創星のレクイエム

有永 ナギサ

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2章 第4部 手に入れた力

77話 奈月の想い

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「陣さん、お待ちしておりました。福音島単語ルビに行く準備はすでに万全ですよ」

 着いてそうそう、ルシアがうやうやしく頭を下げて報告してくれる。
 ここは神代かみしろ特区の福音島が見える海岸沿い。福音島の上空付近だけ赤黒い雲におおわれており、得体のしれない圧を発していた。そして海沿いの方には、奈月が手配してくれたなかなか立派なモーターボートが。どうやらこれを使って福音島に向かうみたいだ。それはいいのだが一つ問題が。この場所にいるのはルシアと奈月。それとあともう一人。

「おう、ご苦労さん、じゃあ、さっさと乗り込んでと言いたいところだが、なんでここにセナがいるんだ?」
「えへへ、そんなのじんお兄ちゃんの手助けをするために、決まってるよぉ!」

 セナは両手でガッツポーズしながら、満面の笑みで答えてくる。

「――手助けって……、おい、奈月」
「仕方ないでしょ。事務所でいろいろ準備してたら、セナが来ちゃったんだもの。帰そうとしたけど、なにかあると感づかれてごらんのとおり。無理やりついてきちゃったわ」

 陣の追及に、奈月は肩をすくめながら目をふせる。

「じんお兄ちゃんの一大事なんだもん! 妹分として、駆けつけないわけにはいかないよぉ!」

 両腰に手を当てえっへんと胸を張るセナ。

「この状態のセナを言い聞かせるのは、骨が折れすぎるわ。ならいっそのこと、力を貸してもらいましょう。戦力としては申し分ないでしょ?」

 奈月は後ろからセナの両肩に手を置き、彼女の意思を尊重する。 

「そりゃな。だけどアンドレーとは一対一でやりたいから、横やりはごめんなんだが」
「梅雨払いを頼めばいいじゃない。向こうは一人だと限らないんだし」
「奈月さんに同感です。向こうはグレゴリオ大司教はもちろん、下手すればレーヴェンガルト側の人間がいるかもしれません。彼とサシで戦うつもりなら、戦力が多いのに越したことはないと思われますが?」

 確かに彼女たちの言い分はもっともだ。
 陣としてはアンドレーと一騎打ちをしたいが、向こうの戦力がそれを邪魔してくる可能性は十分ある。ルシアが事前に得た情報によると、現在グレゴリオはアンドレーに付き添っているとのこと。それだけでも厄介なのだが、グレゴリオがレーヴェンガルト側に増援を呼んでいる可能性も。なので梅雨払いの戦力は、陣にとって非常にありがたかった。

「――はぁ……、わかった。頼むぞ、セナ」
「うん! 任せてよぉ! セナの星詠ほしよみで、じんお兄ちゃんの邪魔をする奴らをなぎ倒してみせるからぁ!」

 セナは手をバッと前に突き出し、得意げにウィンクしてくる。
 彼女は蓮杖れんじょう家の星詠みを受け継いだ創星術師。ゆえに戦力としてはそこいらの断罪者を、軽くしのぐ腕をもっているといっていい。よって危険にさらすのは心苦しいが、人選としてはわるくないチョイスであった。

「じゃあ、セナ、ルシアさん、陣のことお願いね」
「はーい!」
「お任せください。では、みなさんボートへ乗り込んでください」

 セナとルシアは奈月にこたえ、ボートに乗り込んでいく。

「そうか。奈月は来ないんだな」
「ええ、今、星葬機構が福音島の異変を察知して、乗り込もうとしてるみたいなの。だからアタシはクロノス側の調査班をひきいて、少しばかり時間稼ぎしてくるわ」

 そのことは懸念していたことの一つ。この福音島の異変に、星葬機構がだまっているはずがないのだ。すぐにでも事態を収拾しようと、戦力と調査班を送り込んでくるのは明白。結果、アンドレーとの一騎打ち中に、横やりを入れてくる可能性が。なので足止めはぜひともやってもらいたいことであった。

「おっ、助かる。星葬機構に乱入されたら、めちゃくちゃもいいところだしな。じゃあ、行ってくる」

 彼女に星葬機構を任せ、陣もボートに乗り込もうと。
 だがそこへ奈月が陣の上着の袖をぎゅっとつかんできた。

「――陣……」
「――ん? どうした? そんな不安そうな顔して」

 立ち止まり振り向くと、奈月の表情には陰りが。まるでもう陣とは、会えないと言いたげな雰囲気を。

「――だって陣が遠くへ行ってしまう気がしたから……」

 悲痛げに目をふせながら、消え入りそうな声でつぶやいてくる奈月。

「おいおい、オレが奈月を放ってどこかにいくと思ってるのか?」
「あら、アタシの付き人を辞めて、どっかにいったのはどこの誰だったかしらね」

 大げさに肩をすくめると、奈月がジト目でツッコミを入れてくる。
 それを言われると、もはや笑ってごまかすしかなかった。

「――ははは……、そんなこともあったっけな……。――まあ、なんだ。そうそういなくなったりはしないから、安心しとけ。というか奈月なら、オレがどこに行こうとも連れ戻しにくるだろ? 神楽かぐらさん並みの、強欲さがあるんだし」
「そうね。アタシの手から、大切なものがこぼれ落ちるなんて到底認められないわ。なにがなんでも守り通してみせる。たとえ誰が相手だろうと、奪わせたりなんてしない」

 奈月は右手を天高くかかげ、ぐっとにぎりしめる。そこには彼女の揺るがない強い意志が見てとれた。

「――だけどね、陣。あなたは例外なのよ」

 そんな信念に満ちあふれた彼女であったが、ふとはかなげにほほえみ告白を。

「え? どういうことだ?」
「初めて会ったとき、あなただけはアタシの手からすり抜けてしまうだろうなって、感づいていたの。きっと彼はアタシの手にえる存在じゃない。だからどうあがいても、いづれいなくなってしまうはずと……。――くす、まさかこの強欲さにも、あきらめるものがあるだなんて驚きだったわ」

 奈月は陣の胸板に手を当て、切なげに目をふせる。そして心底おかしそうに、感慨深く笑った。

「だからずっと覚悟はしてたの。あなたがふと消えても、仕方のないことだってね」
「――奈月……」
「気にやまなくていいわ。そのことをわかってて、アタシは陣を誘ったんだもの。いづれ失うとわかっていても、それでもほしかったから……」

 予想外の告白に戸惑っていると、奈月が胸をぎゅっと押さえいとおしそうに見つめてくる。

「くす、まあ、なにはともあれ、その時が来るまで陣は、アタシの付き人だということを忘れないようにね! いっぱいこき使って、楽させてもらうんだから!」

 そんなどこかしんみりしていた奈月であったが、いつもの凛とした雰囲気に。そして陣の顔をのぞきこみながら、いたずらっぽくウィンクを。

「武運を祈ってるわ。いってらっしゃい、陣」

 奈月は陣の肩に手を置き、にっこり笑いながらエールを送る。そして彼女自身も行動を開始するため、この場を去っていくのであった。









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