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2章 第3部 陣の選択
67話 同調
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「ところで陣さん。相手はサイファス・フォルトナーの擬似恒星を持つ、創星術師。やり合うにあたり、なにか策はあるのですか?」
ゴーストタウンと化した旧市街を歩いていると、ルシアがアゴの指を当てながら問うてくる。
「ああ、さすがに魔法だけだときついから、擬似恒星を借りてきた。これならそう遅れはとらないはずだ」
灯里から借りた、リル・フォルトナーの擬似恒星であるペンダントを見せてやる。
「なにやらすごそうな擬似恒星ですね! あぁ、一体、どんな輝きを見せてくれるのでしょう! 陣さん! 試しに使ってくださいよ!」
ルシアは祈るように手を組みながら、ガバッと詰め寄ってくる。そして目を輝かせて、ねだってきた。
「ルシアってほんと星詠み関係になると、テンション変わるよな」
「うふふ、探究心がうずいて仕方ないので! そもそもの話、星魔教の信者の大半がこんな感じのノリですしね」
心底楽しげに笑い、おちゃめにウィンクしてくる。
「そういえばそうだったな。よく仕事で一緒に行動することがあるが、その変人ぶりには毎回驚かされるぐらいだし」
普段は良識のありそうな人ばかりの彼らだが、いざ魔道関連となるとおかしなテンションになることが多いのだ。それが星詠み関連の狂信者となると、みずからの命も惜しまない勢いで。もはやあまりの狂気に引き気味になったことは、数えきれないほどであった。
「――変人という評価はさすがにいただけないのですが……」
「それよりも今のうちに試しておくのは、ありかもな」
なにやら不服そうなルシアを放っておいて、今後のことを冷静に考えてみる。
このままいけばアンドレーと戦闘になることは間違いない。なのでその時に万全に戦えるよう、今のうちに探っておくべきだろう。前回のように倒れでもしたら、目も当てられないのだから。
「はい、ぜひともおすすめしますよ。ここはロストポイントですから、ついでに同調の方もして慣らしておくべきかと」
創星術師や創星使いが、星詠みの出力を上げるために行う作業を同調という。やり方は自身の恒星や擬似恒星に意識をリンクさせ、干渉していくのだ。こうすることで術者と星とのつながりが強化され、さらなる力を手に入れることができるのである。この同調はロストポイントといった空間があいまいな地点ほど、よりリンクしやすいのであった。
「お、とうとうロストポイントでの求道か。護衛とかで見てて、ずっとやってみたかったんだ。じゃあ、ルシア。そこのビルで同調してくるから、その間レンのお守りと周りの警戒を頼めるか?」
とりあえずすぐ近くにあった廃ビルを指さし、オーダーを。
同調は集中力がいる作業。よって無防備になりやすく、誰かに警戒してもらわないと危ないのだ。なのでその辺を彼女に任せ、外で警戒してもらう事にした。
「はい、陣さんが集中できるよう、梅雨払いはお任せください」
ルシアは胸に手を当て、うやうやしく一礼してくる。
するとレンが陣の腕をクイクイ引っ張りながら、せがんできた。
「えー、レンも陣お兄さんといっしょがいいー!」
「レンさん。星との同調は、かなり神経を使う作業。なので気が散ってしまわないよう、外でお留守番しましょう」
ルシアは後ろからレンの両肩に手を置き、やさしく言い聞かせる。
「ちぇー」
対してしぶしぶ納得するレンなのであった。
陣は廃墟と化したビルの二階へと行き、適当な部屋へと入る。そこはどこかのオフィスらしく、作業ディスクが立ち並んでいた。とはいっても中はもはや荒れ放題。床には窓ガラスや電灯の破片、書類などが散乱し、椅子や書類だなが倒れたりしている。中には破壊された作業ディスクもある始末であった。
ちなみにビル入口ではルシアが見張ってくれており、なにかあればすぐに知らせてくれるはず。周りに誰もいないことを確認し、リルに声をかける。
「リル、いるか?」
「ジンくん、なにかな?」
するとリルが姿を現し、用件をたずねてくる。
「アンドレーとやり合う前に、少し慣らしておきたい。だから手伝ってくれ」
「――うーん、まあ、いきなり実戦だとキツイだろうし、わかったんだよ。ただし、ジンくんは正式なマスターじゃない。だから軽くなんだよ。あまり近づきすぎると、とりつかれちゃうかもしれないもん」
リルは人差し指を立てながら、言い聞かせてくる。
