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2章 第4部 手に入れた力
75話 敵の居場所
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「ッ!? まだ反動が抜けないか……」
陣は床に寝転んだ体勢から、上体を起こす。だが現状それが精一杯。あまりのふらふらさに立ち上がることは、かなわなかった。
今いるのはまだ神代特区旧市街。アンドレーと戦ったところから、少し離れた廃ビルの一室。オフィス内は物や壊れかけの家具が散乱し、荒れ果てている。しかし身を隠す分には申し分なく、一応休息はできていた。
本来ならすぐにでもアンドレーを追いたかった。しかしあのあと、リル・フォルトナーの擬似恒星を最大限使った反動が襲ってきて、身動きが取れなくなってしまったのだ。なのですぐ合流してきたルシアの肩を貸してもらい、とりあえず安全な場所で休んでいるのであった。
「まったくー、それもこれもジンくんが勝手に同調するからなんだよ。せめてわたしと一緒なら、ここまで反動は受けなかったのに」
すぐ隣で座っていたリルが、陣の上着をぎゅっとつかんでくる。そしてぐいっと顔を近づけ、不服そうに説教してきた。
「あの場合仕方ないだろ? いちいちリルに確認をとってるヒマはなかったし」
「そうだけどー」
陣の正論に、リルはむーっとほおを膨らませる。
「まあまあ、リルさん、大事にならなかったんですから、お説教はそのぐらいにして。ここは陣さんの勝利を存分に称えましょう! なんたってあのアンドレーさんを倒したんですよ! うふふ、さすがは陣さん! やはりワタシの目に狂いはありませんでした!」
するとルシアが胸に手を当て、もう片方の手のひらを陣へと向ける。そしてぱぁぁっと目を輝かせながら、賞賛の言葉を送ってきた。
ちなみにルシアはすでにリルのことを知っている。先程心配して姿を現していたリルの姿を、彼女は目撃してしまったのだ。そのため細かい事情は伏せ、協力者ということで紹介していたのであった。
「ははは、おわりよければすべてよしってな。この通りサイファス・フォルトナーの擬似恒星も、手にれたことだし」
そういって陣は手に入れた紅の宝石。サイファス・フォルトナーの擬似恒星を取り出す。
「ああ、なんと神々しい擬似恒星でしょう! ぞくぞくしてたまりません! 陣さん、もっとじっくり見せてください!」
ルシアは祈るように手を組みながら、グイグイ詰め寄ってくる。
「ははは、今は気分がいいからいいぞ。ほら、目に焼き付けておけ」
「二人とも、それすごく危ないものだから、はしゃぐのもほどほどになんだよ」
そんなはしゃぐ二人に、やれやれとさとしてくるリル。
そうこうしていると別の少女の声が。
「あら、それがうわさのサイファス・フォルトナーの擬似恒星なのかしら?」
「その声は奈月!? どうしてここに?」
声の方に視線を移すと、部屋に入ってきた神代奈月の姿が。
彼女にはこの一室についてから、通話で現状の状況を説明していた。その時隠れている場所も教えていたため、ここまで来れたのだろう。
「陣が動けないというから、わざわざ迎えに来てあげたに決まってるじゃない。で、身体の方はもう大丈夫なの?」
奈月はほおに手を当てながら、首をかしげてくる。
「ああ、だいぶ休んだし、もうすぐ動けるはず。そしたらアンドレーとケリをつけにいくつもりだ」
「――そう、彼を追うのね」
「今のアンドレーは擬似恒星をなくしたことで、いつ暴走してもおかしくない状況だ。このまま放置してたら、神代特区に大災厄を起こしかねない。だから一刻も早く仕留める必要がある」
ただでさえ暴走間近だったというのに、そこに安定させるための擬似恒星を失ったのだ。もはやアンドレーはいつ暴走してもおかしくない状況。しかも彼の星はそこいらの創星術師のモノと違う。あのサイファス・フォルトナーと同じゆえ、被害の方もただじゃすまないはず。
「それには同意よ。及ぼす被害を考慮すれば、サンプルなんて言ってる場合じゃないわね。じゃあ、討伐隊を作るから、陣もそこに加わってアンドレーを」
「いや、奈月、まずはオレ一人でやらせてくれないか?」
「正気なのかしら? あまりに危険すぎるわよ」
陣の主張に、奈月は怪訝そうにまなざしを向けてくる。
「無茶は承知だ。だが今後サイファス・フォルトナーの星を求道するなら、もっと先輩の使い方を見とくべきだろ? こんな機会、もうあるかどうかわからないんだしさ」
まだ陣はサイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に入れたばかり。使い方やその特性をほとんどしらない。ゆえにアンドレーの戦い方を見るのは、今後のことを考えると非常に役に立つはず。そのためぜひともこのチャンスを、ものにしておきたいのであった。
