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2章 第1部 水無瀬灯里
53話 陣と灯里の逃亡生活?
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「奈月、灯里を確保したぞ」
陣は奈月に、灯里を見つけたことを報告する。
リルには電話をかける前に、引き続き周りの警戒を頼んでいた。なのでこの路地裏にいるのは陣と灯里だけなのであった。
「あら、早いわね。じゃあ、さっそく今から指定する場所に隠れなさい、と言いたいところなんだけど……」
ふと奈月の口調に陰りが。
「どうしたんだ?」
「少し面倒なことになってね。実は星葬機構だけじゃなく、クロノス。主に陸斗兄さん側が、この件を追ってるみたいなの。だから星葬機構が重要参考としてる灯里を、探してる」
陸斗側は神代次期当主である神楽に、敵対する勢力。彼らは成果をもって次期当主の座を奪おうとしているので、今回の件もその一環なのだろう。最悪彼らとぶつかる可能性も。考慮しなければならない。
「おいおい、マジかよ」
「だからクロノス側の隠れ家が、安全とはいえないの。陸斗兄さんはアタシたちも灯里を探してることをつかんでるみたいだし、張り込んでる可能性があるわ。そういうわけで避難場所の件、もう少し待ってちょうだい。今、向こうに気づかれないように用意してるから」
「了解した。用意出来次第、連絡をくれ」
この分だと少し時間がかかりそうだ。
奈月の行動はマークされている可能性が高いため、慎重に動かなければならないはず。星魔教のカーティス神父あたりに頼めば、陸斗側を撒けるだろう。だが例の創星術師と星魔教の大司教につながりがあるみたいなので、そっちの手も使いにくいといっていい。
通話を切り、今だ路地裏に隠れている灯里の方へ歩み寄る。
「奈月、なんて言ってたの?」
「わるい知らせだ。星葬機構だけでなく神代のある一派も、灯里のことを追ってるらしい。その関係上、避難場所を確保するのにもうしばらくかかるそうだ」
「そっか、何事もそううまくいかないね」
灯里はため息交じりに肩を落とす。
「灯里、事態の深刻さを理解したか? 星葬機構に神代、それに例の創星術師も狙ってくるかもしれない状況だ」
「あはは、灯里さん、人気者で困っちゃうね!」
陣の忠告に、灯里は冗談めかしに笑いウィンクを。
こんな状況でも笑える彼女のポジティブさには、感心せざるを得ない。
「さっきも言ったがその原因は、灯里がリル・フォルトナーの擬似恒星を持ってるからだぞ。それは普通の一般人が持ってて、いい代物じゃない。だからさっさと手放すべきだ」
彼女の身の安全も考え、はっきりと告げた。
「陣くんも、リルみたいなこと言うんだ」
「今手放せば事態はそこまで深刻にならないし、これからも普通の日々を過ごせる。灯里自身、わかってるだろ? 星葬機構やクロノス、おまけにレーヴェンガルトまで。一体今どれだけ危険な状況に、置かれているのかをさ」
「――それでも私は手放したくないよ。リルを……」
灯里はリル・フォルトナーの擬似恒星であるペンダントをにぎりしめ、切実にうったえてきた。
そのあまりの想いの強さに、ここは一端引くしかないようだ。
「まあ、この話は、安全な場所に着いてからか。――それはそうとオレが来なかったら、どうする気だったんだ?」
「あはは、とりあえずほとぼりが冷めるまで、身をひそめようとは思ってたよ! 逃亡生活もなかなか刺激的そうだし、胸をはずませながらね!」
陣の疑問に、灯里はぱぁぁっと笑顔を咲かせて主張を。
「楽しんでたのかよ。ははは、ずば抜けたポジティブ精神だな」
「ふっふっふっ、どんな時でも楽しむのが、私のもっとうだからね! せっかく貴重な経験ができてるのに、楽しまないと損でしょ?」
胸に手を当て、ふふんとドヤ顔で宣言する灯里。
「まあ、一理あるか」
「ということで、陣くんも一緒にいかがかな? 私とのロマンスあふれる逃亡生活! もしかするとその途中で、二人の距離が急接近し愛の逃避行展開まで発展するかもしれないよ!」