「ああ、それでいい。で、オレはどうすればいいんだ?」
「まずそこの椅子に座って、わたしの擬似恒星をにぎってくれないかな」
「こうか」
言われた通り作業デスクの席に座り、右手でリル・フォルトゥーナの擬似恒星であるペンダントをにぎりしめる。
「ふふっ、少し失礼するんだよ」
するとリルがはにかんだ笑みを浮かべながら、両手で陣の右手を包み込んだ。
そして彼女は真面目な表情で、これから行う注意事項を口に。
「これからジンくんの意識を、擬似恒星の中へと導くね。それからは輝きに少し触れる感じで、とどまっておいてほしいんだよ」
「ようは創星使いの同調を、やればいいんだな?」
「そうだね。あれと同じで星に飲み込まれないように、距離を保ち続けて。もしここで近づきすぎると、魂が輝きに浸食されて創星術師になってしまうんだよ」
同調するにあたり、創星使いが一番気をつけなければならないこと。それは擬似恒星に、飲み込まれないようにすることだ。もしここで誘惑に負け近づきすぎると、魂が次々に汚染され変質。結果、魂そのものが擬似恒星と同じ輝きを持つ恒星と化し、完全な創星術師になってしまうのである。なので創星使いの同調は輝きに触れ、慣らす程度。擬似恒星の輝きへの理解を深めるだけで、行使する出力が全然違ってくるのであった。
ちなみにこの方法で創星術師になった者の星は、かなり不安定。本来他人の輝きゆえ制御が難しく、暴走するリスクが高いらしい。
「ちなみに創星術師の場合は、自身の星の中までいってじかに干渉するんだろ?」
「うん、わかりやすく説明すると薪をくべる感じで、恒星の炎を大きくしてくっていえばいいのかな。ただあまりやりすぎると制御しきれなくなって、暴走する恐れがある。だから徐々にやって、少しずつ慣らしていかないとダメなんだよ」
創星使いの同調は飲み込まれないように距離を置き、その輝きに慣れるというもの。だが創星術師の場合はそれだけでなく、星そのものに直に干渉。活性化させていき、恒星そのものを肥大化させるのだ。しかしこの作業は一歩間違えると制御しきれなくなり、暴走を招くリスクが非常に高い。そのため慎重さが要求された。
「じゃあ、そろそろ始めようかな? ジンくん、準備はいい?」
リルは包んだ陣の手にぎゅっと力を入れ、覚悟を問うてくる。
「やってくれ」
「いくよ」
彼女は掛け声のあと、陣の意識は擬似恒星の中へと導かれていった。
ゴーストタウンと化した旧市街を歩いていると、ルシアがアゴの指を当てながら問うてくる。
「ああ、さすがに魔法だけだときついから、擬似恒星を借りてきた。これならそう遅れはとらないはずだ」
灯里から借りた、リル・フォルトナーの擬似恒星であるペンダントを見せてやる。
「なにやらすごそうな擬似恒星ですね! あぁ、一体、どんな輝きを見せてくれるのでしょう! 陣さん! 試しに使ってくださいよ!」
ルシアは祈るように手を組みながら、ガバッと詰め寄ってくる。そして目を輝かせて、ねだってきた。
「ルシアってほんと星詠み関係になると、テンション変わるよな」
「うふふ、探究心がうずいて仕方ないので! そもそもの話、星魔教の信者の大半がこんな感じのノリですしね」
心底楽しげに笑い、おちゃめにウィンクしてくる。
「そういえばそうだったな。よく仕事で一緒に行動することがあるが、その変人ぶりには毎回驚かされるぐらいだし」
普段は良識のありそうな人ばかりの彼らだが、いざ魔道関連となるとおかしなテンションになることが多いのだ。それが星詠み関連の狂信者となると、みずからの命も惜しまない勢いで。もはやあまりの狂気に引き気味になったことは、数えきれないほどであった。
「――変人という評価はさすがにいただけないのですが……」
「それよりも今のうちに試しておくのは、ありかもな」
なにやら不服そうなルシアを放っておいて、今後のことを冷静に考えてみる。
このままいけばアンドレーと戦闘になることは間違いない。なのでその時に万全に戦えるよう、今のうちに探っておくべきだろう。前回のように倒れでもしたら、目も当てられないのだから。
「はい、ぜひともおすすめしますよ。ここはロストポイントですから、ついでに同調の方もして慣らしておくべきかと」
創星術師や創星使いが、星詠みの出力を上げるために行う作業を同調という。やり方は自身の恒星や擬似恒星に意識をリンクさせ、干渉していくのだ。こうすることで術者と星とのつながりが強化され、さらなる力を手に入れることができるのである。この同調はロストポイントといった空間があいまいな地点ほど、よりリンクしやすいのであった。