「それにアンドレーには、いろいろ世話になったからな。せめてものお返しに、この手で楽にさせてやりたいんだ。先達を見送る意味も込めてさ」
拳をぐっとにぎりしめながら、感慨深くかたる。
アンドレーには忠告やさとしてもらったりなど、いろいろ気にかけてもらった。なのでできればこの借りも、返しておきたかったのだ。
「――はぁ……、わかったわ。陣の好きになさい」
すると陣の熱意が伝わったのか、奈月はため息まじりに肩をすくめながらも折れてくれた。
「助かる、奈月」
「それでアンドレーのいく当てに心当たりはあるのかしら?」
「うっ、それは……」
彼を追うつもりだが、現状どこに逃げたかまではわかっていない。よってまた探すところから始めないといけなかった。
どうするか考えていると、着信のメロディーが。しかし陣ではなく、奈月の方からである。
「あら? 着信? 琴音からだわ。琴音どうしたの? ――そう、わかったわ。その件くわしく調べといてちょうだい」
「なにかあったのか?」
通話を切った奈月にたずねてみる。
会話から相手は研究機関で地位を確立している、神代琴音らしい。話しの雰囲気的にプライベートのものではなく、なにか問題が発生したみたいだ。
「ええ、福音島に設置されてる観測器が、少し異常な値を示してるそうなの。琴音いわく活性化してるそうよ」
福音島。かつてパラダイスロスト事件で、最後レイヴァース当主とレーヴェンガルト当主がぶつかった場所。今は世界でもっとも強力なロストポイントと、指定されている場所である。
「福音島で……? はっ、リル!?」
福音島の方に意識を向けると、そこでふとなにかに気付く。
「ジンくんも感じたのかな? うん、たぶんアンドレーはそこにいると思うんだよ」
リルは胸を押さえながら、意味ありげにうなずく。
どうやらリルも感じたようだ。福音島の方からサイファス・フォルトナーの星の余波を、微弱ながら感知したのだ。おそらく普通の人には無理だろうが、関係性の深いリルやサイファス・フォルトナーの擬似恒星を持つ陣にはわかったといっていい。
「陣、それは本当なのかしら?」
「ああ、サイファス・フォルトナーの擬似恒星が、共鳴してるんだ。よし、場所は特定できた。準備が整いしだい乗り込むぞ」
居場所を特定したため、陣は立ち上がり行動に移るのであった。
陣は床に寝転んだ体勢から、上体を起こす。だが現状それが精一杯。あまりのふらふらさに立ち上がることは、かなわなかった。
今いるのはまだ神代特区旧市街。アンドレーと戦ったところから、少し離れた廃ビルの一室。オフィス内は物や壊れかけの家具が散乱し、荒れ果てている。しかし身を隠す分には申し分なく、一応休息はできていた。
本来ならすぐにでもアンドレーを追いたかった。しかしあのあと、リル・フォルトナーの擬似恒星を最大限使った反動が襲ってきて、身動きが取れなくなってしまったのだ。なのですぐ合流してきたルシアの肩を貸してもらい、とりあえず安全な場所で休んでいるのであった。
「まったくー、それもこれもジンくんが勝手に同調するからなんだよ。せめてわたしと一緒なら、ここまで反動は受けなかったのに」
すぐ隣で座っていたリルが、陣の上着をぎゅっとつかんでくる。そしてぐいっと顔を近づけ、不服そうに説教してきた。
「あの場合仕方ないだろ? いちいちリルに確認をとってるヒマはなかったし」
「そうだけどー」
陣の正論に、リルはむーっとほおを膨らませる。
「まあまあ、リルさん、大事にならなかったんですから、お説教はそのぐらいにして。ここは陣さんの勝利を存分に称えましょう! なんたってあのアンドレーさんを倒したんですよ! うふふ、さすがは陣さん! やはりワタシの目に狂いはありませんでした!」
するとルシアが胸に手を当て、もう片方の手のひらを陣へと向ける。そしてぱぁぁっと目を輝かせながら、賞賛の言葉を送ってきた。
ちなみにルシアはすでにリルのことを知っている。先程心配して姿を現していたリルの姿を、彼女は目撃してしまったのだ。そのため細かい事情は伏せ、協力者ということで紹介していたのであった。
「ははは、おわりよければすべてよしってな。この通りサイファス・フォルトナーの擬似恒星も、手にれたことだし」
そういって陣は手に入れた紅の宝石。サイファス・フォルトナーの擬似恒星を取り出す。
「ああ、なんと神々しい擬似恒星でしょう! ぞくぞくしてたまりません! 陣さん、もっとじっくり見せてください!」
ルシアは祈るように手を組みながら、グイグイ詰め寄ってくる。
「ははは、今は気分がいいからいいぞ。ほら、目に焼き付けておけ」