灯里は手を差し出し、歓迎ムードで誘ってくる。興味を引かそうとしているのか、かわいらしくウィンクして意味ありげにだ。
「ははは、さすがにそこまで付き合ってられないな。オレにもオレのやることがあるし」
「そこをなんとか! ここはプロの力を、ぜひとも借りたいんだー! でないと寝床一つ、見つけられるかどうか。――うぅ、女の子に野宿はキツイよー! 私の快適な逃亡生活のためにも、なにとぞお力をー!」
灯里は涙目になりながら手を合わせ、必死に頼み込んできた。
どうやら陣を誘おうとしてたのは、これが理由だったようだ。確かに今まで普通の日々を過ごしてきた灯里にとって、いきなり逃亡生活などできるはずがない。陣が来なければ、
あのままずっと途方に暮れていたかもしれない。
「いや、自分のまいた種だろ。自分でなんとかしろよ」
ここで引き受けでもしたら、リルの件での説得材料が一つ減ってしまうことに。よってとりあえず正論をツッコンでおいた。一応灯里が逃亡生活を続けることになったならば、さすがにかわいそうなので助ける心積もりではあるが。
「えー!? じゃあ、陣くん、依頼ということで私をかくまってよー」
灯里は陣の腕を揺さぶりながら、ねだってくる。
「依頼ならいいが、金はあるのか?」
「――そ、そこは親友のよしみでダメー?」
「ははは、一生こき使っていいなら、面倒みてやらんこともないぞ?」
瞳をうるうるさせ上目遣いでお願いしてくる灯里に、笑ってたたみかける。
「うわーん、ブラックすぎない!? それ!?」
「――さて、そんなことより奈月からの連絡はまだか。こうなったら自分で探した方がいいかもしれない。――確か今日は……、一応使えるか。しかたない。今日の宿はここに決定だな」
両腕を胸元近くでブンブン振りながら抗議してくる灯里を放って、今後のことを考えながら通信端末をいじる。そしてとある人物のメールを見て、ある決断を。
「宿!? さっすが陣くん! さっそく屋根のあるところで寝られるなんて、頼りになるー! もう、一生ついていきますぜ! 兄貴!」
すると目を輝かせ、陣を崇めてくる灯里。
「期待していいぞ。なんたって今回の宿は、なかなかの物件だからな」
こうして灯里とリルを連れ、目的の宿へと向かう陣なのであった。
陣は奈月に、灯里を見つけたことを報告する。
リルには電話をかける前に、引き続き周りの警戒を頼んでいた。なのでこの路地裏にいるのは陣と灯里だけなのであった。
「あら、早いわね。じゃあ、さっそく今から指定する場所に隠れなさい、と言いたいところなんだけど……」
ふと奈月の口調に陰りが。
「どうしたんだ?」
「少し面倒なことになってね。実は星葬機構だけじゃなく、クロノス。主に陸斗兄さん側が、この件を追ってるみたいなの。だから星葬機構が重要参考としてる灯里を、探してる」
陸斗側は神代次期当主である神楽に、敵対する勢力。彼らは成果をもって次期当主の座を奪おうとしているので、今回の件もその一環なのだろう。最悪彼らとぶつかる可能性も。考慮しなければならない。
「おいおい、マジかよ」
「だからクロノス側の隠れ家が、安全とはいえないの。陸斗兄さんはアタシたちも灯里を探してることをつかんでるみたいだし、張り込んでる可能性があるわ。そういうわけで避難場所の件、もう少し待ってちょうだい。今、向こうに気づかれないように用意してるから」
「了解した。用意出来次第、連絡をくれ」
この分だと少し時間がかかりそうだ。
奈月の行動はマークされている可能性が高いため、慎重に動かなければならないはず。星魔教のカーティス神父あたりに頼めば、陸斗側を撒けるだろう。だが例の創星術師と星魔教の大司教につながりがあるみたいなので、そっちの手も使いにくいといっていい。
通話を切り、今だ路地裏に隠れている灯里の方へ歩み寄る。
「奈月、なんて言ってたの?」
「わるい知らせだ。星葬機構だけでなく神代のある一派も、灯里のことを追ってるらしい。その関係上、避難場所を確保するのにもうしばらくかかるそうだ」
「そっか、何事もそううまくいかないね」
灯里はため息交じりに肩を落とす。
「灯里、事態の深刻さを理解したか? 星葬機構に神代、それに例の創星術師も狙ってくるかもしれない状況だ」