「お、とうとうロストポイントでの求道か。護衛とかで見てて、ずっとやってみたかったんだ。じゃあ、ルシア。そこのビルで同調してくるから、その間レンのお守りと周りの警戒を頼めるか?」
とりあえずすぐ近くにあった廃ビルを指さし、オーダーを。
同調は集中力がいる作業。よって無防備になりやすく、誰かに警戒してもらわないと危ないのだ。なのでその辺を彼女に任せ、外で警戒してもらう事にした。
「はい、陣さんが集中できるよう、梅雨払いはお任せください」
ルシアは胸に手を当て、うやうやしく一礼してくる。
するとレンが陣の腕をクイクイ引っ張りながら、せがんできた。
「えー、レンも陣お兄さんといっしょがいいー!」
「レンさん。星との同調は、かなり神経を使う作業。なので気が散ってしまわないよう、外でお留守番しましょう」
ルシアは後ろからレンの両肩に手を置き、やさしく言い聞かせる。
「ちぇー」
対してしぶしぶ納得するレンなのであった。
陣は廃墟と化したビルの二階へと行き、適当な部屋へと入る。そこはどこかのオフィスらしく、作業ディスクが立ち並んでいた。とはいっても中はもはや荒れ放題。床には窓ガラスや電灯の破片、書類などが散乱し、椅子や書類だなが倒れたりしている。中には破壊された作業ディスクもある始末であった。
ちなみにビル入口ではルシアが見張ってくれており、なにかあればすぐに知らせてくれるはず。周りに誰もいないことを確認し、リルに声をかける。
「リル、いるか?」
「ジンくん、なにかな?」
するとリルが姿を現し、用件をたずねてくる。
「アンドレーとやり合う前に、少し慣らしておきたい。だから手伝ってくれ」
「――うーん、まあ、いきなり実戦だとキツイだろうし、わかったんだよ。ただし、ジンくんは正式なマスターじゃない。だから軽くなんだよ。あまり近づきすぎると、とりつかれちゃうかもしれないもん」
リルは人差し指を立てながら、言い聞かせてくる。
「ああ、それでいい。で、オレはどうすればいいんだ?」
「まずそこの椅子に座って、わたしの擬似恒星をにぎってくれないかな」
「こうか」
言われた通り作業デスクの席に座り、右手でリル・フォルトゥーナの擬似恒星であるペンダントをにぎりしめる。
「ふふっ、少し失礼するんだよ」
するとリルがはにかんだ笑みを浮かべながら、両手で陣の右手を包み込んだ。
そして彼女は真面目な表情で、これから行う注意事項を口に。
「これからジンくんの意識を、擬似恒星の中へと導くね。それからは輝きに少し触れる感じで、とどまっておいてほしいんだよ」
「ようは創星使いの同調を、やればいいんだな?」
「そうだね。あれと同じで星に飲み込まれないように、距離を保ち続けて。もしここで近づきすぎると、魂が輝きに浸食されて創星術師になってしまうんだよ」
同調するにあたり、創星使いが一番気をつけなければならないこと。それは擬似恒星に、飲み込まれないようにすることだ。もしここで誘惑に負け近づきすぎると、魂が次々に汚染され変質。結果、魂そのものが擬似恒星と同じ輝きを持つ恒星と化し、完全な創星術師になってしまうのである。なので創星使いの同調は輝きに触れ、慣らす程度。擬似恒星の輝きへの理解を深めるだけで、行使する出力が全然違ってくるのであった。
ちなみにこの方法で創星術師になった者の星は、かなり不安定。本来他人の輝きゆえ制御が難しく、暴走するリスクが高いらしい。
「ちなみに創星術師の場合は、自身の星の中までいってじかに干渉するんだろ?」
「うん、わかりやすく説明すると薪をくべる感じで、恒星の炎を大きくしてくっていえばいいのかな。ただあまりやりすぎると制御しきれなくなって、暴走する恐れがある。だから徐々にやって、少しずつ慣らしていかないとダメなんだよ」
創星使いの同調は飲み込まれないように距離を置き、その輝きに慣れるというもの。だが創星術師の場合はそれだけでなく、星そのものに直に干渉。活性化させていき、恒星そのものを肥大化させるのだ。しかしこの作業は一歩間違えると制御しきれなくなり、暴走を招くリスクが非常に高い。そのため慎重さが要求された。
「じゃあ、そろそろ始めようかな? ジンくん、準備はいい?」
リルは包んだ陣の手にぎゅっと力を入れ、覚悟を問うてくる。
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彼女は掛け声のあと、陣の意識は擬似恒星の中へと導かれていった。
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