「二人とも、それすごく危ないものだから、はしゃぐのもほどほどになんだよ」
そんなはしゃぐ二人に、やれやれとさとしてくるリル。
そうこうしていると別の少女の声が。
「あら、それがうわさのサイファス・フォルトナーの擬似恒星なのかしら?」
「その声は奈月!? どうしてここに?」
声の方に視線を移すと、部屋に入ってきた神代奈月の姿が。
彼女にはこの一室についてから、通話で現状の状況を説明していた。その時隠れている場所も教えていたため、ここまで来れたのだろう。
「陣が動けないというから、わざわざ迎えに来てあげたに決まってるじゃない。で、身体の方はもう大丈夫なの?」
奈月はほおに手を当てながら、首をかしげてくる。
「ああ、だいぶ休んだし、もうすぐ動けるはず。そしたらアンドレーとケリをつけにいくつもりだ」
「――そう、彼を追うのね」
「今のアンドレーは擬似恒星をなくしたことで、いつ暴走してもおかしくない状況だ。このまま放置してたら、神代特区に大災厄を起こしかねない。だから一刻も早く仕留める必要がある」
ただでさえ暴走間近だったというのに、そこに安定させるための擬似恒星を失ったのだ。もはやアンドレーはいつ暴走してもおかしくない状況。しかも彼の星はそこいらの創星術師のモノと違う。あのサイファス・フォルトナーと同じゆえ、被害の方もただじゃすまないはず。
「それには同意よ。及ぼす被害を考慮すれば、サンプルなんて言ってる場合じゃないわね。じゃあ、討伐隊を作るから、陣もそこに加わってアンドレーを」
「いや、奈月、まずはオレ一人でやらせてくれないか?」
「正気なのかしら? あまりに危険すぎるわよ」
陣の主張に、奈月は怪訝そうにまなざしを向けてくる。
「無茶は承知だ。だが今後サイファス・フォルトナーの星を求道するなら、もっと先輩の使い方を見とくべきだろ? こんな機会、もうあるかどうかわからないんだしさ」
まだ陣はサイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に入れたばかり。使い方やその特性をほとんどしらない。ゆえにアンドレーの戦い方を見るのは、今後のことを考えると非常に役に立つはず。そのためぜひともこのチャンスを、ものにしておきたいのであった。
「それにアンドレーには、いろいろ世話になったからな。せめてものお返しに、この手で楽にさせてやりたいんだ。先達を見送る意味も込めてさ」
拳をぐっとにぎりしめながら、感慨深くかたる。
アンドレーには忠告やさとしてもらったりなど、いろいろ気にかけてもらった。なのでできればこの借りも、返しておきたかったのだ。
「――はぁ……、わかったわ。陣の好きになさい」
すると陣の熱意が伝わったのか、奈月はため息まじりに肩をすくめながらも折れてくれた。
「助かる、奈月」
「それでアンドレーのいく当てに心当たりはあるのかしら?」
「うっ、それは……」
彼を追うつもりだが、現状どこに逃げたかまではわかっていない。よってまた探すところから始めないといけなかった。
どうするか考えていると、着信のメロディーが。しかし陣ではなく、奈月の方からである。
「あら? 着信? 琴音からだわ。琴音どうしたの? ――そう、わかったわ。その件くわしく調べといてちょうだい」
「なにかあったのか?」
通話を切った奈月にたずねてみる。
会話から相手は研究機関で地位を確立している、神代琴音らしい。話しの雰囲気的にプライベートのものではなく、なにか問題が発生したみたいだ。
「ええ、福音島に設置されてる観測器が、少し異常な値を示してるそうなの。琴音いわく活性化してるそうよ」
福音島。かつてパラダイスロスト事件で、最後レイヴァース当主とレーヴェンガルト当主がぶつかった場所。今は世界でもっとも強力なロストポイントと、指定されている場所である。
「福音島で……? はっ、リル!?」
福音島の方に意識を向けると、そこでふとなにかに気付く。
「ジンくんも感じたのかな? うん、たぶんアンドレーはそこにいると思うんだよ」
リルは胸を押さえながら、意味ありげにうなずく。
どうやらリルも感じたようだ。福音島の方からサイファス・フォルトナーの星の余波を、微弱ながら感知したのだ。おそらく普通の人には無理だろうが、関係性の深いリルやサイファス・フォルトナーの擬似恒星を持つ陣にはわかったといっていい。
「陣、それは本当なのかしら?」
「ああ、サイファス・フォルトナーの擬似恒星が、共鳴してるんだ。よし、場所は特定できた。準備が整いしだい乗り込むぞ」
居場所を特定したため、陣は立ち上がり行動に移るのであった。
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