「あはは、灯里さん、人気者で困っちゃうね!」
陣の忠告に、灯里は冗談めかしに笑いウィンクを。
こんな状況でも笑える彼女のポジティブさには、感心せざるを得ない。
「さっきも言ったがその原因は、灯里がリル・フォルトナーの擬似恒星を持ってるからだぞ。それは普通の一般人が持ってて、いい代物じゃない。だからさっさと手放すべきだ」
彼女の身の安全も考え、はっきりと告げた。
「陣くんも、リルみたいなこと言うんだ」
「今手放せば事態はそこまで深刻にならないし、これからも普通の日々を過ごせる。灯里自身、わかってるだろ? 星葬機構やクロノス、おまけにレーヴェンガルトまで。一体今どれだけ危険な状況に、置かれているのかをさ」
「――それでも私は手放したくないよ。リルを……」
灯里はリル・フォルトナーの擬似恒星であるペンダントをにぎりしめ、切実にうったえてきた。
そのあまりの想いの強さに、ここは一端引くしかないようだ。
「まあ、この話は、安全な場所に着いてからか。――それはそうとオレが来なかったら、どうする気だったんだ?」
「あはは、とりあえずほとぼりが冷めるまで、身をひそめようとは思ってたよ! 逃亡生活もなかなか刺激的そうだし、胸をはずませながらね!」
陣の疑問に、灯里はぱぁぁっと笑顔を咲かせて主張を。
「楽しんでたのかよ。ははは、ずば抜けたポジティブ精神だな」
「ふっふっふっ、どんな時でも楽しむのが、私のもっとうだからね! せっかく貴重な経験ができてるのに、楽しまないと損でしょ?」
胸に手を当て、ふふんとドヤ顔で宣言する灯里。
「まあ、一理あるか」
「ということで、陣くんも一緒にいかがかな? 私とのロマンスあふれる逃亡生活! もしかするとその途中で、二人の距離が急接近し愛の逃避行展開まで発展するかもしれないよ!」
灯里は手を差し出し、歓迎ムードで誘ってくる。興味を引かそうとしているのか、かわいらしくウィンクして意味ありげにだ。
「ははは、さすがにそこまで付き合ってられないな。オレにもオレのやることがあるし」
「そこをなんとか! ここはプロの力を、ぜひとも借りたいんだー! でないと寝床一つ、見つけられるかどうか。――うぅ、女の子に野宿はキツイよー! 私の快適な逃亡生活のためにも、なにとぞお力をー!」
灯里は涙目になりながら手を合わせ、必死に頼み込んできた。
どうやら陣を誘おうとしてたのは、これが理由だったようだ。確かに今まで普通の日々を過ごしてきた灯里にとって、いきなり逃亡生活などできるはずがない。陣が来なければ、
あのままずっと途方に暮れていたかもしれない。
「いや、自分のまいた種だろ。自分でなんとかしろよ」
ここで引き受けでもしたら、リルの件での説得材料が一つ減ってしまうことに。よってとりあえず正論をツッコンでおいた。一応灯里が逃亡生活を続けることになったならば、さすがにかわいそうなので助ける心積もりではあるが。
「えー!? じゃあ、陣くん、依頼ということで私をかくまってよー」
灯里は陣の腕を揺さぶりながら、ねだってくる。
「依頼ならいいが、金はあるのか?」
「――そ、そこは親友のよしみでダメー?」
「ははは、一生こき使っていいなら、面倒みてやらんこともないぞ?」
瞳をうるうるさせ上目遣いでお願いしてくる灯里に、笑ってたたみかける。
「うわーん、ブラックすぎない!? それ!?」
「――さて、そんなことより奈月からの連絡はまだか。こうなったら自分で探した方がいいかもしれない。――確か今日は……、一応使えるか。しかたない。今日の宿はここに決定だな」
両腕を胸元近くでブンブン振りながら抗議してくる灯里を放って、今後のことを考えながら通信端末をいじる。そしてとある人物のメールを見て、ある決断を。
「宿!? さっすが陣くん! さっそく屋根のあるところで寝られるなんて、頼りになるー! もう、一生ついていきますぜ! 兄貴!」
すると目を輝かせ、陣を崇めてくる灯里。
「期待していいぞ。なんたって今回の宿は、なかなかの物件だからな」
こうして灯里とリルを連れ、目的の宿へと向かう陣なのであった。
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