは胸に手を当て、ほがらかにほほえんでくる。

「そういうことで明日からの調査は、本腰を入れていくぞ。もし今日みたいに遊びだしたらどうなるか、わかってるよな?」
「うわー、陣くんの目がマジだ……。えっとー、そこまでがんばらなくてもいいんじゃないかなー? 今日のようにみんなで楽しくみたいな、――あはは……」

 少しドスを効かせた陣の問いに、灯里はおずおずと提案を。
 しかし陣の答えは決まっていた。彼女の身の安全は大事だが、どうせなら問題の擬似恒星も手に入れたいがゆえに。

「ははは、もちろん却下だ。こうなればほかの誰よりも早くとっ捕まえて、おなわにかけるぞ!」
「リル!? ヤバイよー! 陣くんがスパルタ教師なみに……、――って、あれどうしたの?」

 陣のやる気に満ちた宣言に、灯里はリルへ助けを求めようと。
 だが彼女はふと気づいて止めた。なぜならリルが陣たちとは別の方向を、真剣な表情で見つめていたのだから。

「――見つけたんだよ……」

 そしてリルは緊迫したおもむきで告げてくる。
 その雰囲気から、とうとうターゲットの足取りをつかめたみたいだ。きっと彼女の視線の先に、サイファス・フォルトナーの擬似恒星を持つ暴走した創星術師がいるのだろう。

「なに? リル、今すぐ案内しろ!」
「うん、こっちなんだよ」
「あわわ、待ってよー! 二人ともー!」

 先に追いかけようとする陣たちに、灯里もあわててついて行こうと。
 こうしてリルの誘導にしたがい、陣たちは走りだすのであった。

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